第226回
“重さ”に見るモバイルPCのコンセプト
(その1)



 ここ数年、軽量なPCが登場するたび、その評価記事を書くたびに悩んでいたことがある。その1つが重量というスペックだ。PCを持ち歩きたい、あるいは持ち歩かなければならないユーザーにとって、重いモバイルPCは、それだけで忌み嫌われる傾向がある。しかし、話がそう単純なものじゃないことは、実際にモバイルPCを所有している人ならばわかるだろう。

 たとえばここに、2Kgの鉄の固まりと1Kg鉄の固まりがあるとする。どちらかを鞄に入れて持ち運ばなければならないとすれば、誰もが1Kgじゃなければイヤだと言うだろう。しかしPCは鉄の固まりではない。ディスプレイ、キーボード、ポインティングデバイスなどのユーザーインターフェイス、プロセッサやメモリなど性能に関わる部品、それに(モバイルPCを単なるウェイトにしないための)バッテリも含んでおり、それぞれ重量とも密接な関係がある。

 そこでモバイルPCのコンセプトを探るひとつの手段として、構成部品の重さを計測させてもらったところ、なかなか興味深い結果が出てきた。それぞれのPCベンダーに話を伺いながら、重量と製品コンセプトの関係を探ってみる。

 初回はThinkPad X31とX40をテーマとして選んだ。なお、比較のために松下電器Let's NOTE W2の重量についても掲載しているが、こちらの詳細については次週、詳細にレポートしたい。さらにその翌週には、800gを切る重量で注目されたバイオノートX505の重量内訳を紹介する。

【ThinkPad X31、X40とLet's NOTE W2のパーツ別重量】 単位:g(グラム)
 ThinkPad X31ThinkPad X40Let'snote W2
ヒンジ471911
マザーボード+ファン306244155
本体底面カバー1149774
キーボードベゼル+パームレスト645189
LCD裏外装1309572
LCDパネル290257200
LCDベゼル181619
キーボード14012367
タッチパッド42
バッテリ320200303
HDD20114598
光学ドライブ101
その他40
合計1,6301,2471,271

ThinkPad X31 ThinkPad X40 Let'snote W2


■■ 注意 ■■

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  • この記事の情報は取材した個体のものであり、すべての製品に共通するものではありません。製品のロットにより、重量等が異なる場合があります。
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(PC Watch編集部)

●ThinkPad X31、重さの“使いどころ”

 ThinkPad Xシリーズは、第1号のX20が登場以来、ほとんど重さが変わっていない希有な存在だ。6セルバッテリ搭載時(以前は4セルバッテリモデルも存在した)の重量は1.6Kg+数十gのままで、しばしば“IBMのモバイルPCは重い”と批判の対象になってきた。では何も進化して来なかったかというと、そんなことはもちろんない。

 ではなぜ、ThinkPad X31は12.1型クラスシングルスピンドルの中で重量級の製品になっていたのか。先に挙げた重量内訳の各項目を、外装、液晶パネル、入力デバイス、基板と冷却システム、バッテリ、ドライブ類(HDDと光学ドライブの合計)、そのほか(光学ドライブ含む)に分け、グラフにしてみた。

単位:g(グラム)
 X31X40W2
外装373278265
液晶パネル290257200
入力デバイス140123109
基板と冷却システム306244155
バッテリ320200303
ドライブ類201145199
そのほか40
合計1,6301,2471,271

 X31が最新の機種に比して重い大きな理由が、非常に広い範囲のカテゴリに分散していることがわかる。

 計測前には、他社よりも評判がよく面積も広いキーボードが、重量面でかなり大きな不利になっているのではないか? と予想していた。実際、キーボード単体で見るとLet'sNOTE W2の2倍もの重量がある。しかし、ThinkPadのキーボード重量にはポインティングデバイスも含まれており、Let'sNOTE W2のパッドを計算に入れると、その差は40gに縮まる。

 もうひとつ注目したいのは、ドライブ類の合計重量。X31はシングルスピンドル機だが、2スピンドル機のW2よりも数gだが重いという計測結果が出た。これはX31のHDDがリムーバブルになっているため。簡単にハードディスクを抜き差し可能なX31は、HDDの周りを金属カバーで覆い、ベゼルも取り付けてある。その結果、上記のような結果になっているわけだ。

重量計測中のThinkPad X31マザーボード

 また基板と冷却システムの部分で大きな差となったのは、通常電圧版のPentium Mを搭載するために必要な冷却システムの重量である。X31には大きな銅製ヒートシンクと冷却ファンが取り付けられているが、W2は超低電圧版採用を前提にしたファンレス設計になっている。X31に関して言えば、プリンタポートのコネクタや大きなドッキングステーション用コネクタも、基板重量増加に繋がっていたものと考えられる。

 さらに液晶パネルの重量が100gも重い。これは液晶パネルのガラス基板に極薄タイプのモデルを使っていないためだ。ガラス基板を薄くすると軽量化には役立つが、物理的なストレスに弱くなり故障の原因となる。

 この問題を避けるには、液晶パネルと外装の間に十分に大きなクリアランスを設け、外装強度を上げるしかない。ThinkPadの場合、液晶パネル裏の外装は凹凸のないフラットな構造で、強度を出すのが難しい(このため他製品よりも外装を厚くしており、それも重さに繋がっている)こともあり、十分な信頼性と耐久性を実現するために薄型ガラス基板のパネルを採用しなかったそうだ。

●X40に見られる軽量化の跡

 X30系のモデルはX20系のコンセプトをキープしたものだった。プロセッサ能力が十分に高く、光学ドライブ非搭載という点を除けば機能的には上位のTシリーズに匹敵する能力を得られ、周辺機器も他のThinkPadシリーズ用がそのまま使える。そうした属性を保ちつつ、丈夫さ、堅さをウリにするためには、1.6Kg+αの重量は、ある意味必然だったのかもれない。

 では新シリーズのX40では、どのような部分で軽量化を図っているのか。外装で約100gという大幅な軽量化がまずは目に付く。軽量化を果たせたのは、X31比約20%減となる12.1型クラス最小の底面積を実現したからである。

 外装を軽量化するためには、素材の厚みを削るのがもっとも簡単。しかし日本アイ・ビー・エムの機構設計担当者は「マグネシウム合金は、0.8mmと0.6mmの間ぐらいに、強度が大きく変化するポイントがある」という。現在、軽量ノートPCは0.6mm程度のマグネシウム合金を使うのがトレンドだが、0.6mmになると壊れることはないものの、曲げ剛性が極端に落ち、ペラペラになってしまう。0.8mmになると剛性は一気にアップするため、IBMでは0.8mmをX40でも継続して採用した。

 しかし、同じ素材を使っていたら軽量化できないのは自明。そこで底面積を極限まで小さくすることで、外装に必要な材料の総量を減らしたというわけだ。実際には20%よりも削減量が多いが、これは応力のかかるポイントに応じて、細かく厚みを変えたり、穴を開けるなどの工夫で達成しているようだ。

ThinkPad X40のマザーボード(手前)とX31のマザーボード(奥)

 加えて低電圧版プロセッサ採用による冷却システムの軽量化、ドライブの1.8インチ化に伴う軽量化などが挙げられるが、従来よりも小さい容量のバッテリを採用することで120g削っていることも大きい。

 X40が登場した当初は「機能や性能を削って軽量化したモデルではなく、X31の延長線上にある軽量マシンが欲しい」という声もあった。個人的にもそうした製品の登場を期待したこともあったが、こうして見てみると、X31の延長線ではあまり軽くならなかっただろうことが想像できる。

 X40の外装には2.5インチHDDが入らないため、あくまでも概算になってしまうが、バッテリとドライブ類の重量だけをX31のものに置き換えて合計重量を計算してみると1,423gとなる。厚みを多少増やして同じサイズに2.5インチHDDの装着を可能にすると数十g重くなる可能性があり、SDスロットをCFスロットに置き換えるなどの変更を加えると、1,500gを若干切る程度になってしまうはずだ。細かなところで調整したとしても1,450g、X31比で200g程度の軽量化にしかならない。

 新シリーズとしてインパクトのある軽量化を果たすため、HDDとバッテリの軽量化が、必要不可欠な要素だったことがわかる。

□関連記事
【2003年12月15日】【本田】日本IBM「ThinkPad X40」開発者インタビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1215/mobile223.htm

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(2004年1月21日)

[Text by 本田雅一]


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