発表会で1万を越えた3DMark03のスコアが提示されるなど、衝撃的なデビューを飾ったGeForce 6800シリーズ。だが、優れたパフォーマンスが伝えられる反面で、電源容量や発熱などでは気になる情報も多い。ここでは、そうした気になるポイントにもフォーカスを当てて本製品を探ってみることにする。 ●さらに新しくなった冷却機構を持つGeForce 6800 Ultra 今回発表されたのは「GeForce 6800 Ultra」と「GeForce 6800」の2製品。今回取り上げるのは、GeForce 6800 Ultraのほうだ。アーキテクチャなどについては後藤氏のコラムや国内での発表会レポートに詳しいので、そちらを参照いただくとして、さっそく実機を見ていくことにしよう。 まずカードの外観は、GeForce FX 5800 Ultra以降おなじみとなった、2スロットを占有する大型のクーラーが特徴である(写真1)。ただし、GeForce FX 5800~5950とは違い、ブラケットは1スロットしか使わないよう改良されている。よって、外気の吸排気は行なわず、PCケース内で空気を循環させることになる。 そのクーラーで使われているヒートシンクはアルミ製(写真2)。またメモリチップ上のヒートシンクには、ヒートパイプも使われている(写真3)。クーラーの大きさのわりにはヒートシンク自体はそれほど大きくなく、ブロアファンを使って風量をかせいでいるために大型化している印象だ。 続いて、ブラケット部分に目を向けてみると1スロットにDVI端子を2個とSビデオ端子を備えている(写真4)。もちろんDVI-D-Sub15ピン変換コネクタを使えばアナログRGBへの出力は可能である。また、既報のとおり、本製品では電源コネクタを2基使うのも特徴となっている(写真5)。
●機器構成いかんでは300W電源でも動作可能 さて、電源コネクタの話をしたばかりだが、GeForce 6800 Ultraを使うには480Wクラスの電源ユニットを使うことが推奨されている。筆者の周りには300~400Wクラスの電源ユニットをメインに使っている人が多い。現実的に480W以上の電源を所有しているユーザーはかなり限られるのではないかと想像され、いきなり要求スペックが跳ね上がった印象を受ける。 そこで実際に、容量の少ない電源ユニットで動作に支障があるかを、いくつかの電源を使って確認してみることにした。テストした電源は写真6~10の5製品で、テスト環境は表1のとおりである。 【表1】電源テスト環境
結論からいえば、NVIDIAの要求スペックに満たない製品含め、すべて動作に支障がなかった。念のため全製品でWindows起動後、3DMark03を完走させているのだが、300W電源でも問題なく動作し、電源断やフリーズ、3DMark03のスコアが低下するなどの現象も見られなかった。 キャプチャカードなどの拡張デバイスのないシンプルな環境ではあるが、消費電力の大きいPrescottコアのPentium 4を使った環境でもあり、率直な感想として「意外」である。あくまで紹介したテスト環境における結果なので過信は禁物だが、300Wクラスの電源ユニットでも動作する可能性があるのは確認できた。
●甲高いノイズを発するクーラー 続いて紹介しておきたいのは、クーラーの騒音である。このクーラーについてNVIDIAでは「ファンは最大回転時でも騒音が少ないので、リファレンスカードでは常に最大回転」とコメントしている。実際にはどうか、という点をビデオに撮影したので参考にしてほしい。 簡単に動作状態と音の所感を記しておくと、GeForce 6800 Ultraは、電源投入直後からファンが最大回転と思われる速度で回り始める。この音は甲高いこともあって、かなり耳障りに感じられる。ただ、Windows起動後(ドライバが読み込まれた段階と見るべきだろう)で、わずかに回転数が落ちる。このあたりはNVIDIAの説明と食い違いが見られるのだが、ビデオでもその違いは確認していただけると思う。3D描画が開始されても、その速度は上昇することなく、起動後に下がった回転数のまま動作した。 GeForce FX 5950 Ultraはリファレンスカードではないので、ビデオは参考程度としていただきたい。動作も以前にテストしたリファレンスと微妙に異なる。電源投入直後の数秒はファンが回らず、その後最大回転数と思われる速度で回り始める。リファレンスでは、ここで最大回転とならなかったところに違いがある。ただLeadtekのカードでも、Windows起動段階で回転数が落ちるようである。そして3D描画が始まると、そのタイミングで再び最大回転数で回り始めるという動作になる。 RADEON 9800 XTは、GeForce 6800/FX 5950 Ultraと違い、かなり低音のノイズである。体感ではビデオで聞こえるノイズよりも大きく感じられるのだが、それでもGeForce 6800 Ultraに比べれば静かなレベルだ。動作は、電源投入直後に最大回転で回った後、数秒で速度が落ちる。Windows起動段階では速度に変化はなく、3D描画が始まると回転数が上がる。 3製品それぞれで動きや音の傾向が異なるが、GeForce 6800 Ultraがもっとも騒音が大きいように思われる。ケースに入れればまた変わるのだろうが、ケースに入れても漏れでてくるであろうと思われるほどの騒音である。そういった意味で、メーカーが独自のクーラーを搭載して、静かな製品をリリースすることに期待したい。
●トランジスタ数は増えたが発熱は大きくない もうひとつ気になるのが熱の問題である。2億2,000万個のトランジスタが発する熱で、これほどの大型クーラーを必要としている以上、かなりの発熱があると想像されるが、実際にはどうだろうか。GeForceシリーズ用ドライバのForceWareと、RADEONシリーズ用ドライバのCATALYSTには、ビデオチップの温度を見る機能が付いている。これを利用して確認してみることにしたい。 テストは先のビデオにも映っていたカード剥き出しの状態で行なっている。各ドライバの温度表示画面を出したまま、FINAL FANTASY Official Benchmark 2のHighモードを3周ループさせ、ESCキーで中断した直後にスクリーンショットを撮ることにしている。 結果は画面1~3に示したとおりで、GeForce 6800 Ultraがもっとも低い温度となった。逆にRADEON 9800 XTは70℃オーバーと、かなり高い温度である。これは大型クーラーが効を奏しているという見方もできるが、GeForce 6800 Ultraのクーラー部分に手をかざしてみても、“熱風”と呼べる風ではなく、わりと涼しい空気が流れてくる。こうしたことから、個人的にはチップ自体の発熱もGeForce FX 5950 UltraやRADEON 9800 XTと比較して、極端に増大してはいないように推測している。
●オーバークロックの余地は大きい? もうひとつ気になるのが、コアクロックである。GeForce 6800 Ultraのコアクロックは400MHzだが、NVIDIAが「GeForce 6800 Ultraはオーバークロックの余地がある」とコメントしている。実際、Albatronがリリース予定の搭載製品はコアクロックが600MHzとうたわれており、オーバークロックへの期待は高まる。 一方、メモリもオーバークロックの余地がありそうである。既報のとおり、GeForce 6800 UltraではGDDR3が採用されている。今回は借用品のためにクーラーを外して型番を確認するのは避けたが、ある程度の推測はできる。 現在、GDDR3を量産しているSamsungでは4種類のチップを供給しているが、1.1GHz動作のGeForce 6800 Ultraで使われているのは、最大600MHz(1.2GHz動作)の「K4J55323QF-GC16」か、その上位となる700MHz(1.4GHz動作)の「K4J55323QF-GC14」あたりだろう。最廉価モデルとなる500MHz(1GHz動作)の「K4J55323QF-GC20」では、定格動作でもオーバークロック状態となり、少なくともリファレンスカードがそうした動作をさせるとは考えにくいからだ。 ということは、最低でも1.2GHz、あわよくばさらに上のクロックで動作させられる可能性があるわけだ。こちらも試してみることにしたい。 Detonator時代から知られているとおり、NVIDIAのドライバはレジストリに細工をすることで、クロック調節を行なう項目を出すことができる(画面4)。今回利用しているForceWare 60.72でも同様の操作で設定画面を出すことができたので、ここから試すことにする(画面5)。 ここで話がちょっと逸れるが、GeForce 6800 Ultraは、2D描画時も3D描画時も同じクロックで動作しているようだ(画面6、7)。画面8、9で紹介しているとおりGeForce FX 5950 Ultraは2D、3Dで動作クロックが変化しているし、それ以前のモデルも同様であった。GeForce 6800 Ultraは3D描画が始まってもファンの回転速度が変わらない、と先に紹介したが、こうした仕様が影響しているのかもしれない。 さて、話をオーバークロックに戻す。ForceWareでは3D描画時のクロックのみを調節することができ、自動的にオーバークロックの限界を探ってくれる[最適な頻度を検出する]というボタンも用意されている。まずはこれを試してみた結果が(画面10)なのだが……なぜか定格以下が提示されてしまった。 続いて手動調節を試してみることにする。少なくともこのぐらいはOKだろうということで、まずはコアクロックを402MHzへと設定。変更をテストしてみると……NG(画面11)。状況が怪しくなってきたので、逆に350MHzへ下げてテストしてみると……やっぱりNG(画面12)。この後メモリのみをダウンクロックするなども試したが同様の結果である。ちなみにテストをクリアしないと設定を適用することはできない。 ということで、ForceWareの問題なのか、チップの個体差なのか、オーバークロックどころかクロック調節そのものを試すことができなかった。LeadtekのWinFoxなどのように、搭載製品をリリースするメーカーが独自に付属させるクロック変更ツールなどにも期待しつつ、このテストは機会があれば改めて試してみることにしたい。
●驚異的なまでのパフォーマンスを検証 それでは、パフォーマンスを検証していくことにしたい。テスト環境は、先の消費電力テストと同じである。テスト対象はGeForce FX 5950 UltraとRADEON 9800 XTの2製品。GeForce FX 5950 Ultraについては、現在NVIDIAのWebサイトからダウンロード可能な最新ドライバであるForceWare 56.72と、GeForce 6800 Ultraのリファレンスカード用にNVIDIAから入手したForceWare 60.72の両方でテストを行なっている。詳しいことは表2にまとめてあるので参照されたい。 【表2】テスト環境
では、まずは3DMark03の結果から見ていこう(グラフ1)。発表会の情報のとおり、1,024×768ドットで各種フィルタをかけない状態だと、見事に1万を越えるスコアをたたき出した。解像度が上がったり、フィルタを適用した状態でも、高いスコアを維持しているのも印象的だ。 特に、同じ解像度間で見ると、GeForce 6800 Ultraの4xAA、8x異方性フィルタリングを適用した状態のスコアが、比較対象3製品がフィルタを適用しない状態を上回るのであるから驚異に値する。 続いてはAquaMark3である(グラフ2)。これも一目でスコアの差を実感できるすばらしい結果となっている。1,024×768/フィルタなしの状態ではGeForce FX 5950 Ultraに対して120%強のFPS差であるのに対し、負荷が高くなる高解像度環境では150%を越えるFPS差を出している。高負荷時に性能差が広がる、というのはひとつの特性として注目しておきたい。
ここからはDirectX 8.1対応のベンチマークである。まずは3DMark2001 Second Editionだ(グラフ3)。この結果は3DMark03と近い傾向だ。ただ、3Dmark03よりも差が小さい。3DMark03に比べれば負荷の軽いテストであるために差が縮まっていると見ていいだろう。 続いては「FINAL FANTASY Official Benchmark 2」である(グラフ4)。これは、ちょっと面白い結果で、GeForce 6800 Ultraはフィルタをかけてもスコアの下がりが非常に少ない。誤差の範囲といってもいいほどだ。 RADEON 9800 XTも似た傾向ではあるが、こちらのほうがスコアの下がりが大きめである。これは、ビデオカードの負荷よりも、CPUの負荷が大きいためであると推測される。その意味では、さらに強力なCPUが出ないと真の力は発揮できないともいえるわけだが、今回の主題であるビデオカードの性能チェックという視点では、GeForce FX 5950 Ultraと比較して、特にHighモードにおいて大きな差を見て取れる。このゲームを楽しむのには十分すぎるほどの性能といえるだろう。 なお、ここまでのテストでも小さな差は出ていたが、ForceWare 56.72と60.72の差が大きいのも注目できる。ほかのテストも含めたトータルの所感として、ForceWare 60.72はパフォーマンスの底上げを図っているようだ。
最後に、Unreal Tournament 2004のベンチマークである。Unreal Tournament 2004のデモバージョンにはベンチマークモードが存在しない。ただ、こちらで入手できるバッチファイルを使ったベンチマークが普及し始めており、ここでもそれを利用してテストを行なっている。結果はグラフ5~9に、Botmatchの5つのテストすべてを掲載した。ちなみにRADEON 9800 XTでは1,600×1,200ドットの解像度が選べなかったため、テストを割愛している。 結果を見てみると、BotmatchはBotと呼ばれるキャラクターを動かすテストであるため、CPUの性能差も出やすい。そのためにビデオカードの負荷が小さい低解像度/フィルタなし環境では、一部RADEON 9800 XTが最高のスコアを出しているシーンも見受けられる。 ただ、比較対象の3製品が1,024×768ドットでもフィルタをかけた途端にFPSが落ちるのに対し、GeForce 6800 Ultraでは1,600×1,200ドット/4xAA+8x異方性フィルタリングのテストまではビデオカード処理に余裕があることが見て取れる。この結果からも高負荷時のGeForce 6800 Ultraの強さが分かるわけだ。 ●描画品質チェック 最後に描画品質をチェックしておきたい。テストに使ったのは3DMark03のImageQualityテストで、Game4の1,669フレームめを保存している。解像度は1,024×768ドットで、ベンチマークテストと同じフィルタを適用した場合のものも提示している。 まず、GeForce 6800 UltraとGeForce FX 5950 Ultraのパッと見の印象は、大きく違わない。ただ、よく見るとGeForce FX 5950 Ultraでは描かれていなかった部分がGeForce 6800 Ultraでは描かれている個所が多く見受けられる。この傾向はフィルタを適用したあとも同様である。 また、ForceWare 56.72と60.72の間に差は見られない。パフォーマンスアップは図られているが描画品質に影響は及ぼしていないようだ。 続いてRADEON 9800 XTとの比較だが、フィルタを適用しない状態では、GeForce 6800 Ultraのほうが細かいところまで描かれているようだ。ただし、フィルタを適用後の印象は大きく変わる。FSAAの目的であるジャギーを消すという部分において、明らかにRADEON 9800 XTのほうがスムーズなラインが描かれている。また、GeForce 6800 Ultraと比べても描画を端折っている個所があるとは言えず、かなりクオリティは高いように思える。 以前にGeForce FX 5950 Ultraをテストしたときには、GeForce FX 5950 Ultraの描画クオリティの高さを誉めたのだが、ドライバのアップデートや3DMark03のビルドアップによって、大きく傾向が変わっている。今後も今回の結果どおりに描画されるとは限らないので要注意のポイントといえそうだ。
●パフォーマンスは文句なし。気になるのはR420の存在 以上のとおり、GeForce 6800 Ultraを検証してきた。パフォーマンスは前評判どおり素晴らしい結果である。ImageQualityテストの結果も提示してはいるが、それよりも1,600×1,200ドットの3Dグラフィックがフレーム落ちすることなくスムーズに動く部分に、GeForce 6800 Ultraの魅力があると思う。 いずれにしても、GeForce 6800 Ultraのパフォーマンスを見ると、ここ最近の新製品ビデオカードのパフォーマンス増加率などは微々たるものだったと感じさせるほどである。 ただし、騒音だけは不満が残る。搭載製品をリリース予定の各ベンダーには、ぜひとも静音性の高いクーラーを実装してほしいところである。もし実現すれば、GeForce 6800 Ultraの魅力は倍増である。 また、もうひとつ気になる点がある。この原稿を執筆している現段階では、GeForce 6800 Ultraは最高のパフォーマンスを発揮するビデオカードであることは間違いなく、そこに敵はいないといっていい。個人的には7万円に迫るといわれる価格に相応しい製品であると感じている。 しかし、ATIもAGP対応のビデオカードであるR420のコードネームで呼ばれる製品のリリースが近い。このクラスに注目する人は、少しでもパフォーマンスの良い製品を求めるであろうし、GeForce 6800 Ultraの評価にあたってライバルとなるであろうR420の登場を待つ必要があるだろう。 ライバル不在のために最終的な評価は持ち越しとするが、この製品の登場はビデオカードのパフォーマンスが、新たなフェーズに入ったことを示しているともいえる衝撃的なものだ。その意味でも大きな意義を持つ製品といえるだろう。今後登場する、R420やPCI Express対応ビデオカードがどのようなパフォーマンスを示すか、今から楽しみである。 □関連記事 (2004年4月23日) [Text by 多和田新也]
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