[an error occurred while processing the directive]

NEC、パソコン新会社「NECパーソナルプロダクツ」を設立
~「技術のNEC」を宣言? 秘蔵テクノロジの8割を公開

NEC執行役員常務 片山 徹氏

6月30日発表



 こんなことは初めてだった。

 過去15年以上に渡り、NECのパソコン関連の記者会見にはほとんど出ているつもりだが、ここまでNECが「技術」を前面に打ち出した会見は初めてだ。

 それは会見場が異常な雰囲気になったことからも明らかだ。会見終了から40分を経過しても記者でごった返し、その横では技術者による質疑応答の説明会が開催される。

 7月1日付けで設立するパソコン新会社「NECパーソナルプロダクツ」の社長に就任する片山徹氏は、会見終了後も30分以上に渡って、「ぶら下がり」記者の質問責めにあい、展示された新技術、モックアップ製品は、何重にも記者が取り囲み、写真を撮るのでさえひと苦労だった。

 最後の最後まで片山新社長を待って、会場の外のエレベータホールでコメントをもらった。そのひとことは次のような言葉だった。

 「ある意味、今日の発表は、『技術のNEC』の宣言だと受け取ってもらってもいい」。

●NECらしさとして定着するのか?

 繰り返しになるが、これまでのNECを見ると、技術を優先させた製品発表会や事業方針発表会は皆無といえた。

 「新会社の事業方針をかたくるしく説明をしても、みんな眠たくなっちゃうでしょう。だから、今回は、とにかく新たな技術や、数年先の利用シーンを見せることにした」と片山社長は冗談混じりに話すが、「いま持っている技術の8割を見せたかな」(片山社長)というほど、今回の技術披露は大盤振る舞いだった。

パソコン事業の新体制

 これは、7月1日にスタートするパソコン新会社が、これまでのマーケティング主導型の組織体制から、技術に重きを置いた姿勢へと転換してきたことを示すものともいえまいか。

 片山社長は、「技術優先というわけではない。だが、技術とマーケティング/営業が両立してこそ、顧客満足度の高い製品が提供できるようになる」と断言する。

 これを補足するように、新会社で取締役常務を務める高須英世氏(6月30日までNECカスタマックス取締役常務経営企画室長)は、こう話す。

 「これまでのパソコンの話題というと、MicrosoftやIntelの技術の話ばかりが先行していた。結果として各社のパソコンはそれほど差がないものばかりが出てきた。だが、グローバルスタンダードの技術の上で、メーカーとしてどんな技術的な付加価値が加えられるのか、その試行錯誤の上での回答が今回の発表だった。パソコンが進化する上で、NECの技術がどんな点やどんな利用シーンで力を発揮でき、製品としての差別化ができるのか。それを示したかった」。

 会見で紹介された具体的な製品、技術については別稿に譲るが、トラベル通訳端末、マイクロPC、Light PC TVは、まさにNECの技術によって差別化された製品だといえる。

 そして、高須取締役常務はこうも話す。

 「若いエンジニアが、マーケット調査を行ない、製品を開発し、新たな市場を創造するという仕組みが出来上がってきた。NECが持つ技術を新たな利用シーンの創出につなげることができる新たな世代が育ってきている」。

 今回の記者発表で見せた新技術は、まさにNECの新たなパソコン事業を象徴する動きだといっていい。

 だが、何人かの記者が面白い感想を述べていた。

 「次世代の製品を見せるところは、まるでソニーの会見みたいだね」、「技術を前面に打ち出しているのは東芝とそっくり」。

 確かにそう感じる。最初だから仕方がないが、まだ、この手法がNECのやり方に成り得ていないことを示す言葉ばかりだ。

 筆者の個人的な意見だが、このやり方が定着するまで、徹底的に繰り返してほしい。それが、NECが、自社の技術にコミットし、新市場を創出する製品づくりを進めるメーカーである、というイメージづくりにもつながるからだ。

●パソコン事業体制の再編が進む

 ところで、今回のNECパーソナルプロダクツの設立によって、NECのパソコン事業は大きく再編されることになる。

 すでに4月からの事業ライン制の導入によって、個人向けパソコンは、BIGLOBEとともにパーソナルソリューション事業ラインに、ビジネスパソコンについては国内営業事業ラインというように分割されており、今回の新会社設立で、パーソナル事業ライン内で分かれていた販売・マーケティング担当のNECカスタマックスと、生産、開発を担当していたNECカスタムテクニカが合併、販売、商品企画、商品計画、生産、マーケティングまでをひとつの組織で対応できるようになる。

 さらにビジネスパソコンについても、NECパーソナルプロダクツが生産部分を担当するとともに、海外向けパソコン事業とも部品調達を共通化することでより効率化を図る。

 片山新社長は、「生産、販売の2社に分かれていたことで、どうしても部分最適を追求していた側面もあった。今回の合併によって、全体最適を優先することができ、意志決定の迅速化が図れること、これまで2社に分かれていたCSやCRMを統合できること、商品企画を一本化できることなどが大きなメリット」と話す。

 NECの個人向けパソコン事業は、2001年10月からの第1次構造改革によって、NECカスタマックスとNECカスタムテクニカの2社分業体制とした。ここでは、2社分業体制というよりも、むしろ、4社に分かれていた製造子会社(NECでは分身会社といった)をNECカスタムテクニカに統合したという点が大きな動きだった。

新事業体制とパーソナルソリューション事業ライン パーソナル事業構造改革の流れ 国内PCの市場動向

 昨年4月からの第2次構造改革では、カスタマ・イン経営の実践とともに、黒字化を事業の重点課題として掲げ、原価低減や収益性の向上といった施策に取り組んでいった。

 中国への生産移管を含む国際水平分業体制の確立などによって、すでに40%近い原価低減を実現。今後2年間でさらに30%の原価低減を行なう考え。また、顧客満足度の向上に向けて、デスクトップパソコンの生産拠点であった旧NEC群馬を母体に、昨年7月に、NECカスタムサポートを設立。デスクトップの開発、生産で培った設計/開発技術力をベースとした故障診断、修理対応強化を行なった。

 こうした2つの構造改革を経て、昨年度下期にはわずかながらも黒字化を達成。2003年度はV字回復の年と位置づけ、「通期で2桁の後半を目指す」と、80~90億円程度の黒字化が目標であることを示した。

●新会社が掲げる3つのナンバーワン

 今回の新会社では、3つのナンバーワンを方針に掲げた。

 ひとつは、CSナンバーワンだ。CS戦略の立案機能をマーケティング部門に統合、それとともにサポート窓口を一本化することで電話問い合わせ、修理窓口、ウェブによる情報提供までをシームレスな体制で行なえるようにした。つながりやすさナンバーワンのほか、FAQ有効率80%、コンタクトセンター満足度率90%という高い実績を裏付けにして、CSナンバーワン企業を目指すという。

NECパーソナルプロダクツが目指す3つのナンバーワン

 第2点目は、スピードナンバーワンだ。これまで重複していたNECカスタマックスとNECカスタムテクニカの機能を統合することで効率化の追求とスピードアップが実現するとともに、国内生産体制の効率化アップを命題に掲げる。

 サプライチェーンシステムであるVCMの稼働によって、生産計画から生産、物流、実売把握までのサイクルを迅速化、全プロセスを経営情報と直結させることで市場変動に柔軟に対応した意志決定を実現。さらにセル生産の導入によって、すでに2000年度比5倍の生産性向上を達成しており、これをさらに加速させる考えだ。

 そして、最後のシェアナンバーワンは、商品企画力の強化、マーケティング機能の拡大により、マーケティング力と開発力を強化。同時に、今回新たに見せた新技術、新製品によってシェア拡大と市場創出を図っていくという。

 新会社の資本金は150億円。2社の合併により、従業員数2,130人でスタート。2004年3月期売上高は4,600億円を見込む。

 黒字化のめどが立ったことで、NECのパソコン事業は、「新市場を創出する」というトップシェアメーカーとしての基本的な取り組みを改めて開始しはじめたともいえる。

 片山社長は、折に触れて「新市場を創出するためにリスクを負った製品投入が不可欠だ」と言い続けてきたが、今回の発表会を見る限り、その言葉が現実のものになりつつあるように感じた。

 いや、それ以上に「いま、NECが持っている8割ぐらいの技術を見せた」という言葉に、新市場を創造していく並々ならぬ意欲を感じた。

 これから1、2年のNECは、ここ数年のNECとはちょっと違うという期待を、15年以上、同社のパソコン事業を見続けてきた視点から抱かざるをえない。

□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nec.co.jp/press/ja/0306/3004.html
□関連記事
【6月30日】NEC、新技術を搭載した試作機を多数展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0630/nec2.htm

(2003年6月30日)

[Reported by 大河原克行]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.