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FF XI for Winでオンラインゲームが花開く?



Final Fantasy XI for Windows
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 10月10日、スクウェアは「Final Fantasy XI for Windows」の発表会を開催した。すでにPlay Station 2用に販売されているオンラインロールプレイングゲームのWindows版である。

 PS2版のFinal Fantasy XIは、数百万本の売り上げを記録してきた過去の(シングルプレイの)Final Fantasyシリーズと比べると販売本数が1ケタ違い、大ヒットとは呼べない状況にある(発表会での説明によると、PS2版Final Fantasy XIの会員数は12~13万人、うち毎晩アクセスする熱心な会員が約5万人という)。


●オンラインゲームはPS2よりPCが有利だが

 しかし、PS2本体以外にPlayStation BB Unitとインターネットアクセス回線が必要なこと、毎月会費を払わなければならないことなど、プレイするにあたってこれまでのゲームとかなり異なることを考えれば、これもやむをえないのかもしれない。意を決してPlayStation BBに加盟しようと思っても、PCで使っている(契約している)インターネットアクセス回線やプロバイダがそのまま使えるのか、加盟するとしてFinal Fantasy XI以外に何ができるのか、といった情報が一般に知れ渡っていたとは言いがたかった。

 結局PS2では、ゲームを始めるにあたって、インターネット接続というインフラ整備を同時に行なわなければならないことが、1つのハードルになっていたと考えられる。ちなみに、PS2版の会員は、Windows版にプレイ中のキャラクタを引き継ぐことができる。月会費も2口分払う必要はない。

 これに対してWindows版のプラットフォームとなるPCの場合、インターネット接続環境を持たないものなど今ではほとんど考えられない。わが国のADSL回線契約者数だけでも500万に近づきつつあることを思えば(ほかにCATVやFTTHだってある)、ブロードバンド環境もはるかに普及した状態にある(PS2版と異なりWindows版は利用するプロバイダを問わない)。BBユニット付のPS2ユーザーよりは、ブロードバンド環境を持つPCユーザーの方が、断然多数派なのである。

 高精細のRGBディスプレイが利用可能な点も、チャット等が大きな比重を占めるゲームでは、TVをディスプレイにするゲーム専用機より有利なハズだ。そんなこともあってか、これまでPCゲームに積極的とは言いがたかったスクウェアが、Final Fantasy XIに関しては早い段階からWindows版の構想を明らかにしていた。今後もオンラインゲームに関してはWindowsへの展開を考えているという。それに対してスタンドアロンのゲームについては、Final Fantasy XI for Windowsの売れ行きを見極めたいという。


●オンラインゲームは雀荘に似ている

 では、Windows版が大ヒットになるのかというと、それはどうだろう。そもそもわが国では、PC上でゲームをするという習慣があまりない。省スペースデスクトップPCやノートPCがもてはやされる理由の中には、(割合は低いかもしれないが)PCにゲームを快適にプレイできるだけの能力を始めから求めていない、ということも含まれているハズだ。逆にFinal Fantasy XIが、高性能なデスクトップPCが求められるキラーアプリになるほど売れてくれれば良いのだが、PS2版の現状を考えると決して楽観することはできないだろう。

 筆者はよくオンラインゲームのビジネスを雀荘にたとえる。オンラインゲームも雀荘も、基本的には場所貸し業であり、お客さんが増えれば、設備(オンラインゲームならサーバ、雀荘なら雀卓)を増強しなければならない。開発費の償却が終わったら、あとは純利となるスタンドアロンゲームとはこの点で大きく異なる。

 しかも、逆にお客さんが来ないからといって、店を閉めるわけにもいかない。今はオンラインゲームの展開期だから、あまり論じられることはないが、たとえば数年後、技術的に陳腐化した(著しくグラフィックスが見劣りする、など)オンラインゲームのサーバをいつ閉じるか、ということが非常に難しい問題になるだろう。ゲームがよくできていればいるほど、熱心な固定客がついているに違いないからだ。雀荘だって、馴染みのお客さんを無視して店を閉めるわけにもいくまい。

 設備投資があるということも、撤退や事業の縮小を難しくする。1,000台のサーバで展開したオンランゲームの人気が下火になった時、同じ会社が後継となるゲームを提供できればいいが、そうでないとリース期間の残ったサーバが大量に余ってしまいかねない。雀荘の雀卓も余剰になっては大変だが、サーバの方が金額的に厳しいだろう。

 オンラインゲーム(特にマルチプレイ)と雀荘が似ているのは、何も運営する側だけの話ではない。マルチプレイのオンラインゲームを行なう場合、知人と時間を決めていっしょにプレイすることもあれば、一人でサーバに接続することもあるだろう。雀荘だって、4人以上でメンツを組んでいくこともあれば、1人でフリー雀荘に行くことだってある。

 問題は、1人でフリー雀荘に行く人は、限られた層でしかない、ということだ。見ず知らずの人と麻雀をするのは、その人の麻雀のスキルにかかわらず、勇気のいることだ。同様に、駅前の碁会所に1人でいきなり入れる人は限られている。これは腕の良し悪しというより、その人の生まれ持っての性格が大きく影響しているのではないかと思う。同様に、1人でマルチプレイのオンラインゲームに参加するのは、たとえ顔と名前の見えないオンラインゲームであっても、その人の性格によっては難しいだろうし、ましてやそれを楽しめるかとなると、いっそう難しいだろう。現実世界での人間関係に悩んでいるのに、何を好んで仮想世界でまで、と考える人も少なくないハズだ。

 顔見知りでパーティを組めば、気分はグンと楽になる。4人で雀荘に出かけるのと同じだ。しかし、麻雀が以前に比べて下火になってしまったのは、4人が時間をそろえて同じ場所に集まることが難しくなったからだと言われている。ネットワーク上のゲームなら、場所は離れていても良いとはいえ、決まった時間に集まり続けるのは相当な覚悟がいる。いくらゲームをしたくても、周囲に同じ趣味を持つ人がいないプレイヤーだっていることだろう。Final Fantasy XI for Windowsが大ヒットし、またビジネスとして成立して継続的にオンラインゲームがリリースされ続けるには、こうした障害を乗り越える必要がある。


●それでも期待されるオンラインゲーム

Dellの「Dimension FINAL FANTASY XIパッケージモデル」
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 もちろん、これまで大きなヒット作に恵まれず、小さな市場に甘んじてきたわが国のPCゲーム市場にとって、Final Fantasyという一般にも知名度の高いゲームがリリースされることが大きなチャンスであることだけは間違いない。

 今回の発表会には、Intel、NVIDIA、DellとPC業界トップ企業の代表(それも社長、会長クラス)が顔を揃えた。IntelはWindows版の開発に際して開発ツール類やライブラリを、NVIDIAIはグラフィックス技術をそれぞれ提供している。DellはFinal Fantasy XIをバンドルしたモデル(Dimension 4500、もちろんグラフィックスカードはGeForce 4 Ti 4200ベース)を用意する(スクウェアの株主でもあるソニーのVAIOでないのは、特に深い意味はないということであった)。

 これらの企業が協力を惜しまないのは、3Dゲームがハードウェアへの負荷が極めて高いアプリケーションであるからだ。発売元のスクウェアでは、Final Fantasy for Windowsを20万本売りたい、と述べている。これは、株主に報告する売り上げ目標というより、それくらいの気持ちで売りたい、売れて欲しい、という願望のようだが、それは発表会に参加した3社も同じ思いだろう。省スペースや静音も良いけれど、これを機会に高性能PC(それも実用度の高いもの)が脚光を浴びるのなら、それは悪くない話だ。

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【10月10日】スクウェア、「FINAL FANTASY XI for Windows」を11月7日発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1010/square.htm

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(2002年10月11日)

[Text by 元麻布春男]


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