NECは昨日まで開催されていた日本女子プロゴルフツアー「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント(軽井沢72ゴルフコース)」で、NECはGPS送信ユニットと無線LANを用いた選手位置情報表示システムを用いた観客向け情報提供サービスを提供した。 近年は情報技術を用いてスポーツ観戦のスタイルを変えようとする様々な試みが行なわれているが、これまではモータースポーツや野球など、一部のスポーツ分野が中心。その動きはゴルフ観戦にまで及んできた。 実証実験段階というNECのシステムは、スコア情報、ライブ映像、選手位置情報に限られているが、今後はお目当ての選手を見るためにどのようなコースで移動すればよいかなど、より進んだシステムへの発展も見込んでいるという。
●位置情報をリアルタイムに把握 NECが構築したシステムはGPSを利用した業務用位置情報端末「NESPIT III」とNTTドコモのDLP(DoCoMo Location Platform)を基礎に構築されている。NESPIT IIIにはGPSの他、携帯電話ネットワークを用いたワイヤレスの位置情報サービスへ情報を送信する機能が内蔵されている。NESPIT IIIは選手のキャディが装着し、常時、DLPサービスに位置情報をアップロードする。
DLPサービスにはインターネットからアクセス可能となっており、軽井沢72ゴルフコース内に設置されたサーバルームの位置情報サーバが情報を読み出し、コース上の位置へとマッピング。選手ごとの位置情報をリアルタイムに配信する。 このほか、中継用テレビ映像をストリーミングにより、会場内2カ所に設置されたサービス拠点のプロジェクタで位置情報にオーバーレイ表示したり、大会本部のスコア情報を表示する機能も加えられている。 情報はプロジェクタ以外にも、NECとインテルが共同で提供する無線LAN接続のノートPCを用いてインタラクティブにアクセスすることも可能だ。サービスはWebブラウザではなく、専用ソフトをクライアントに利用するもの。加えて無線LANも暗号化の設定が行なわれているため、現状ではノートPCを持ち込んでもサービスを利用することはできない。 しかしその分、ユーザーインターフェイスはわかりやすく作られており、選手検索やスコア情報、位置情報がシームレスに連携していた。NECマーケティング推進本部マネージャーの永浜公太郎氏は「ゴルフトーナメントではギャラリーの年齢層も高く、まずはマウスの使い方から覚えるという方が多い。そのため、なるべくシンプルなユーザーインターフェイスにしたかった」と話す。 会場では1拠点10台、2拠点でサービスが行なわれていたが、ギャラリーたちはゴルフコースの芝生に似合わないITサービスにややとまどいを見せていたものの、実際に使い始めるとその便利さに納得しているようだった。年配の5人組ギャラリーが、ああだこうだと使い方を議論しながら「藍ちゃんはどこ?」と位置情報検索をしていたり、親子連れが子どもたちと一緒にスコア情報を参照していた姿が印象的だ。 永浜氏も「遠目からプロジェクタを見る方が多く、盛況とは言えませんが、利用者からは大変好評です」と話す。
●将来はカーナビのようなゴルフ観戦ナビに 現状のシステムは、非常にシンプルなゴルフコースレイアウト図に選手の位置情報をオーバーレイ表示するだけ。もちろん、観戦慣れしていればそれでも十分役立つが、筆者のようにトーナメント観戦は初めてという初心者の場合、コース上のどこを通れば目的地にたどり着けるのか、あるいはお目当ての選手がいる場所を目指して歩く際、移動時間も見越してどのホールに足を運ぶのが正解か、といったノウハウがない。 将来は“宮里藍ちゃんを応援しに行くなら、この経路で、この位置に移動しましょう”といった移動コース、目的地を自動的に示してくれる機能も欲しい。 「将来はカーナビならぬゴルフ観戦のナビゲーションシステムに発展できればと考えています。もちろん、移動方法などのガイドも行なえるようにしたい。その場合は無線LANを用いたモバイル端末を使ってナビゲーションしたり、移動経路の印刷サービスをサービス拠点で提供するようなことも考えられます。また、今回は開発時間のかねあいでWebベースのシステムにできませんでしたが、Webブラウザを端末にしたサービスも行ないたい(永浜氏)」。 ただし、携帯端末やギャラリー持ち込みの無線LAN内蔵ノートPC、PDAなどをサポートするには、コース上を無線LANのカバーエリアにしなければならない。ところが、ご存じのようにゴルフコースは起伏が激しく、樹木で各コース間が区切られている。「コース全体をカバーするにはコストがかかりすぎる(永浜氏)」。 ならば、メッシュネットワーク(バケツリレー式でパケットを流すネットワーク)対応の端末を会場スタッフに持たせてはどうだろう? 「メッシュネットワークは可能性がありますね。今回はまだ初めての試みのため、どのように発展させるか具体的なところにまでは落とし込むのはこれからになりますが、様々な可能性を考えてみたいと思います」と永浜氏。 なお、このシステムはNEC軽井沢72ゴルフトーナメント専用に構築されたものだが「今後も、主催者側からの要望があれば別のトーナメントでも提供していきたい(永浜氏)」という。 ●情報提供からダイナミズムある観戦者サポートへ “たまたま”なのかもしれないが、情報技術を用いた観戦者向けサービスの実証実験が相次いでいる。筆者が取材しただけでも、昨年の鈴鹿8耐、今年のインディ・ジャパン、それに今回のNEC軽井沢72ゴルフトーナメントと、約1年の間に3回も取材の機会があった。他にも野球でのデータ提供サービスなども行なわれていると聞いている。 対戦履歴や配球など“データで楽しめるスポーツ”の野球、コース全体を見渡すことが難しくセクターごとのラップチャートや別地点からの映像が観戦の楽しみを倍増させるモータースポーツの現場は、観戦者向けサービスの利用価値が非常に高い分野だ。 それは、広いゴルフコース全体にプレーヤが散らばり、同時並行的にプレイが行なわれるゴルフトーナメントでも同じだろう。しかし、今回のシステムは、そうしたスコアなどの情報提供に留まらず、ギャラリーがより観戦しやすいようにサポートする、ナビゲーションシステムになっている点が目新しい。 位置情報を見ていると、キャディ位置が林の中に入っていたり、フェアウエイど真ん中に立っていたりと、なんとなくその選手が置かれている状況が想像できる。惜しまれるのは、オンデマンドの映像配信との連携がない点。林の中に長時間いる選手をクリックして、映像ボタンを押すと直前のショットの映像が流れる、なんて連携が行なえれば楽しそうだ。とはいえ、GPSを用いた新しい切り口のサービスはこれから発展するものだろう。 観戦者が体験する情報のダイナミズムが、今後もスポーツ観戦の幅を広げていくことを期待したい。まだ拙いながら、まだ始まったばかり。大幅な改善の余地は大きく、将来はより大きなスポーツイベントでの応用も考えられる。アテネ五輪開催真っ最中の今年8月だが、ひょっとすると4年後のオリンピックでは、情報端末片手にオリンピック観戦するスタイルが当たり前になっているかもしれない。 □NEC軽井沢72ゴルフトーナメントのホームページ (2004年8月18日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
|
|