第228回
“重さ”に見るモバイルPCのコンセプト
(その3)



 ノートPCの重さを、各パーツごとに分類して計測した今回の企画も今回が最後。ソニーのバイオノートX505を取り上げる。昨年末に登場したX505は、薄く、軽くするために、様々な犠牲を払いつつも、カーボンファイバー強化プラスティックを用いた上位モデルでは800gを切る軽さを実現したことで話題となった。

 さぞや各部を削りまくっているのだろうと予想したが、実際に各パーツの重さや強度を確認してみると、予想に反して薄さと剛性のバランスを重視し、その中で軽量化を図っていることがわかる。あらゆる犠牲を容認して軽量化を果たした結果の800g切りではないようだ。


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(PC Watch編集部)

【ThinkPad X31、X40とLet's NOTE W2のパーツ別重量】 単位:g(グラム)
※バイオノートの数値はソニースタイルモデル(カーボン外装)のもの。通常モデルの数値は()内に表記
 バイオノート
X505(※)
Let'snote
W2
ThinkPad
X31
ThinkPad
X40
ヒンジ10114719
マザーボード+ファン76155306244
ベースカバー(本体底面)70(86)7411497
キーボードベゼル+パームレスト42896451
タッチパッド-42--
LCD裏外装62(88)7213095
LCDパネル172200290257
LCDベゼル16191816
キーボード6267140123
バッテリ152303320200
HDD5498201145
光学ドライブ-101--
その他4040--
合計756(798)1,2711,6301,247

バイオノートX505 Let'snote W2
ThinkPad X31 ThinkPad X40

●意外に重かった外装パーツ

X505の液晶パネル

 今回取り上げた4機種のうち、10.4型液晶パネルを採用しているのは本機のみ。言うまでもなく、画面サイズが小さければ液晶パネルは軽くなり、本体サイズも縮小できるため外装パーツの重量も少なくて済む。ところが、実際に計測してみると、いずれも想像していたよりもずっと重かったのだ(なお、通常モデルの合計重量がスペックよりも軽くなっているが、いずれも実測値であり、個体差によるものだと考えられる)。

 たとえば液晶パネルは2型近くもサイズが小さいにもかかわらず、Let'snote Lightより27g軽いだけだった。ThinkPadとの比較になると、面積比なりに軽くなっており、本機が薄型ガラス基板を用いた軽量液晶パネルを採用していないことがわかる。

 外装パーツに関しても、CFRPパーツは200gと軽量だが、ニッケルメタルサンドイッチ構造のカーボンコンポジット素材を採用した通常モデルは242gで、Let'snote Light W2の264.9gとの差はわずかしかない。本体底面積の違いから言うとX505の方が筐体パーツを“削っていない”と言えるだろう。

 その理由は、やはりX505が薄型の形状を求めたからだと考えられる。薄い筐体で充分な剛性を出すためには、素材そのものの剛性を高めなければならない。また、先週のコラムでも述べたように、液晶パネルと外装パーツとの隙間をギリギリまで詰めるには、外装パーツの“たわみ”に耐えられる、液晶パネル自身の強さが必要だ。

 外装パーツや液晶パネルの軽量化を突き詰めるためには、薄型化を諦めなければならないわけだ。しかし、X505では軽量化と薄型化の両立を目指した。その結果が、こうした数値に表れている。

 ソニーの開発担当者は「カーボンメタル素材の方は、マグネシウム合金と同程度の剛性。ただし、X505の形状にマグネシウム合金を成形することはできない。また、ファンレス構造で本体の温度がある程度上がってしまうため、触れた時の体感温度が高い金属筐体は使わなかった」という。

 言い換えれば、CFRPのソニースタイル限定モデルとの重量差こそが、特別な素材を使ったことによる軽量化の度合いを示していると言えるだろう。しかしソニー自身「今のPCはグラム単位での軽量化が進んでいるため、新素材を使っても大幅な軽量化にはならない」と話しているように、外装パーツでの軽量化は42gの差だ。

【編集部追記】
ソニーによると、X505のガラス基板は0.3mm厚の特注品で、バイオノートSRで使用されていた0.4mm厚の標準品よりも薄型化されているとのことである。

●やはり大きな差を生む冷却部の重さ

 Let'snote Light W2の時にも軽量化のカギとなっていた冷却部の重さ。X505でも、ファンレス構造になっていることが、軽量化を実現するためのカギになっているようだ。熱を拡散させるカーボングラファイトシートは、わずか8gしかない。また、基板面積が小さくなっていることもあり、冷却システムと基板を合計した重さはW2の半分だ。ThinkPad Xシリーズ比では100gも軽い。

 全負荷時にもプロセッサ性能を維持すために冷却ファンを装備するのか、それとも平均的な負荷に最適化してファンレス設計にするかは、常に議論される部分だ。しかし、軽量なPCを追求するのであれば、ファンレス化は避けて通ることができないのかもしれない。

放熱用のカーボングラファイトシート X505のマザーボード

 残りの主な要素は、HDDとバッテリで、いずれも予想の範囲内と言える。それぞれ、1.8インチ化と3セルバッテリの採用による軽量化だ。筐体の薄さと剛性では妥協せず、ある程度の重量を許容していたX505だが、バッテリとHDDではバッサリと重量を削ぎ落としている。

 こうして見返して見ると、基板サイズの縮小、冷却システムの2つがX505の重量を生んでいることがわかってくる。もし、ソニーが薄型化を諦め、筐体に厚みを加えることで剛性を確保していたなら。そして薄型ガラス基板の軽量液晶パネルを使っていたなら、700g前後のノートPCが生まれていたかもしれない。

 しかし、重量的な不利がありながら、あくまでも薄型デザインにこだわって開発を行なったところに、ソニーの“意地”、松下電器との考え方の違いを感じざるを得ない。

□関連記事
【1月29日】【本田】“重さ”に見るモバイルPCのコンセプト(その2)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0129/mobile227.htm
【1月21日】【本田】“重さ”に見るモバイルPCのコンセプト(その1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0121/mobile226.htm

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(2004年2月6日)

[Text by 本田雅一]


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