笠原一輝のユビキタス情報局

Intel アナンド・チャンドラシーカ副社長インタビュー
~将来のモバイルプロセッサはパラレル化を推進する




Intel 副社長兼モバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャ アナンド・チャンドラシーカ氏

 今年のIDFで最も辛かったプレゼンテーターは、きっとモバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャのアナンド・チャンドラシーカ副社長だろう。というのも、本来であればこのIDF期間中に発表されるはずであった90nmプロセスルールで製造される「Dothan」は、第2四半期に延期されてしまったため、華々しくDothanのリリースをアピールするはずが、ハシゴを外されてしまったような格好になってしまったからだ。

 今回、筆者はIDF期間中にチャンドラシーカ氏にインタビューする機会を得て、Dothan延期の真相、モバイル向けプロセッサに関する将来などを伺ってきたので、その模様をお伝えしていく。この中で、チャンドラシーカ副社長は、同社がモバイルプロセッサに関してもパラレル化を計画していることを明らかにした。


●Sonomaプラットフォームでは次世代の65nmプロセッサでもサポートされる

Q:今回のIDFが開催される前に、ポール・オッテリーニ社長によりDothanの延期が発表されました。なぜDothanは延期されなければならなかったのでしょうか?

【チャンドラシーカ氏】弊社では製品を出荷する直前まで様々な段階でのテストを行なっています。今回も早い段階から歩留まり、スピード、機能などの点でテストを重ねてきましたが、この段階では特に問題もなく順調に進んでいました。

 ところが、実際に製品の出荷直前の段階になり、数多くのシステムに搭載してみたところ、多くのシステムではほとんど問題が無かったのに対して、一部のシステムではわずかに問題があることがわかりました。

 リスクをとれば出荷することは不可能では無かったのかもしれません。しかし、Intelのクオリティという観点からすれば、そうしたわずかな問題も見逃してはいけないと判断しました。また、いくつかのOEMメーカーはDothan搭載製品の急速な立ち上げを計画されていましたが、多くのOEMメーカーはそうではありませんでした。そうした状況を総合的に考えた結果、発表を第2四半期にずらした方が、よりよい結果になるだろうと考え、今回の決定に至りました。

 弊社ではすでに問題の原因を突き止めており、その問題を解決済みです。

Q:昨年の6月にPentium M 1.70GHzをリリースしてから実に1年間近くも新製品が出ないことになりそうです。OEMメーカーへの影響は大きいのではないでしょうか?

【チャンドラシーカ氏】弊社が昨年の3月にリリースしたCentrinoモバイル・テクノロジ(CMT)の立ち上げは、第2四半期、第3四半期、第4四半期と快調に立ち上がってきました。新しいクロックスピードはもちろん重要なことであると考えています。ただし、それは特にコンシューマ市場においての話であり、ビジネス向け市場の話ではありません。

 ビジネスユーザーの方が重視されるのはクロックスピードよりも、安定したプラットフォームや継続性などです。IDFの基調講演でもお話させて頂きましたが、弊社の2003年のCMTの立ち上げ時に重視していたのはビジネス向け市場でした。すでにお話ししたように、ここでは成功を収めることができたと考えています。

 これに対して、今年、2004年にはコンシューマ市場においてもCMTを浸透させていくというのがテーマになると考えています。これを第2四半期に投入するDothanにおいて実現していこうと考えています。

Q:今年は90nmプロセスルールのDothanをリリースされますが、来年にはモバイルプロセッサも65nmへとシュリンクされます。

【チャンドラシーカ氏】弊社の製品計画を見ていくと、Dothanは来年に予定している次世代プロセッサへのよいステップになると考えています。90nmプロセスルールで製造されるDothanは、CMTの最初の世代の要素技術であるIntel 855チップセットなどにフィットするように設計されています。

 このため、Baniasからの移行においてもソケット、電気設計、機構設計などの点で全く変更する必要はありません。こうした柔軟なプラットフォームの移行はOEMメーカーにとって大きなメリットがあると考えています。新しいプロセスルールのプロセッサがリリースされた場合でも、現在のプラットフォームをそのまま利用することができるからです。

 こうした状況は、Dothanから65nmの次世代プロセッサへの移行でも変わりません。65nmのプロセッサがリリースされれば、Sonomaプラットフォームでそのまま利用することが可能です。

●Sonomaプラットフォームの次世代でパラレル処理を実現

Q:システムバスが533MHzに引き上げられるDothanに関してですが、Baniasに比べて熱設計消費電力(TDP)は若干上昇し、平均消費電力はほぼ同じだと聞いています。

【チャンドラシーカ氏】その通りです。熱設計消費電力に関しては若干上昇します。だからこそ、新しいプラットフォームなのです。

Q:なぜ、熱設計消費電力は上がってしまうのですか?

【チャンドラシーカ氏】こればかりは物理の法則に逆らうことはできません。我々はBaniasでアーキテクチャを完全に見直し、熱設計消費電力の低下を実現しました。しかし、これは一度しか得ることができないメリットなのです。その後同じアーキテクチャを利用して処理能力を上げていこうとすれば、どうしても熱設計消費電力が上がっていってしまいます。

 Sonomaプラットフォームの時代には、我々は様々な消費電力を下げるチャレンジを行なうつもりです。例えば、Dynamic Road Balancingと呼ばれる、CPUとチップセットに内蔵しているグラフィックスチップの間で負荷を分散して、消費電力の低下を実現するというのも手法の1つです。

 Sonomaプラットフォームの次のプラットフォームでは、アーキテクチャ的にパラレル処理を実現することを検討しています。そうした技術の導入により、より消費電力を削減することが可能になるのではないかと考えています。これはかなり大きなアーキテクチャ的な変化になります。今の時点では、それがいつ、どのようにして、何をという話をする段階にはありませんが、現在準備を進めています。

Q:65nmプロセスの時代には45Wの熱設計消費電力に耐えるシャシーの設計が重要だと指摘するOEMベンダもありますが?

【チャンドラシーカ氏】我々のターゲットは、あなたがお持ちのThinkPad T40のような薄型ノートを実現できるようなモバイルプロセッサを開発することです。現在、このクラスのシャシーの熱設計許容値は25Wレンジとなっています。

 しかし、先ほど述べたようなDynamic Road Balancingや新しい熱設計技術を利用することで、現在は熱設計許容値が25Wであるシャシーも、それ以上の熱設計許容値を実現することが可能になります。弊社のエンジニアが熱設計の仕様を決定するときに考慮していることは、1インチ(筆者注:2.54cm)の厚さを実現可能な熱設計許容値を設定することです。

 大事なことはマーケットがどこに向かっているかなのであり、マーケットの要求は1インチを維持することにあると考えています。

Q:ISSCCでのIntelの発表によると、Prescottの消費電力のうち30%は漏れ電流が占めています。同じプロセスルールを利用しているDothanにも同じ問題が発生していると考えられますが、次世代以降でそうした問題を解決することは可能なのでしょうか?

【チャンドラシーカ氏】90nmプロセス世代では、確かにそうした議論はしなければならないでしょう。ただ、我々はどうしたらよりモバイルに最適化できるかのパラメータをすでに見つけていますし、OEMメーカーと常にやりとりをして、問題を最小限に抑える努力をしています。

 将来の世代に関してですが、今後様々な最適化を行なうことで漏れ電流の量を減らすことが可能になると考えています。

●モバイルも将来は64bitへ対応するのは自然な流れ

Q:Intelは1月にIEEE 802.11b/gをサポートした無線LANモジュールを追加しました。そして今年の半ばにはIEEE 802.11a/b/gのCalexico2を追加します。気になる無線LANの将来ですが、IEEE 802.11委員会では次世代の仕様である11nの策定を進めていますが、仕様の策定は2006~07年を目指すなど進化の早いPC業界からすればかなり遅い動きに見えますが、どうですか?

【チャンドラシーカ氏】標準化の動向がやや遅いというのはご指摘の通りでしょう。それは11nに関してだけでなく、WiMAXに関しても同じことが言えると思います。

 ただ、弊社の立場からすれば、常に標準化の動きを待たなければなりません。というのも、こうした無線製品の場合、弊社は常に標準に準拠した製品作りを心がけています。標準化されていない製品を出しても、市場では受け入れられないことを知っているからです。

 それでは、他社との差別化はどうするんだ、という話になると思いますが、差別化は、その他の部分、例えば転送速度、伝送距離、消費電力といった部分で行なうべきだと考えています。弊社では1月にIEEE 802.11b/gをサポートした製品をリリースしましたが、伝送距離や消費電力の点で差別化できていると考えています。

 今年の半ばにリリースする予定のIEEE 802.11a/b/gに対応した製品についても同じことが言えるでしょう。11a/b/gに関しては使い勝手の良いソフトウェアをバンドルし、エンドユーザーの皆様が無線LANを利用する時の使い勝手を改善していきたいと考えています。

Q:では最後に64bit拡張への対応ですが、今回はサーバーのみということですが、クライアント側、特にモバイルに関しての対応はどうなるでしょう?

【チャンドラシーカ氏】それはアプリケーション次第だと考えています。クライアント側では、64bitに対応したアプリケーションがそろえば、64bitに対応したCPUが市場に登場してくるのは当然の流れと言えるでしょう。

 ただ、モバイルに関してはデスクトップPCとは若干状況が異なると思います。今は利用しない64bitのためにトランジスタを追加することは、消費電力の増大につながります。それを望むユーザーは本当に多いのかといえば、そうではないと考えています。

 しかしながら、もしソフトウェアの準備が整い、それによりエンドユーザーがメリットを享受できるのであれば、我々もそこへ向かうことになるでしょう。

Q:LongHornの登場は、そのよいタイミングになりますね。

【チャンドラシーカ氏】それは、妥当な予想でしょうね。アプリケーションがその段階で出そろっているのであれば、我々が導入しない理由はないでしょう。


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【1月16日】【笠原】Dothanが2月発表から第2四半期へ再延期
~立ち上げに手間取るIntelの90nm世代プロセッサ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0116/ubiq42.htm
【2003年10月9日】【笠原】明らかになってきたSonomaの姿
~533MHzバスのDothan+Alviso-PM/GM+Calexico2
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1009/ubiq28.htm
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(2004年2月26日)

[Reported by 笠原一輝]


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