●ギガビットEthernetにはPCI Expressが必須? 今のPCで、最も広い帯域を要求するI/Oデバイスはグラフィックスコントローラ(GPU)だ。そこで現在のチップセットはグラフィックスコントローラに対し、特別なチャネル(AGP)を用意することで、その要求に応えている。ではその次に帯域を要求するデバイスは何か、というとギガビットEthernetということになるだろう。特に1,000Mbpsの1000BASE-T対応製品は、拡張カード、ハブともに低価格化が進むと同時に、マザーボード上にコントローラを実装する例も珍しくなくなってきている。
ここで問題になってくるのが、ギガビット対応Ethernetコントローラをどこにぶら下げるのか、ということだ。1,000MbpsのギガビットEthernetは、最も普及している32bit/33MHzのPCIバスが提供可能な帯域をほぼ食い尽くす。これでは、PCIバスを共有するほかのデバイスのレーテンシが大きくなったり、他のデバイスによってギガビットEthernetの性能をフルに引き出すことができない、という問題も起こりかねない。また、間もなくサーバー向けに普及が始まるであろう10GbpsのギガビットEthernetや、さらに次の世代と考えられている40Gbpsクラスでは、間違いなく帯域が足りなくなる。 こうした帯域の不足に対する回答がPCI Expressだ。PCI Expressは1方向あたり2.5Gbps、双方向で5Gbpsのデータレートを持つシリアルインターフェイス。実際には埋め込まれたクロック等により20%程度のオーバーヘッドが生じるが、複数のレーン(レーンは双方向のデータ転送が可能な最小構成)を束ねることで、必要な帯域を得られるスケーラビリティを持つ。たとえばPCI Expressを搭載したPCでは、1レーン(x1)構成を汎用のI/Oスロット(現在のPCIスロットの置き換え)に、x16をグラフィックス用(現在のAGPスロットの置き換え)に、それぞれ使うことが想定されている。 今回のIDFでも、PCI Expressに関するテクニカルセッションが多数予定されており、それに合わせて多くの関係者がSan Joseに集結する(PCI Expressを含むPCI規格全体を管理するPCI-SIGの本部は、シリコンバレーではなくオレゴン州にある)。今回、IDFの始まる直前に、PCI-SIGのTony Pierceチェアマンに、PCI Expressの進捗状況について話を聞くことができた。氏は、PCI-SIGのチェアマンであると同時に、MicrosoftにおけるPCIバス/ACPI関連の技術責任者でもあるのだが、あくまでもPCI-SIGチェアマンとしての立場での回答であった。 ●PCI Express製品は2004年にリリース?
まず全体的な進捗状況だが、当初言われていたように2003年中に製品をリリースすることは、どうやら難しいようだ。現在、互換性確保のためのチェックリストを作成中で、これに基づくチェックプログラムを第4四半期にオンライン状態にすることを目標に作業が進められている。Intelの別のブリーフィングでも、2004年に登場するすべてのサーバー向けチップセットが採用する、となっていることからして、PCI Express対応製品の登場は2004年から、ということで間違いないだろう(写真1)。 この2004年の導入を目指して、様々な規格が最終段階にある。PCI Expressそのものの規格であるPCI Express 1.0が昨年の7月に完了したのに続き、PCI ExpressやPCI-Xを含めたPCI規格全体を包含したシステムソフトウェアの標準であるPCI Firmware Specification 3.0もリリースされている。これはPCI BIOS Specificationの後継になるものだが、「BIOS」を用いるIA-32プラットフォームだけでなく「ファームウェア(EFI)」を用いるIA-64プラットフォームも意識して、この名前となったようだ。 PCI Expressは既存のPCI対応OSでも「動く」ことが保証されているが、それにはPCI Firmware Specification 3.0に準拠したBIOSが不可欠ということになる(通常はPCI Express対応チップセットを搭載したマザーボードには、PCI Firmware Specification 3.0準拠のBIOSが用いられるハズだ)。 今回のIDFに合わせてSIGメンバ向けにリリースされることになったのが、PCI Express Bridge SpecificationとMini PCI Express Card Specificationの2つ。いずれもリリースキャンディデート(リリース候補)バージョンである。前者は、PCI ExpressにPCI-Xをブリッジするチップの規格で、以前から約束されていたものだ。後者は現在ノートPCの内部で使われているMini PCIの後継となる小型の拡張カードを定義するものだ。 ●CSAはギガビットEthernet版のAGP? と、極めて順調に見えたPCI Expressの前途に、突然現れた? のがCSAだ。CSAとはCommunications Streaming Architectureの略。乱暴に言ってしまえば、チップセットのNorth Bridge(MCH:Memory Controler Hub)に、ギガビットEthernetコントローラをぶら下げる専用のチャネルを用意しようというもの。いわばギガビットEthernet版のAGPである(図1)。このようなアイデアが出てきた最大の理由が、PCIバスの帯域不足にあることは言うまでもない。Hub Linkインターフェイス(IntelのMCHとICHを接続するインターフェイス)の帯域を考えれば、ICHに専用チャネルを設けるより、MCHに設けた方が合理的だ。このCSAが搭載されるのは、間もなく登場するPentium 4対応チップセットのSpringdale/Canterwoodからとなる(写真2)。 CSAについては、ベースクロックが66MHzで、4倍のデータレートをサポートするものとしか今のところ明らかにされていない。また、CSAのインターフェイスについて、文書として公開する予定もないようだ。したがって、現時点でCSAに接続可能なギガビットEthernetコントローラは、Intel純正の82547EIのみということになる。ただ、Hub Linkのようにあくまでも非公開というのではなく、対応したいというサードパーティがいれば話し合いには応じる、ということのようだ(ただし、後述の理由で対応を考えるサードパーティがたくさん現れるとも思えないが)。 さて、ここで問題なのはCSAがPCI Expressに及ぼす影響だ。将来的にはSerial ATAなど他のデバイスもPCIバスでは対応できなくなると予想されるが、クライアントPCにおいて現時点で早急に対応しなければならない広帯域デバイスは、ギガビットEthernetくらいしかない。それがCSAに持っていかれると、クライアントPCにおいてPCI Expressを導入しようというモチベーションが下がるのではないか。 また、Intelは2001年秋のIDFでPCI Express(当時は3GIO)の開発を明らかにした際、PCI Expressが第3世代のI/O技術として、ユニバーサルなものになると述べた。今になってCSAでギガビットEthernetに専用のチャネルを与えるのは、ユニバーサルI/OというPCI Expressの「公約」を破ることになりはしないか。 ●CSAが使われるのは短期間だけ このような疑問をPierce氏やIntelの担当者にぶつけてみたところ、どうやらCSAはPCI Expressが登場するまでの「つなぎ」に近い存在であることが分かった。すなわち、ギガビットEthernetの接続インターフェイスとしてCSAが使われるのは、チップセットにして1~2世代の間らしい。だからといって、CSAの価値がなくなるわけではない(厳然としてPCIの帯域不足の問題は存在する)が、長期に渡って使われるものではないとしたら、サードパーティによる対応は難しくなるだろう。 Pierce氏は、ギガビットEthernetの接続にとどまらないPCI Expressの利点として、PCI Expressが単に広帯域なデバイスを接続するチャネルというだけでなく、PCのアーキテクチャ全体を見直す、あるいはPC内で求められる帯域の再配分を見直すような、広範な技術革新であること、オープンな規格であること、将来にわたるロードマップ、イソクロナスデータ転送や高信頼性技術など単純な帯域以外にも優れた機能を多く備えることなどを挙げてくれた。
□IDF Spring 2003のホームページ(英文) (2003年2月20日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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