元麻布春男の週刊PCホットライン

渡米がきっかけでPDAに再挑戦



●米国では人気のPDA

 米国に行って思うことの1つは、米国人はPDAが好き、ということだ。

 今回、IDF前にSan Franciscoへ立ち寄ったが、ダウンタウンのComp USAでは、携帯電話、デジカメ、PDAがデジタル3種の神器(ちょっとオーバー?)として、店の最も目立つ場所にコーナーを構えている。PDA用の周辺機器、アプリケーション、コンテンツ、アクセサリも豊富に揃う。体格のいい米国人が、PDA内蔵の細いスタイラスでPDAを操作する様は、なんだかユーモラスですらある。

 それに比較すると、日本でのPDA普及率はもう一息のようだ。ウチの近所のパソコンショップは、開店当初はPDAコーナーがあったが、改装を機になくなってしまった。

 もちろん、ヨドバシカメラやビックカメラといった大型量販店にいけば、多種多様なPDAが売られているし、昔からこの手のデバイスに非常に熱心なマニアがいるのも知っている。彼らの、英語版を日本語化して使ってしまうようなパワーには敬服するばかりだが、そうした一定のコミュニティの枠を超えて、たとえば携帯電話やデジカメのように広く一般に普及しつつあるかというと、いまひとつ伸び悩んでいる印象がある。

 筆者はというと、初代ザウルスやWiZを購入して使ったことはあるけれど、すぐに手放してしまった、というところ。Windows CEが発表されたCOMDEXで、英語版のCassiopeaを編集部に頼まれて買ってきたこともあるけれど、自分で使うことはほとんどなかった。どうやら、あまり良いPDAユーザーではないようだ。そんな筆者が、どういう風の吹き回しか、PDAを再評価する気になった。


●古いホテルのインターネット環境に悩む

 その直接のきっかけは今回のIDFで泊まったホテルにある。そのホテルは、'26年創業の建物を利用した歴史的ランドマークで、由緒ある格調高いホテルなのだが、いかんせん設備が古い。

 後付けのエアコンがウォンウォンとうるさいのには堪えたが、アナログモデムを接続する電話回線の品質が悪く、56kbpsモデムが20kbps程度でしか接続できないのも参った。この程度の速度でしか接続できないということは、当然うまく接続できないことも珍しくないということ。しかも1回プロバイダにコール(ダイアルアップ)するだけで1ドル取られるのだから、気分的に釈然としない。

 これでもテキストのみのメールなら我慢もできるのだが、添付ファイルがあろうものなら泣けてきてしまう。逆に、こちらから写真を添付した原稿を送るのも大変だ。しょうがないので今回は、IDF会場の無線LAN経由で原稿を送ることにした。

 今回改めて学んだことは、コンベンションさえ始まれば、会場全域は無理だとしても、プレスルームに行けば何らかの形でインターネットへ接続できるということだ。

 無線LANの普及のおかげで、端末が空くのを待つ必要も、ほとんどない。筆者にとっての問題は、コンベンションが始まる前と終わったあとの2~3日だ。メールの送受信さえ何とかなれば、ホテルの高い電話代を払わなくてもすむのに、ということである。


●ホットスポットサービスを利用

 そこで注目したのが、無線LANのホットスポットサービスだ。米国でも様々な企業がホットスポットサービスを提供しているが、中でもスターバックス(以降「スタバ」)と提携しているT-Mobileのサービスなら、そこら中にあるスタバで利用できる。

 正確には、T-Mobileのサービスは全米をカバーしているわけでもなければ( http://accounts.hotspot.t-mobile.com/net_locations/page5a.asp )、カリフォルニア州内でも南は弱いのだが、San Franciscoベイエリアやシリコンバレーについては、極めて充実したネットワークとなっており、文字通りそこら中のスタバで使える(米国では携帯電話だって全土をカバーしているとは言いがたい)。筆者の米国出張は圧倒的にこのエリアが多いから、これで何とかなりそうだ。

【画面1】T-Mobileの料金システム
 もう1つ、このサービスを利用してみようかと思った理由は、料金体系がリーズナブルに思えたから。画面1は、T-Mobileの料金システムだが、月ぎめの契約だけでなく、プリペイ(前払い)や従量制のプランが用意されている。一番安い2ドル99セント(約370円)の従量制プラン(接続時間15分間込み、それを過ぎると1分25セント)で、とりあえず試してみるのもアリな気がしたのである。

 注意しなければならないのは、このサービスがメールアカウントの提供や、メールのリレーサーバサービスを提供していないこと。したがって、国内で契約しているプロバイダによっては、そのままではメールの送受信ができないケースも考えられる。ちょっとした工夫(旅行中は全面的にWebベースのメールを使う、POPだけ行ない送信にはWebベースのメールを使う、VPNで会社に接続する、など)が必要になるかもしれない。

【画面2】スターバックスで無線アクセスした際、最初に表示される画面
 画面2は、San Joseのスタバ店内に無線LANアダプタを装着したノートPCを持ち込み、Webブラウザを開くと表示される画面だ。この状態ではまだ外(インターネット)に出ることはできないが、ちゃんと機器のセットアップができていることや、接続できることは、こうやって確認できる。

 また、ユーザーIDとパスワードでログインする仕組みのため、無線LAN機器のMACアドレスなどを登録する必要もない。無線LAN機器を使いわけたり、買い換えたりしても、問題ないハズだ。


●PDAのセットアップに四苦八苦

NEC PocketGear
 さて、問題は端末だ。ご存知のように、筆者はA4サイズで2スピンドルタイプのノートPC(しかも英語キーボード)を愛用している。B5サイズのノートPCでは、どうにも窮屈で仕事(原稿書き)がはかどらない。原稿を書く以上は、このサイズのノートが必要なのだが、メールの確認にスタバに行くのに、いちいちA4のノートを運ぶというのも考え物だ。しかし、メールのためにA4ノートPCに加え、B5ノートPCを持っていくのも億劫だ。じゃあPDAならどうよ、というのがPDAを再評価する(PDAに再入門する)気になった理由だ。

 そこで、長期間に借りることを了解の上で、PC Watch編集部からPocket PCを借用した(自分で購入するほどにはハラが決まっていない)。

 借用したのはNECのPocketGear。StrongARM 206MHzを搭載したPocket PC 2002対応モデルで、メモリが32MBと、今となっては少な目なことを除けば、標準的なPocket PC機である。つい昨日、ソニーがPalm OS5搭載のClieを発表し、Palmでも無線LANが公式に利用可能となったが、まだ販売されておらず、現時点で無線LANがちゃんと使えるPDAとなるとWindows CE系しかない(T-MobileのFAQでも現時点でPalm系は不可となっている)。

 このPocketGearを、次のIDFまで使い続けるとなると、サポートソフトをインストールするマシンは、せいぜい1週間かそこらで環境を壊してしまう実験マシンではまずい。必然的に、仕事マシンにインストールすることになった。

 筆者は、まだ開封もしていないOffice XPのパッケージ(もちろん自分で購入したもの)を持っているのだが、仕事マシンにインストールしてあるのは、Office 2000だったりする。しかも、Outlook 2000はインストールしていなかった。ソフト自体が重い上、特定の使い方のスタイルを押し付けてくるようで嫌いなのだが、Pocket PCを使うのにOutlookを避けて通るのは難しい。Outlook以外のPIMと同期可能なPocket PC用のPIMや、Outlook以外のメールソフトと同期可能なPocket PC用のメールソフトもあるようだが、メモリが32MBしかないこともあり、極力内蔵ソフトを使いたいところ。ならばこの機会にOutlookを使ってみるか、というわけでまずはOutlook 2000を追加インストールした。

 ところが、PocketGearのパッケージを開けてみると、付属のCD-ROMにOutlook 2002が収録されている。そして、Outlook 2002より前のバージョンを使っているユーザーは、Outlook 2002へのバージョンアップを強くすすめる、というのだ。ならば、ということでOutlook 2002をアップグレードインストールし、PCとPocket PC間でデータの同期を行なうActiveSyncなど必要なソフトウェアのインストールを行なった。

 これでうまく行くと簡単に考えていたのだが、それほど簡単ではなかった。最初からトラブルが頻発したのである。

【画面3】PCデータの同期ソフト「ActiveSync」 【画面4】同期をとるごとに表示される「LDAP Directory」のウィンドウ

 画面3はPocket PC上のデータとPC上のデータの同期を図る「ActiveSync」と呼ばれるソフト。いわばPocket PCを使う際の中核となるものなのだが、1項目同期をとるごとに画面4のようなウィンドウがポップアップしてくる。それでもOKを押し続けることで、とりあえず同期は可能なようなので、次のステップに進むことにした。CFタイプの無線LANアダプタのインストールだ。ドライバのインストールは、特に問題もなく終わった。アダプタを挿すと、カードは認識される。ところが、設定ユーティリティが表示されないため、ESS IDやWEPの指定ができない。これでは事実上、使えないのと同じだ。

 そこで、いったんOutlook 2002をアンインストールし、PocketGearの初期化を行なった。そして、インストールプロセスを全部やりなおしたのだが、症状は全く好転しない。それどころか、何回目かのインストール終了後、受信トレイに競合があるというエラーが報告されるようになってしまった。さらに、競合を解消するというコマンドを選んでも、競合は解消しないし、もう1度すべてをアンインストールしてやり直しても、最初から競合が存在するようになってしまった。仕舞いには、Outlook 2002をインストールした直後から、Outlookショートカットが表示できないなど、Outlook 2002そのもののインストールさえ満足にできなくなったのである。

 この時点で、ほとんど1日を潰しており、何度PDAを壁に投げつけようと思ったかわからない。「借り物、借り物」と念じて破壊衝動を押さえ込み寝てしまったが、久しぶりに心がすさんだ1日だった。


●やはりPDAとは相性が悪い?

 あくる日、最後のチャンスということで、あえてOutlook 2002ではなく、Outlook 2000のままいくことにしてみた。すると何のことはない、あれだけしつこく表示され続けたLDAP Directoryのウィンドウがポップアップしてくることもないし、競合も生じない。無線LANアダプタのインストールもトラブルフリーで、ほとんど狐につままれたような気分だ。

 Office 2000の環境に、Outlookだけ2002にしたのがまずかったのだろうか。何はともあれ、Outlook 2002には触らないことを固く心に決めた(ただ、両方のバージョンを触ってみて、2002の方が改良されていることはわかってしまったのだが)。

 ようやく満足に動くようになったPocketGearだが、まだあまり使っていない。とりあえず、ウチの近所にあるFreeSpotカフェ(メルコ主宰の無線LANホットスポット)にでも出かけてみようかと思っているところだ。

 ただ、短期間ながら使ってみて思ったのは、やはり自分にはこのチマチマした感覚はあまり向かないだろうなぁ、ということ。特に内蔵スタイラスを使っていると、憂鬱な気分になる。そこで、内蔵スタイラスをやめて、以前VISIOの発表会でもらったパイロットの多機能ペン(感圧式タブレット用のスタイラス、シャープペン、ボールペンがセットになったもの)を引っ張り出してきて使っているが、だいぶチマチマ感が軽減された気がする。果たして、来年2月のIDFまで筆者はPocketGearを使い続けることができるのだろうか。

□関連記事
【9月19日】【元麻布】米国PCショップに見る今後のPCトレンド
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0919/hot221.htm
【2001年10月5日】NEC、Pocket PC 2002搭載のPDA「PocketGear」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011005/nec.htm
【10月2日】ソニー、XScaleとPalm OS 5を搭載したクリエPEG-NX60/70V
~Type 2 CFスロットも搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1002/sony.htm

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(2002年10月3日)

[Text by 元麻布春男]


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