COMPUTEX TAIPEI 2003で展示され注目を集めた、ZALMAN製の大型水冷キット「Reserator 1(リザレーター1)」だが、秋葉原でも発売されるや数日で売り切れてしまったというほど人気を集めている。見た目のみならず、静粛性や冷却性能などいろいろと気になる本製品を試してみる。 ●水冷に必要なものが一通り揃ったパッケージ
本製品の発表は今年2月、秋葉原の店頭に並んだのが3月19日夕刻と、登場から少し経過していることもあり、すでに入手した人や製品のことをご存知の方も多いことと思うが、まずは簡単に特徴をまとめておきたい。 人気ドラマのタイトルをもじって「青い巨塔」などといわれることもあるとおり、本製品でまず目にとまるポイントは、直径15cm×高さ59cmというサイズを誇るリザーブタンクだ(写真1)。 円を取り囲むようにフィン状の加工を施すことで、このフィンから水の熱を放熱する仕組みになっている。この表面積は1.274平方mと非常に広くとられており、ファンレスでの動作が可能という。水の吸排口はタンク最下部に用意されており、プラスチック製のコネクタが取り付けられている(写真2)。 【お詫びと訂正】初出時に表面積の値を誤って記載しておりました。お詫びして訂正させていただきます。
このタンク内には小型のタンクが設置されている(写真3)。ポンプの吐出量は1時間あたり300リットル。例えば、水冷キットのベストセラー製品である3R SYSTEMのPOSEIDON(WCL-02)に付属していたタンクは1時間あたり600リットルであり、やや力の弱いポンプという印象を受ける。 このポンプはPCとは別電源で動作し、タンクの下部から電源ケーブルが延びている。その電源ケーブル途中に電源スイッチが用意されているので、PCを使用する際は、あらかじめ手動で電源を入れておく必要がある(写真4)。 このように、水冷キットを構成する重要な要素である、「タンク」、「ポンプ」、「ラジエータ」までは、この巨大なタワー1つでまかなっていることになる。
続いてCPU上に取り付けるヘッド部分について説明しよう。本製品には同社の「ZM-WB2 Gold」が付属している(写真5)。CPUとの接着面は銅でできており、さらにその周りに金メッキが施された見栄えも良い製品である。取り付けパーツもSocket 478/A/754/940に対応したものが付属しており、それぞれ取り付け方法が異なる。詳しくは写真6~8に示したとおりなので参考にされたい。 このほか水冷キットに最低限必要なものといえばチューブだが、これも本体カラーに合った青色のものが付属している(写真9)。外径12mm、内径8mmのもので、長さは3m強といったところ。後ほど実際に組み立てた例をお見せするが、PCと大きく離れた場所に設置するなどイレギュラーな例を除けば、まず不足を感じることはないだろうと思われる長さだ。 ●ブラケット部を通過させるパーツが秀逸
さて、実際にこれらのパーツをPCに組み込む場合だが、各パーツをチューブでつなぐ、という水冷キットの基本的な作業は他の製品と同様。ただ、注意すべきは、タンク兼ラジエータ兼ポンプである大型タワーをケース内に設置できないという点だろう。 本製品に付属するチューブは前述のとおり外径12mmのものであり、ブラケットの幅とほぼ同じサイズとなっている。シリコン製のため、破れたり折れ曲がる可能性が低いとはいえ、ちょっと心配な部分ではあるのだが、本製品は写真10のパーツによりうまく回避できている。 写真10のパーツは「Universal Fitting」と名付けられており、ケースの内と外をつなぐ役割を持つ。ブラケット部で利用する場合は写真11のようになり、2つのナットによりケースに固定され、両端にチューブを接続できる。チューブの接続は写真12のように、キャップをあらかじめチューブに通したうえでFittingパーツに接続。そのうえからキャップを止めることで外れるのを防ぐようになっている。この構造は、このUniversal Fittingだけでなく、CPUヘッドやタンク下部の吸排口など、すべてのチューブ接続で統一された方法となっている。 Universal Fittingを使ってブラケット部を通し、ほかのパーツもすべてつないだ状態が写真13、14だ。先に付属のチューブの長さに不足を感じることはないといったが、通常のミドルタワークラスであれば、むしろ余らせるぐらいがちょうど良いのではないだろうか。 写真13の手前にこれまで紹介していないパーツがあるが、これはフローインジケーターと呼ばれるパーツで、水が流れると中のオレンジ色の“浮き”がユラユラと揺れる(写真15)。これにより、正しく水が循環しているかを確認できるわけだ。 話は少々前後するが、ここで肝心の水の話をしておきたい。タンクが大型であるのは一見してのとおりで、具体的なタンクの最大容量は2.5リットルとされている。マニュアルによると定量は「タンクの8~9割程度」と記載されているのだが、今回0.5リットルの精製水5本をすべて入れきったところで、おおよそ定量に達した(写真16、17)。タンクの最大容量はもう少し多いと見るべきであろうが、とりあえず実使用においては2.5リットル分の水を用意しておけばいいだろう。
【お詫びと訂正】初出時にラジエータ用水を推奨するような記載がありましたが、ラジエータ用水を用いた場合、使用上の危険などの可能性がありますので、記述を削除いたしました。 ●ほぼ無音の動作音、CPU温度は緩やかな昇降を見せる ということで、実際の使い勝手であるが、まず特筆すべきは音の静かさだ。当然ながらCPUクーラーがないので、その音はしない。水冷キットの音で気になる部分となるのは主にポンプの音なのだが、その音も大量の水に覆われているためか、まったく音が聞こえない。 タワーに耳を近づけてみると、わずかにうなるような音がするものの、それも耳をすませばというレベルであり、驚きに値する。あとはビデオカードやケースファンを選べば、かなりの静音化が可能だろう。 冷却能力もテストした。テストは先にも示したケースへ組み込んだ状態で実施。主な使用パーツを紹介しておくと、
といったところ。ケースファンは一切装備していない。CPU温度はマザーボードに付属の温度監視ツールを使ってチェックするほか、サーミスタを使ってヒートシンクと水の温度も測定している(写真18)。比較対象には筆者が普段から愛用しているクーラーマスターの「Aero478」を用意した(写真19)。
その結果はグラフ示したとおりである。テスト内容を紹介しながらグラフを見ていくと、まずWindows起動直後から測定を開始し、10分間様子を見た。この状態の温度はReserator1が42度前後、Aero478が44度前後と、ほぼ変わらないかややReserator1の方が冷える程度である。 その後ほぼ1時間のMPEG-2エンコードを実行。ここで一気に差が付いているのが分かる。Reserator1は50度前後を推移しピークは52度。一方、Aero478は60度前後が平均でピークは63度と、ほぼ10度の差である。ちなみに室温は25~28度と、この季節にしては高い状況だったのだが、それでも50度前後に抑制されているのは優秀な冷却能力といっていいだろう。 だが、エンコード終了後の温度の下がり方は、明らかにAero478のほうが勝っている。Aero478はエンコード終了後に一気に温度が下がり、実行前とほぼ変わらない温度にまで下がっているのに対し、Reserator1は非常に緩やかに温度が下がっていくのだ。このあたりはファンを使って強制的にヒートシンクを冷却するものと、自然放熱に任せているものとの違いと見ていいだろう。
●不安は多少残るものの可能性を秘めた水冷キット
以上のとおり組み立てから冷却テストまでをチェックしてきた。組み立てはそう面倒なものではないし、ケース外へ設置することを考えた長いチューブやUniversal Fittingなどのパーツは配慮が行き届いているといえる。 冷却面では今回のテストではピーク温度も低く優秀な性能を発揮した。ただ、温度の昇降が緩やかすぎる印象を受けるのも事実で、これから夏に向けて40度近い室温となったときには少々不安も残る。推測にすぎないので実際に夏になってみないと分からないところではあるが、いざとなったらタワーに向けて扇風機で送風するなどの対処が必要かも知れない。 最後に本製品の可能性について触れておきたい。冒頭のポンプの紹介で吐出量の少なさについて述べたが、ポンプを外付けにする方法がマニュアルに紹介されている。つまり、本製品付属品以外のポンプを使うことも可能なのだ。 方法はタワーの底面を取り外して細工をするとマニュアルにあるのだが、この底面が非常に堅くて全然外れない(写真20)。個体差もあるのだろうが、実施しようと思った人は心してかかってほしい(できれば2~3人集めておくといいだろう)。 このほか、実用にはまったく関係ないフローインジケーターも改造してみた(写真21~24)。改造(?)の一例として参考にしていただきたい。 本製品は基本構成で大型タンクと表面積の広いラジエータを持っているわけで、さらに空冷を取り入れたり、ポンプの交換などを行なうことで、比肩するものがないほどの冷却能力を持たせられる可能性も秘めている。そのままで使っても十分高い能力を感じさせるが、さらなる改良のやりがいも持った興味が尽きない製品である。 □関連記事 (2004年4月22日) [Text by 多和田新也]
【PC Watchホームページ】
|
|