IntelがIDFで明らかにした次世代Centrinoモバイル・テクノロジ“Sonomaプラットフォーム”(開発コードネーム)の姿が徐々に明らかになってきた。 Sonomaプラットフォームは、Intelの次世代Pentium MであるDothan(ドサン、開発コードネーム)、次世代モバイルチップセットのAlviso(アルビソ、開発コードネーム)、次世代無線LANのCalexico2から構成されることは、すでにIDFで明らかになっていたが、その後OEMメーカー筋からの情報などにより、その詳細が徐々に明らかになってきた。 ●システムバスを533MHzに引き上げたDothan 2GHz以上を2004年の第4四半期に投入
情報筋によれば、IntelはOEMメーカーに対して、2004年の第4四半期にシステムバスのクロックを533MHzに引き上げたDothanを2GHz以上のクロックで投入すると通知してきたという。Dothanのシステムバスを引き上げるという方針は、今年の4月に行なわれたIDF Japanの会場でもIntelのモバイルプラットフォームグループ(MPG)ジェネラルマネージャのアナンド・チャンドラシーカ氏により明らかにされていたが、それがいつになるのかということは明らかになっていなかった。 システムバスを533MHzに引き上げることのメリットは、言うまでもなく帯域幅の増大を実現し、処理能力が向上するという点にある。実際、BaniasコアのPentium Mではシステムバスのクロックは400MHzで、64bitデータバスなので、3.2GB/secの帯域幅を実現している。これが533MHzになると、帯域幅は4.2GB/secへと引き上げられることになる。 Dothanのシステムバスを533MHzに引き上げるのは、チップセットのAlvisoがメインメモリとしてDDR2-533をサポートするからだ。 Alvisoではシングルないしはデュアルのメモリ構成が可能になっているが、Dothanが利用されるようなモバイルPCでは出荷時にデュアルチャネル構成し、追加でメモリ増設するために、4つのSO-DIMMソケットを用意することは物理的に不可能である。 このため、多くのOEMベンダは2つのSO-DIMMソケットを用意し、出荷時には1枚のモジュールでシングルチャネル構成、増設後にデュアルチャネル構成とする仕様か、2つのSO-DIMMソケットを用意するがシングルチャネルのみで利用するという仕様を選択することが予想される。 シングルチャネルでDDR2-533を利用した場合には、やはり帯域幅は4.2GB/secとなりCPUの帯域幅とマッチすることになるため、デュアルチャネルでもシングルチャネルでも性能面での差は小さいと考えられるからだ。 ●Dothan 2GHzの熱設計消費電力は27Wに引き上げられる
ただし、システムバスを引き上げたことによるデメリットもある。具体的には、システムバスの消費電力があがってしまうことだ。 現在のPentium M(Banias)では、動作クロックを400MHzに抑えているため、バス駆動電圧は1.05Vと非常に低くなっている。533MHzに引き上げることで、おそらく消費電力があがってしまう可能性が高い。 実際その証拠に、IntelはOEMメーカーに対してDothan 2GHzの熱設計消費電力(TDP)は27Wに引き上げる予定だと通知してきたという。また、このDothan 2GHzではバッテリモード時の最低クロックが800MHzに引き上げられる(現在は600MHz)。最低クロックが引き上げられ、TDPもあがることを考えると、バッテリ駆動時間に影響を与える平均消費電力も引き上げられる可能性もある。 このことがOEMメーカーに与える影響は小さくない。というのも、現在多くのCentrinoマシンは、CPUの熱設計消費電力が25Wであることを前提に設計されており、OEMメーカーはSonomaプラットフォームに対応したノートPCを設計する場合には、熱設計を再度やり直す必要がある。 ただし、Sonomaでは、そもそもチップセットも含めて完全に新しいデザインになるので、どちらにせよ設計し直す必要がある。ただ、27Wと熱設計消費電力が上がってしまうことで、放熱機構などへの見直しをせざるを得なくなり、筐体の厚さへの悪影響は免れない可能性が高い。 もちろん、放熱技術自体も進化するので、うまくすれば現在のCentrinoノートと同じような厚さを実現することは可能になるだろう。ただ、少なくとも現在よりも薄いノートPCが登場するかと言えば、どうもそれは難しいということになりそうだ。 ●同じ600MHzで、Baniasよりも消費電力が増えるDothan
今後のDothanの製品展開だが、以前のレポートでも紹介したとおり、OEMメーカーへの出荷は第4四半期中に行なわれ、発表は2004年の第1四半期に1.80GHz、1.70A GHz(Baniasの1.70GHzと区別するために“A”が追加される)で行なわれる。その後のクロックはまだ決定しておらず、第2四半期に1.90GHz以上、第4四半期に2GHz以上と、現時点では予定が完全には確定していないようだ。 こうした事情の裏には、90nmプロセスルールの消費電力が思ったより大きかったということが関係していることは間違いない状況だ。というのも、OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはDothanの600MHz動作時(バッテリモードでの最低クロック)の駆動電圧は0.96VとBaniasと同じであることを明らかにしているそうなのだが、消費電力はBaniasが6Wであったのに対して、Dothanでは7Wへと上がってしまっているという。 同じ電圧、クロックで動かして消費電力が高くなるなら、90nmプロセスのDothanの漏れ電力(リーケージパワー)が0.13μmプロセスのBaniasよりも高くなっていると考えるのが妥当だろう。 実は、こうした問題はDothanにとどまらない。例えば、同じ90nmプロセスのPrescottコアを採用したモバイルPentium 4は、0.13μmプロセスのNorthwoodコアのモバイルPentium 4に比べて消費電力が上がっている。 NorthwoodコアのモバイルPentium 4 3.20GHzは駆動電圧(Vcc)が1.55Vで熱設計消費電力(TDP)が76Wなのに対して、PrescottコアのモバイルPentium 4 3.20GHzは1.35Vで88Wであり、電圧は下がっているのに消費電力は上がってしまっている。 このように見ていくと、Intelの90nmプロセスが、消費電力に関して何らかの問題を抱えているのは明らかといえ、DothanやPrescottが元々の予定であった第4四半期から、来年の第1四半期にずれこんでしまったのも仕方ないところといえるだろう。
●3つのモデルが用意されるAlvisoチップセット
IntelはSonomaプラットフォーム向けのチップセットとして、Alvisoと呼ばれるチップセットを第4四半期に投入する。OEMメーカー筋の情報によれば、Alvisoには3つのモデルが用意されており、それがAlviso-GM、AlvisoーPM、Alviso-GLだ。 Alviso-GMは、Intel 855GM/GMEの後継となる製品で、新開発のDirectX 9対応グラフィックスコアを統合している。統合されるグラフィックスコアは、デスクトップPC用のGrantsdaleに統合されるのと同じコアで、3D描画時のクロックは最高で333MHzとなる。 Intel 855GMEでサポートされた負荷に応じたクロック変動の機能をサポートしているほか、Alviso-GMでは電圧も1.5Vと1.05Vの間で切り替えて利用されることになる。ATIやNVIDIAがモバイル向けGPUで導入しているPOWERPLAYやPowerMizerと同じような機能だと考えていいだろう。 システムバスは533MHzに引き上げられるほか、引き続き400MHzにとどめられる予定の超低電圧版Dothanのために400MHzの設定も用意される。なお、AlvisoにはDTR用のモバイルPentium 4をサポートする別バージョンもあり、そちらは800MHzのシステムバスをサポートする。 メインメモリはDDR2-533/400、DDR333がサポートされる。チャネル数はシングルチャネル、デュアルチャネル構成のどちらも可能になっている。グラフィックスバスはPCI Express x16となり、NVIDIAやATIなどがリリースする予定のモバイル向けPCI Express x16対応GPUと組み合わせて利用することが可能だ。 サウスブリッジはICH6-Mという、GrantsdaleのサウスブリッジであるICH6のモバイル版が用意されることになる。デスクトップではICH3がとばされICH3-Mは存在したが、モバイルでは逆にICH5がとばされることになる。 ICH6-Mでは、ICH6と同じように、2ポートのSerial ATA-150、1チャネルのUltra ATA/100、PCI Express x1が4ポート、Azaliaオーディオというスペックになる。 Alviso-PMは、Intel 855PM(およびIntel 855PMのBステップ)の後継となり、Alviso-GMから内蔵グラフィックスを省略したバージョンになる。また、Alviso-GLは、Alviso-GMからPCI Express x16の機能を省き、SpeedStepテクノロジ機能への対応を省いたバージョンになる。これは、Alviso-GLのサポートするCPUがモバイルCeleron、および超低電圧版モバイルCeleronとなるためだ。 なお、Alvisoファミリーは今年の12月にOEMメーカーに対してエンジニアリングサンプルの提供が開始され、OEMメーカーはサンプルを入手し次第、Sonomaプラットフォームの開発に取り組むことになる。
●年末に11g対応のIntel Pro/Wireless 2200BG、来年半ばにCalexico2
最後に、Centrinoの3つの要素の1つである無線LANについても触れておこう。すでに本連載でも指摘してきたように、Intelの無線LAN戦略は後手後手に回っており、BroadcomやAtherosなど、先行する無線LANベンダに対して技術的に置いていかれている状況だ。これを巻き返すことが、Centrinoを成功させようと考えているIntelにとっては急務といえるが、IntelがOEMメーカーに説明しているロードマップを見る限り、少なくともあと3四半期はこうした状況が続きそうだ。 4月にMPGジェネラルマネージャであるチャンドラシーカ氏が語った通り、Intelは今年の終わりまでに11gに対応した無線LANモジュールを投入する(ただし、発表は2004年の第1四半期となる予定)。このモジュールには開発コードネームは付けられていないが、OEMメーカー筋の情報によればIntel Pro/Wireless 2200BGという型番がつけられるという。 さらに、2004年の第2四半期の終わりには、開発コードネームCalexico2で呼ばれてきた、11a/b/gのトリプルモードに対応した無線LANモジュールが投入される。この段階でようやっとIntelは、11a/b/gのモジュールを手に入れることになる。 2004年の頭から2004年の半ばまで、Intelはハイエンドは11a/b、ミッドレンジを11g、ローエンドを11bという3製品でカバーすることになる。実際、OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはCPUとチップセットとセットで購入した場合、11a/bデュアルバンドのIntel Pro/Wireless2100Aを35ドル前後で、11b/gデュアルモードの2200BGを25ドル前後で、11bのIntel Pro/Wireless 2100を20ドル前後で提供していくという。 だが、すでにサードパーティの無線LANベンダは11a/b/gの製品を35ドルに近い価格で提供しており、技術面からもコスト面からもOEMメーカーがIntelの11a/bデュアルバンドモジュールを採用する可能性は小さい。少なくとも来年の半ばまでは、無線LANがCentrinoの足を引っ張るという状況が続くことになりそうだ。
(2003年10月9日) [Reported by 笠原一輝]
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