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ATI TechnologiesがDirectX 9世代GPUに一番乗り


●ATIが夏の出荷を予告

 「ATI Technologiesは、この夏に新『R300』と『RV250』を出荷開始する。競争相手より確実に先行する。R300は業界で初めてのDirectX 9対応のGPUになるだろう。また、当社は、発表するだけでなく、出荷も夏に始める。出荷準備ができていないのに発表する他社とは違う」

 ATI TechnologiesのK. Y. Ho(KY・ホー)会長兼CEOは、6月頭のCOMPUTEX TAIPEI時のインタビューでこう予告した。また、同社のDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼COOも「当社は、MicrosoftがDirectX 9を出すよりも早く、この夏グラフィックスの新しい方向性を示す。ATIが3Dワールドの先頭に立つことになる。そして、当社は方向性だけでなくパフォーマンスでもトップに立つ」と語った。

 ATIは、今回のDirectX 9世代GPUで、トップランナーになろうと意気込んでいる。

 そして、いよいよ夏が来る。ATIは、このところ夏のCG業界イベント「SIGGRAPH」の前後に新製品の発表を行なうことが多い。SIGGRAPHは7月21日からで、もう日付は迫っている。

●NVIDIAに先行するATI

 今回、ATIがNVIDIAより先行していることは、すでに広く知られている。それは、NVIDIAのサンプルが遅れていたからだ。例えば、あるチップセットベンダは6月の取材時に「我々はすでにATI Technologiesの新GPUはサンプルを受け取って、ラボ内でテストをしている。しかし、まだNVIDIAからはサンプルを受け取っていない」と語っていた。

 NVIDIAのDirectX 9世代GPU「NV30」は、秋頃の発表と言われている。だが、ATIは実際の製品出荷では、さらに差が開く可能性があると指摘する。

 「競争相手も秋にはDirectX 9製品を発表すると報道されている。しかし、重要なのはいつ出荷するかだ。彼らは発表したとしても、おそらく年内は出荷できないだろう。出荷時期では、我々は6カ月程先行できると考えている。理由は簡単な算数だ。製品をテープアウト(設計完了)してからサンプルを作るまでまず6週間かかる。次にサンプルを評価して品質を上げるのにさらに1カ月半から2カ月かかる。そして、通常は、もう一回それを繰り返すわけだ。そうするとテープアウトから製品まで6~7カ月は最低でもかかってしまう。そして、当社はすでに以前からサンプルがあるが、彼らはそうではない」(K. Y. HO氏)

 このあたりは、秋にはレディ(出荷可能)になると言うNVIDIAの主張と隔たりがあるが、NVIDIAが最近、発表から実際の出荷まで時間がかかるのも確かだ。

DirectX 9対応GUP開発状況

●開発リソースの充実がATIのカギ

 では、どうして今回、ATIはNVIDIAに追いつき追い越すことができたのだろう。

 「簡単なことだ。彼らは落ち着いてしまったが、その間、我々は成長を続け開発リソースを増やした。現在、最もパワフルで強大なエンジニアリングチームを持つのはATIだ」、「確かに、過去数年間は、当社は多くのビジネスにリソースを分散したため、競争相手に遅れを取ってしまった。しかし、リソースを充実させた結果、昨年のRADEON 8500/7500からは追いつき、今回は新世代のテクノロジでも先行する」とK. Y. Ho氏は説明する。

 実際、ATIがエンジニアリングリソースをここ2~3年で大幅に強化したのは確かだ。その要となるのは、一昨年のArtX買収だ。ArtXは、目立たないながらも、業界では有名な会社だった。というのは、ArtXは、SGI内部でNintendo 64のグラフィックスチップを開発していたチームが中核になった会社だったからだ。ゲームキューブのチップ「Flipper」もこのチームが開発している。ゲーム機での実績でも分かる通り、非常にスマートなデザインをすることで知られるチームだ。そして、ArtXのスタッフは、現在、ATIの米西海岸でのGPU開発チームの主軸となっている。

 「ATIにはGPU開発チームが現在は2つある。ひとつはEast Teamで、こちらはR200(RADEON 8500)の開発を担当した。もうひとつはWast Teamで、こちらはFlipperやR300を担当している。2チームが交代に次世代の製品を開発するサイクルとなっている」とATI TechnologiesのJason L. Mitchell氏(Project Team Leader, 3D Application Research Group)はATIの開発態勢を説明する。

 つまり、R300は、ArtX買収による2チーム体制の初の成果ということになる。

●激戦となるGPU市場

 今回のATIが先行することには、象徴的な意味がある。それは、DirectX 9が、グラフィックスチップ(GPU)のアーキテクチャにとって、大きな節目となるからだ。そこで先んじることは、これまでの世代のGPUで先行するより価値は大きい。とはいえ、ATIがこのリードを、実際の市場で維持できるかどうかはまだわからない。というのは、以前にもレポートした通り、DirectX 9でGPU市場は、再び激戦に入るからだ。NVIDIAはもちろん巻き返しにかかるし、それ以外もGPUメーカーもこぞってDirectX 9世代に力を注いでいる。

 例えば、Matrox GraphicsもDirectX 9の機能の多くを取り込んだ「Parhelia-512」の量産を始めている。ここまで開発したMatroxが、DirectX 9フルサポートのGPUを開発していないはずはないだろう。他のプレイヤーも同様だ。すでに、SiS(Silicon Integrated Systems)は「Xabre II」を、S3 Graphicsは「Columbia(コロンビア)」というDirectX 9世代GPUを来年前半に投入する計画を明らかにしている。メインストリームPC市場に復帰する3Dlabsも、おそらく同世代を投入してくると思われる。

 つまり、これまでメインストリームで力を失っていたベンダーや、ローエンドに留まっていたベンダーも、DirectX 9ではレースに加わろうと急いでいるのだ。

 例えば、統合チップセット用のグラフィックスコアから出発し、新製品Xabreではメインストリーム向けGPUにまで進出してきたSiSは、今後はトップメーカーに挑戦する。「Xabreファミリの次からは、我々はデザインフィロソフィを変える。ハイエンドセグメント向けの、より高性能で高価格な製品へと向かう。Xabre IIかIIIの世代でそのセグメントに到達できるかどうかはわからない。しかし、方向性は明確だ」とSiSでグラフィックス製品を担当するThomas Tsuiディレクタ(Multimedia Product Division)は語る。

●ATIとNVIDIAはDirectX 9アーキテクチャの浸透を急ぐ

 もっとも、ATIとNVIDIAのトップ2社の姿勢も、これまでとは違っている。両社とも、DirectX 9世代GPUでは、ハイエンドだけに留まらず、できる限り迅速にプラットフォームを下へ広げようとしている。つまり、より低価格のPCやモバイルへもDirectX 9世代を持ってこようとしている。DirectX 8世代GPUの時とは、意気込みが違う。

 例えば、ATIのOrton社長は次のように語る。「 我々は、DirectX 9をハイエンドだけでなく、幅広い市場へ迅速に浸透させる。DirectX 8.1では、昨夏にハイエンド向けに発表(RADEON 8500)して、今度ようやく(RV250で)メインストリームに来る。約12カ月かかった。だが、DirectX 9世代ではメインストリームデスクトップへも、6~9カ月で持ってくる。さらにノートPCにもDirectX 9を提供するつもりだ。もちろん、Appleの市場も考えている。2003年末までには、新アーキテクチャを幅広く普及させたいと考えている。新アーキテクチャの浸透を急ぐことで、アプリケーションのサポートも早く得られると考えている。つまり、革新をもたらすことだけでなく、それを幅広く普及させることにも注力する、それが今回の戦略だ」。

 NVIDIAの戦略もほぼ同じだ。「次世代テクノロジは、今年末までにデスクトップPCだけでなく、ノートPCでも手に入るようになるだろう。今回、我々はハイエンドデスクトップに留めずに、迅速に製品を展開するつもりでいる」とNVIDIAでモバイル製品のマーケティングを担当するSunder Velamuri氏(GM, Mobile Business)は語る。

 つまり、DirectX 8の時とは違って、DirectX 9ではハイエンドのアーキテクチャが比較的早くメインストリームPCやモバイルにまでやってくることになる。それだけではない、次のステップでは、グラフィックス統合チップセットにも来る。

 例えば、S3 GraphicsはColumbiaコアの統合チップセットを2003年後半に予定(サンプルが2003年第3四半期の予定)する。これは、Columbiaのレンダリングパイプを8本から4本に削って性能レンジは落とすが、DirectX 9アーキテクチャの仕様は備える。「ハイエンドになってもSMAアーキテクチャを続けたい。その時に、ダウンサイズできるパスとして、こうしたアーキテクチャを考えた」とS3 Graphicsは説明する。S3 GraphicsのDirectX 9統合チップセットは、当然VIA Technologiesからもリリースされることになる。

●SiSもDirectX 9統合チップセットを視野に入れる。

 「DirectX 9でも、簡単にチップセットに統合できるように設計段階から気を配る。そうすれば、統合用に設計し直すようなムダが起きないし、統合製品のバグも少なく製品を迅速に量産に移すことができる。つまり、DirectX 9の統合チップセットが必要になれば、すぐに市場に投入できるようにする」とSiSのThomas氏は語る。

 どうやら、来年後半には統合チップセットにもDirectX 9アーキテクチャが入り始めることになりそうだ。もっとも、本当のローエンドは、コスト問題からDirectX 9へはそう簡単には移行できないため、二極化が進む可能性がある。それでも、DirectX 9世代が、これまでの世代と比べると普及が早くなりそうなのは確かだ。

□関連記事
【7月5日】【海外】S3 Graphics、DirectX 9 GPU「Columbia」を来年前半に投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0705/kaigai01.htm
【5月10日】【海外】DirectX 9が3DLabsとMatroxを復活させる
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0510/kaigai01.htm
【2000年2月17日】加ATI、Dolphinのグラフィックコアを供給する米ArtXを買収
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000217/ati.htm


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(2002年7月9日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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