マイクロソフトが5月27日に発表した「Microsoft Office InterConnect(インターコネクト) 2004」は、日本のユーザーの実状を考慮して開発した、日本発のOfficeアプリケーションだ。 Officeアプリケーションで、「日本製」はこれが初めて。ワールドワイドで見ても、「IMEを除けば、米国しかないというアプリケーションはあるものの、米国以外の国で独自のものというのは例がない」ときわめて珍しい取り組みとなる。 インターネット上で名刺を交換するという製品コンセプトから、発表会時点ではコミュニケーションを紙の名刺交換から電子の世界に置き換えるソリューションと考えた人も多かったようだが、「使い始めるとわかるのだが、紙の名刺を渡してコミュニケーションをとるという文化をなくすという意図で開発した製品ではなく、むしろコミュニケーションを強化し、支援するツール」だとマイクロソフトは説明する。マイクロソフトの日本法人が、このアプリケーションを開発した狙いはどこにあるのだろうか。
●名刺を重視する日本でなければなかった製品
マイクロソフトで「InterConnect」を担当する、インフォメーションワーカービジネス本部オフィス製品部 井上智裕シニアプロダクトマネージャと田中道明マネージャは、「InterConnect」のコンセプトについて上記のように説明する。 電子メールを介して電子名刺をやり取りするというコンセプトから、「対面で名刺交換をする必要性を無くす製品」と捉えられてしまうこともあるが、「実はその逆。名刺交換はしたものの、死蔵されてしまったコミュニケーションを、さらに活性化するのが本来の狙い」と田中マネージャは強調する。 名刺を重視したコミュニケーションは日本独自の文化である。米国本社のスタッフにレビューすることを目的に、英語でメニュー画面を表示するバージョンも作ったそうだが、「日本人は、これほど人に関する情報を重視するのか」と驚きの声があがったという。 もちろん、米国でビジネスをする際にも、「個人」に関する情報が軽視されているわけではないだろう。だが、名刺の重みは日米でかなり異なる。日本では名刺交換をする際、片手でもらうのは失礼で、両手でしっかりと名刺を受け取ることがマナーだとされる。ところが、米国ではビジネスカードを配る場合に、どんな状態で配っても構わない。日本のように両手でなくとも、片手で配っても問題になることはない。こうした「名刺」に対する認識の違いが、米国スタッフを驚かせたようだ。 それだけ名刺に対する認識の違いがあるだけに、InterConnectは米国発では生まれてこなかっただろう。日本発でなければ、生まれてこなかった製品なのだ。
「米国でしか販売していないという製品はあるものの、日本を含め、米国外で開発され、パッケージとして発売されるOfficeアプリケーションはおそらくこの製品が初めて。それが許されたのは日本市場に対する期待があるからだと認識している」と田中マネージャは説明する。
●対面コミュニケーションを、なくすのではなく支援する 取材の際は、実際にデモをしてもらいながら、製品を紹介してもらった。 「名刺はもらったものの、その後のコミュニケーションがほとんどなく、死蔵されてしまっていることがほとんどではないか。InterConnectを使うことで、対面で名刺交換をした後にコミュニケーションを深めていくことができる」(井上シニアプロダクトマネージャ)。 つまり、名刺を交換した後に、あらためて相手にメールを送り、名刺に記載されたデータをデジタルで取り込み、さらにつきあいを深めるに伴い、名刺に書かれていない付加情報を付け足していくことができるのがInterConnectの強みである。 実際に、今回の取材後、井上シニアプロダクトマネージャ、田中マネージャから、電子名刺を送って頂いた。頂いたデータに、取材日時や掲載媒体などを書き足していけば、後年大きな力を発揮しそうなデータベースができあがる……という感想をもった。 筆者のような、ライター業ではなくとも、人に会うことがビジネスの基本になっている人は大勢いるはずで、ほとんどのビジネスマンがInterConnectを利用することは可能だろう。 もちろん、個人で利用することも十分可能だ。用意されている名刺デザインの中には、ビジネスらしからぬデザインのものもあるので、私生活のコミュニケーション強化にInterConnectを利用できる。 個人でも、法人でも、日本ではハガキ作成ソフトを住所録データベースとして活用している人が多いと思うが、InterConnectは、ハガキ作成ソフトの住所録よりも、もっと詳細な個人に関する情報を蓄積することができる。ハガキ作成ソフトの機能では、物足りないと考える人にとっては、使ってみる価値はあるのではないか。 実際にマイクロソフト自身のハガキ作成ソフトである「ハガキスタジオ」とはデータ連動を行なうことも可能で、それ以外のハガキ作成ソフトメーカーのデータベースに対しては、CSVファイルでデータをやり取りできる。 意外な使い道としては、「デモをすると、必ずそういう声が出る」というのが、水商売のお姉さん達の営業ツールとして、このソフトが大きなパワーを発揮するのではないかという声だそうだ。確かに、前日に店に来たお客さんに、写真入りの個人情報を送ると、効果がありそうな気がする。
●お互いに同意した上でデータ交換が必須 ところで、住所録などのデータの場合、データを入力する作業と共に、変化があった際にそれを更新していくことの手間がかかる。例えば、InterConnectを使うことで、サーバーにアクセスし、新しいデータに自動的に更新してしまうといった仕組みを作ることはできないのだろうか。 「技術的には実現させることは十分に可能。だが、本人の知らないうちに、自分の情報を誰かが取得しているということが望ましいことかどうかは、難しい判断になる」とマイクロソフト側では説明する。 対処方法として、「“Aさんの新しい情報が知りたい”と思ったら、Aさんに自分から電子名刺を送り、『ご無沙汰しています。近況をご連絡頂ければ幸いです』といった具合に、自分の方からコミュニケーションをとるという方法が望ましいのでは」と指摘する。あくまで、当人同士が了解した場合にのみ、データをやりとりするのが望ましいというわけだ。 それだけに、InterConnectでは、電子名刺を受け取った場合には、「お勧めアクション」という項目が用意されている。例えば、電子名刺を受け取った場合には、返信を呼びかけるメッセージが表示されるといった具合に、円滑にコミュニケーションを進める手助けをしてくれるわけだ。
●Outlook 2003が必須で単体では使えないところが難点 取材後、井上シニアプロダクトマネージャ、田中マネージャから電子名刺を頂いたこともあり、記者発表会の際にもらったβ版のInterConnectをインストールして、使ってみた。だが、大きくひっかかってしまったのが、InterConnectを使うためには、Outlook 2003が必須となるという点であった。筆者は、普段は別のメーラーを利用しているため、あらためてOutlook2003を使うとなると、環境設定をするのが一苦労で、しかも複数のメーラーを混在させると、色々と支障も起こってしまった。 InterConnect自体は、Lite版という閲覧専用のソフトが用意され、無償でダウンロードすることはできるものの、Outlook 2003以外のメーラーで電子名刺が添付したメールを受信すると、せっかくの電子名刺もただの添付ファイルになってしまい、うまく生かすことができない。 通信が不可欠となるソフトだけに仕方がないのかもしれないが、できればInterConnect単体でも利用できるようになってくれれば、筆者のような人とのおつきあいが不可欠な仕事をする者にとっては有り難い……というのが偽らざる感想である。
□マイクロソフトのホームページ (2004年6月14日)
[Text by 三浦優子]
【PC Watchホームページ】
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