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AMDがClawHammerとParisの2種類のAthlon 64を投入か




●2系統のAthlon 64が存在

 AMDはデスクトップ版「Athlon 64」の投入に当たって2種類のCPUコアを用意しているらしい。昨年末から聞こえてきた断片的な情報を総合すると、一つ目は「ClawHammer(クローハマー)」、二つ目は「Paris(パリス)」となるようだ。ClawHammerは以前からAthlon 64のコードネームとして知られていたが、Parisは新顔だ。違いはL2キャッシュの量で、ClawHammerが1MB L2キャッシュ、Parisが256KB L2キャッシュだと言われている。

 ある情報筋によると、AMDはまず最初にClawHammerをAthlon 64として第2四半期の頭に投入し、その後、第3四半期になって廉価版のParisを投入する予定だという。つまり、ハイパフォーマンス版で市場をリードし、廉価版で段階的に普及を図る戦略のようだ。ClawHammerは今年第2四半期の段階ではモデルナンバー3400+止まりだが、年内には4000+に達すると言う。

 Parisがウワサになり始めたのは昨年の暮れ。複数の業界関係者からParisと「Victoria(ビクトリア)」という新コアがデスクトップAthlon 64に登場したと情報が入り始めた。AMDが昨年末から今年頭にかけてOEMに説明した内容によると、今後2系統のAthlon 64を市場に投入していくつもりらしい。下のようになる。

Athlon 64 1MB L2版
ClawHammer(0.13μm)
San Diego(90nm)
Athlon 64 256KB L2版
Paris(0.13μm)
Victoria(90nm)

 つまり、昨年11月に発表されたロードマップに新たにParisとVictoriaが加わったわけだ。

 正直な話、AMDの現在の戦略は揺らぎが大きく(Intelも同様だが)、ここで書いている情報がどこまで正確かはわからない。すでに情報が更新されている可能性がかなりあるからだ。だが、AMDがAthlon 64のロードマップを再び変更、Intelの攻勢に対抗してより競争力のあるものにしようとしているのは確かだ。

拡大図は別ウィンドウで開きます

●実際にはCPUコアの名称変更か

 いきなり登場した新しいAthlon 64コア。しかし、よく見ると、これは新コアが登場したのではなく、同じコアのコードネームが変更になったと考えられる。

 もともと、AMDはサーバー&ワークステーション用の「Opteron」にはMBクラスのL2キャッシュを搭載する「SledgeHammer(スレッジハマー)」を、デスクトップ用Athlon 64にはL2キャッシュ容量が256~512KB程度と推定されるClawHammerを投入するはずだった。そこから推定するに、SledgeHammerと同じダイ(半導体本体)を、デスクトップ用のハイエンドとして使うことに変更した可能性がある。そして、そのコアにClawHammerというコードネームを当てはめ、その一方、これまでClawHammerとして開発していた256KB版コアを、Parisに変更したと考えれば納得ができる。SledgeHammerはL2キャッシュ容量が大きいだけでなく、HyperTransportも3ポート備える(CPUの相互接続用)が、ClawHammerはHyperTransportは1ポートに制約されているだろう。

 じつは、コードネームが変更になったと考えるとつじつまの合うことは多い。例えば、昨年10月に行なわれたAMDの「Financial Earnings for 3rd Quarter 2002」のカンファレンスコールでは、AMD幹部が「市場に最初に登場する製品は、実際のところSledgeHammerダイベースのものになる」と口を滑らし、物議を醸した。AMDはすぐにこの発言を訂正した(サーバー市場の重要性を強調し過ぎたと説明)が、今になって考えると、これはサーバー&ワークステーション向けの「Opteron」が先という意味ではなく、SledgeHammerをベースにしたデスクトップ版Athlon 64が先という意味だった可能性がある。だとしたら、AMDはClawHammerとParisの2本立て戦略を昨秋には検討していたのかもしれない。

●従来と異なる高付加価値版CPUの位置づけ

 ClawHammerとParisの2系列の並立は、一見、従来のAthlon系とDuron系の継承のように見えるがちょっと違う。少なくとも昨年中にAMDがOEMに説明した戦略によると、ClawHammer/San Diegoはいわゆるメインストリームデスクトップの上半分をカバーするだけらしい。CPU価格で言えば200ドル(日本なら25,000円程度)以上、PC価格で言えば1300ドル以上のラインがClawHammer/San Diegoになり、その下のラインがParis/Victoriaになるらしい。つまり、セグメントの切り分けが、Pentium 4/Celeronライン(CPU価格で110~130ドル程度、PC価格で800ドル程度)とはかなり異なる。これは何を意味するのだろう。

 AMDがオリジナルにはデスクトップには256KB版のParisだけを投入するつもりだったとしたら、意図は明白だ。それは1MB版の投入によって、Athlon 64のパフォーマンスを引き上げ、付加価値を加えることでPentium 4に対する競争力を高めることだ。実際、ClawHammerは当面は最強のL2キャッシュ容量を持つデスクトップCPUということになる(1MBのL2キャッシュを持つIntelのPrescottは今年第4四半期)。

 しかし、1MBを搭載したClawHammerは、256KBキャッシュのParisよりもダイサイズ(半導体本体の面積)がかなり大きくなる。特に、AMDの場合、1つのFabだけでCPUを製造しているため製造キャパシティが限られており、CPUのダイサイズが大きくなると製造個数ががくっと落ちてしまう。また、製造コストも上がる。そのため、AMDはメインストリーム向けのAthlon 64を全量ClawHammerにすることは難しいと推測される。そのために、ボリュームが出るメインストリームから下の価格帯では256KBのParisを投入すると思われる。

 また、この戦略ではAMDのモデルナンバーが有利に働く。それは、Parisの動作周波数を制限して低く抑える必要がないからだ。モデルナンバーでは、同クロックでもL2キャッシュ容量が大きくパフォーマンスも高くなるClawHammerにより大きなモデルナンバーをつけることができる。そのため、ClawHammerとParisが例え同クロックで登場したとしても、ClawHammerの方が高いモデルナンバーを持つ上級コアと位置づけることができる。つまり、IntelのCeleronのように、L2キャッシュだけでなくクロックも制限する必要がないわけだ。

●Athlon 64のモデルナンバーは?

 AMDは一昨年の秋から一貫して、デスクトップ版Athlon 64が3400前後のモデルナンバーで登場するとしていた。これは、実クロックで2GHzのモデルナンバーに相当すると推定されていた。AMDは昨秋の段階で、すでにサンプルが2GHzで動作していることを強調していた。しかし、昨年暮れ頃までにややトーンダウン、当初はAthlon 64(ClawHammer)を1.8/1.6GHzでスタートとさせると説明したらしい。

 これはモデルナンバーでは3100+/2800+に相当する。動作周波数のターゲットを低くすることで歩留まりを上げることにしたと見られる。もっとも、AMDは2GHz=3400+も第2四半期中にリリースすることを約束したと言われる。つまり、最初の量産リビジョンでは2GHzの歩留まりは悪いが、次のリビジョンでは改善できるということだ。この計画は、現在では変わっていて、スタート時点から3400+になっている可能性があるが、AMDがAthlon 64のクロックでやや苦労しているのは確かなようだ。

 現在判明している計画によると、AMDはその後、Athlon 64(ClawHammer)のクロックを段階的に引き上げ、第3四半期には「3700+(2.2GHz)」を、第4四半期には「4000+(2.4GHz)」を投入するつもりらしい。

 一方、256KB版Athlon 64(Paris)は第3四半期に「3200+」で登場すると言われている。Parisのクロックは判明していないが、おそらくこれは2GHz版だと思われる。さらにその後、第4四半期には3500+も投入されると言われている。そして、第4四半期の時点で、Parisの3200+がメインストリームデスクトップのローエンドまでカバーする、つまり、Pentium 4対応は全てAthlon 64に入れ替わるという寸法だ。

 Parisの登場でAthlon 64の普及が一気に加速するように見える。ClawHammerとParisの2本立てにすることで、Athlon 64の普及を急ぐわけだ。

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(2003年1月24日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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