●BartonのL2キャッシュ増量はモデルナンバーで200~500に相当 AMDが「Athlon 64(ClawHammer:クローハマー)」を遅らせたことで、「512KB版Athlon XP(Barton:バートン)」は今年前半のAMDを背負うことになった。では、Bartonは、IntelのHyper-ThreadingテクノロジPentium 4に対抗して、今年中盤を戦うことができるのだろうか。 笠原一輝氏のテスト結果を見ると、L2キャッシュ増量の効果は絶大だ。これは、クロックが上がるにつれて、キャッシュによるDRAMメモリアクセスレイテンシの隠蔽の効果が増してくるためだと思われる。AMDがBartonで十分Pentium 4(Northwood:ノースウッド)に対抗できると判断した理由もよくわかる。 もっとも、同じ効果はおそらく1MB L2キャッシュを搭載するIntelの次世代CPU「Prescott(プレスコット)」にも当てはまると思われる。ただし、Prescottが登場する時には、AMDもAthlon 64を出荷している。ちなみに、Athlon 64はDRAMインターフェイスを内蔵してDRAMアクセスのレイテンシ自体を大幅に減らしているために、Athlon XP系ほどはキャッシュの効果は劇的ではないだろう。もともと速いというわけだ。 AMDはこのBartonのキャッシュの差をモデルナンバーでは約200~300に換算している。2.08GHzだとThoroughbredが2600+でBartonが2800+で200差、2.17GHzだとThoroughbredが2700+でBartonが3000+で300差。妥当なラインだ。ちなみに、Barton 3000+のクロックはもともと2.25GHzを予定していたのが、2.17GHzに引き下げられている。 また、AMDはBarton 3200+を今年中盤に出す予定だが、これは2.33GHzになるとOEMには伝えていた。しかし、もしAMDがAthlon XPのFSB(フロントサイドバス)を現在の333MHzから400MHzに引き上げた場合には、モデルナンバーもさらに上がるだろう。もっとも、現状では、まだFSB 400MHzの具体的な話はOEMには来ていないようだ。また、AMDはClawHammerとBartonのモデルナンバーを競合しないように整理しなければならない。そのため、Bartonのモデルナンバーを上げる場合には、ClawHammerも上げなくてはならないだろう。
●はるかに高いHammerのモデルナンバー/クロック比 では、Athlon 64はBartonでは、モデルナンバーでどれだけの差があるのだろう。 AMDが昨年末頃にOEMに説明していたプランでは、256KB L2キャッシュ版Athlon 64はモデルナンバー3200+で登場することになっていた。おそらく、その場合の実クロックは2GHz近辺を想定していたと推定される。ちなみに、その時点の計画にあった1MB L2キャッシュ版Athlon 64のモデルナンバーは2GHzで3400+だった。 これらをThoroughbred、Bartonとともに表にすると面白い関係が見えてくる。図を見ての通り、各CPUの性能/クロックカーブは完全に平行に並んでいる。各CPUとも、生クロックが200MHz上がると、およそ300ずつモデルナンバーが上がる。ばらつきもあるが、平均的にはそうなっている。各CPU毎にほぼ決まった差もついている。例えば、すでに説明した通りThoroughbredとBartonは同クロックならモデルナンバーで200~300違う。また、Bartonと256KB版Athlon 64はモデルナンバー400~500、そして256KB版Athlon 64と1MB版Athlon 64は、この時点で200違っていたと思われる。 現時点ではこの時の計画は全てご破算になっている。Opteronが1MB版L2キャッシュの「SledgeHammer(スレッジハマー)」、Athlon 64はおそらく256KB版L2キャッシュのClawHammerだけだと推測される。Opteron(SledgeHammer)は4月に最高1.8GHzで登場、Athlon 64(ClawHammer)は9月に登場することになっている。 今のところ、AMDがOpteronとAthlon 64にどんなモデルナンバーを設定してくるかわからない。しかし、ひとつ明確なのは、Bartonの最高性能は3200+なので、Athlon 64は最低でも3200以上のモデルナンバーで登場するだろうことだ。CPUのパフォーマンスは、ハードウェアが登場後でもコンパイラの最適化などで上がるため、実際に登場するAthlon 64は、やや高いモデルナンバーで登場する可能性がある。 ●まだ見えないOpteronのモデルナンバー 同じことはOpteronにも当てはまる。AMDは昨年10月に32bit時で最適化していないコードでの1MB L2キャッシュ版Hammerの性能を公表。それを見る限り、2GHz時のHammerの性能は、IntelのXeonの3.4~3.6GHzに相当するようだった。おそらく、最初の計画での1MB版Athlon 64のモデルナンバーが2GHzで3400+だったのは、そうした根拠があったと思われる。 しかし、AMDはOpteronではAMD独自の64bitアーキテクチャx86-64を前面に打ち出す。64bit時にはOpteronの性能はさらに上がるものと考えられる。そのため、AMDがx86-64の分のパフォーマンスアップをモデルナンバーに換算、さらに引き上げてくる可能性はある。実際、Opteronはそれだけの性能を発揮できる可能性は高い。 というわけで、AMDのCPUコアのモデルナンバーは、きれいな階層で並ぶ。推測では下のようになる。
同じ2GHzで比較すると、SledgeHammer=OpteronのモデルナンバーはThoroughbredの約1.4倍かそれ以上となる。こうした、L2キャッシュ増量やアーキテクチャによる性能の差を数値で明確に示すことができるのは、モデルナンバーの利点だ。AMDが、Hammer立ち上げのためにはモデルナンバーを是が非でも導入しなければならなかった理由はよくわかる。 ●AMDにとって損(?)なBarton こうやって概観すると、BartonはちょうどパフォーマンスレンジではClawHammerとThoroughbredの間を埋めることが見えてくる。AMDにとって強力なカンフル剤となりえるBarton。だが、長期的に見るとBartonはAMDにとってそんなにうまい戦略ではない。というのは、L2キャッシュが増えた分、ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくなっているからだ。 Bartonのダイサイズは101平方mmで、現行の「Athlon XP(Thoroughbred:サラブレッド)」の84平方mmと比べて20%ほど大きくなっている。当然、1枚のウエハーから採れるチップの個数はかなり減る。 それに対してClawHammerのダイは去年の発表の通りなら104平方mmで、Bartonと3%程度しか違わない。このことは、原理的にBartonとClawHammerでは、1枚のウエハーから採れるチップ数はそれほど変わらないことを意味する。ClawHammerのL2キャッシュは256KBで、それに対してBartonは512KBだからこれも当然だ。 つまり、AMD側から見れば、BartonはClawHammerと同程度しか採れないのに、周波数当たりの性能がより低い、“損な”CPUということになる。同じウエハーから採れる個数がそれほど変わらないのなら、よりパフォーマンスの高いClawHammerの方を製造したいはずだ。 もっとも、ClawHammerはSOI(silicon-on-insulater)技術を使うので、ウエハーコストは当初はやや高くなると推測される。SOIのコスト差は、将来的には縮まると見られ、そうなると、AMDにとってはBartonは魅力的ではなくなるだろう。その時には、ClawHammerが完全にBartonに取って代わるというわけだ。 □関連記事
(2003年2月10日) [Reported by 後藤 弘茂]
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