元麻布春男の週刊PCホットライン

明らかになってきた次世代シリアルバス「PCI Express」の仕様


●PCI-SIGで公開されたPCI Expressの仕様

PCI-SIG PCI Expressグループ議長 Ajay Bhatt氏

 さる9月20日、東京でPCI-SIGのデベロッパーカンファレンスが開かれた。1日のイベントではあるものの、セッションはPCI-X 2.0についてのものとPCI Expressに関するものが、同時並行開催される密度の濃いものであった。ここでは、PCI Expressについて、筆者の興味を惹いたポイントについて紹介してみたいと思う。

 PCI Expressは、以前は3GIO(3rd Generation I/O)と呼ばれていたもの。図1のような1対1(Point To Point)の接続をサポートしたシリアルバスで、送信側と受信側、それぞれが振幅0.8Vの差動ペアで構成される。受信側と送信側をまとめたインターフェイスとしての最小構成を1レーン(x1)と呼び、アプリケーションの要求に応じて2レーン(x2)、4レーン(x4)、8レーン(x8)、16レーン(x16)、32レーン(x32)とまとめて利用し、帯域を拡張することができる。現在、デスクトップPC向けの汎用I/Oスロットには1レーンが、グラフィックス用には16レーンの構成が、それぞれ用いられることになっている。

 図2は、1レーンから16レーンまでのスロットに用いられるコネクタだが、たとえば8レーン対応のスロットには1レーンや4レーンなど、スロットよりレーン数の少ない拡張カードを挿入することができる。したがって、デスクトップPCに用意されるグラフィックス用の16レーンスロットは、AGPのようにグラフィックスカード専用というわけではなく、汎用の広帯域スロットとして利用することが可能(グラフィックス統合チップセットのように外付けグラフィックスカードを必要としない場合等)で、現在のPCよりシステム構成が柔軟になる。


図1:PCI Express Interconnecrt 図2:Scalable Connector Design

 なお、AGPが汎用のPCIスロットと異なるのは、GARTをサポートしているためだが、Pentium III以降のプロセッサではプロセッサがPage Attribute Table(PAT)と呼ばれる機構を備えたため、必ずしもGARTは必要ではなくなった。したがって、グラフィックス用に用意される16レーンのPCI ExpressスロットではGARTはサポートされない(以前、名称もAGPの後継となるPCI ExpressスロットについてSerial AGPといった名前も噂されていたが、GARTのサポートがないこともあり、PCI Expressに一本化された模様だ)。

 では、上の例とは逆に、4レーン対応のカードを転送速度が遅くなって良いから1レーンのスロットに挿せるかというと、これはサポートされない。実際には、こうしたことが起こらないよう、誤挿入防止用のピンが用意される。また、複数レーンシステムで、インターフェイスを非対称に使うこともサポートされない。たとえば16レーンのシステムの場合、このインターフェイスには上り、下り、それぞれ16本の差動ペア、計32ペアが存在する。これを用途に応じて上り20ペア、下り12ペアに構成し直す、といった使い方はできないことになる。InfiniBand等では、こうした非対称のバスもサポートされるが、PCI Expressではコストがかかり過ぎることから、このような使い方は想定されていない。

●16レーンで8GB/secの実効速度をもつ

 実際のPCI Expressのデータ転送レートだが、PCI Express 1.0規格では片方向あたりのbitレートを2.5Gbpsと定めている。ただし、この数字は8b/10bエンコーディングによるクロック信号も含まれているため、実効レートはこの分(2割)を引いた2Gbps。レーンとしては双方向で4Gbps、約500MB/secの帯域ということになる。つまり、上述したデスクトップPCの場合、汎用I/Oスロットは500MB/sec、グラフィックス用スロットは8GB/secの帯域を備えるわけだ。

 PCI Expressでは、次のステップで5Gbps程度、さらにその次のステップで10Gbps程度までデータレートを引き上げることを狙っている。現行のPCI Express 1.0では、こうした複数のデータ転送レートをサポートするためのネゴシエーションはサポートされていない(データレートは2.5Gbpsのみで、それ以下のデータレートはサポートされない)が、プロトコルにはネゴシエーションをインプリメントするための予約が施されており、将来に向けた準備はなされている。

●スロットの汎用性が高いはずだったが……

今回のIDFでNECが展示した4レーン構成をサポートした物理層チップの試作品。NECはPCI Expressについて、同社のASICセル用に開発を進めており、NEC自身が最終製品としてPCI Express対応チップをリリースするかどうかは未定とのことであった

 図3は、PCI Expressの1レーンスロットと、グラフィックス用の16レーンスロットを搭載したマザーボード基板の配線図だ(このPentium 4対応のマイクロATXマザーボードは、2003年第1四半期にシステムベンダ/マザーボードベンダにサンプルされる模様)。

 PCI ExpressはデスクトップPCからサーバーまで、広範な用途に用いることができるよう、4層基板で十分対応可能となっている。この配線図で興味深いのは、PCI Expressスロットの位置だ。昨年の夏に3GIOの概要が公開された時点では、図4のようなスロット構成が語られていた。

 すなわち、3GIOのコネクタを既存のPCIスロットのコネクタの延長線上に設けることで、1つのスロットをPCIにも3GIOにも使えるようにしよう、というアイデアである。このアイデアが実現されれば、たとえば5本の拡張スロットをPCIでも3GIOでも、好きなように組み合わせることが可能になるハズだった。

 しかし、今回のIDFで明らかにされたこの配線図では、PCIスロットとPCI Expressスロットは独立した位置にある。つまり、利用可能なPCIスロットの数とPCI Expressスロットの数は、あらかじめ決められている。このようなデザイン変更の理由をたずねたところ、PCIスロットとPCI Expressスロットを一直線に並べ、拡張スロットの自由度を最大限にする必要性を訴えるPCベンダが1社もなかったから、とのことであり、電気的特性上の問題ではない、ということであった。

 もう1つ、この配線図で分かることは、PCI Expressのインターフェイスを供給しているのがNorth Bridgeチップである、ということだ。一般的なデスクトップPCのブロック図としては、よく図5のようなものが提示されている。このブロック図では、グラフィックス用のPCI Expressインターフェイスを提供するのはNorth Bridge(図中はMemory Bridge)の役目だが、汎用拡張スロット用にPCI Expressスロットを提供するのはSouth Bridge(同I/O Bridge)の役目とされている。しかし、配線図では汎用スロット用に1レーンのPCI Expressインターフェイスを提供しているのはNorth Bridgeである。このような変更がなぜ生じたのか、気になるところではある。

 図6は、PCI Expressスロットの電源供給能力だが、デスクトップが最大10Wであるのに対し、サーバーは同じ1レーンのコネクタでも25Wと大きくなっていることが分かる。また、グラフィックス用の16レーンコネクタでは最大40Wと、現行のAGP Pro-50に近い数字を確保している。ただし、このAGP Proの後継になるワークステーション向けのグラフィックススロットについては、まだ電源容量がどれくらいになるか決まっていないとのことであった。


図3:マザーボード基板配線図 図4:昨年夏に3GIOとして公開されたスロット構成

図5:一般的なデスクトップPCのブロック図 図6:PCI Expressスロットの電源供給能力

●PCI ExpressはLonghornで正式対応となる

 PCI Expressの特徴としてよく言われるのは、ソフトウェアモデルが現行のPCIと同じであるため、追加のソフトウェアサポートを必要としない、ということだ。しかし、今回のデベロッパーカンファレンスに参加して、これは真実でもあり、そうでもない、ということが分かった。すなわち、PCI ExpressをPCI 2.2しかサポートしていない既存のOSでそのまま動かすことができるか、といえばそれは可能である。

 しかし、どうやら動くことと、PCI Expressの全機能、全性能を引き出すことは別のようだ。PCI ExpressはQoSやIsochronous転送、ホットプラグといったPCIバスが備えていない機能を持つ。こうした機能を活用するのは、PCI 2.2しかサポートしていない既存のOS(レガシーOS)では当然不可能である(おそらく性能面にも影響があるだろう)。PCI-SIGの担当者は、とりあえずはBIOS、次に個別のドライバ、最終的にはOS自体の対応という形で、ソフトウェアの対応が順次行なわれていくとの見込みを示した。と同時に、LonghornはPCI Expressに最適化されたものになるであろうとの見通しが述べられた。

□関連記事
【4月18日】【WinHEC2002レポート】
PCI-SIGが3GIOの正式名称を“PCI Express”と決定
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0418/winhec3.htm

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(2002年9月27日)

[Text by 元麻布春男]


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