日本に、中国生まれのJavaベースのOfiiceアプリケーション「Evermore Integrated Office(EIOffice)」が上陸。「Microsoft Officeに挑戦」というキャッチフレーズを掲げ、ダウンロード販売を開始している。 日本でEIOfficeを販売するインターネットテレフォン株式会社では、「販売方法もダウンロードだけで、大きな宣伝も行なっていない。最初は、利用者も限られるのではないかと考えていたが、予想を上回る反響を得ている。実際の数は明らかにできないものの、4桁台後半の数がダウンロードされている」(EIO事務局 北村真吾 係長)という。 これまでソフト販売を手掛けてこなかったインターネットテレフォンだが、EIOffice販売によって、オフィス市場にどんな変化を起こそうとしているのだろうか。 ●アジア圏で成功したビジネスを日本に移植
インターネットテレフォンは、2000年10月設立。「ただTel」の名称で、バナー広告を見ることなどによって貯めたポイントを利用することで、VoIPを使った電話を無料で利用することができるサービスを提供することを業務としてきた。 ソフト事業に取り組むのは初めてだが、「実はただTelとEIOfficeのビジネスモデルには共通する部分がある。当社のトップがアジア圏に人脈をもっていることから、アジア地域で提供されている優れたサービスを日本に持ってきて展開するという点においては、ソフトとサービスという違いはあっても、ただTelとEIOfficeは同じビジネススタイル」(EIO事務局 広報 城戸健 係長)だそうだ。 ただし、ただTelのベースとなったサービスを提供している企業は韓国にあり、EIOfficeは中国の無錫永中科技公司(エバーモア・ソフトウェアが開発したものと、それぞれの商品を開発した企業も異なり、その企業がある国も異なる。
●中国では官公庁や教育機関を中心にユーザーを獲得
EIOfficeを開発したエバーモア・ソフトウェアの社長兼CEOである曹参(Tsao Sheng)氏は、中国生まれのアメリカ籍の中国人。米国の大学を卒業し、米国でソフト開発をしていた。 その後、曹参氏が中国で設立した企業がエバーモア・ソフトで、中国政府と密接な関係をもち、中国市場では主に官公庁、教育機関などをメインターゲットにビジネスを展開している。 「中国で生まれたJavaベースのオフィスアプリケーションというと、中国でオープンソースブームとなったことで誕生した製品と思われることが多いのだが、実際のエバーモア・ソフトは官公庁や学校マーケットなどで利用されていることが多いだけに、会社自身も堅実で、ソフトの中身もかなりしっかりしたものに仕上がっている」(城戸係長)。 実はインターネットテレフォンでは当初は、「韓国で作られたJavaベースのオフィスアプリケーションを日本で提供する準備を進めていたのだが、同じJavaベースのアプリケーションながら圧倒的にパフォーマンスのよいEIOfficeの方を販売することになった」という経緯があるそうだ。 ソフトの品質に関しては、「マイクロソフト製品をはじめ、他の企業が発売しているオフィスアプリケーションと比較しても、利便性、開発したエバーモア・ソフトの将来性といった複数の点でEIOfficeが優れていると判断した」(北村係長)と製品の品質には絶対の自信をもつ。 そのため、価格についても通常の価格で17,800円、9月16日までの期間限定で9,800円とした。1,980円のオフィスソフトが販売されていることと比べれば、高めの価格設定である。 「低価格の値付けとすると、商品の中身そのものではなく、価格にばかり注目が集まってしまう。価格だけで勝負していては、マイクロソフトの牙城を崩すことはできない。価格ではなく、製品の特徴で商品をアピールしたい」(北村係長)と話している。 ●マイクロソフト製品にも他社製品にもない機能的特徴
EIOfficeの最大の特徴は、Javaで開発されているため、Windows、Linuxなどマルチプラットフォームで動作することと、いちいちソフトを起動し直すことなく、ひとつの画面から、ワープロ、表計算、プレゼンテーションという3つのアプリケーションが利用できるという2点である。 マルチプラットフォームについては、Windows、Linuxと共にMac、Solarisにも対応予定で、現在中国で開発が進められている。 3つのアプリケーションを使い分ける機能は、全てのアプリが完全に融合しているというわけではなく、用意されたアイコンをクリックするだけで、ワープロ、表計算、プレゼンテーションを使い分けることができるようになっている。最初に起動した画面から、必要に応じてワープロ、表計算、プレゼンテーションを呼び出せるのだ。 「サンプル画面として、3つのアプリケーションが並んでいる画面を提供しているため、『三分割した画面でしか操作ができないのか』といった問い合わせをよく受ける。実際には三分割でなくとも利用することは可能で、自分の使いやすいスタイルで利用することができる」(城戸係長)。 他の特徴としては、セル単位に写真、音声、動画、表計算、プレゼンファイルの貼り付けができる「マルチセル」、サーバーを介さずに個人IPで共同作業が可能な「電子会議・オンライン共同作業」、ワープロ、表計算、プレゼンテーションを同一形式で保存することが可能であると共に、PDF形式、マイクロソフトの保存形式での保存も可能な「マルチ保存形式」、マウスポイントで指定するだけで操作方法を表示する「同期ヘルプ」といった機能がある。 「現在提供しているバージョンは中国で開発しているため、同期ヘルプに出てくる文章が日本語としては読みにくいという声もある。この部分は、どんどん修正をかけていこうと思っている」(北村係長)。 特殊な機能ながらインパクトが大きいのが、「サイエンスエディター」だ。中国で教育機関での利用が多いという特徴があるからだろう、化学実験で使う実験器具や数学で利用する数式が多数収録されている。 実験器具はパーツごとに分解して利用することも可能。例えば、ランプで加熱されたフラスコという図が、フラスコだけ、加熱するアルコールランプだけにばらして、アプリケーションで利用することも可能となる。 いずれも、「マイクロソフト製品をはじめ、他社の製品にはない機能であり、単にマイクロソフトの置き換えではなく、マイクロソフトとは違う市場の創造が可能ではないか」(北村係長)と機能面に強い自信をもっている。
●販売拡大はパートナーを通じて
現在、提供している製品の日本語化はインターネットテレフォンで行っているが、次バージョンからは開発についても共同で開発する体制をとる計画だ。 販売については、インターネットテレフォンではダウンロードのみだが、やはり「決済方法をもっと多彩にして欲しい」、「パッケージが欲しい」といったリクエストが寄せられている。 こうした販売方法の多角化については、丸紅グループ、NTTグループと提携し、新しい販路拡大を進める計画だ。 「NTTグループとは、開発についても協力してもらい、日本でも学校、官公庁マーケットの拡大を計画している。丸紅グループとは、コンピュータウェーブなどを通じてコンシューマ市場、またパソコンメーカーへのアプローチ、ライセンス販売を計画している」という。 こうした販路拡大と共に、「ユーザーごとに要求される機能が変わってくる可能性がある。販売を進めていく中であがってくるリクエストを受けて、より日本市場に馴染んだ製品に仕上げていきたい」(城戸係長)と話している。 インターネットテレフォン自身のビジネスとしては、「当面はEIOfficeに注力していく。今のところ別なソフトを提供する計画はない」そうだ。 ただし、EIOfficeについては、「短期的なビジネスとは考えていない。長期的にビジネスを展開していく。今後、OSとしてLinuxの需要が拡大することにあわせ、製品販売を拡大し、目標として掲げているマイクロソフトの牙城を崩すことが実現できれば」と話している。 □インターネットテレフォンのホームページ (2004年7月20日)
[Text by 三浦優子]
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