昨秋の「キヤノン EOS Kiss DIGITAL」、今春の「ニコン D70」と、手頃な価格帯のデジタル一眼レフが続々登場し、人気を博している。 そんななか、今回のPMA2004では、大手各社が2/3型800万画素モデルを中心としたレンズ一体型の高級機を一斉に発表。今回のPMA2004で、もっとも注目される大きな動きとなった。 主だった機種を見ても、「ニコン COOLPIX8700」(800万画素8倍ズーム)、「キヤノン PowerShot Pro1」(800万画素7倍ズーム)、「ミノルタ DiMAGE A2」(800万画素7倍ズーム)、「オリンパス C-8080 WideZoom」(800万画素5倍ズーム)などがあり、これに昨年末、先行発売された「ソニー Cyber-shot F828」(800万画素7倍ズーム)が加わるわけで、まさに大手メーカーが勢揃いした感じだ。 また、やや趣は異なるがPMA発表の「松下電器 DMC-LC1」(500万画素3倍ズーム)や先行発売された「ライカ DIGILUX2」(〃)といった2/3型500万画素CCD搭載機も登場するなど、このクラスのモデルが一気に充実した感じだ。 本来、35mm銀塩カメラの世界の常識でいえば、「高級機=一眼レフ」という図式であり、デジタル一眼レフが1,000ドルで入手できる時代になれば、当然のことながら、ハイエンド機は一眼レフタイプにシフトし、集約されると、多くの人が予測していた。 また、銀塩時代にも、一時期、高倍率ズームレンズを搭載した一眼レフ風のコンパクト機が登場した時期もあり、“ハイブリッド機”や“ブリッジカメラ”といった名称で、コンパクト機と一眼レフの両方のメリットを生かせるモデルとして注目された時期があったが、一時の流行で終わってしまったという経緯がある。 しかし、どうやら、デジタルカメラの世界では、高級機は一眼レフ一辺倒といった、そう簡単な図式にならないということを、今回のレンズ一体型高級機が証明しそうだ。とくに、カメラを実用品と割り切って使う文化のある欧米では、このクラスのモデルが高い人気を博しそうだ。 ●デジタルのメリットを生かせる実用的なオール・イン・ワンカメラ
しかし、デジタルカメラの開発は、数年単位の仕事であり、発表時期が重なったのが、800万画素CCDのためだとしても、それを搭載する機種はかなり前から開発 設計が始まっていたわけだ。 つまり、多くのメーカーは、1,000ドルのデジタル一眼レフと平行して、ほぼ同じ価格帯の2/3型高倍率ズーム機を企画していたわけだ。 これはいうまでもなく、デジタル一眼レフにはないメリットを、このクラスに見いだしたからに違いない。 そんな目で、今回の一体型高級機を見ると、「2/3型CCD」と「高倍率ズーム」という2つのキーワードがある。 この2つを、ちょっと乱暴に言い換えると前者は「高画質」であり、後者は「多様性/万能性」という言葉に置き換えることができるだろう。 もちろん、この2つが備われば、かなり理想に近いカメラになるに違いない。 残念ながら、APS-Cサイズや4/3型といった大型撮像素子を使えば、より高画質を期待できるが、それに見合った性能を発揮する高倍率ズームレンズを開発しても、きわめて大柄で高価なものになってしまい、バランスを欠いた実用性に乏しいものになってしまう。 だが、2/3型CCDであれば、家庭用プリンタの最大サイズであるA3プリントをターゲットにするのであれば、実用十分な実力であり、センサー自体が小さいこともあって、カメラの価格も抑えられる。 さらに、2/3型CCD専用の高倍率ズームであれば、F値(明るさ)もF2~2.8クラスで、実用レンジをフルにカバーできる5~8倍ズームが、常時持ち歩けるサイズに収まるわけだ。 そう、このバランスの良さこそが、2/3型高倍率機の最大のメリットであり、デジタル一眼レフでは実現できない大きな魅力だ。 また、今後要望が高まる可能性のある「動画対応」や、作品の仕上がりが予測しやすい「電子ビューファインダー(EVF)」の搭載といった点から見ても、一眼レフタイプより、このタイプの方が圧倒的に有利なのはいうまでもない。 このデジタル一眼レフ時代に、2/3型高倍率機が、各社から続々登場した、最大の理由はここにある。
また、ユーザーにとっては、このクラスのモデルが一台あれば、あとで交換レンズを追加購入したりせず、一台でほとんどのシーンをこなせるオール・イン・ワンカメラとして使えるわけだ。 ●いずれも魅力的な各機種 では、今回PMA向けに発表された主だった機種のプロフィールを見てみよう。 ・キヤノン PowerShot Pro1
PMA会場でも高い評価を得ていたのが、米国でPMAの数日前に発表された「PowerShot Pro1」だ。“Pro1”というネーミングからもわかるように、かなり力の入った本格派モデルだ。 このモデルは28~200mm相当の7倍ズームを搭載した800万画素機だが、最大の特徴はレンズ。同社の一眼レフ用レンズのなかでも、光学性能の高いレンズだけに与えられる称号である“Lレンズ”を初めて搭載したPowerShot系モデルなのだ。 しかも、ボディは他社の同クラスモデルと比較しても、かなりコンパクト。その気になれば、常時バッグに入れてどこでも気軽に“800万画素7倍ズーム”を持ち歩くことができるサイズに仕上がっている点も大きな魅力だ。 実は、今回のPMA2004の取材の大半は、このモデルで撮影したものなのだが、イベント取材のようにさまざまなシチュエーションに対応する必要のあるときでも、これ一台で99%カバーできるほど、守備範囲も広い。また、3~4日間、ずっと肩や首から提げて持ち歩いても、なんら苦にならない点も高く評価できる。 その実力や使い勝手については、別途、レポートする予定だ。
□関連記事 ・ミノルタ DiMAGE A2
「MAXXUM 7 DIGITAL」(日本名α-7 Digital)の陰に隠れて目立たなくなってしまったが、コニカミノルタからはDiMAGE A1の上級機となる800万画素7倍ズーム機「DiMAGE A2」が発表された。 このモデルの特徴は、なんといっても「DiMAGE A1」で搭載されたCCDシフト式ブレ補正機能を搭載している点だ。 これは、カメラ内のセンサーによるブレを検知し、CCD自体を移動させることで、その動きを相殺して、ブレを軽減しようという画期的な機能だ。実際の撮影では、ユーザーが意識しなようなごくわずかなブレが画質を低下させているケースがかなり多い。とくに、「A2」のような800万画素級モデルになると、解像度がかなり高いため、ブレの影響は想像をこえるものがある。 基本デザインがA1と同等のため、あまり新鮮味はないが、DiMAGE 7から進化してきたそのスタイリングや操作感の良さには、ライバル機に比べ、一日の長がある。スタイルやホールド感も一眼レフに近く、誰でもさほど違和感なく扱えるモデルに仕上がっている。 また、92万画素相当といわれる、高精細な電子ビューファインダー(EVF)の大きな魅力。ブースで見る限り、若干、コントラストが低めで黒が締まらない点は気になるが、その緻密な表示はこれまでのEVFの常識を遙かに超えるレベル。また、リフレッシュレートもかなり早いため、動きの速いシーンの撮影でも十分対応できそうだ。 レンズは「A1」と同じ、28~200mm相当を搭載。ズームリングが手動操作式のため、微妙なズーム調整がしやすい点も、本機の隠れた魅力といえるだろう。
□関連記事 ・オリンパス C-8080 Wide Zoom
CAMEDIAシリーズの最高峰となる、28~140mm相当の5倍ズームを搭載した800万画素モデル。 ズーム域という点では、先の2機種より狭めで、ボディもやや大柄だが、本格派モデルらしい雰囲気を感じさせるものに仕上がっている。ただ、デザインがやや無骨で、質感の点でも、若干見劣りするような印象を受けた。 また、オリンパスの場合、どうしても、フォーサーズの「E-1」と比べてしまう部分があるわけだが、CCDサイズがちょうど2倍違うことを考えると、もう少しコンパクトでもいいのではないかと思ってしまう。 なお、本機から新開発の画像処理エンジンである「TruePic TURBO」を搭載しており、豊かな階調性やノイズレベルの軽減が図られているという。
□関連記事 ・ニコン COOLPIX8700
500万画素機「COOLPIX 5700」の8メガ版となる「COOLPIX8700」。 細部のリファインはなされているものの、レンズやデザインなど基本的な部分は「COOLPIX5700」のものをそのまま受け継いでいる。先代モデルは欧米を中心にかなり高い人気を獲得していただけに、今回のモデルはキープコンセプトという感じだ。 レンズは35~280mm相当の8倍ズームと、望遠側重視のものとなっている。実際、海外市場では28mmワイドへの要望は日本国内ほど強くはないという。また、ワイドが必要な場合には、専用のワイドコンバーターがきちんと用意されている。さらに魚眼撮影ができるフィッシュアイコンバーターや、420mm相当の超望遠撮影ができるテレコンバーターまで用意されている。 レンズやストロボなどを周辺システムが充実しているのが、この「COOLPIX8700」の大きな特徴であり、このクラスにもシステムの拡張性を重視したものになっており、レンズは一体型だが、考え方は一眼レフシステムに近いものがある。
□関連記事 ・松下電器 DMC-LC1
上記のモデルとはやや方向性が異なるが、本格派指向という点では、これらの機種に勝るとも劣らないのが、500万画素3倍ズーム機「LUMIX DMC-LC1」だ。 このモデルは昨秋、日本国内イベントで参考出品されたものだ。最大の特徴は28~90mm相当でF2.0~2.4というとても明るいライカレンズを搭載している点だ。 スタイリングもどことなくM型ライカに近い雰囲気があり、細部まで高い質感を備えた高級感のあるモデルに仕上がっている。 ボディが大柄だが、ホールド感はM型ライカに近く、電子ビューファインダーを使って撮影すると、まさにデジタル版ライカのような錯覚に陥る感じだ。 AF測距も早く、シャッタータイムラグもかなり短く、シャッターチャンスに強いモデルに仕上がっている。 画素数は500万画素だが、ブースで聞いたところ、「なぜ800万画素じゃないの?」という質問はなく、とても強い個性を備えたモデルだけに、好感を持って受け入れられているという。 ただ、価格は1,600ドルと相応に高価なもの。もちろん、実質的には姉妹機的存在である「ライカ DIGILUX2」に比べると、十分にリーズナブルな設定だ。
□関連記事 ●米国ではプロ用機 日本ではいまやデジタル一眼レフ旋風のまっただ中だけに、“一眼にあらずんば、高級機にあらず”的な感覚がある。本格的な撮影は一眼じゃないと……という風潮だ。 しかし、本当にそうなのだろうか? PMAで米国市場に接してみると、この800万画素高倍率ズーム機は、かなり好感を持って受け入れられているのを実感することができる。 これを理解するためには、米国市場の独自性を知る必要がある。日本的感覚では、このクラスのモデルは、アドバンスド・アマチュア(アマチュア上級者)用という意識が強い。 だが、米国ではこのクラスのモデルは、一種のプロ用モデルなので。プロといってもいろいろあるが、こちらでは、日本の写真館よりも遙かに安価で気軽に撮影できるポートレートスタジオがある。そこでは、一種の記念写真感覚でプロに撮影してもらい、A4判くらいのプリントにして自宅に飾るといった使われ方をしている。 また、いわゆる雑誌系の撮影でも、誌面で使うサイズが小さなものであれば、このクラスで十分どころか、おつりが来るほどだ。 このように、最終的な目的が明確であれば、なにも超高画質なデジタル一眼レフにこだわる必要はなく、2/3型の800万画素クラスのモデルで必要十分なわけだ。 もちろん、この価値観は、米国だけではなく、合理性に高い価値を見いだす、欧州市場でも受け入れられることだろう。 ●今後の普及は“使う楽しさ”がポイント この価値観は、なにも欧米だけのものではなく、日本のアドバンスド・アマチュアの世界にも繋がるものがある。 つまり、家庭用プリンタの上限であるA3サイズで、実用十分なプリントが得られれば、よりコンパクトで、レンズシステムを含めたトータルでのコストパフォーマンスが高い、この2/3型800万画素高倍率ズーム機が見直される時期が近い将来にくる可能性も十分にあるわけだ。 もちろん、今回、大手各社が一斉にこのクラスに参入したのは、偶然ではない。むしろ、既存のレンズシステムに縛られたデジタル一眼レフとは違った角度から、より使いやすいモデルを探った結果、各社がたどり着いたのが、2/3型800万画素高倍率ズーム機だった……と見るのが順当だろう。 ただ、今回登場したモデルの大半は、合理性を重視したものであり、「カメラを愛でる」という文化や「撮影するプロセスを楽しむ」という、趣味としてとても重要なポイントがまだまだ欠けている。今後、日本でこのクラスのモデルが再認識される折りには、この趣味性の部分が最大のキーになってくることだろう。
(2004年2月14日)
[Reported by 山田久美夫]
【PC Watchホームページ】
|
|