日本ヒューレット・パッカードから登場した「hp psc 1210」(以下psc1210)は、プリンタ、スキャナ、コピーの機能を持った複合機である。この3つの機能を搭載した製品としては世界最小サイズであると謳われているコンパクトな本製品を試してみよう。 ●インクジェットプリントに匹敵する大きさの複合機
psc1210は、インクジェットプリンタ、フラットベッドスキャナの機能を持ち、その両機能を利用したコピーが行なえる複合機である。 psc1210の外観でまず目に留まるのが、そのコンパクトさ。仕様上の本体サイズは、用紙トレイ収納時で426×259×170mm(幅×奥行き×高さ)、用紙トレイを開いた状態でも426×357×170mmとなっている。
ちなみに、同じHPのA4インクジェットプリンタであるhp deskjet 5551のサイズが449×368×143mm、ライバルにあたる、“普通紙クッキリ”が謳い文句のエプソンのA4インクジェットプリンタPX-V700のサイズが470×301×237mmとなっており、多少奥行きはあるものの、ほぼインクジェットプリンタに匹敵するサイズであることが分かる。それでいてA4フラットベッドスキャナの機能を兼ね備えているのだから、設置面積の点で複合機のメリットを存分に享受できるといえる。 ついでに言えば、本製品の上部にある操作パネルでは、コピーボタンや拡大・縮小ボタンなどが配置されており、PCに接続していない状態でもコピーが作成できるようになっている。このあたりも複合機のメリットと言えるだろう。 インクジェットプリンタのインクカートリッジについては、前面の用紙トレイの奥にあるカバーの中に収められており、黒インクとCMYの3色が一体となったカラーインクの2本を収納できる。
このインクカートリッジは、同社ではおなじみのプリンタヘッドが一体となったものである。ヘッド一体型のインクカートリッジは割高ではあるものの、ヘッド故障時にカートリッジの交換だけで済む。コストが優先されがちな個人ユースならともかく、ビジネスで利用している場合のリスク対策という面ではメリットもあるはずだ。 ちなみに、(ここまでに紹介した写真でもお分かりいただいていると思うが)用紙は前面給紙・前面排紙である。前面のトレイは給紙トレイと排紙トレイを兼ねており、給紙用にセットした紙の上に、印刷済みの原稿が排紙される仕組みとなっている。複数枚を排紙した場合にきれいにまとまるのか心配な方もおられると思うが、スペック上は“25枚まで”となっており、インクジェットプリンタで連続印刷する枚数としては実用上十分な枚数ではないかと思う。ちなみに、17ページの資料を印刷してみたが排紙された原稿は散らばることもなく、きれいにまとまってくれた。 フラットベッドスキャナの機能については、上部の「ふた」を空けることでスキャン台が表れる。ここにA4サイズまでの原稿をセット可能になっている。 ちなみにインターフェイスはUSB 2.0/1.1。コネクタは電源コネクタとともに背面に設置されている。
●モノクロでの速度&品質が光るプリンタ機能
ここからはpsc1210の各機能について、個別に紹介していくことにする。まずはインクジェットプリンタ機能である。印刷解像度は最高で4,800×1,200dpiとなっている。hp deskjet 5551や、同5550などと同じ解像度で、同社製プリンタとしては最高解像度となる製品の1つである。ただし、インクは4色が最高であり、6色印刷には対応しない。 また、HP製プリンタというと顔料系インクを用いた普通紙への印刷の美しさでも定評があるが、psc1210も同じく顔料系のインクを用いている。もっとも、hp deskjet 5551/5550とは同じインクカートリッジを利用しているので、当然といえば当然である。 なお、印刷時のクオリティについては、「はやい」「きれい」「高画質」の3段階から選択できる。ただしフォト用紙使用時については、「高画質」に固定され、「PhotoREt」「最適化された4800×1200dpi」の選択のみとなる。このPhotoREtとは、1ドットに対して数回のインクドロップを行なうことでインクを混ぜ合わせ、特にグラデーション部の表現を自然にするものである。 では、実際に印刷を行ない、速度とクオリティを見ていこう。まずは、こうした複合機でもっとも気になるモノクロ印刷を確認してみたい。接続したPCの環境は以下のとおりである。 ・CPU:Pentium4 1.6A GHz インターフェイスは、P4T533-Cにオンボード搭載されているUSB 2.0ポートに接続した。 さて、まずはA4用紙1枚へのモノクロ印刷を試した結果だ。ソースは「The AMD Athlon XP Processor with 512KB L2 Cache」のWhite Paperの2ページ目を利用した。このデータは、こちらからダウンロードできる。 印字速度は表1のとおり。1枚だけを出力する場合、インクジェットプリンタだと最低でも30秒程度はかかるだろうと予想していたが、もっとも速い設定にした場合は14秒という高速性を発揮した。レーザープリンタにはかなわないものの、普通に利用するには十分高速だ。 【表1:印刷速度(A4モノクロ)】
ちなみに、このモノクロ印刷のテストは普通紙への印字をテストしているが、クオリティも満足できるものだ。Sample01~03はそれぞれ「はやい」「きれい」「高画質」で印刷した原稿をスキャナで取り込んだものである。
「高画質」はたしかにきれいだが、影のようなものが出ている。最初はインクヘッドがズレているのかとも思ったが、何度調整しても変わらなかった。「きれい」は「高画質」のような影が出ず、3パターンで最も美しく感じられるクオリティだ(不思議な結果ではあるが)。 普通紙に印刷するときに発生しがちな、文字のにじみやかすれも発生しておらず、レーザープリンタと比べても見劣りしない印字品質だと思える。「はやい」だと、さすがに文字もかすれ気味になる。とはいえ文字の認識には問題ない程度には印刷されるので、とにかく急いで印刷したいときなら実用の範囲内だ。 さて、次はカラーの印刷である。カラー印刷は2パターンを試した。まずはA4インクジェット紙へのカラー印刷である。これは主に速度を見るためのテストだ。結果は表2のとおりであり、高画質~はやいまでの速度差がかなりついた。ちなみに、今回A4カラー印刷でテストしたのは、筆者がデジカメで撮影した2,048×1,535ドットのJPEGファイルであり、カラーが混じる程度のビジネス文書ならもう少し速く印刷できるだろう。 【表2:印刷速度(A4カラー)】
カラー印刷のもう1つのテストは、フォト用紙への印刷だ。今回利用したフォト用紙は、日本ヒューレット・パッカード純正の「hp プレミアムプラス フォト用紙(切り取り後10×15cm、光沢)、製品番号:Q1935A」である。L版印刷に近いテストだと考えてもらえれば良い。前述のとおり、フォト用紙使用時は「高画質」に固定され、「PhotoREt」「最適化された4800×1200dpi」の選択になる。 印刷速度は表3のとおり。問題は画質との関係になるが、出力結果はSample04/05の通りである。「PhotoREt」は肉眼でもはっきりと粒状感が捕らえられ、“写真”という雰囲気が損なわれてしまう。一方の「最適化された4800×1200dpi」は、4色インクとしてはかなり美しく印刷される。肉眼なら粒状感もあまり感じられず、満足できる画質だ。 【表3:印刷速度(10×15cmフォト用紙)】
なお、動作中の騒音はかなり低めである。ヘッドの動作音は、真夜中でも気にならない程度で、この点は優秀である。ただインクジェット式の宿命ではあるが、本体の振動はやや大きめであり、あまり不安定な場所での利用はお勧めしない。 ●満足できる速度のスキャナ機能
さて、続いてはフラットベッドスキャナについて試してみた。仕様上は解像度600×2,400dpiで、CISセンサーを採用したスキャナである。スキャン可能なサイズはA4までで、出力は各色8bitとなっている。 PC上のスキャン設定画面では、解像度やスキャン領域のほか、明度、シャープネス、色相の変更が行なえるなど、他社のスキャナ専用機と比較しても見劣りする部分はない。 とはいえ、横方向の解像度が600dpi止まりであることを考えれば、主な用途はビジネス文書のスキャンと考えていいかも知れない。そこで、A4原稿のスキャン速度をまず見ることにした。結果は表4のとおりだが、スキャンする際の色数と解像度によって、7パターンのテストを行なっている。 【表4:スキャン速度(A4)】
結果を見ると、300/150dpiではフルカラーでも36/20秒とかなり速い。ただし、600dpiになると途端に遅くなる傾向が見て取れる。このスキャン速度の結果からも、やはり300dpi程度でビジネス文書などをスキャンするのが現実的な使い方だろう。 なお、スキャンしたデータは、ダウンロードして確認してみてほしい。ちなみに圧縮ファイルには600/300/150dpiの各スキャン結果が収められており、それぞれ1,024×768ドットにトリミングしてある(リサイズはしていない)。 本来であれば、スキャン結果をまるごとアップしたかったが、圧縮しても100MBを超えるサイズになってしまったので、このような対処をとっていることをご了承いただきたい。全般的に、スキャンした画像のクオリティは比較的高い。もっとも使用頻度が高くなると思われる300dpiは、多少モアレが発生しているが気になるほどではない。また、150dpiでも十分実用に耐えるのではないかと思う。 また、psc1210にはTWAIN/WIAのドライバもちゃんと用意されているから、Photoshop ElementsやPaintShop Proなどの画像処理ソフトから直接スキャンを行なう事も出来る。使い慣れた環境をそのまま利用できるわけで、このあたりの気配りはさすがである。
●あると便利なコピー機能
最後はコピー機能だ。コピー機能については、これまでのプリンタ機能とスキャナ機能の両方を利用しているものであり、“付加機能”として捉えるのが正解だろう。 とはいえ、冒頭でも紹介したように、PCに接続せずとも上面の[コピー]ボタンを押すだけでコピーが作成できるのは非常に便利である。上面のボタンではコピー部数の設定や50~400%までの拡大・縮小も行なえる。そのコピー速度も、表5のとおりで、PCでスキャン→プリンタへ出力という手順を踏むよりもかなり高速にコピーが行なえる。 【表5:スキャン速度(A4)】
ちなみに、PCを接続しない場合のコピーは、速度が優先されているようで、クオリティは印刷サンプルの「はやい」に近いものだった。しかし、PC上からはもう少し細かいコピー設定が行なえるようになっており、そちらを利用すればクオリティにこだわったコピーも取れるようになっている。 ●価格もリーズナブルでSOHOユーザーにお勧め
以上のように、基本機能は比較的高いレベルで安定している本製品。添付ソフトも画像管理ソフトの「hpフォトイメージングギャラリー」、画像編集ソフトの「hpフォトイメージエディタ」などを始め、はがき印刷ソフトの「宛名職人」やスキャン画像からビデオCDを作成できる「メモリーディスク」などのエンターテインメント系ソフトまでバンドルされている。 これだけの機能、付加価値をもちながら、価格は2万円を切っている(3月26日時点、http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0326/p_prn.htm )というあたり、かなりお買い得感は高い。ただHPのプリンタの場合、「インクカートリッジの価格がちょっと」と思われる人も居られよう。psc1210で利用できるインクカートリッジは4種類あり
・hp56 (黒インク・ラージサイズ):2,900円(標準小売価格:hp directplusの直販価格は2,610円) となっている( http://www.jpn.hp.com/hho/supply/inkjet/dj_06.htmll )。決して安いわけではないが、無茶苦茶高いという程ではない。このインクカートリッジで何枚くらい印刷できるか、という話はマニュアルにはないのだが、同じカートリッジを利用できるhp deskjet 5550/5551の場合、 ・hp56:普通紙に「はやい」モードで約1,000枚 となっており( http://www.jpn.hp.com/inkjet/dj5550/special.htmll )、恐らくこれと同等と思われる。となると、(紙代を除く)印刷コストは ・hp56:約2.6円/枚 というあたりに落ち着く。カラーに関しては、例えばエプソンのPX-V700の6.6円/枚と比べると割高だが、逆にキヤノンのPIXUS 950iが41.8円だったりするので、極端に高いともいいにくい。そもそもこれらの数字の前提条件が全て異なっているので、単純に高い低いとは断じにくいのが正直なところだ。まぁそれほど大きく変わるわけではなさそうだ。そうなると、製品価格の安さが効いてくるといえるわけで、比較的リーズナブルという判断が出来そうだ。 勿論、写真を印刷することが多い人や、フィルムスキャンなどの高画質なスキャンを考える人は、それぞれに特化した製品を選択したほうが良いと思う。また、大量の文章を常に出力するとか、大量のスキャンを必要とする場合も、それぞれレーザープリンタなりASF付きスキャナを選ぶほうが賢明だろう。 また、たまにスキャナを利用するケースもあるが、それが定型業務になっているわけではない。そんな利用形態には本製品がぴったりだろう。プリンタもスキャナもそれなりの性能を持ち、設置面積が小さく、イニシャルコストが低く、ランニングコストも並という訳で、SOHOユーザーや小規模オフィスなどが主要なターゲットになりそうだ。勿論、Webページの印刷や文書の印刷が多い人であれば、個人ユーザーにもお勧めできる。 □日本HPのホームページ (2003年4月1日) [Reported by 槻ノ木隆]
【PC Watchホームページ】
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