●再び新アーキテクチャを一気に浸透させるNVIDIA NVIDIAはGeForce 6800(NV40)シリーズを皮切りに、今年後半には一気にNV4xアーキテクチャを全ラインナップにまで持ってくる。つまり、GeForce FX 5800(NV30)の後、NV3xアーキテクチャを下の製品ラインにまで広げたのと同じことを、NV4xでも行なうつもりなのだ。 GPU市場は3~4階層に分かれており、通常3製品ラインをGPUベンダーは投入する。NV3x世代では、下の3ラインが投入された。 ・エンスージアスト GeForce FX 5800(NV30) 2004年の製品構成は、それよりやや複雑だ。というのは、アーキテクチャの変更とインターフェイスの変更が重なるからだ。NVIDIAは、今年前半はAGPインターフェイス内蔵のGPUを投入、PCI Expressインターフェイス内蔵の“PCI ExpressネイティブGPU”は今年中盤以降に投入するという戦略を選んだ。そして、今年前半のAGP GPUについては、外付けのPCI Express-AGPブリッジチップ「HSI(High-Speed Interconnect)」を使ってPCI Express x16に対応する。 NVIDIAは、フラッグシップのNV40も、まずAGP版のGeForce 6800を投入し、その後HSIによるPCI Express版のGeForce 6800を投入する見込みだ。また、今年前半については、新アーキテクチャはNV40だけで、それ以外のGeForce PCX 5950/5750/5300/4300は、いずれも既存ラインナップにHSIを組み合わせたものになる。
NVIDIAは次のフェイズでPCI ExpressネイティブGPUを計画している。まず、PCI ExpressネイティブのGPU「NV45」を開発中だ。このチップは基本構成はNV40と変わらないと言われている。ある業界ソースは、NV40とNV45は基本的に同じパフォーマンスレンジだという。 NVIDIAのPCI ExpressネイティブのパフォーマンスGPUは、当初「NV41」と呼ばれていたが、現在コードネームは「NV43」に変わっているらしい。NVIDIAのコードネームは頻繁に変更されるため、ここで記しているコードネームが現在も有効かどうかはわからない。同様に、メインストリーム向けGPUは「NV42」から「NV44」になったという情報がある。 もっとも、コードネーム自体はたいして重要な話ではない。コードネームが変わっても、開発しているチップの内容が変わるわけではないからだ。重要なのは、NVIDIAが3ラインのPCI ExpressネイティブNV4xアーキテクチャGPUを投入するという製品計画で、それ自体は変わっていないようだ。 NVIDIAのNV4xファミリは、いずれも、ベースアーキテクチャはNV40を引き継ぐ見込みだ。つまり、Programable Shader 3.0対応で、FP32 Pixel Shaderを搭載する。大きな違いは、Shader数やピクセルエンジン数になる見込みだ。順当に行くなら、NV43が8ピクセルパイプ、NV44が4ピクセルパイプ構成となる可能性が高いが、今のところわからない。 また、NVIDIAはこれらGPUのAGP版も投入するが、これはおそらくAGP-PCI Expressブリッジチップを使うと見られる。ライバルのATIは昨年の段階で、PCI ExpressネイティブチップをAGPに変換するブリッジチップを準備していると明かしていた。
●PCI Express動向で左右されるNVIDIAとATIの立場 こうしてNVIDIAの製品計画を見ると、同社がPCI Expressには慎重に構えていることがよくわかる。トップツーボトム(全ての領域)でPCI ExpressネイティブGPUを揃えることを強調するATIとは大きく異なる。 面白いのは、ATIは決して新アーキテクチャをトップツーボトムで揃えるとは言わないことだ。そのため、ATIは次世代アーキテクチャは順番に下へおろすことを考えていると思われる。つまり、R3xx世代でやったのと同じことを考えているようだ。 まとめると、NVIDIAはNV4xアーキテクチャを2段階でメインストリームまで浸透させる一方、PCI Expressについては様子を見てから対応する。対してATIはPCI Expressネイティブを一気にメインストリームまで進める一方、次世代アーキテクチャについてはおそらく3段階でメインストリームへと持ってくると見られる。 この違いは何を産むのか。まずPCI Expressへの姿勢の違いは、PCI Expressプラットフォームの立ち上がりがどうなるかにかかっている。特に、今回はPCI Expressチップセットは完全にIntelだけが先行しているため、Intelチップセットの動向に依存している。 簡単に言うと、IntelチップセットのPCI Expressへの移行が急速に進むと、ATIが有利になる。しかし、PCI Expressチップセットがつまずき気味で、移行に比較的時間がかかるのならNVIDIAが有利になる。例えば、PCI Expressインターフェイスが不安定で、バリデーションがうまく進まないようなケースの場合は、インターフェイスだけ切り出して別チップにしているNVIDIAの方が、設計を変更しやすいために有利になる。 そして、現状だけを見るとNVIDIAの読みが当たったように見える。というのは、IntelのPCI Expressチップセット「Intel 925X(Alderwood:オルダウッド)」、「Intel 915(Grantsdale-P:グランツデール)」ファミリがずれ込んでいるからだ。 もっとも、そうだとしても、その優位が長期間続くとは思えない。Intelの場合はいったん立ち上がると速いため、秋冬時期にはPCI Expressがかなり浸透する可能性が高い。そうすると、ATIが一気に優位に立つ可能性がある。逆を言えば、NVIDIAはそれまでにPCI Expressネイティブ製品群を完成させて、バリデーションを終えて揃える必要がある。特にOEMへの搭載を取るには、かなり早いうちにサンプルを出す必要がある。それに失敗すると、ATIがPCI Express世代で一気に伸張することになる。 ●ゲームデベロッパ重視のNVIDIAの戦略 今回、NV40の投入に当たって、NVIDIAは徹底したゲームデベロッパ重視の戦略を取った。 NVIDIAは3月中旬にサンノゼで開催されたGDC(Game Developers Conference)前後に、各ゲームデベロッパにNV40のサンプルボードを配布した。そのため、OEMメーカーの元にはほぼNV40がないのに、ゲームデベロッパの元にはNV40があるという、従来とは逆転した現象が起きた。
NVIDIAのJen-Hsun Huang社長兼CEOは、NV40発表に先立って行なわれた技術説明会Editor's Dayで次のように説明した。 「NV40のボードの最初の100枚はOEMメーカーの元には行かなかった。1枚は私の自宅に来たが、それ以外のボードは(ゲームコンテンツ)デベロッパに渡された。理由は明快だ。コンテンツがすべてだからだ」 従来のNVIDIAの必勝パターンは、デベロッパやパブリッシャに開発用としてボードを提供、彼らからの支持を得ることで、NVIDIAアーキテクチャの付加価値を高めるというものだった。ところが、NV3xでは、その構図が崩れた。少なからぬ数の開発者がNV3xアーキテクチャへの不満を表明。それがNV3xの不安部分になってしまった。 しかし、NVIDIAはその失敗から学習したことを今回示した。Huang氏は、NV40でのデベロッパ重視は、ボード提供だけではないことを強調、「NV40は、アーキテクチャを定義するフェイズからデベロッパと協力して開発された」と語った。 それが、DirectX 9フィーチャを“ほぼ”フルサポートするNV4xアーキテクチャだったというわけだ。例えば、指摘の多かったFP(浮動小数点)テクスチャのサポート、つまり、実用的なスピードで同フィーチャが動作し、ドライバでもサポートされるということが、今回はなされた。 NV40の開発サイクルを考えてもこれは納得ができる。NVIDIAの元々のGPU開発サイクルは18カ月。NV40は本来のスケジュールは2003年末リリースで、NVIDIAは関係筋に対してNV40の開発が2002年前半から中盤にスタートしたことを明かしている。 つまり、ATIのRADEON 9700(R300)の姿が公式に明らかになった頃に、NV40のアーキテクチャ定義を行なっていたわけだ。そのため、NVIDIAはR300とNV30を比較、自社の弱点と利点を検討してからNV40開発に入ることができた。 そう考えると、今回のNV40のアーキテクチャの理由がよくわかる。つまり、R300に対するNVIDIAの回答が、NV40だったわけだ。 □関連記事 (2004年4月19日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
【PC Watchホームページ】
|
|