●密接にリンクするXDR DRAMとPlayStation 3のスケジュール 次世代PlayStation(PlayStation 3?)は、“おそらく”2005年の中盤までに登場する。そして、2006年までにはワールドワイドで展開、PlayStation 2の2年目と同程度の台数が出荷される。その後も、PlayStation 2と同程度のペースで増えて行くと予想されているらしい。DRAMベンダーのXDR DRAM(Yellowstone:イエローストーン)メモリ生産計画から、こうしたPlayStation 3の展開が見え始めた。 今回、PlayStation 3とそのメモリ(になると言われる)XDR DRAMは、スケジュールの面で密接にリンクしている。その点が、RDRAMを採用したPlayStation 2の時とは全く異なる。 PlayStation 2の時は、SCEIはメモリのスケジュールについて、それほど心配する必要がなかった。IntelがPCメインメモリとして採用しつつあったからだ。 RDRAMをサポートするIntel 820チップセットが登場するはずだったのは'99年9月。ドタキャン騒動があったとはいえ、その時点ではすでにSCEIに供給する東芝を含めた主要DRAMベンダーの半数は、RDRAMの生産態勢を整えていた。つまり、PlayStation 2が発売される2000年3月よりもずっと前にRDRAMメモリの準備は整っていたわけだ。実際にはPlayStation 2用は多少の仕様の違いがあるので、すべてのRDRAMベンダーがすぐ供給できるわけではなかったが、仕様もかなり前から固まっており、不安材料は少なかった。 ところが、今回は、CPUであるCellプロセッサとグラフィックスチップだけでなく、DRAMまでPlayStation 3に合わせて新規に開発される。しかも、XDR DRAMの独特のインターフェイスは、他のDRAMと互換性がほとんどないから、別なメモリを代用することもできない。だから、XDR DRAMのスケジュールは、完全にPlayStation 3のスケジュールとリンクすると想像される。 ●2005年第1四半期に焦点を合わせたXDR DRAM XDR DRAMの開発で先頭を切っているのは、最初からSCEIと関わっていて、最初にRambusからライセンスを受けた東芝だ。東芝セミコンダクター社 メモリ技師長の斉藤昇三氏は次のようにスケジュールを説明する。 「Rambusと最初に契約して、(XDR DRAMの)設計はかなり前からやっている。年内にはファーストシリコンを出し、2004年第1四半期にサンプルをユーザに渡せると思う。量産は2005年第1四半期に開始したい」
エルピーダメモリのサンプルスケジュールは東芝より若干後ろで「顧客に出せる、完全に問題がない形の(サンプル)は来年の中頃、第3四半期までにはと考えている。量産は2005年の頭」(エルピーダメモリ、犬飼英守氏、マーケティングアンドデザイニングオフィス、チーフストラテジオフィサー)という。 量産開始時期が同じなのは、PlayStation 3に合わせているからだと推測される。というのは、XDR DRAMは立ち上がり当初は、PlayStation 3以外に需要の大きなアプリケーションがないと言われているからだ。だとしたら、XDR DRAMのスケジュールは、PlayStation 3に合わせて設定されているはずだ。つまり、PlayStation 3の生産が2005年第1四半期に始まることになっているから、XDR DRAMの量産開始もその時期に設定されていると考えられる。 RambusからXDR DRAMのライセンスを受けたばかりのSamsung Electronicsは、最初のサンプルが来年初めとアグレッシブなスケジュールを言う。しかし、実際には、開発はこれからなので、東芝を追うカタチになるはずと、あるDRAM業界関係者は指摘する。
では、こうしたXDR DRAMのスケジュールは、どのようにPlayStation 3の開発スケジュールと絡んでくるのか。 ●カスタマサンプルの時期と絡む ゲーム機の開発スケジュールはPCとは大きく異なる。それは、ハードウェアの発売と同時に、ある程度の本数のゲームタイトルも揃っていなければならないからだ。 そのため、ハードウェアはソフトウェア開発にかかる期間(9~12カ月)を見て開発しなければならない。つまり、ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)が正式にPlayStation 3を発売するより9カ月前に、開発プラットフォームをメインのソフトウェアベンダーに提供しなければならない。もちろん、開発プラットフォームにはCellプロセッサとXDR DRAMとグラフィックスチップが揃ったターゲットマシンが含まれていないとまずい。 もっとも、この開発プラットフォームは、最初のバージョンではまだサンプルレベルのチップを載せて出してもいい。もちろん、それだけの数量のサンプルが出ればの話だが、動作周波数がターゲットに達していなくても、バグが残っていても、とりあえずある程度のテストはできるわけだ。実際、過去の各社のゲーム機の例を見ても、少なくともロジックチップについては、開発プラットフォームはその程度の完成度だったケースが多い。 そう考えると、開発プラットフォームが提供される時期とXDR DRAMのスケジュールのリンクが見えてくる。 まず、SCEIがXDR DRAMを開発ターゲットマシンに搭載できるのは、完成度がそこそこ高いカスタマサンプルがDRAMベンダーから多く提供され、SCEIがそれを(Cellプロセッサと組み合わせて)ある程度の検証を行なってからになる。実際にはCellも東芝とSCEIのコラボレーションで製造されるので、東芝社内での検証もCellのインターフェイスに合わせて行なわれるかもしれない。 DRAMベンダーがカスタマサンプルを出せるのは、ファーストシリコンができて、それを評価してクオリファイしてからとなる。東芝の場合、カスタマサンプルは2004年の第1四半期だ。もちろん、これはシリコンが順調な場合で、もしカスタマサンプルも出せないような大きな問題が見つかった場合は、もう1回シリコンを作り直す。そうすると、1四半期ずれてしまう。 現在の東芝の予定では、カスタマサンプルから量産までは1年。この期間が、ちょうどSCEIの開発プラットフォームで、ソフトベンダーがタイトルを開発する期間となる。1年というのは、DRAMにしてはゆったり目のスケジュールだが、それは、SCEIのスケジュールに合わせたためだと思われる。 では、このXDR DRAMのスケジュールを、ゲーム機の一般的なスケジュールに当てはめて見よう。すると、次のスケジュールが推測できる。
もちろん、チップのうちのどれかが遅れたりすると、このスケジュールはずれ込む可能性がある。Cellやグラフィックスチップも、XDR DRAMと同じようなスケジュールで上がって来ないと間に合わない。そうすると、Cellもファーストシリコンは年内か来年頭となり、必然的にテープアウトは今年第3四半期から第4四半期前半となる。つまり、今頃は、もうPlayStation 3チップの開発は、かなりのところまで進んでなければならないというわけだ。 ●PlayStation 3の生産予測が透けるXDR DRAMの市場予測 XDR DRAMの生産計画や“潜在”市場の予測も出てきた。そのため、PlayStation 3の生産見込みもおぼろげながらつかめ始めた。まずXDR DRAMの生産計画はどうなっているのか。 「四日市の130nmの既存の8インチのラインで量産を始める。当初は100~200万個/月くらいだと思う。たぶん、2005年中はそのくらいの規模で、推移する。2007年には市場は3~4億個になると思っている。そうなったら、(XDR DRAMベンダー各社が)1社当たり1,000万個くらいづつ作らなければならない」(東芝、斉藤氏) 「最初は、100~200万個くらいからスタートして、2007年には500万/月を越えるという“期待値”を持っている。もちろん、あくまでもセットに合わせての生産だから、当然それだけのポテンシャルがなければ作るわけにはいかないが」(エルピーダ、犬飼氏) つまり、決まっているのは、出だしは100~200万個/月程度でスタートすること。あとは市場の拡大に応じて生産するが、潜在的には年数億個の市場規模を期待しているというわけだ。 では、潜在的な市場規模の予測はどうなっているのか。東芝が示した予測は、かなり強気だ。
この図のうち、赤の部分がPlayStation 3を含むデジタルコンシューマ機の予測需要だ。デジタルコンシューマには、PlayStation 3以外の機器も含まれる可能性がある。しかし、少なくとも最初の段階ではデジタルコンシューマ需要と言っているうちの大半がPlayStation 3需要だと推定される。 図を見ると、デジタルコンシューマ向けXDR DRAMの潜在市場は、2005年前半は数百万個程度なのに、2005年後半は約2,500万個、2006年前半では約5,000万個、2006年後半では約7,000万個、2007年では約1億5,500万個程度へと拡大している。 では、これがPlayStation 3の普及予測にもとづくとしたら、どうなるのか。PlayStation 3が4個のXDR DRAMを積むと仮定して、この数字を単純に4で割ってみる。すると、2005年前半はおそらく100万台前後かそれ以下、2005年後半は600万台、2006年は3000万台、2007年は4000万台近くとなる。 これをPlayStation 2の出荷実績と比較するとどうなるのか。PlayStation 2は2000年3月発売で、2000年前半で254万台、後半で386万台、2001年は前半1,109万台、後半1,390万台で合計2,499万台、2002年に4,959万台となっている。 こうして見ると、XDR DRAMの市場予測から導き出されるPlayStation 3の予測生産計画と、およそのペースは合っている。また、そのことからも、PlayStation 3に搭載されるXDR DRAMが4個であることが推測できる。もし2個だったら想定されるPlayStation 3出荷数も2倍になるので多すぎる、8個なら半分になってしまうので少なすぎる。 ただし、この数字を見る限り、2005年前半は、かなり限定された市場しか見込まれていない。もちろん、これだけで正確なことは何もわからないが、生産開始が2005年前半で、発表は中盤というところかもしれない。実際の話、DRAMの量産の計画と、最終製品の発売には、その程度のずれがあってもおかしくはない。 いずれにせよ、シリコンが上がっていない状態では、具体的な発売日程などは、まだSCEIにとっても見えていないだろう。あくまでも作る側の期待値ということだが、それでも、計画だけはこれで見えてきた。
□関連記事 (2003年7月18日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
【PC Watchホームページ】
|
|