キヤノンから低価格なA3対応インクジェットプリンタが登場した。これまで家庭向けプリンタというとA4対応プリンタが主流だったが、コストが下がれば導入を考えるユーザーも少なくないと思われる。ここでは、そのラインナップから2台をチョイスして試用してみたい。
●ハイエンドからローエンドまで個性が違う3製品
まず9100iは、「PIXUS F9000」の後継にあたるモデルだ。PIXUS F9000のインク滴4pl、3072ノズル、といった特長はそのままに、解像度を2,400×1,200dpiから4,800×1,200dpiに引き上げている。インクは6色を使用し、A3ノビまでのフチなし印刷が行なえる。また、A3写真印刷を約2分(公称値)で印刷するという高速性がウリの製品だ。 続く6500iだが、こちらは「PIXUS S6300」の後継にあたるモデルである。解像度を2,400×1,200dpiから4,800×1,200dpiに引き上げつつ、PIXUS S6300のモノクロ17ppm、カラー12ppmという高速な印字スピードはそのまま維持した製品である。インクは4色だが、顔料系の黒インクが採用されており、普通紙などへのテキスト印刷を意識した製品でもある。また9100i同様、A3ノビまでのフチなし印刷も可能だ。 最後の6100iは、「PIXUS F6600」の後継にあたる。解像度が2,400×1,200dpiに引き上げられ、印刷速度も9ppm(黒)/6ppm(カラー)から12ppm(黒)/9ppm(カラー)へと向上した。ただし、インクは6色から4色になり、黒インクには顔料系のものを使用するなど、よりテキスト印刷重視の方向へ振った印象がある。 【お詫びと訂正】初出時に6100iの解像度が異なっておりました。お詫びして訂正させていただきます。 このような特長を持った3製品であるが、驚くべきは価格である。それぞれの価格は、
・9100i:69,800円 となっており、旧モデルに比べると1万~3万円も下がっているのである。この価格は、ハイクオリティなA4プリンタと肩を並べる価格といえ、クオリティよりもA3サイズに印刷できるほうが嬉しい、というニーズを掘り起こすものといえるだろう。
今回はこの低価格なA3プリンタのラインナップから、9100iと6100iを試用してみたい。
●さすがに大ぶりなボディ
では、まずは本体から見ていこう。ちなみに外観は、両製品ともほとんど違いがない。違うのは上面カバー(いわゆるフロントカバーにあたる部分)の色が異なるだけだ(写真1、2)。A3対応プリントということもあり、本体はかなり大ぶりだ。シートフィーダーや排紙トレイを完全にセットした状態での実測値はおよそ560×900×350mm(幅×奥行き×高さ)。奥行きが1m近いことになり、置き場所の確保にも気を使うことになるだろう。
ちなみに両製品とも、排紙トレイを折りたためるので、未使用時は幾分かコンパクトになる(写真5)。シートフィーダーも外すと奥行きは350mm弱であった。
【お詫びと訂正】初出時に9100iのインクの並び順が誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます。
●カラー印刷なら9100i、白黒印刷なら6100i?
まずは、普通紙を用いたときの印刷クオリティの設定だ。9100iでは普通紙を選択したときに[きれい]の選択肢がグレーアウトする(画面1)。一方の6100iでは普通紙を選んでも[きれい]を選択することができる(画面2)。おそらく、顔料系黒インクを使用している6100iでないと、普通紙に印刷したときに(キヤノンが判断する)[きれい]のクオリティを出せないということだろう。
もう一つは、フチなし印刷の設定だ。A3ノビまでのフチなし印刷に対応する9100iにははみ出し量の設定欄が設けられている(画面3)。6100iはフチなし印刷に対応しないためこの欄は削除されている(画面4)。
・CPU:Pentium4 1.6A GHz
まずはモノクロ印刷の印字速度から見てみよう。モノクロ印刷の速度を測定するのに用いたソースは、「The AMD Athlon XP Processor with 512KB L2 Cache」のWhite Paperの2ページ目である(こちらからダウンロード可能)。
ところでA3対応プリンタの場合、単にテキスト類の印字以外にCADなどのデータ出力という用途が案外に多い。こうしたベクタグラフィックス系の印字品質も気になるところだ。そこでJW_CAD for Windows 3.0に標準添付されている“木造平面例.jww”の印刷も行なってみた。ちなみに前述のとおり、9100iでは普通紙で[きれい]を選択できないため、サンプルも[標準][速い]のみとなっている。 サンプルを見てみると、6100iのにじみの少なさが目にとまる。6100iでは[はやい]の設定でも、ジャギーこそ目立つがにじみは少ない。一方の9100iは非常ににじみが多い。この差は歴然としており、さすがは顔料系インクといったところだろう。ビジネス用途でニーズが多いと思われる普通紙への白黒印字に関しては、6100iに軍配が上がる。 続いては、カラー印刷の速度、品質を見てみよう。ここで用いたソースは筆者がデジカメで撮影した2,048×1,535ドットのJPEGファイルである。 カラー写真の印刷については、A3/A4に加えてL版での速度も見ることとした。印刷の実行には両製品にバンドルされている「Easy-PhotoPrint」を用いている。このソフトは写真を手軽に印字するためのアプリケーションであるが、「設定」画面には印刷品質を2段階に変更できる項目が用意されている。テストもこの設定を利用することとし、印字品質を2段階に分けて評価した。
品質はどうだろうか。ここでは、キヤノンのプロフェッショナルフォトペーパーに印字した結果を見てみよう。ソースは速度測定に用いたものと同じ、デジカメで撮影した画像である。
印字サンプルは下のとおりである。ちなみにトリミング後の印刷範囲が違うのは、9100iはフチなし印刷のために多少拡大されているためである。このサンプルはデジカメでマクロ撮影しているもので、かなり拡大されているものであるが、9100iではほとんど粒状感が分からない。グラデーションもかなりキレイに表現されているし、肉眼で見るとさらに美しく感じる。6100iのほうは、かなり粒状感が目立ち、肉眼でも掴めるほどである。とはいえ4色インクとしては、まずまずのクオリティに感じる。また、「画質優先」「標準設定」の画質の違いであるが、「標準設定」のほうが若干ながらグラデーションの表現を省略している印象を受ける。しかし違いはわずかであり、(とくに6100iで言えることだが)「印刷速度とのトレードオフ」というほどの差はない。[標準印刷]の品質でも、プリンタの能力をかなり引き出していると言えるだろう。
●もう一歩踏み込んでテスト さて、白黒印刷、カラー印刷ともに、もう少し踏み込んだテストを行なってみよう。 まずは白黒印刷である。先のテストでは、普通紙への白黒印刷を試し、6100iの顔料系黒インクの美しさを高く評価した。では、レーザープリンタや、他の顔料系黒インクを使っているインクジェットプリンタと比べるとどうなのだろうか? そこで、日本ヒューレット・パッカード(以下日本HP)のレーザープリンタ「LaserJet 4LJ Pro」と、同じく日本HPのインクジェットプリンタ「DeskJet 1120c」で同じサンプルを印字し、その品質を比較してみよう。日本HPのインクジェットといえば、普通紙への印字に定評があるだけに、6100iでどこまで迫れるか気になるところだ。実を言えばこの2台は筆者の手持ちの機材。実際に、建築図面などを出力するニーズがあり、レーザープリンタはプレビューに利用し、最終出力はインクジェットでといった使い分けをしている。ちなみにこのDeskJet 1120cの発売は'98年2月だから、5年前の製品だ。購入時点では、キヤノンを含む他社のプリンタでは満足ゆく図面印刷クオリティが得られなかったためにこれを選択した経緯があり、現在のプリンタはどの程度向上しているか、個人的には非常に興味がある。ちなみにLaserJet 4LJ ProがA4プリンタの関係で、今回はどの出力もA4サイズで比較している。 下がその印字結果であるが、A4印刷であっても、9100iのにじみは変わらない。これは染料系黒インクである以上、仕方ないだろう。事実上、ほか3機種での比較となったが、さすがにレーザープリンタは締まりのある印字になっており、にじみもほとんどない。しかし、6100iはレーザープリンタの印字にかなり迫っており、日本HPのDeskJetとの比較でも、6100iのほうがにじみが少なくシャープな印字になっている。
6100iの普通紙への印刷は、(インクジェットプリンタの普通紙への印字品質として)現時点ではトップレベルにあるといっていいだろう。 次はカラー印刷のほうでも、もう一歩踏み込んでみたい。そもそもA3インクジェットプリンタという製品は、お世辞にも多くの人に受け入れられる製品とはいえなかった。その理由の一つには、価格競争が発生したことで値段が下がったA4プリンタに比べると、割高であった点が挙げられるだろう。しかし、今回登場した製品の価格を見て、A3サイズの写真印刷をしてみたいと思う人もいるのではないだろうか。 そこで、これまであまり試す機会のなかった、A3フォト用紙による印字の違いを見てみたいと思う。 用意したのは価格帯が違う次の3製品(カッコ内は枚数と購入価格)。
・キヤノン「プロフェッショナルフォトペーパー」(10枚/1,800円) 印字は先と同じく「Easy-PhotoPrint」を用いて、[画質優先]設定で印刷を行なっている。 では、結果を比較してみよう。まずキヤノンのプロフェッショナルフォトペーパーであるが、他の紙に比べると若干色が薄いように感じるかも知れない。しかしよく見ると、これは中間色をしっかり表現しているからであることが分かる。他の2製品は、葉の緑や花びらの紫色が、伸びてしまっているような印象を受ける。この傾向は9100iで顕著だ。6色インクの9100iは印字クオリティが高いぶん、さすがにプリンタメーカーが発売するプリント用紙の相性の良さが出るといえる。
一方の6100iでの違いはわりと少なく、4色インクということで紙の差が出にくいのかも知れない。逆に6100iでプロフェッショナルフォトペーパーを使うと、インクがキレイに乗りすぎるためか粒状感も強めに出る。富士写真フイルムやコクヨ製品での印刷のほうが好みだという人も出そうだ。
●慣れるとクセになるA3プリント ここで両製品の使用時の騒音について紹介したいが、両製品間で騒音にほとんど違いはなく、かなり静かである。さすがにヘッドが動作しているときや、シートフィーダーからの最初の紙送り時は気になるが、例えばカラー印字などでヘッドの移動量が少ないときなどは、ほとんど音がしない(よそ見をしているうちに印字していることを忘れ、最後の排紙の音に驚かされたときがあった)。本体の重量のおかげかもしれないが、振動も比較的少なく、夜間の使用にも差し障りない範囲だといっていい。 最後にもう一つ、ランニングコストについても触れておきたい。キヤノンからはインクコストが公表されているが、9100iのA4フルサイズイメージのコストが1枚当たり40.6円。6100iは15.9円となっている。かなり差があるが、インクの数にも違いがあるし仕方ないだろう。6100iのほうは、カラー印刷でのパターンであることを考えればまずまずだといえる。 ちなみに上記のテストパターンにおける、黒インクの印字可能枚数は8倍以上の差がある(9100iは388枚、6100iは3336枚)。文章などを印字するのがメインの使い方だと、さらにコストの差が広がりそうだ。 さて、以上のとおり、「ローコストなA3インクジェットプリンタ」である両製品を試用した。家庭向け製品であるためか、A4プリンタに対して極端に劣っているところはなく、A3印刷というのは純粋に付加価値として受け止めていい。 文章を印刷する機会が多い人は、特別な場合をのぞいてA3印刷というニーズはないかも知れない。ただ、カラー印刷だと潜在的なニーズはあるように思える。例えば簡単なポスターや、壁に飾る写真の印刷などだ。今回テストしたA3サイズへのカラー印刷は見た目のインパクトも大きく、クセになりそうだ。 このような、大きなサイズのカラー印刷をやってみたいという人には、A4インクジェットプリンタでも上位クラスに入るであろう印字品質を持つ9100iが、かなりお勧めできる。 一方で、普通紙への白黒印字品質に優れる6100iだが、このメリットをA3印刷で活かす用途があれば、価格も安くオススメだ。また、たまにA3印刷が必要になるが、普段はA4印刷が多い、という人にも勧められる。
いずれにしても、問題は設置場所。この問題がクリアできる人は、今回紹介したような、A4プリンタに匹敵する価格・性能を持つA3プリンタの購入がお勧めだ。
□キヤノンのホームページ
(2003年4月18日) [Reported by 槻ノ木隆]
【PC Watchホームページ】
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