笠原一輝のユビキタス情報局

過去最高の立ち上がりの90nmプロセス。
それでも後退するmPGA478 Prescott




 11月5日、Intelは都内のホテルにおいて同社の製造技術に関するセミナーを開催し、High-kと呼ばれる新しいゲート絶縁膜を、2007年に導入を予定している45nmプロセスルールにおいて導入することを明らかにした。High-kの導入により、トランジスタのゲートから漏れ出る漏れ電流が低減され、微細化されたプロセスルールの泣き所といえる漏れ電流を削減することが可能になる。

 また同時にIntelは、歪みシリコンなどを採用した新しい90nmプロセスルールに関する説明を行ない、「過去最高の立ち上がり」などと90nmプロセスルールが順調に立ち上がっていると強調した。

 が、来年の第1四半期には予定されていなかった0.13μmのPentium 4 XE/Pentium 4 3.40GHzが投入されるという話が、OEMメーカー周辺から漏れ伝わってきている。

●順調な90nmプロセスルール、過去最高の立ち上がり

 Intelが、90nmプロセスの立ち上げに向けて盛んにアピールしている。

 今回の製造技術に関する説明の、90nmプロセスに関する内容は、9月に米国で行なわれたIntel Developer Forumで行なわれたものとほぼ同じで、その時にも盛んに「90nmプロセスはヘルシー(順調)」と強調していた。OEMメーカーの関係者によれば、IntelはOEMメーカーに対しても90nmプロセスの立ち上がりが非常に速いと説明しているという。

 今回のセミナーの中でも、インテル株式会社 取締役兼開発・製造技術本部長の城浩二氏は「90nmプロセスルールの歩留まりの向上は、これまでのどのプロセスルールよりも速いペースで立ち上がっている。まもなく0.13μmと同じレベルに達するだろう」と述べ、同社の90nmのプロセスルールが順調に立ち上がっていることを強調した。

 P1262と呼ばれるIntelの90nmプロセスルールは、低誘電率(Low-k)の層間絶縁膜であるCDO、7層の銅配線などで構成されている。トランジスタのゲート長は50nmで、歪みシリコン(ストレインドシリコン)と呼ばれる新しいシリコン基板を利用することで、トランジスタに供給する駆動電圧を10~20%程度向上させ、トランジスタの性能をさらに向上させる工夫も加えられている。

 Intelが90nmプロセスは順調だと盛んにアピールしなければいけない背景には、90nmプロセスが実際順調なのに、実際の製品は徐々に後退していっているという背景があるからだ。

 90nmプロセスルールの製品は、デスクトップPC向けのPentium 4となるPrescott(プレスコット)と、モバイル向けのPentium MとなるDothan(ドサン)という2つの製品が予定されている。すでに90nmプロセスルールの製品は製造が開始されており「第4四半期には売り上げがある予定だ」(Intel 副社長兼デスクトッププラットフォームグループジェネラルマネージャ ルイス・バーンズ氏)との通り、OEMメーカーに対しては第4四半期中には出荷される予定だ。

 ただし、すでに本誌でも既報の通り、OEMメーカー筋の情報によれば、両製品とも発表自体は2004年にずれ込む公算が高くなっている。

インテル株式会社 取締役兼開発・製造技術本部長の城浩二氏 90nmのトランジスタ。歪みシリコンなどの新しい技術が採用されている 各プロセス世代の欠陥率を示すグラフ。90nmプロセスでは急速に欠陥率が改善されており、まもなく0.13μmと肩を並べるという

●Pentium 4 XEとNorthwoodコアPentium 4の3.40GHzを投入。後退していくmPGA478のPrescott

 PrescottやDothanの出荷が延期された原因は、思ったよりも発熱量が大きく、様々な問題が発生しているため、と推測されている。Prescottに関しては後藤弘茂氏のレポートが詳しいので、そちらを参照して頂きたいが、要約すれば、思ったより発熱量が増えてしまったため、バスインターフェイス周りの問題が発生し、パッケージを変更したり、ダイ自体に手を入れなければいけなくなってしまったのだ。

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはPrescottの発表を1月から2月と説明しているが、今後そのプランはさらに後退していく可能性も出てきているという。

 IntelはOEMメーカーに対して、2004年の第1四半期に0.13μmプロセスルールで製造されるPentium 4 Extreme Edition(Northwood-2M、L3キャッシュ2M版)の3.40GHz版と、Pentium 4(Northwood) 3.40GHzを投入する計画を明らかにしたという。

 Intelが、元々プランになかったPentium 4 XE 3.40GHzとNorthwoodコアPentium 4 3.40GHzを決めたのは、ぎりぎりのスケジュールで動いているPrescottの投入計画がうまくいかなかった時へのバックアップであるというのは、ほぼ間違いないだろう。現在、Prescottの製品スケジュールは、12月初旬に製品出荷版(C1ステップ)とほぼ同等のサンプルを配布し、12月末にそのC1ステップの大量出荷を開始というかなりギリギリのものとなっている。何か1つでも手違いがあれば、スケジュールがさらに遅れる可能性も捨てきれない。そうなれば、大量に製品を出荷する大手OEMメーカーが必要とする量を、出荷できない可能性もある。

 しかし、すでに3.20GHzのPentium 4を出荷している大手OEMメーカーにとって、来年の第1四半期に発表を予定している春モデルに同じクロックのCPUを搭載するのは難しい相談だ。新モデルを出す意味が薄れてしまうからだ。そこで、最悪の事態にも対応できるように、NorthwoodコアのPentium 4 3.40GHzのプランを用意したのだろう。

 ただし、Intelは現時点でもPrescottのC1ステップのスケジュールは順調であると説明しているようで、2004年の第1四半期にはそれなりの数のPrescottを供給できるはずだとOEMメーカーに対して説明している模様だ。このためOEMメーカー側では、Prescottが間に合わなかった時に、Northwoodの3.40GHzモデルを出せるように準備だけはしつつ、Prescottのアップデートを待っているのが現状だ。

 仮にPrescottの発表が1月から2月にかけて発表するスケジュールが若干遅れてしまった場合には、OEMメーカーは春モデルにNorthwoodコアのPentium 4 3.40GHzを採用することになる。そうなってしまった場合、5~6月頃に投入される夏モデルには新しいチップセットであるGrantsdaleを採用する公算が高いので、CPUもGrantsdaleに対応したLGA775版に移行することになる。そうなると、mPGA478のPrescottの位置付けは微妙なものになる。

●多大な投資を行なった0.13μmのキャパシティが、余裕が生む

 それにしても、200平方mmを超えるダイサイズのPentium 4 XEといい、もともとプランになかったNorthwood 3.40GHzといい、Intelのプランになかった製品を急遽投入するのが、最近目に付くようになっている。確かにPentium 4 XEもNorthwood 3.40GHzも、バックアッププランとして検討だけはされており、バリデーション作業だけはかなり前から行なわれていたと、多くのOEMメーカー関係者が証言する。それでも、急に決断したからといって、いきなり多数のOEMメーカーの要求に応えられるような数を作れるというのは、製造面の余裕がある証拠だ。

 今のIntelにはそれだけの余裕がある。というのも、Intelは0.13μmプロセスの工場に、過剰ともいえる投資を行なっており、キャパシティにはかなり余裕があるからだ。Intelの0.13μmプロセスの工場は表のようになっている。

【Intelの0.13μmプロセスの工場】 (出典:Intel Microprocessor Forecast:Challenge for the Future、Kevin Krewell/In-sat/MDR)
工場名立地ウェハサイズキャパシティ
(単位:ウェハ/週)
Fab20ヒルズボロ/オレゴン州200mm4,000
Fab22チャンドラ/アリゾナ州200mm7,500
D2Pサンタクララ/カリフォルニア州200mm2,500
Fab17ヒューストン/テキサス州200mm4,000
D1Cヒルズボロ/オレゴン州300mm2,000
Fab11Xリオランチョ/ニューメキシコ州300mm8,000

 このうち、製造キャパシティの数に関しては、Microprocessor ForumでMicroprcessor Report誌のKevin Krewell氏が行なったセミナーの中で公開されたデータで、Intelが正式に公開しているものではない。

 見てわかるように、Intelの0.13μmの製造キャパシティは非常に膨大なものとなっている。Intelの半導体は多岐にわたっているため、このすべてがCPUのために使われている訳ではないが、それでもIntelの収益の大部分をIA-32プロセッサが稼ぎ出しているという現状では、多くの部分がIA-32に割り当てられていると考えることができるだろう。

 どのぐらいすごいかと言えば、現在AMDがCPUを製造しているFab30(ドイツ、ドレスデン市)の製造キャパシティが5,000ウェハ/週であると言えば理解して頂けるだろうか。しかもAMDのFab30は200mmのウェハを利用して製造されているが、Intelの0.13μmの1/3は300mmウェハとなっており、300mmウェハではおおまかに言って倍のダイがとれると考えられるので、それを勘案すれば差はさらに大きくなる。

 といっても、これはAMDの工場が小さいというのではなくて、Intelの0.13μmのキャパシティが必要以上に大きいと考えるのが正しい。AMDは常々、Fab30では世界のPC向けCPUの30%を製造できるキャパシティがあると説明している(現時点でのシェアは20%程度だが)ので、仮にAMDとIntelが3:7であるとすれば、Intelには12,000ウェハ/週ぐらいで十分なはずなのだが、実際には200mmで18,000ウェハ/週、300mmで10,000ウェハ/週となっており、かなり余裕がある状態であると言っていいだろう。

 多くの関係者はこれこそ、Pentium 4 XEやNorthwood/3.40GHzのようなプランを急遽実行できる理由であると指摘する。AMDがどんなにマーケティング上の知恵を絞り、Athlon 64 FXのようなプランを実行に移したとしても、返す刀(Pentium 4 XE)で反撃されてしまうのは、基礎体力の差だというのだ。

 そうした意味で、AMDが今後、Intelと戦っていくためには、Intelに対抗しうる製造キャパシティをどのように構築していくかということにかかっているということができるだろう。米国時間の本日(6日)に、AMDは米国でアナリストミーティングを開催する予定になっている。この中で、AMDが製造面でどのようなアップデートを行なうのか、そのあたりに注目していきたいところだ。

□関連記事
【11月5日】インテル、45nmプロセスに向けたリーケージ削減技術などを発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1105/intel.htm
【9月12日】【海外】Prescottの遅延理由ついに判明
~バスインターフェイス不具合でステッピング変更
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1027/kaigai038.htm

バックナンバー

(2003年11月4日)

[Reported by 笠原一輝]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp 個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.