●次世代Officeのセミナーに参加 6月3日、マイクロソフトはプレス向けにOfficeテクニカルセミナーと題した説明会を開催した。Microsoft Officeをやめ、StarSuite 6.0に切り替えた筆者ではあるが、次のOfficeがどうなるのか全く興味がないわけではない。説明会に出席することにした。 説明会の冒頭で語られた次期Office(Office 2003)の位置づけは、「業務アプリケーションのフロント」というもの。企業内の様々なセクションに散在するデータ(相互利用されないことから「データの孤島」とマイクソフトは呼ぶ)を、XMLにより意味づけを行ない、相互利用、再利用を可能にしようというものだ。Office 2003に含まれるWord 2003、Excel 2003は、カスタムスキーマをサポートする(ユーザーがXMLの構造を定義可能になる)など、現行のOffice XPよりXMLデータのハンドリング性が向上する。また、新たにOfficeのメンバーとなるInfoPath 2003は、XMLデータの入力フォームの開発、そのフォームを用いたデータ入力が可能となる。 XMLによりデータの意味づけを行なうことで、データの再利用が可能になる、というのはまことに結構なことだと思うが、筆者にはあまりピンとこない。その大きな理由の1つが、筆者個人がXMLによりデータを共有するような環境にいない、ということであることは疑いようのない事実だ。筆者の環境には、バックエンドのサーバなど存在しないし、バックエンドのサーバで処理する必要のあるデータも存在しない。零細個人事業主とはそんなものではないかと思う。
●XMLにおける日本語の問題 もう1つ、ピンとこない理由は、XMLがあればデータの再利用が可能になるほど問題は単純ではない、と考えるからだ。それには様々な障害があるだろうが、ここでは日本語の問題を挙げておきたいと思う。 151-8533 東京都渋谷区笹塚 1-50-1 笹塚 NA ビルディング これはマイクロソフトのWebページからコピー&ペーストした同社の本社所在地の住所である。だが、おそらく正式な住所表記は、 笹塚1丁目50番1号 笹塚 NAビルディング ではないかと思う。また、コンピュータに入力するデータということでは、1、50といった数字、NAという英文字は、いわゆる半角もあれば全角もある。半角と全角を意識的に使い分けなくても、入力ミスで混在してしまうこともあるだろう。そう考えると、数字や英文字のそれぞれが半角と全角の順列組み合わせの数だけ住所表記があるかもしれない。会社によっては、建物の名前が省略できることもあるだろう。 もちろん住所表記がどれであろうと、少なくとも、郵政公社は間違いなく郵便物を届けてくれる。だが、データとして入力されてしまえば、何らかの工夫を凝らしてデータの正規化を行なわない限り、コンピュータは別のものとして扱う。こうした表記のゆれは、住所に限らず日本語ではよくあることだ。“I/Oデータ機器”なのか、“アイ・オー・データ機器”なのか、はたまた“I/Oデータ機器”という表記も考えられる。ひょっとすると“キヤノン”を“キャノン”と間違うかもしれない。株式会社をフルスペルで記述するか、(株)で省略するか、カッコは半角か、全角か、はたまた1文字の機種依存文字はどうなのか、など考えるとキリがなくなってくる。それでも会社名のような固有名詞であれば正解があるだけ救われる。インターフェイスなど一般のカタカナ語の表記となると、もうルールの設定しだいだ。 ある限定された集団、あるいはデータ入力専門の部署がデータの入力を行なうのであれば、システムとしてのデータの正規化がなくとも、運用上(マニュアル等によって)データ表現の統一を図ることがある程度は可能だろう。しかし、XMLをサポートしたOfficeによるデータの入力ということは、1人1人の社員がデータのエントリを行なうということであり、運用でデータ表現の統一を図ることなど実際的には不可能である。システム側でデータの正規化を行なう工夫がなければ、せっかく入力されたデータも、実際には使い物にならなくなるだろう。電話番号、あるいはカスタマIDといった一意のデータをタグにして、表記のブレを定期的にチェックする、ということは可能だが、機械処理ができない(引越しや町名変更など、単純な判断はおそらく不可能)ため、膨大な手数が必要になる。結局、同じところから同じダイレクトメールが何通もくるという悲劇? が繰り返されるのだ。
●まだ遠い真の日本語版への道 Office 2003ではデータの妥当性検証が加わっており、入力フィールドのデータに、文字列型、メールアドレス型、整数型、画像型などを設定、それに合致しないデータを警告してくれる。が、上述したような日本語に固有の問題についての拡張は行なわれていないという。それを考えると、今のXMLはまだ初期のWordのようなものなのかもしれない。単に日本語が通ることに毛が生えたレベルで、真の日本語版へはまだ辿らねばならない道のりがある、というわけだ。Wordは今でもバタ臭い日本語ワープロだと思うが、それでも罫線のサポートや禁則処理など、日本語独自の拡張が施されている。筆者はXMLが企業における有効性を否定しているわけではない。XMLが日本で効力を発揮するには、日本語に応じたローカライズ(あるいは、XMLそのものではなく、XML以前の日本語プリプロセス処理)が必要なのではないかと思っているだけだ。 話がそれるが、同じ意味で不満を感じるのがWebの入力フォームだ。オンラインショッピングやユーザー登録など、Webで住所等を入力する(させられる?)機会は少なくない。が、7ケタの郵便番号を入力させた挙句、都道府県名から住所を入力させるのは、単に日本語が通るだけのフォームであり、ずいぶん失礼な話だと思う。「コンピュータ」とか「IT」とかを名乗るのであれば、郵便番号を入力したら、町名まで自動的にフィルして、次は自動的にカーソルが町名の枝番のところに飛んで当然だ。住所の数字を全角で入力したら半角で再入力しろというエラーメッセージが出るなんてのは最低である。数字の全角・半角変換なんてコンピュータの得意技のハズ。黙って変換して確認を求めるのが当たり前ではないか(本当は漢数字からの変換だってサポートすべきだろう)。こんな単純作業をユーザーに押し付けておいて、ITだのWebサービスだの名乗るのは、ずいぶんとおこがましい話だと思う。そんな入力フォームを放置しているWebサイトがいかに多いことか(まぁ、いかに開発ツールが貧弱で、ローカライズされていないことの表れなのだろうが)。
●個人には個人向けのOfficeを さて、Office 2003だが、上述したように、バックエンドのサーバなどない、そこで処理すべきデータなど持たない筆者には縁遠い代物のようだ。それで思うのは、企業向けのOfficeスイートと個人向けのOfficeスイートは、別にすべきなのではないか、ということだ。以前、Windowsについても同じことを述べたが、Officeも同じことだ(単にバージョンアップしなければ良い、という話もあるが、古いOfficeを新しいOSにインストールしようとすると、警告めいたメッセージが出て気分が悪い)。確かにOffice Personalという商品はあるが、単にいくつかのコンポーネントが間引きされているだけで、含まれている個々のアプリケーションは上位版と変わらない(この関係はWindows XP ProとHomeの関係に似ている)。せめて、パーソナルからはXML関連の機能を抜く代わりに、劇的に価格を下げるくらいのことはして欲しいと思う(理想を言えば、パーソナル向けにはパーソナル向けに企画・開発されたアプリケーションが欲しいのだが)。 価格ということでは、5月27日に米国でOffice XPの通常版パッケージを15%値下げするという発表があった。英文のプレスリリースには、まず北米で実施し、順次他の地域に展開すると書かれていたが、日本についてはまだ未定とのことだった。一方、ボリュームライセンスプログラムのオプションとして提供されているソフトウェアアシュアランスに加入している企業のユーザーは、自宅のPCにもOffice XPをインストールすることを認める、というライセンスの緩和については、国内でも実施されるということである。
□関連記事 (2003年6月3日)
[Text by 元麻布春男]
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