●AMDもIntelのYamhillを意識? 1月22日に東京で開催された日本AMDの「Kickoff Press Conference」で、日本AMDの堺和夫代表取締役社長は、同社の64bitアーキテクチャ「AMD64」の価値を強調、「われわれが64bitのドアを開けた」、「2004年は64bitコンピューティングの年になる」と語った。ここで面白いのは、昨年と比べると若干ニュアンスが変わってきていることだ。 これまで、AMDは“AMDだけ”がx86の延長の64bitコンピューティングを提供していることを強調していた。AMDは、x86とは異なるIntelの64bitソリューション「IA-64」と比較、x86を拡張したAMD64は、ソフトウェアの移行が容易であることを主張していた。つまり、AMDだけがx86世界で有効な64bitソリューションを提供していると位置づけていた。 それが、今は“ドアを開けた”という表現で、何となく、他にもドアをくぐってAMDに続く企業があることを予期しているような言い方になっている。だとしたら、予期しているのは、Intelによる、IA-32の64bit拡張「Yamhill」テクノロジに違いない。 昨年春に「Prescottは64bitアドレッシングを実装?」でレポートした通り、Intelは2004年中にはYamhillの技術概要を発表する可能性が高い。実際、ここ1~2カ月、そうした情報が業界内で飛び交っている。あるCPU業界関係者は「Intelは2月にもYamhillの技術概要を公表するだろう」と言う。 Yamhill公表が大方の予想より早いという情報は、以前から出ていた。昨年秋には、あるサーバー業界関係者が、Yamhillの公表は一般に予期されているよりも早いと示唆している。また、MicrosoftがAMD64対応版Windows XPを発売する前に、IntelはYamhillを発表すると語る業界関係者もいた。こうした背景から推測すると、IntelのYamhill公表は、秒読み段階に入り始めたと思われる。 Yamhillアーキテクチャ自体は、「Prescott(プレスコット)」世代のCPUコアに、すでに実装されていると推測される。つまり、デスクトップPC向けのPrescott、デュアルプロセッサ向けの「Nocona(ノコーナ)」、MPサーバー向けの「Potomac(ポトマック)」は、いずれもYamhillハードウェアを内蔵していると見られる。理由は簡単で、Intelは通常この3ラインのCPUに、ほぼ同じ設計のCPUコアを使うからだ。Hyper-Threadingの時がいい例で、Intelは初代Pentium 4(Willamette:ウイラメット)からHyper-Threadingを実装していた。 おそらく、Yamhillも同様で、実装されている機能をいつ有効にするかという議論になっているはずだ。そして、おそらく技術的な発表は今年前半、製品の投入は今年中盤以降、来年頭までになると推測される。 ●Yamhillが登場する状況証拠 状況証拠も積み上がりつつある。まず、Intel自身が、64bit拡張の可能性を否定しなくなった。例えば、IntelのPatrick P. Gelsinger(パット・ゲルシンガー)CTO兼上級副社長(CTO & Senior Vice President)は、昨年9月のIntel Developer Forum(IDF)で64bitの必要性について「デスクトップではまだ必要がないが、メモリ容量の増大のために、サーバーでは確かに必要がある」と答えていた。 また、IntelはYamhillを導入した場合に、もうひとつの64bitソリューションであるIA-64系Itaniumプロセッサと互換性を取るためのベースも用意した。従来、IA-64系CPUではハードウェアでIA-32コードをサポートしていたが、その方法だと既存のIA-64 CPUでYamhillをサポートすることができなかった。だが、Intelは1月13日にItanium上でIA-32をソフトウェアエミュレーションする「IA-32 EL」を発表した。 IA-32 ELはソフトウェア実装なので、論理上どんな命令セットにも対応できる。そのため、IA-32ELを拡張することで、容易にItaniumをYamhillに対応させることができるようになった。つまり、Transmeta方式で、IA-64にYamhillをソフトウェア実装できるわけだ。昨秋、ある業界関係者は「Intelが(Yamhillを)発表する時には、Itaniumと共存できる仕組みを用意してからになるだろう」と言っていたが、まさにその通りに展開している。 Microsoftの動きも、Yamhillを予期したかのようだ。Microsoftは次期OS「Longhorn(ロングホーン)」では、32bit版と64bit版を平行して開発しており、Longhorn時期は、32bitから64bitへの移行期になることを前提としているように見える。AMD64版を“x64”版と呼ぶあたりにも、サポートするアーキテクチャがAMD64だけでないことが匂わされている。さらに、Microsof社に対する裁判で、MicrosoftとAMDが、WindowsでのYamhillサポートについて話し合った記録も公開されている。 実際、Intelは遅くとも夏までにはYamhillの概要を明らかにしなければならない。その根拠は、IntelのIA-32系CPUのメモリアドレス能力が限界に近づいているという技術的理由と、AMD64版Windows XPの発表が近づいているというマーケティング的理由の2つがある。技術的なデッドラインは2005年頭で、それまでにソフトウェア業界のサポートを進めておくには、リードタイムのためできるだけ早くYamhillを発表する必要がある。そして、MicrosoftがAMD64版のWindows XPを投入するのは今年の夏だ。つまり、技術的にも、マーケティング的にも、Intelは近いうちにYamhillを発表せざるをえない状況になりつつある。 ●YamhillはIntelにとって必然 IntelがYamhillを投入する技術的な理由は明白だ。第一には、Yamhillがないと、2005年のサーバーの搭載するメモリ容量をサポートできないためだ。 Intelが2005年頭にリリースする予定の、4wayサーバー向けチップセット「Twin Castle(ツインキャッスル)」では、128GBのメモリ搭載量をサポートする。現在のIA-32 CPUは、「PAE(Physical Address Extention) 36」によるページングで、36bit/64GBまでのメモリアドレスが可能だ。しかし、Twin Castleのメモリ容量128GBはそれを超えている。そのため、Intelは、2005年頭までには必ずメモリアドレス機能を拡張しなければならない。 これは、Intelのメモリアドレス拡張周期とも一致している。Intelは8~10年周期でCPUのメモリアドレス機能を拡張してきた。 アドレス拡張が必要になるのは、「ムーアの法則」に従って、半導体デバイスの集積度は1.5~2年毎に2倍になって行くからだ。集積度の向上に従って、PCやサーバーの搭載メモリ容量もどんどん増大するため、CPUにはより大きなメモリアドレス能力が必要になる。「DRAM容量は約2年毎に2倍になるため、(CPUには)2年毎に1bit分のアドレス能力が必要となる」(Intel, Patrick Gelsinger CTO兼上級副社長)わけだ。 もちろん、CPUのメモリアドレス機能を1bitづつ増やすことはソフト側にとって迷惑なので、Intelは数年に1度、数bit分まとめてアドレス機能の拡張を図る。過去20年では、'85年の80386で32bit化し、10年後の'95年のPentium ProにPAE36を実装、4bits分アドレス機能を拡張した。つまり、前回は4bits×2年=約8年分、メモリアドレスを伸ばしたわけだ。 そのため計算上では、それから8年後の2003年には、Intelはアドレス機能を拡張しなければならないことになる。実際には、DRAM容量の増大のペースが遅れているため、周期は多少ずれているが、2004~5年にアドレス拡張を行なうのは、必然と言える。つまり、次のCPUアーキテクチャでIntelがメモリアドレス機能を拡張するのは、当たり前のことなのだ。 メモリアドレス機能の必要性は、IntelのIA-32 CPUだけに当てはまる話ではない。同クラスのCPUは、いずれも同じ問題を抱える。2003年になって、AMDのOpteron/Athlon 64のAMD64や、IBMのPowerPC G5(PowerPC 970)など、64bit CPUがPC/サーバー向けに相次いで登場したのは偶然ではない。業界全体として、64bit化が必要となりつつあるわけだ。 ●DRAM搭載量の増大を維持
現在、IntelやAMDはJEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)に働きかけて、「Fully Buffered DIMM(FB-DIMM)」または「Hub on DIMM(HoDまたはH-DIMM)」と呼ばれる新しいDIMM規格を策定させようとしている。DIMM上にバッファチップを載せることで、従来通りのメモリ搭載量の増大ペースを維持しようという方針だ。Intel案のFB-DIMMの場合は、1チャネル当たり最大8DIMMを接続できる。Intelは2005~6年のチップセットでFB-DIMMに対応する予定で、FB-DIMMが本当に立ち上がった場合にはさらにサーバーの最大搭載メモリ量の増大が進む可能性がある。 コンピュータのクラスによって搭載できる最大メモリ量には違いがある。 PCでは現在、容量256Mbitsのチップが主流で、Unbuffered DIMMが1モジュール当たり16チップとすると、手頃な価格で買えるDIMMの容量はしばらくは512MBまでとなる。2チャネルそれぞれ2DIMM載せて4DIMM構成で最大2GBが標準的なユーザーにとっての最大量だ。DDR2メモリ世代で512Mbitsチップにビットクロス(ビット当たりの単価が交差する)が来ると、これが4GBになる。つまり、PCはようやく32bitの限界に来たところで、36bitの限界にはまだ間がある。 一方、サーバー/ワークステーションになるとビットクロス前から大容量チップが使われるため、Registered DIMMでECCを含めて最大36チップ、1チャネル当たり4DIMMとなる。PCの8倍のメモリ量を搭載できるため、デュアルチャネルメモリの2wayサーバー/ワークステーションの場合は現在16~32GBが搭載できる。32bitは超えるわけだが、まだ数年は36bit枠に収まる。 しかし上位の4wayサーバーになると、クアッドメモリチャネルでリピータも使うためメモリ容量はさらに4倍の64~128GBに達する。128GBになるのがTwin Castleの世代で、そうなると36bitアドレスを超える。 こうしてみると、MPサーバーではYamhillが急務で、PCではメモリ搭載量だけを見ると、まだしばらくは間があることがわかる。そのため、Intelの選択肢としてはサーバーだけでYamhillを導入、PCは数年先延ばしにするということもできる。PCはPAE 36で引き延ばすというステップだ。
しかし、実際にはそう行かない事情がいくつかある。それは次回のコラムでお話しよう。
□関連記事 (2004年1月29日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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