●またまた増えたAMDのCPUコアコードネーム AMDの巻き返し戦略が明らかになり始めた。AMDはAthlon XPではFSB(フロントサイドバス) 400MHzを導入する。これは、ちょうどIntelが「Springdale(スプリングデール)」チップセットを投入する時期の前後に立ち上げさせるつもりだと、ある業界関係者は言う。AMDは、モデルナンバーで3000以上(3000+/3200+)はFSB 400MHzへと移行させる見込みだ。一方、バリュー市場向けには新コア「Thorton(ソートン)」を投入する。現行のThoroughbredをThortonに置き換え、ラインナップ全体を向上させる。 Athlon 64に関しては、まず1MBの大容量L2キャッシュ版「ClawHammer(クローハマー)」を9月に投入する。ClawHammerはAthlon 64のパフォーマンスセグメントを受け持つ。その後、年内に256KB L2キャッシュ版Athlon 64「Paris(パリス)」を投入する。ParisはメインストリームとCeleron対抗のバリューセグメントを受け持つ。一方、ClawHammerは、同じく1MB L2キャッシュを搭載するIntelの次世代CPU「Prescott(プレスコット)」と対峙する。 この戦略については、以前このコラムで紹介したが、AMDがAthlon 64自体のスケジュールを遅らせた結果、1MB版はなくなったと推測していた。だが、1MB版は生きていたようだ。また、Athlon 64の対応メモリも、DDR333からDDR400へと向上させる。DRAM業界に対しては、すでにDDR400でAMDが接触しているという。
Athlon 64の立ち上げを3~4月期から9月へとずらしたため、このところ戦略がもたついているように見えたAMDが、ようやく力強さを取り戻し始めた。
●FSBの400MHz化は必然 FSB 400MHzについては、じつはかなり兆候があった。例えば、AMDは昨秋頃からFSB 400MHzはラボで検討していると語っていた。AMDは、FSB 333MHzのケースのときも導入前はこう語っていた。つまり、真剣に導入を検討しているときのAMDの決まり文句だ。また、昨年11月のCOMDEXでは、NVIDIAがFSB 400MHzサポートを打ち出していた。AMDがチップセットベンダーにFSB 400MHzのサポートについて打診しているという情報も入っていた。 しかし、もしAMDのAthlon 64計画がもとの3~4月発表だったら、Athlon XPのFSB 400MHz化は実現したかどうかわからない。Athlon 64の離陸を阻害する可能性があるからだ。しかし、AMDはAthlon 64を2四半期後退させ、AMDはAthlon XPの性能をアップしなければならなくなった。
さらに、IntelのサポートによるDDR400メモリの台頭がFSB 400MHzの必要性を高めた。従来通りDDR333メモリが主流だった場合は、FSBを400MHzにする利点は少ない。FSB 400MHzの帯域は3.2GB/secで、DDR333のシングルチャネルの帯域2.7GB/secより広すぎるからだ。FSBを高速化しても、メモリがボトルネックになり性能が上がりにくい。だが、DDR400ではシングルチャネルメモリでメモリ帯域は3.2GB/secに達する。そのため、Athlon XP系ではFSBを400MHzにしないと、メモリ帯域を十分に活かすことができなくなる。同期性の点でもFSB 400MHzとDDR400は相性がいい。どちらもベースクロックは200MHzで、同期するためメモリレイテンシは短くなる。
●Barton系コアへと移行するAthlon XP AMDはFSB 400MHzを512KB L2キャッシュ版Athlon XP(Barton:バートン)のモデルナンバー3200+と3000+で導入する見込みだ。Barton 3200+は実クロックでは2.2GHz前後になると推測される。AMDにとってFSB 400MHz化の利点は、より低い実クロックで、高いモデルナンバー(=パフォーマンス)を達成できる点だ。AMDはもともと昨年末の段階ではBarton 3200+をFSB 333MHzで計画しており、その計画での実クロックは2.33GHzが予定されていた。大幅にクロックを下げることができるわけだ。 また、Athlon XP 3000+は、FSB 400MHz版とFSB 333MHz版が並存することになるが、これはFSB 400MHzに次第に一本化されていくと思われる。というのは、FSB 400MHz版(2.1GHz程度?)の方がFSB 333MHz版(2.167GHz)より実クロックが低くなるため、より多くのチップが採れるからだ。また、エンドユーザーにとってもFSB 400MHz版の方が、消費電力が下がるという利点がある。 AMDはバリューセグメント向けの「Duron」ブランドを止めた。しかし、ブランドは消えても、低価格セグメントへは力を注ぎ続ける。そのため、新しいバリュー向けCPUコア「Thorton(ソートン)」を投入すると言われている。BartonとCPUコア部分の設計は共通で、L2キャッシュが256KBのバージョン。Thortonについては、まだ詳細がわかっていない。そのため、物理的に搭載しているL2キャッシュ量が半分になっているのか、それともIntelのように搭載L2キャッシュの半分を使えない状態にしているのか不明だ。Thoroughbredを引き継ぐため、FSBも266/333MHzだ。
いずれにせよ、ThoroughbredとThortonだと、アーキテクチャもL2キャッシュ容量も同じであるため、クロック当たりの性能は原理的には変わらない。モデルナンバーも同様だ。ただし利点はある。例えば、消費電力(Typical)はBarton系の方が同クロックでもThoroughbredより低いため、Thortonも消費電力は下がると思われる。また、もしThortonが物理的に256KBしかL2キャッシュSRAMを載せていないとしたら、ダイ(半導体本体)も若干Thoroughbredより小さくなり、コストが下がると推測される。
●1MB ClawHammerは3400+で登場? ClawHammerとParisの2種類のAthlon 64を準備するAMD。AMDは、この計画については昨年秋からOEMに説明していた。しかし、AMDがAthlon 64を遅らせて以降は、情報が交錯してしまい、AMDが2ラインナップ戦略を継続しているのかどうかわからなくなってしまった。そのため、このコラムでもAthlon 64は256KB L2キャッシュ版だけの、もとの路線に戻ったと推測を書いた。 それが、2月中盤頃からAMDが1MB版のClawHammerを用意しているという情報が、再び入り始めた。例えば、IntelはいつAMDが1MB版ClawHammerを投入しても対抗できるように、1MB L3キャッシュ版のPentium 4の準備をしていた。これは、サーバー向け大容量キャッシュコア「Gallatin(ガラティン)」を流用したものだ。2月のIDFの段階でも、Intelはこのバックアッププランをまだ保持していた。 このように、再び1MB版ClawHammerの姿は見え始めていた。そして、ここへ来てCeBIT前後で一気に複数筋からAthlon 64の製品ラインナップが確認された。 AMDはOpteronを最高1.8GHzで発表するつもりでいる。Athlon 64も、1MBは基本的にOpteronと同コアであり、現在のBステッピングのシリコンでは1.8GHzが十分な歩留まりで採れる限界なのかも知れない。 AMDの1MB版Athlon 64(ClawHammer)のモデルナンバーはまだ明確になっていない。OEMには登場時に3400+以上と伝えているらしい。昨年末の計画では、AMDはClawHammerを実クロック2GHzの3400+で投入するはずだった。AMDが3400+以上と言っているのは、最低でも2GHzは量産品で達成できると見ていることを示すと思われる。 ちなみに、AMDは夏前までにCステッピングへとClawHammerを移行する計画になっているという。Cダイへとメジャーステッピングチェンジを行なうことで、2GHz化を実現すると推測される。逆を言えば、それまでは3400+相当のチップが採れないため、Athlon 64のリリース自体を遅らせたと考えられる。 一方、256KB版Athlon 64(Paris)は、昨年末の計画がまだ生きているとしたら3200+でスタートすることになる。AMD CPUではL2キャッシュ量の違いによる性能差は、モデルナンバーに換算される。そのため、同じ2GHzでClawHammerが3400+、Parisが3200+になると考えられる。ちなみに、昨年末の計画通りならClawHammerは第3四半期に3700+、Parisが第4四半期に3500+に到達しているはずだった。 AMDは、Athlon 64のスペックにほかにも重要な変更を加えた。それはDDR400メモリのサポートだ。AMDはこれまでAthlon 64がDDR333に対応すると説明していた。だが、CeBITではマザーボードベンダーはDDR400と説明されていると言っていたという。これは、他の筋からも確認ができており、Athlon 64もDDR400へ向かっているのは確かだ。 AMDはDDR400によるパフォーマンス差も、モデルナンバーに反映させるかもしれない(性能差はないという意見もあるが……)。その場合は、ハイエンドを受け持つClawHammerは、若干のモデルナンバーの向上が見込まれるかもしれない。例えば、実クロック2GHzで3500+になる可能性がある。
AMDの新ロードマップ。これでAMDはIntelの攻勢に対抗できるだろうか。
□関連記事 (2003年3月18日) [Reported by 後藤 弘茂]
【PC Watchホームページ】
|
|