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米国でAthlon 64ノートを買う その3



Compaq「Presario R3140US」

 ベータ版OSのテスト用に購入したAthlon 64ノートPC(Presario R3140US)についてこの2回取り上げてきたが、よく考えると細かなスペックをちゃんとまとめていなかった。遅ればせながら、表1にまとめておいた。特に変わったデバイスは使われていないと思う。


【表1 Presario R3140USのスペック】
プロセッサAthlon 64 3000+
チップセットnForce 3
メモリ512MB PC2700×1
VideoNV17M (GeForce 4 420 Go 32MB)
AC'97 CODECADI 1981B
LANRealtek TRL8101L
Wireless LANBroadcom 802.11b/g
ModemAgere Software Modem
Card BusTI PCI-1620
HDD富士通 MHT2060AT
DVDドライブ東芝SD-R6252
(+R/RW 2.4x, CD-R 16x, CD-RW 10x)

●日本語版Windows XPをインストール

 このノートPCにまずインストールしたのはWindows XP Professionalの日本語版だ。このOSはβ版ではないが、現在Service Pack 2の開発が最終段階にあり、6月21日からRC2のダウンロードが可能になると同時に、名称が「Microsoft Windows XP Service Pack 2 セキュリティ強化機能搭載」という長い名称が発表された。WinHECの時点では、正式名称はあくまでもWindows XP Service Pack 2で、マーケティング的に長い名前が使われるという話だったのだが、方針が変わったようだ。

 SP2では、現時点ではAthlon 64でしかサポートされていない、ハードウェアによる「データ実行防止」機能(DEP)がサポートされる。DEPは、これまで「NX(No eXecute)」と呼ばれていたもの。IntelやTransmetaも対応を表明しており、年内にリリースされる製品からサポートが始まる予定だが、本稿執筆時点においてDEPをサポートしたハードウェアはAMD64アーキテクチャのプロセッサ(Athlon 64/Opteron)しかない。せっかくAthlon 64ノートを買ったのだから、まずはこれから試してみようというわけだ。

 当然のことだが、SP2を試すにはまずWindows XPをインストールしなければならない。プリインストールされていたWindows XP Home SP1英語版でテストしてもよいのだが、せっかくなら日本語版で試したい。というわけで、まずWindows XP Professional日本語版のインストールを行なった。

 Presario 3140USのリカバリCDは3枚組みで、OS、デバイスドライバ、基本アプリケーションにそれぞれ分かれている(ほかにWinDVD Creator2やMS Works & Money 2004、Norton AntiVirus 2004 60日間試用版、ドキュメントCDが付属する)。日本語版OSのインストール終了後、デバイスドライバのリカバリCDをドライブにセットするだけで、自動的にデバイスドライバ類のインストールが行なわれ、クリーンな環境ができあがった。本機には内蔵されていないBluetoothのドライバまで組み込まれてしまったのはご愛嬌というところか。その他のアプリケーションのインストールは任意になっており、非常に好ましく感じた。

●DEPの動作を確認

 ドライバ類のインストール完了後、一応Windows Updateサイトで必要なアップデートをすべて済ませた後、SP2のインストールを行なった。ドライバが特定のSPレベルを要求することがあるため、本来はドライバ類のインストールよりSPのインストールが先だが、SP2がまだ最終版でないため、あえてドライバ類のインストールを先に行なっている。

 ネットワークインストール用モジュールであることに加えβ版でもあるので、RC2のダウンロードサイズは268MBと巨大だが、作業そのものは特に難しいこともなく、ただ終了を待つだけ。インストール時の手順でリリース版と最も異なるのは、バックアップをとらないというオプションが選択できないことだろう。今回のRC2ではヘルプなどのリソースも日本語化されており、いよいよリリースが近いことを実感する。

 SP2をインストールした後、再起動すると画面1が表示され、自動更新を有効にするよう促される。起動後、boot.iniを調べると、Windowsの起動オプションスイッチとして“/noexecute”が設定されていた(画面2)。いうまでもなくDEPが有効になった証だ。ちなみにPentium 4プロセッサの搭載システムにこのRC2をインストールしても、このスイッチは付与されない。

【画面1】
(サムネールをクリックすると、1,200×800ピクセルの画像を開きます)
【画面2】

 ハードウェアによるDEPが有効になったことを確認するもう1つの手段が、システムのプロパティの「詳細設定」タブにある「パフォーマンスオプション」に設けられた「データ実行防止」タブ(画面3)だ。ここにちゃんと搭載マイクロプロセッサがハードウェアDEPをサポートしていることが明記されている。

 なお、Compaqが提供している自己診断プログラムを実行したところ、早速DEPにより強制終了させられた(画面4)が、設定の変更ボタンをクリックしてこのDiagnostics ApplicationをDEPの例外に登録すると、ちゃんと利用できた。このRC2について、きちんとテストしたわけではないが、今のところ問題にも遭遇していないし、さりげなくDirectXの最新版(DirectX 9.0c)も含まれている。正式リリースが待たれるところだ。

【画面3】 【画面4】

●Windows XP x64をインストール

 このWindows XP SP2と並行して開発が進められているのがWindows Server 2003 Service Pack 1(SP1)だ。

 Windows Server 2003がサポートしているプロセッサアーキテクチャは、x86(IA-32)とIPF(Itanium Processor Family)の2種類だが、SP1からAMD64/EM64T(x64)をサポートすることになっている。ただし、既存のx86からx64へのアップグレードがサポートされるわけではなく、x64対応版は独立したパッケージとなる予定だ。

 Windows XP SP2のリリースが今年の夏であるのに対し、このWindows Server 2003 SP1は年末のリリースを目指して開発が進められており、基本的にWindows XP SP2の内容を包含することになっている。おそらく、既存のx86用に対するアップグレード、既存のIPF用に対するアップグレード、x86用のSP2適用済みパッケージ、IPF用のSP2適用済みパッケージに加え、新規にx64用パッケージが追加される、という形だろう。

 そして、このx64対応Windows Server 2003 SP1をベースに、x64対応のクライアント用WindowsであるWindows XP 64-Bit Editionが作られる。最終的にどういうバージョン名で呼ばれることになるのかは良く分からないが、今のところ「Windows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systems Version 2003」などと呼ばれることが多いようだ。

 少なくともSP2とは呼ばれていないため、IA-32版とはバージョン名が一致せずややこしいが、クライアントOSとしての機能性はIA-32版のWindows XP SP2に相当するOSである。とりあえずここでは「Windows XP x64」と呼ぶことにする。

 上述したようにWindows XP x64がサポートするのは、AMDのAMD64アーキテクチャに基づくプロセッサ(Athlon 64/Opteron)と、IntelのEM64T(Extended Memory 64 Technology)に対応したプロセッサだが、後者について具体的なリリース予定が分かっているのはサーバー/ワークステーション用のXeonプロセッサだけだ。

 「Nocona」という開発コード名で知られているデュアルプロセッサ構成対応のXeonプロセッサがそれで、6月末にリリースされる(本稿執筆時点においてIntelは公式には発表していないが、Microsoftが6月にリリースされると明かしている)。少なくともNetBurstマイクロアーキテクチャのプロセッサについては、Pentium 4ブランド、Celeronブランドを含め、2005年には全面的に採用することになっているものの、こうしたデスクトップPC向けプロセッサに関する具体的なスケジュールは明らかにされていない。少なくともつい先日リリースされたLGA775パッケージを採用したPentium 4プロセッサでは、SP2がサポートするNX(DEP)、EM64Tともに採用は見送られた。

 というわけで、現状でWindows XP x64のテストが可能なシステムは、AMD64アーキテクチャのシステムだけ、ということになる。間もなくXeonが追加されるが、プラットフォームコストが高い(もちろん、それには信頼性やアプリケーションのバリデーションなど、コスト高になる正当な理由はあるわけだが)ため、Windows XP x64のテスト目的に購入するのはためらわれる。そう思ったからこそPresario R3140USを購入したわけだ。

 x64版のインストールに際してだが、先にインストールした32bit版はそのまま温存し、別のパーティションを設定してインストールすることにした。要するに32bit版とx64版のデュアルブートである。この方が比較の場合など、何かと都合が良いだろう。x64版といえどもWindows XPに変わりがあるわけではなく、インストール作業は全く同じだ。入力を求められる事項(Administratorのパスワード等)も変わらない。変わってくるのはインストールが終わってからだ。

 通常の32bit版であれば、SPのインストール、ドライバ類のインストールへと進む。が、当然ながらx64版にSPは存在しない。ストレートにドライバ類のインストールに進みたいところだが、ベータ版OS向けのドライバは、入手性が限られる。極力、OSパッケージに含まれるドライバだけで動いてくれれば良いのだが、どんなドライバが含まれているかもインストールしてみなければ分からない。

【画面5】

 画面5はインストール直後のドライバ登録状況をデバイスマネージャで確認したところだ。これを表1と照らし合わせるとだいたい様子が分かるが、nForce 3内蔵のAC'97コントローラ(Multimedia Audio Controller)やAgereのソフトウェアモデム(PCI Modem)のドライバはベータ版のOSパッケージでは提供されていない。

 画面5でドライバが組み込まれていないNetwork Controllerは、Broadcomの無線LANコントローラを指す(Realtek製コントローラによる10/100BASE-TXは内蔵ドライバで動いている)。無線LANは、WinHEC時点でも動いておらず、今のところx64版の泣き所といったところだ。

 もう1つデバイスドライバが組み込まれていないBase System Deviceは、相当するものを32bit版OSで調べて見ると「TI UltraMedia Firmware Loader Device」であることが分かった(デュアルブートにしておくと、こうした作業が楽だ)。内蔵するCard Busコントローラ(PCI-1620)に関連したファームウェア更新デバイスのようだが、PCI-1620のドライバそのものは組み込まれており、なぜこのデバイスだけ取り残されてしまっているのかは分からない。

 画面5にはないが、もう1つデバイスドライバが組み込まれていないのがGeForce 4 420 Go 32MBだ。NVIDIAのWebサイトには、現在x64版用のβドライバが登録されているものの、サポートされているGPUはデスクトップPC用のみ。この仕様はWebサイトで提供されている32bit版向けのUnifiedドライバと同じだ。とりあえずVGAドライバで1024×768ドットで動作させることはできるものの、これではベンチマークテストはおろか、サスペンドさせることもできない。

【画面6】

 この状態で、とりあえずNVIDIAのWebサイトでx64版向けに用意されているnForce 3用のベータドライバを組み込んでみた。すると画面6のように、Multimeida Audio Controllerが不明なデバイスのリストから消え、音が出るようになった。本体に設けられている音量調整用のボタンをサポートするドライバがないため、ボタンは無効のままだが、我慢できないほど不便というわけではない。

 やはり一番痛いのはディスプレイドライバがないことだ。そう考えるとテストマシンはデスクトップPCの方がベターということになる。いつまでもそうだから、いざ製品版がリリースされた時に、ノートPCの方にトラブルが生じやすいのかもしれない。すでに米国でもノートPCの比率が50%を超えたとかいうニュースも聞こえてくる今日この頃、もう少し何とかならないものかとは思う。

 Windows XP SP2の項で触れたDEPだが、x64版でもサポートされているようだ。画面7はWindows XP SP2(RC2)とのデュアルブート構成のboot.iniだが、x64版にも/noexecuteスイッチがつけられている。

 ただし、x64版には今のところSP2で用意されるコントロールパネルのセキュリティセンターやパフォーマンスオプションに設けられた「データ実行防止」タブはまだ用意されていない。まずSP2が固まってしまわないと、Windows Server 2003 SP1は先に進めないし、Longhornも同様だろう。逆に言うとSP2が遅れると、その影響がドミノ効果で以降のOSリリースに及ぶ、ということだ。今はまずSP2が無事にリリースされることを祈らねばならない。

【画面7】

●Windows XP x64正式版への長い道

 というわけで、x64対応版のインストールは行なったが、これでβテストが可能かというとちょっと難しい。筆者の考えるβテストは、本番とほぼ同等の環境を構築し、その上でアプリケーション等の動作検証を行なうことなのだが、ドライバ類が揃わない現状ではそこまでのテストは困難だ。

 ただ、現状のOSはデバイスドライバの開発をスタートさせるには十分な完成度ではないかと思われる。日本語版のx64対応版が正式リリースされるのは2005年に入る(2004年内のRTMが現時点での目標である)と考えられるが、デバイスドライバが本格的に揃うのはそれからだろう。それまではデバイスドライバもベータの段階を出ないハズだ。新しいプラットフォームが普及するには、

  1. 対応ハードウェアのリリースと普及
  2. OSのリリース
  3. デバイスドライバの整備
  4. アプリケーションの提供
  5. 新プラットフォームの魅力が古いプラットフォームをトータルで上回る

の長いプロセスを経ねばならない。何やかんやでWindows NTも10年近くを要した。x64の場合、まだ1の段階にあることを考えれば、本格的な普及まで少なく見積もって3年近くかかるのではないかと思われる。だが、3年後に新しいプラットフォームを普及させるには、今、様々な開発作業を始めなければならないともいえる。

 一方、ユーザーにとって気になるのは、今x64対応ハードウェアを購入した場合のアップグレーダビリティだ。年内に発売されるx64互換PCはすべて32bit版Windowsがプリインストールされて出荷される(他に選択の余地はない)。そのうえ、Microsoftは最初のx64版へのアップグレードパスを提供しない。x64版Windowsを利用するには、新規にx64版をインストールするしかないわけだが、今回のインストールでも明らかなように、OSのパッケージにすべてのデバイスドライバが含まれていると期待することはできない。OSの開発が進められている最中にも新たなデバイスは登場するからだ。

 となると、結局デバイスドライバの提供はハードウェアベンダ、PCベンダを頼らなければならないわけだが、アップグレードパスが用意されないOS用のデバイスドライバの提供を、PCベンダの義務とまで言うことは難しいだろう。

 つまりx64版OSのサポートを受ける最善の方法は、x64版OSがプリインストールされたPCを購入することだ。今回筆者が購入したPresario R3140USだが、発売元であるHPは、このシステムに対してx64版OSのサポートを行なうと言っているわけではない(ちなみに同社は、Opteronを搭載したサーバーについては、32bit版OSからx64版のサーバーOSへの移行に伴うドライバサポートを100%行なうと明言している)。

 ただ、一部のドライバについて、すでに32bit版向けであることが明記されはじめており(画面8)、筆者がサポートを勝手に期待しているだけのことである。ベンダのサポートに対する期待値が比較的高いという理由でPresarioを選んだ、という側面は否定しないが。

 x64版OSの移行については、こうした問題もあることを覚えておく必要があるだろう。

【画面8】

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(2004年6月25日)

[Text by 元麻布春男]


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