第227回
“重さ”に見るモバイルPCのコンセプト
(その2)



 先週に引き続いて、ノートPCを構成するパーツの重さ配分に関して考察してみることにしよう。

 一部の読者から「かなりコアなネタですね」とのメッセージをいただいたが、確かに部品ごとに重さを見るというのは、かなりマニアックな視点かもしれない。しかし、単純に軽いことが良いわけでなく、重ければ良いわけでももちろんなく、ということを知識として知っておいて損はない。

 開発者たちはカタログに掲載する重さを、1gでも軽くしようと努力しているが、製品としての品質や性格を決める上で譲れない部分もある。これはこれから登場するだろう新製品でも同じこと。カタログには、構成部品の重さの内訳は記載されていない。しかし軽さだけが唯一絶対的な指標ではないことが、前回サンプルとして提示した3機種を見るだけでもわかるはずだ。

 それは今週のテーマである「Let'snote Light W2」にも言える。軽くするためならば何でもやっていると思われがちなLet'snote Lightシリーズ。その見方はある面で正しいが、あらゆる場面で軽さを追求するためそれ以外を犠牲にしている、というわけでもないようだ。


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(PC Watch編集部)

●まずは徹底的な軽量化

 もちろん、2スピンドルで1.3kgを切る重量を実現しているW2のこと。まずは徹底した軽量化を行なっていることは言うまでもない。先週掲載したものと同じ表を再掲載するが、まずは外装パーツの軽量化の徹底ぶりに驚く。

【ThinkPad X31、X40とLet's NOTE W2のパーツ別重量】 単位:g(グラム)
 ThinkPad X31ThinkPad X40Let'snote W2
ヒンジ471911
マザーボード+ファン306244155
本体底面カバー1149774
キーボードベゼル+パームレスト645189
LCD裏外装1309572
LCDパネル290257200
LCDベゼル181619
キーボード14012367
タッチパッド42
バッテリ320200303
HDD20114598
光学ドライブ101
その他40
合計1,6301,2471,271

ThinkPad X31 ThinkPad X40 Let'snote W2

 底面のシャシー重量やLCD裏のカバーなど、外殻部分が軽量なことがよくわかるはずだ。ThinkPad X40よりも底面積が若干大きく、本体に厚みもある(その分、側面の立ち上げ部分も大きくなる)ところを見れば、いかに軽量化に努力を傾けているかがわかるはずだ。

 外殻部が軽くなった理由は、平均0.55mmという非常に薄いマグネシウム合金筐体を採用しているためだ。ThinkPadシリーズは、X31、X40ともに0.8mm厚を採用しているから、この差は非常に大きい。しかも底面シャシー部分は、部位ごと細かく厚みを変えて強度バランスを整えている。

 また液晶パネル裏のカバーは、0.55mmという極薄ながら高い精度での成型や安定した品質を実現するため、MDプレーヤなどで使われているマグネシウム合金のプレス成形技術を用いている。

Let'snote W2の液晶パネル裏を計測中(上の表では小数点以下を四捨五入して記載している) 薄型ガラス基板を用いた軽量な液晶パネル

 ファンレス設計とすることで冷却システムがコンパクトに収まったこと、薄型ガラス基板を用いた軽量な液晶パネルも、軽量化に大きく貢献している。特にファンレス構造でシャシー放熱による設計は、ファンありの場合に比べ100g以上の軽量化を実現できる。いずれの数値も、1クラス小さいサイズのPCと比べたくなるような数字である。

 なお、先週も述べていたのだが、HDDが軽量になっている理由はドライブそのものの軽量さではない。HDDは2.5インチサイズの他のドライブと同じと考えていい。表の中でThinkPadよりも大幅に軽くなっているのは、リムーバブル用のフレームが取り付けられていないためだ。

 もちろん、これまで何度も紹介されているように、わずか101gしかない光学ドライブユニットも、軽量化のカギになっている。ただ、実際にはディスクの出し入れを行なうメカニズムを実装せねばならない。

 W2の場合、パームレストが開閉する方式だが、パームレストに圧力がかかっても、フタが壊れず、光学ドライブの動作にも影響が出ないようにするためには、ある程度の増量は避けられない。軽量なW2の外殻の中で、パームレストだけが若干重くなっているのは、おそらくそうした事情からだろう。

HDDにはリムーバブルフレームが着かない(左下にHDDが見える) 101gの光学ドライブ パームレスト部分

●軽量化の弊害をいかに取り除くか

 もっとも、軽量化には犠牲も伴う。先週、日本アイ・ビー・エムの技術者の話として紹介したようにマグネシウム合金の筐体は0.8mmと0.6mmで、大きくその剛性が変わる。実際にW2の液晶パネル裏部分を指で押してみると、かなりたわみ量が大きいことがわかるはずだ。

 ただし、剛性面は落ちるものの、壊れやすさという面では、それほど大きな差はないという。そこでW2では、本体の厚みを大きく取り、自動車のボンネットのように立体的な成型を施すことで、剛性の強化と液晶パネルへのストレス増加を防いでいる。

 実は液晶パネルへのストレスをいかにして減らすかは、軽量なPCを作る上でひとつのハードルになっている。液晶パネルの重さは、表からもわかるとおり同じ12.1型でも上下で90gも差がある。仕様による差もあるが、ガラス基板の厚みが大きな差を生み出す。薄ければ薄いほど、軽量になるわけだ。

液晶パネル裏のカバーの内部。周囲に衝撃吸収パッドが見える

 しかしガラス基板が薄くなると、今度は液晶パネル自身の強度に問題が出てくる可能性がある。特に薄型化を意識するあまり、液晶パネル裏のカバーとの隙間を小さくしすぎると、たわみによって液晶パネルにストレスがかかり、故障や導光板へのキズといったトラブルを引き起こす。ThinkPadの場合、厚めの材質を使うことでこの問題をフラットなカバーのまま実現した。

 しかしLet'snote Lightの開発陣は、軽量化を優先させ、その代わりに薄型化や液晶パネル裏カバーのデザインといいった要素を捨てることでこの問題に対処した。パネルを凹凸に成形して剛性を高め、さらにパーツ間のクリアランスを大きくし、さらにその隙間に衝撃吸収用のパッドを挿入することで、問題に対処した。

 こうした取捨選択の判断を下しているところに、Let'snote Lightシリーズの開発コンセプトがよく表れている。やはり軽量化を徹底して行なった東芝のDynabook SS SXシリーズでも、同様のアプローチが採用されている。

ファンレスのマザーボード

 もうひとつの犠牲は、ファンレス化によるものだ。

 ファンレス化は信頼性向上や静音性といった面でポジティブな面が強調されがちだ。しかし、最近はファン制御もより細かくなってきており、プロセッサの省電力機能とも相まって、Pentium M機ではファン騒音が問題となることはほとんどない。特に超低電圧版採用機ならば、冷却ファンはほとんど回らない。またファンが故障した場合も、自動的にクロックが下がるなどの制御が行なわれるため、実際には大きな問題となることは少ない。開発を担当した松下電器の奥田茂雄氏は「信頼性を向上させることが第一。メカデバイスを少しでも減らすことで、外部の衝撃に強くなり、また長寿命化にも貢献する」と話すが、ファンレス化でもっとも恩恵を受けているのは軽量化面だろう。

 しかしファンレス化に伴い、フルスピードで連続稼働させるとオーバーヒート気味になる。これを抑制するために、W2は発熱が大きくなるとプロセッサのクロックを落としたり、スロットリングという手法でプロセッサを間欠運転させる。つまり、アプリケーションの動作状況や周囲の温度環境によっては、スペック通りのパフォーマンスを発揮できない可能性が出てしまう。

 この点について奥田氏は「モバイルで利用するアプリケーションには、スロットリングが必要になるほど高い負荷が連続する処理はほとんどない。松下電器としては、そうしたデメリットも考慮した上で、ファンレス化した方がユーザーの受けるベネフィットが大きいと判断した」と話す。この考え方の部分もまた、Let'snote Lightシリーズの性格をよく表していると言えよう。

●“まだまだ削れる”

 様々な部分で割り切った設計を行なうことで軽量化を果たしているLet'snote Lightシリーズだが、まだまだ軽量化の余地は大きいと奥田氏は話す。

 「W2における軽量化のカギは、外装パーツの軽量化とベアパーツを組み込んだ光学ドライブ部だった。しかし、外装関係の軽量化には実はまだ余裕がある。またW2では基板サイズの縮小は、それほど重視しなかった。基板サイズを最小化することで、かなりの軽量化を果たすことができると思う」と奥田氏。

 ただし軽くするだけが目的ではないともいう。「大容量バッテリを別途用意するのではなく、標準バッテリで十分な駆動時間を実現するのがLet'snote Lightシリーズのポリシー(奥田氏)」と話す通り、W2では様々な軽量化のアプローチを加えつつも、バッテリは18650型の6セルパックを採用した(R、Tシリーズは4セルパック)。

 今後も軽量化を推し進めるが、軽量化した分をそのまま軽くするのではなく、バッテリ容量構造など他の性能を向上させるために割り振り、携帯型PCとしての総合能力を最大化する方向で開発を進める考えとのことだ。

□関連記事
【1月21日】【本田】“重さ”に見るモバイルPCのコンセプト(その1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0121/mobile226.htm
【2003年5月15日】【笠原】光学ドライブ内蔵で世界最軽量“Let'snote W2”開発者に聞く
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0515/ubiq5.htm

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(2004年1月29日)

[Text by 本田雅一]


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