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CPU/GPUの熱増大で水冷技術にスポットが




●浮上してきた水冷ソリューション

水冷システムの導入が急務になりつつある

 「1年前なら笑ったが、今は真剣に考えている」と、あるPC業界関係者は水冷技術について語る。

 実際、2002年春のIntel Developer Forum(IDF)に日立製作所が水冷PCを出展した時、業界の多くはややキワモノ的に見ていた。水冷がPCに見合うソリューションとは、多くの人が考えていなかったからだ。だが、今では、明らかに様相が変わっている。台湾ベンダーのほとんどが、水冷について、少なくとも社内での研究・検証は行なっていると話す。COMPUTEXではプライベートブースに水冷システムを展示するところもあった。

 また、日立製作所がパートナーと11月に台湾で水冷システムのセミナーを行なったところ、「予想を大きく超える200名以上の参加者があった」(日立製作所、源馬英明氏、情報・通信グループ戦略事業企画室 戦略技術事業化推進センタ長)という。日立の水冷技術のライセンスパートナーも、現在台湾で3社に増えた(そのほかに日立電線)。ここへ来て、水冷は明らかに選択肢として浮かび上がっている。

 台湾ベンダーが水冷を検討または採用し始めた背景には、もちろんCPUや周辺デバイスの消費電力が急上昇しているという事情がある。

 今週のレポート「Intel、90nmプロセスCPU全品遅延の理由」で紹介したとおり、Intel CPUは限界と言われる140Wへ向けて突っ走っているように見える。そのため、多くのベンダーが、Prescott以降のCPUの熱処理について懸念を抱いている。ある、ベンダーのマザーボード担当者は、「Intelのソリューションは、壁にぶち当たりつつある。PlayStation 3が登場したら、Pentium 6世代のCPUでは勝てないだろう」とまで言ってのけた。ボードベンダーからこうした声が出始めたあたりに、開発現場での危機感が反映されている。

●家電やスパコンの技術蓄積を応用

キューブ型ケースに水冷システムを搭載したもの

 PCでの水冷の利点は、熱伝導性が高いので効率的にリモート冷却できること。結果として、大型ファンとヒートシンクを使うことで、静音化ができる。また、小型筺体でも、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の高いデバイスの搭載が容易になる。

 NECの採用したシステムでは、CPUの熱を背面の大きなヒートシンク&ファンに伝導させて冷却して静音化している。COMPUTEXでは、日立はプライベートブースで流行のキューブ型ボックスで水冷のソリューションを展示していた。これも、32dB以下にノイズを抑える。また、同社の1Uサーバーソリューションでは、水冷機構を使うことで113WまでのCPUをデュアルで搭載できるようにしている。Prescott/Tejas世代のCPUのTDPが予想よりますます上がって行くと、さらに水冷が注目されるようになるかもしれない。

 もっとも、効果はわかっていても、水冷に対する懸念はまだ多い。「水漏れが起きたら基板がダメージを受ける。CPUの差し替え時の問題もある」とあるボードベンダーは言う。こうした問題は、既存のPCの冷却技術では蓄積がないため難しい。

 しかし、PC以外の分野では、じつは水冷液冷はすでに技術の蓄積がある。例えば、スーパーコンピュータなどでは、以前から液冷が使われていた。また、エアコンや冷蔵庫などの家電を作るメーカーも、豊富な技術蓄積を持っているという。「パイプなどは系列のエアコンをやっている部署の技術を持ってきた。彼らは、分子透過の問題や素材の寿命、コストなどを熟知している」と日立は説明する。日立が現在この分野でリードしているのは、スパコンと家電という2つのルーツがあるからだ。

 他分野での技術的な蓄積を利用することで、技術な問題はクリアできるとしても、コストは依然として問題が残る。「25ドル以下になったら、使いたいと言っているところは多い。現状では難しいが、量が出てくれば変わる」(日立)という。

 このあたりは、熱処理に対するベンダーの考え方が変わってきたことをうかがわせる。Pentium III時代には、デスクトップでは冷却システムのコストは7ドルと言われていた。それが今では25ドル以下ならと言い出している。「コストより以前に、冷却できるかどうかが重要になってきた。特に、小さな筺体にPrescottを押し込むのは難しい」とあるベンダーは説明する。つまり、CPUの熱の上昇とともに、冷却技術に対するコストはどんどん上がっているため、水冷にチャンスが産まれてきたわけだ。

 CPU側がもっと積極的に水冷にアダプトすれば、さらに効果を上げることができるという。例えば、現在のIntel CPUはヒートスプレッダで覆われており、その上にアタッチ素材を挟んで水冷のモジュールを載せている。そのため、間の素材で無駄な熱抵抗が生じている。「もし、ウォータジャケットつきのパッケージを作ったら、ずっと効率を上げることができる」と日立製作所の中西正人氏(情報・通信グループ、戦略事業企画室 戦略技術事業化推進センタ主任)は指摘する。

●グラフィックスでも水冷が注目

 水冷を検討し始めたのはPCベンダーやボードベンダーだけではない。GPU/グラフィックスカードの冷却機構でも、水冷・液冷は注目を集めている。

 実際、COMPUTEX前後のインタビューでも、むしろグラフィックスカードの担当者から、水冷の話が頻繁に出て来た。それは、グラフィックスカードの熱が鰻登りに上がっているからだ。「グラフィックスカードの冷却ソリューションはどんどん難しくなっている。ノイズが少なく、効率的で、信頼性の高い冷却機構の開発は急務だ」とあるグラフィックスカード関係者は語る。

 また、あるGPUベンダー業界関係者も「NECの水冷PCは、本社でも大きな関心を呼んだ。GPU開発でも熱をどうするかは最大の問題になりつつあり、技術者が詳細に分析した」(GPU関係者)と語った。

 現在のハイエンドグラフィックスでは、GPU単体の消費電力が35Wを超えており、メモリもチップ当たり数Wずつ消費する。グラフィックスカードが、第2の巨大な熱発生源になりつつあるのだ。ところが、デスクトップPCでは、Prescott世代では筺体内の温度を38度以下に保つスペックが要求される。そのため、グラフィックスの熱を効率的に筺体外へ排出しなければならない。ところが、それを考えたGeForce FX 5800(NV30)のソリューションは、当然の話だが騒音がひどく嫌われてしまった。「Intelは自社のCPUの熱対策は考えているが、他のデバイスのことは考慮しない」(業界関係者)ため、GPUとグラフィックスカードベンダーは水冷も視野に入れ始めたというわけだ。

 もっとも、大きな視点で見ると水冷も本当の意味では、CPU/GPUの熱に対する回答にならない。当たり前の話だが、水冷も結局は熱交換しているだけで、電力消費そのものは減らしていないからだ。じつは、そっちをどう減らすかの方が、さらにやっかいな問題だ。CPUやGPUの電力消費がこのまま増え続けると、その増加だけで原子力発電所1個分が必要になるという説もあるほどだ。

 しかし、こちらの解決は難しい。というのは、CPUの消費電力と熱が増えるのは、現在のCMOSプロセスの抱える根本的な問題に起因するからだ。

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【10月10日】【海外】Intel、90nmプロセスCPU全品遅延の理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1010/kaigai031.htm
【7月22日】【海外】この夏、Prescottが熱い。消費電力は来年頭に100Wオーバーへ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0722/kaigai005.htm

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(2003年10月10日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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