三浦優子のIT業界通信

Microsoft Officeとは異なる価値を示した「一太郎2004」


2月6日に発売される一太郎と花子
 しばらく、大きな動きがなかったワープロ、表計算などデスクトップアプリケーションに変化が起こっている。

 昨年秋に発売された、「Microsoft Office 2003 Editions」は、 Office Systemというコンセプトのもと、単なる清書マシンではなく、人と情報、共同作業の効率向上を目指すソフトを標榜。Sun Microsystemsの「StarSuite7」は、ソースネクストから1,980円というインパクトある価格で発売され、市場にどのような影響が起こるのかに注目が集まっている。

 それに対し、国産ワープロソフトである「一太郎2004」はパッケージデザインも一新され、「人が考えることを支援するツール」として、新たなワープロのあり方を提案しようとしている。2月6日の発売を間近に控え、ジャストシステムにお話を伺った。



●清書マシンではない、新たなコンセプト

一太郎ビジネスオーナー
小野央軌氏
 「今回のバージョンアップは、最近のバージョンアップの中では大きなバージョンアップとなる。社長の浮川も、この製品には非常に力が入っていて、説明を人任せにすることができず、自分でデモンストレーションを始めるほど。」

 ジャストシステムで・アプリケーション企画室 一太郎ビジネスオーナー 小野央軌氏はこう話す。最近の一太郎新製品会見では、出席はしても製品の説明等は自身で行なっていなかった浮川社長が、「自分でやる」と言い出すほど、一太郎2004に思い入れを見せる。

 浮川社長は常々、「ワープロの機能は行き着くところまで行き着いたといわれるが、そんなことはない。まだまだやることはある」とワープロの新しい可能性に言及してきた。その新しい可能性の一端を示したのが、今回の一太郎2004のようである。

 「これまでのワープロは、いわゆる『清書マシン』としての機能が求められたからなのだろうが、アウトプット部分にばかり注目が集まり、その部分の機能が焦点となっていた。だが、その前の段階、考えていく時点の支援を行うことを新しいコンセプトとするべきではないかという議論があって、生まれたのが今回の一太郎2004。もちろん、まだまだ至らぬ部分も多いものの、考えることを支援するための機能向上はこれからも続けていく。第一弾として、一太郎2004が生まれた」(小野氏)


●考えることを支援し、それを自動レイアウトする新機能

 考えることを支援するために、今回、加わった新しい機能が新しいユーザーインターフェイスと、「アウトラインスタイル」の名称の新機能である。

 「アウトラインスタイルは、論理的な文書を書くことを支援するための機能。この機能を利用する際、画面の上の部分が、1、2、3、本文と区分けされているが、簡単にいえば1は大見出し、2は中見出し、3は小見出しを指す。3つのうち、どこからでも入力できるし、最初は大見出しとしていたものを中見出しや、本文などに移動することもできる」

 1の大見出しは文章のポイントであり、自分が書こうとしている文書の主題となる。この主題がどう展開するのかを説明したのが2の中見出しであり、3はその項目となる。例えば、今回の一太郎について原稿を書こうとする際、まず、第一段落をどんな内容とするのか、最も言いたいことをことを要約したのが1であり、2ではそれをどう表現するのかのポイントを書き、3ではそれを掘り下げることで、自分がどんなことを書こうとしているのか、明らかになってくるわけだ。

 しかも、書き上げたものは、自動的にレイアウトされ、営業マンが客先に提出するような見栄えのいい提案書が自動完成する。

ATOKビジネスオーナー
稲野豊隆氏
 「ジャストシステムに勤務していても、レイアウトに凝った企画書を上司に提出すると、こんなレイアウトにばかり時間をかけてという一言が飛んでくる。イベントならいざしらず、日常使う提出書類については、レイアウトに凝ると、見やすいものができるものの、現実はそういうものを作りにくいのが実情ではないか。そうした状況を考えると、営業マンの人たちはかなり苦労して、見た目がよく、わかりやすい企画書作りをしていたのだろうと思う。今回、考えることを支援する機能と、体裁のよいアウトプットができる機能がシームレスにつながったことで、業務効率を大幅にアップするお手伝いができればと考えている」(アプリケーション企画室企画グループ ATOKビジネスオーナー 稲野豊隆氏)

 もう1つの新しい機能、「マルチビュー」では作成した文書について、3種類のビューを選ぶことができる。例えば1つは自分用に上司からチェックを受けたメモなどを貼り付け、1つは上司向けに企画の狙いなどを書き添え、もう1つを取引先に提出するためのものとするといった使い分けができる。

 「最初に書いた文書を残しつつ、新しいことを書き加えることができる。アウトラインスタイルが文書の構造で分ける機能であるのに対し、マルチビューは完成した文書を立体的に扱っていくための新たな機能となる」


●製品に自信があるから、Microsoft Officeとの連携機能を強化

 こうした新機能に加え、今回、最も強化されたのが、Microsoft Officeとの連携である。2月6日に同時に発売になる「花子2004」でも、Microsoft Officeとの連携は強化され、花子で作った図形をネイティブデータとしてPowerPointに貼り付けることもできる。このOfficeとの連携は、「開発段階でも、最も重視された部分」(小野氏)だという。かつて、一太郎とWordが、「どちらが、日本で最も高いシェアをもつワープロか」と熾烈な争いを繰り広げられていたのとは隔世の感がある。

 「Microsoft Officeについては、もはや企業でも、個人でもインフラに近い感覚で使われているソフトだと認識している。そこで競合して、一太郎だけ使ってもらうというよりは、一緒に使ってもらうという提案をする方がユーザーにとってはメリットが大きいだろうと考えた」(小野氏)

 どちらか1つではなく、一緒に使ってもらうためには、ユーザーが一太郎や花子にそれなりの価値を見出すことが前提となる。つまり、その価値となるのが、「考えることを支援するワープロ」というコンセプトなのである。

 同じワープロといっても、機能に特徴をもち、それが他社にないものだという自信があるからこそ、Microsoft Officeとの連携機能を強化することが実現できた。

 その意味で、1,980円という思い切った価格で一太郎2004発売前日の2月5日に発売される「StarSuite7 パーソナルパック」についても、「日本人が使うためのワープロの完成度としては、一太郎の方が上だという自負がある。だから、StarSuiteの利用者がワープロだけは一太郎を使ってもらうということも可能だと思う。さらに、現在のワープロソフトは製品数が少なすぎる。例え、1つの製品が素晴らしくとも、現在の2種類、3種類しかないという状況では選択肢が少なすぎる。むしろ、お互いに切磋琢磨してソフト市場を拡大しましょうという意味でも、新しいパッケージソフトの登場は歓迎すべきことだと思う」(小野氏)と強気とも思える見方を示している。


●労苦の歴史あらわすATOKに残ったバージョンナンバー

 今回、浮川社長が記者会見で発言した通り、「毎年、新しいパッケージを発売していく」ことから、一太郎、花子はバージョンナンバーではなく、「一太郎2004」のように年号が商品名につけられた。

 だが、ATOKについては、「ATOK17」とバージョン番号が残った。この理由は、「パソコン以外にも、携帯電話、PSXにもATOKが入っている。機器ごとに、どのバージョンが入っているのか、管理をすることに加えて、ATOKのこれまで頑張ってきた歴史を知って欲しいと考えた」ことから、バージョン番号が残された。

 一太郎の歴史は、日本のワープロの歴史そのものでもある。ATOKのバージョンが、その伝統と労苦を伝えるのだ。

□ジャストシステムのホームページ
http://www.justsystem.co.jp/
□関連記事
【2003年12月3日】ジャストシステム、一太郎/花子2004とATOK17を2004年2月に発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1203/just.htm
【1月15日】ソースネクスト、StarSuiteを1,980円で販売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0115/source.htm
【2003年8月26日】マイクロソフト、統合オフィスソフト「Office 2003 Editions」を正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0826/ms.htm

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(2004年1月23日)

[Text by 三浦優子]


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