●首都圏以上に高い、ポイントカードの利用率
午前9時30分のオープン時点では、5,000人にも達する「異常」ともいえる人の列ができ、その混乱ぶりは一日中続くことになった。 当初、ヨドバシカメラの大阪出店には、いくつかの懸念される事項があった。 ひとつは、その場での現金値引きが主流となっていた大阪の商習慣に対して、ポイントカードという同社の手法が通用するかという点だ。 当時、店長を務めていた阿美祥之取締役(現・博多店店長)も、「東京でやってきた我々のやり方が、大阪で通用するかどうかが鍵」とコメントしていたが、まさにこれはポイントカードの定着を意識した発言。同社としても、ポイトンカードの定着に関しては、明らかに懸念していたのである。 だが、この1年の結果を見る限り、東京以上にポイントカードは、定着したと言っていい。 開店当初からパソコンフロアを担当している舟田真一マネージャは、「開店当初は、なんでその場で値引きしてくれないのか、という声もあった。しかし、いまでは、そんな質問は一切出なくなった」と前置きしながらも、「むしろ、首都圏の利用者に比べて、ポイントを使い切るユーザーが多いほどだ」と話す。 今年9月に新宿西口本店から異動してきた松村孝之マネージャも、「正確な数字はつかんでいないが、東京の来店客よりも、大阪の来店客の方が、ポイントカードの利用率が高いのでは」と話す。
「首都圏の来店客は、ポイントを蓄積する傾向が強いが、大阪の来店客は、ポイントをきれいに使ってくれる来店客が多い。パソコン本体を購入したお客さんが、その場で、プリンタをポイントで購入していくという例も少なくないし、それを事前に計算して購入しにくる例も多い」(舟田マネージャ)という。 初めてポイントカードを作ったユーザーは、その場でのポイント利用はできないが、すでにカードを持っているユーザーはこうした利用も可能。ポイントカードが大阪地区に定着するに従って、商品の購入時点で、別の商品を購入するためにポイントを使い切るというユーザーが増えてきたようだ。 そして、ポイントの定着を決定的にしたのが、そのポイント幅だ。電気街でも交渉次第で、値引きをしてくれるが、いくらがんばっても数%程度というのが普通。ヨドバシカメラでは、10%以上のポイント還元が可能となることから、そのメリットに、大阪のユーザーが敏感に反応したというわけだ。とくに、最近では、一部製品に関しては20%のポイント還元という手段に打って出ているだけに、その効果がさらに明確になってきたというわけだ。 2つめの懸念材料は、大阪駅の裏口ともいえる北口に集客できるかどうか、という点だった。 もともと大阪/梅田駅地区は、南側がビジネス街として開け、JR貨物の倉庫や、阪急ホテルしかなかった北口側には、それほど多くの顧客が訪れる場所ではなかった。ここに、どれくらいの顧客を呼び寄せることができるかが鍵だった。 しかも、日本三大電気街のひとつといわれる日本橋電気街は、梅田と並ぶ、もうひとつの繁華街である難波方面へと広がりつつあり、そのため、梅田でパソコンや電気製品を購入するために新たな人たちが訪れるかどうかも懸念されていた。 しかし、これもあくまでも懸念材料でしかなかった。 むしろ、パソコン売り場を担当する2人のマネージャが、異口同音に「マルチメディア梅田が成功した要因のひとつに、大阪/梅田駅と地下で直結しているという立地の良さがあげられる」というように、北口立地のマイナス要素は、地下通路直結ということでプラス材料へと転換してしまったのだ。
しかも、700台以上が収容できる駐車場も来店客の確保に大きな威力を発揮、今年10月には、平面駐車場も新設して、さらに収容台数を広げることになった。
●ヨドバシ梅田に失敗事例はあるのか では、ヨドバシカメラ マルチメディア梅田に失敗事例はあるのか。 先日、11月にオープンした博多店の店づくりと比較すると、それが明確になりそうだ。 例えば、マルチメディア梅田のオープンに際して、準備が進められたDOS/Vパーツ売り場は、博多店でも一定の規模で店づくりが行なわれたことから、これは成功したといえる。 「マニア層から見れば、確かに品揃えは弱い。だが、初めてパソコンを組み立てたいという、当社が主力ターゲットとするユーザーに対しては、高い評価を得ていると自負している」(松村マネージャ)と話す。 マニア向けパーツの品揃えでは劣るものの、この部分は最初から狙ったものではなかったという点からすれば、マニア層を獲得できなくとも、失敗とはいえないだろう。 一方、パソコンデスクなどを利用シーンにあわせて展示した「提案コーナー」は、博多店では取り入れられなかったことから、これは失敗の部類だと判断できる。実際、すでに、同コーナーは梅田の店舗でも撤去されていた。 もともと提案コーナーは、畳を敷いた部屋では、こうしたデスクとパソコンを使うといい、あるいフローリングの部屋では、こうした雰囲気がいいだろう、というように具体的なシーンを見せていた。 こうしたコンセプトはよかったのだが、ここに人を配置することができなかったのが撤退の要因のようだ。提案コーナーといえども、提案らしい提案ができなかったのが失敗の要因といえるだろう。 人の配置の問題は、大規模店舗ならではの頭の痛い問題だといえる。 一日数万人規模の来店を誇る梅田店では、いくら店員を増やしても対応力に限界が生じるには当たり前。しかも、一定スキルを持った人材を配置するのは至難の技だ。提案コーナーでは、売り上げにすぐに直結する例が少ないことから、どうしてもパソコン本体や人気周辺機器の商品説明に人が割かれることになる。 大規模店舗ならではの展示方法ではあったが、逆に大規模店舗ならではの人の確保という問題が、これを不人気コーナーにしてしまったともいえる。 もうひとつ懸念されたのが、2フロアに分散するパソコン売り場が、フロアごとの明確な差別化できていなかった点だ。 どちらのフロアにもパソコンが展示されており、1階は初心者、地下1階はすでにパソコンを持っているユーザーというように色分けしていたようだが、これが伝わり切れていない。明確にフロアによる差別化が求められるところだ。 ●日本橋電気街への影響よりも、新規顧客を獲得か? ところで、パソコン売り場に関するこの1年の実績は、いったいどれくらいの数字になっているのだろうか。 先にも触れたように、同社は未上場企業ということもあって、具体的な数字などについては、基本的には公開していない。もちろん、梅田店の売り上げなどの店舗別、あるいは商品別、フロア別の売り上げについても同様である。 だが、関係者の発言や、周辺情報などを総合すると、梅田店のパソコン販売に関しては、当初計画の60%増程度で推移していたのに加え、前年同期比の比較ができるようになった今年11月下旬以降も、10~20%増程度で推移している模様だ。 パソコン市場全体が前年割れとなっているなかでは、まさに一人勝ちともいえる状況だ。 ヨドバシカメラの梅田出店で、最も影響を受けたとされるのが、日本橋電気街だ。 電気街の老舗家電量販店の決算書を見ても、パソコン販売に関しては、前年同期比20%台の落ち込みを見せていることからもその影響が大きいといわざるを得ないだろう。 だが、ヨドバシカメラでは、「日本橋電気街を訪れていたユーザーが、梅田に流れているわけではない」と分析している。 「電気街には、DOS/Vパーツなどを求めるユーザーが来店しているようで、当店にはそうしたユーザーが少ない。また、パソコン本体や家電製品などの購入者を分析すると、神戸や京都といったエリアからの来店客が多く、日本橋電気街の顧客を取り込んだというわけではない」と話す。 だが、日本橋電気街を歩いてみると、明らかに来店客の数は減少しているのがわかる。ヨドバシカメラのコメントとは裏腹に、日本橋電気街のダメージは少なくないといえるだろう。 ●リニューアルで年末商戦に向けて臨戦態勢 ヨドバシカメラのパソコン売り場は、地下1階と1階の2フロアに分かれる。 同店では、12月7日にパソコン売り場のリニューアルを行ない、年末商戦向けの臨戦態勢を整えた。 地下1階では、これまで1.8m~2mだったパソコン本体展示スペースの通路を3mにまで拡張した。
「展示台の両側にお客さんがついてしまうと、その間を店員やお客さんが歩くのに苦労する。ベビーカーを押しているお客さんなどは、店内を自由に動き回ることもできなくなる。通路幅を3mにすることで、こうした不便をなくした」(松村マネージャ)というわけだ。 さらに、店内に点在していた周辺機器の各コーナーを、なるべく多くを歩かずに見て回れるように地下1階フロアのレイアウトを変更、レジカウンターも分散していたものをわかりやすいように、数カ所に大規模なものを設置するようにした。 また、冷蔵が可能な什器のなかにプリンタのインクを展示したのも新たな試み。インクは本来冷蔵しても仕方がないので、実は、冷蔵の電源は入っていない。だが、新鮮さをアピールするには絶好の展示方法で、新鮮なインクを用意しているというイメージづくりでも思わぬ効果を生んでいるというわけだ。 また、いまや梅田店の名物となっている1階フロアにおける、週末の呼び込み販売も健在だ。 1階フロアマネージャの舟田氏が、拡声器を持って行なうこの販売手法は、同社・藤沢昭和社長の「脚立に乗ってやれ!」のひとことで、いまや脚立が不可欠なツール。 この年末商戦も、脚立の上で、拡声器片手に売りまくる舟田マネージャの呼び込み販売が話題を呼びそうだ。 2年目を迎えたヨドバシ梅田には、早くも前年比2桁増の売り上げ目標が出ているという。 そして、大阪地区に定着したヨドバシカメラは、いまや梅田駅の隣になる「ヨドヤバシ(淀屋橋)」駅と間違われることもなくなったほど、知名度が定着したという笑い話も出ている。 2年目を迎えたヨドバシカメラは、大阪地区で、こんどはどんな旋風を巻き起こすのだろうか。
□ヨドバシカメラ マルチメディア梅田店のホームページ
(2002年12月16日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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