大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

日立が個人向けパソコンに本腰を入れ始めた理由




 日立製作所が、個人向けパソコン市場で好調な動きを見せ始めている。

 個人向けパソコン市場全体を見回すと、今年度第2四半期までは、オリンピック需要によるデジタル家電の好調ぶり、猛暑によるエアコンの需要増加の影響を受けて、個人向けパソコンは厳しい状況を余儀なくされたのは周知の通りだ。

 しかし、こうした市況全体の低迷ぶりとは裏腹に、日立製作所の個人向けパソコンは前年同期比2桁増で推移するという好調ぶりを維持した。

 もちろん、高いシェアを誇るメーカーに比べると、分母が小さく、結果として成長率が高くなったという数字のマジックを指摘する声もあるだろう。

 だが、日立は、戦略的に個人向けパソコンに対する仕掛けを開始しはじめており、それが功を奏しているともいえるのだ。

●今年度から転換したパソコン事業方針

 日立製作所は、今年に入ってからパソコン事業方針を転換した。それは個人向けパソコンに焦点をあわせた事業戦略への転換だといえる。つまり、個人向けパソコン事業強化に向けた第1歩が、今年度の製品群に表れているのである。

 かつて、マイコン草創期には、「Basic Master Level III」という名機によって、マニアユーザーの心をがっちりと掴んだ日立が、いま、改めて、個人ユーザーに徹底的にフォーカスした事業戦略を開始したというわけだ。

 では、日立は、ここにきて、なぜ個人向けパソコン事業に再度本腰を入れようとしているのだろうか。

●10年サイクルの節目を迎える

 日立製作所では、パソコンを取り巻く環境が、新たな世界に突入する転機にあると見ている。それは10年サイクルで見た大きな節目だという。

 もともとパソコンは、マイコンと呼ばれた時代からしばらくはマニアのものだったが、それが16bit化されるようになり、業務用のアプリケーションソフトが登場したことで、オフィスにおける事務の効率化などに利用されるようになってきた。それ以来、現在に至るまで、企業向けパソコンの出荷比率が、常に全体の6割を超えるというように、企業での利用が前提となって広がってきた。

 当初は、個人向けのパソコンも、企業向けのパソコンもスタンドアロンで利用され、パソコン間のデータのやりとりはFDで受け渡すという方法が主流だった。これが'85年までのことだ。

 その後はLANの普及によってネットワークの時代に突入する。企業内のパソコンがネットワーク化され、より効率的に活用できるようになった。これが'95年までの10年間だったといえる。

 そして、'95年以降は、Windows 95の普及とともに、インターネットの世界が訪れた。これによって、多くのパソコンが世界とつながるようになったのだ。

 そのインターネットによって広がった世界が、いよいよ次の10年に向けた転機にさしかかろうとしている、というのが日立の見方だ。

 「いまはインターネットの時代として見れば、インフラ末期。だからこそ、価格競争に陥りやすくなる」と日立製作所のユビキタスプラットフォームグループインターネットプラットフォーム事業部 大石志郎事業部長は語る。

 では、転換の節目を迎え始めているという今、次の10年にはどんなことが起こると日立は想定しているのだろうか。

 それは、地上デジタル放送、携帯電話、無線LANという3つのユビキタスインフラ、あるいは3大ワイヤレスインフラの浸透だという。

 新たな放送文化の創出や、家庭や企業内に加えて、モバイル環境におけるメガデータ通信時代の到来がもたらされることで、我々の生活がさらに変化するというわけだ。

 日立製作所では、新たなインフラに対応したパソコンを、これまでのパソコンとの違いを示すために、「BB(ブロードバンド)パソコン」という表現を使う。

 ワイヤレスにおいても、ブロードハンドの環境が実現されることで、ユビキタスネットワーク社会を加速する。そのツールの1つがBBパソコンというわけだ。そして、この「BBパソコン」が、今後の同社パソコン事業の基本戦略となる。

●日立が掲げるBBパソコンとは何か?

 日立は、BBパソコン戦略の推進とともに、これまでの企業向け中心の戦略から、個人向けを主軸とした事業方針へと転換する姿勢を見せる。

 その背景には、これまでのLANやインターネットは企業ユースから普及していったのに対して、今後10年を支える3大ユビキタスインフラは、個人市場から広がりを見せる、という大きな違いが影響している。

 つまり、個人市場で勝者にならない限り、次の10年での成功はないというわけだ。日立製作所が個人向けパソコンに力を注ぎはじめた理由もそこにある。

 次の10年を見据えた結果、日立製作所は、パソコン事業において、個人市場向けに力を注ぐ方針を掲げることが、生き残りのポイントだと判断したのだ。

 日立のパソコン事業における企業と個人の構成比率は75%対25%。業界全体に比べても企業向けの構成比率が高い。それを一気に舵を切るというわけだ。

●求められる社内の意識改革

 日立が個人向けパソコン市場で勝つには、大きな意識改革が必要だった。それは、技術の強みを発揮することを前提とするこれまでの製品づくりを転換することだった。

 日立の社内には多くの要素技術がある。それを生かした製品投入こそが日立製作所の特徴である。

 その技術の先進性は、中央研究所、日立研究所、システム開発研究所、基礎研究所、ユビキタスプラットフォーム開発研究所、生産技術研究所といった日立グループの数多くある各研究部門から投入される優れた技術を採用している、これまでの物づくりのなかでも明らかだ。

 それはパソコン分野においても同じで、'97年には世界初の液晶デスクトップパソコンを投入。2000年にはテレビチューナ搭載パソコンを発売。さらに、今や個人庭向けパソコンの主流となっているツヤツヤ液晶搭載パソコンを他社に先駆けた投入した経緯を持つ。

 昨今では、水冷パソコンや燃料電池搭載パソコンの提案も行なっているというように、技術力を背景にした製品投入が多い。

日立の燃料電池PCとカートリッジ

 だが、その裏返しとして、高価になりがちという点は否めないだろう。結果として、ボリュームゾーンでの品揃えが悪いということになり、シェア争いでは苦戦するということになっていたのだ。

 日立は、個人向けパソコン事業の強化に向けて、市場の約6割を占める15〜18万円の価格帯の製品開発に力を注ぐ方針を掲げた。昨年末、大石事業部長は、「ここに戦略的製品を投入しない限り、日立のパソコン事業は生き残れない」と社内に檄を飛ばしたが、その成果が、今年前半から少しずつ形になり始めているのだ。

●ボリュームゾーンで戦いを挑む日立

 今年9月に発売したパソコン冬モデルは、15〜18万円という価格帯を意識したものが主力となった。

 キーワードテレビ録画、レジューム再生機能といった機能のほか、映像データ、音楽データの管理/編集機能の充実のほか、Woooで培った高画質技術など、日立ならではの機能も搭載しているが、コストを抑えられるところは少しでも抑え、ソフト技術によってカバーできるところはソフトでカバーする、という意識が社内に浸透しはじめているいう声が同社の社内からも聞かれている。

 さらに、2005年中を目標に、企業向けパソコンと家庭向けパソコンの共通プラットフォーム化を図る予定であり、同時に、ノートパソコンとデスクトップパソコンの部品の共有化も目指すという。

 これもコスト削減に大きな威力を発揮することになる。

●社長直轄のデザイン部門の強みに

デザインが一新された「Prius Air」シリーズ。シンプルなデザインながらアルミを使用して質感もアップしている

 もうひとつ見逃せないのがデザインへの取り組みだ。

 日立は、今年冬モデルで、デザインを一新した。フロントパネル部分をよりシンプルにすることで、同社のデジタル家電製品を意識したデザインとなったのが特徴だ。これも、これまでの高機能路線とは異なり、デザインのシンプル化で、パソコンそのものが簡単そうに見えるというイメージづくりを狙ったものだ。もちろんアルミなどを多用することで、高級感を損なわないような工夫も施している。

 振り返れば、日立のデザイン部門は、「Prius Air」シリーズの商品化を提案したり、社長直轄部門として事業を推進するなど、活発な動きが見逃せない。同社パソコンの特徴の1つとなっている「Prius Navistation 2」も、デザイン部門による開発である。

 個人向けパソコン事業を加速するのに伴って、デサイン部門のアプローチもますます重要になるだけに、今後は、デザイン部門の取り組みも注意深く見ておきたいところだ。

 日立製作所は、10月1日付けでコンシューマ事業統括本部を設置した。

コンシューマ事業統括本部本部長 立花和弘執行役常務

 今年2月、庄山悦彦社長自らが本部長に就任して発足させたコンシューマ戦略本部を発展させた組織であり、個人向けパソコン事業をはじめとするコンシューマ事業の指令塔としての役割を担う。

 コンシューマ事業統括本部本部長である立花和弘執行役常務は、「これからは『次世代三種の神器』の創出が事業成長のポイントになる」と、コンシューマ事業のポイントを語る。

 立花本部長が語る次世代三種の神器とは、薄型テレビ、HDD/DVDアプライアンス、そして、BBパソコンだという。

 「この分野に向けて、日立の数多くの先進技術、キーデバイスといった技術力を背景に、Made in HITACHIといわれる製品を世の中に提供していく」と続ける。

 日立は、現在60万台規模の年間出荷台数を、2005年には100万台規模に拡大する計画だ。そのためには個人向けパソコンの出荷拡大が必須条件となり、そして、ボリュームゾーンでの成功が不可欠だ。コンシューマに焦点をあわせた日立のパソコン事業が、日立ならではの技術を生かしながら、今後どんな製品を投入するのか、目が離せない。


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(2004年11月22日)

[Text by 大河原克行]


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