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「DirectX 9は全く新しい世界を開く」と語るATI


●DirectX 9が変革になると語るGPU関係者

 「DirectX 7は限界(Threshold)だった。DirectX 8は何かを開けるたぐいのものだった。しかし、DirectX 9は全く新しい世界を開く」と語るのはATI TechnologiesのDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼COO。

 いや、Orton氏だけでなく、「DirectX 9はとても大きな飛躍となる」(SiS、Thomas Tsui Director, Multimedia Product Division)といったように、多くのグラフィックスチップ(GPU)業界関係者が、DirectX 9がGPUにとって大きな変革になると語る。

 それは、DirectX 9世代GPUが、これまでの世代のGPUとは異なる方向を目指しているからだ。オートン氏が指摘するように、GPUアーキテクチャはDirectX 7でいったん完成に近いものになり、DirectX 8で違う方向へと向かい始め、DirectX 9で完全に新しい方向性を持つようになる。つまり、DirectX 9は、新たな出発点となり、ここから新しいアーキテクチャの系譜が始まるのだ。

 では、DirectX 9世代のGPUでは何が変わり始めるのか。おおまかに言うと、(1)GPUがプログラマブルプロセッサ化し始める、(2)リアルタイムCGと非リアルタイムCG(CGムービー)の世界が融合し始める、この2点になる。

 これは本質的にこれまでとは異なる方向で、そのためにGPUの設計、GPUの産み出す3D CGのクオリティ、GPUの性能指標など、あらゆるものが変わり始める。また、DirectX 9世代以降は、2D/ビデオのハードウェアも一部は3Dハードウェアに融合し始める。その意味では、今後は完全に3Dグラフィックスを中心としたハードウェアへとGPUが変わって行くことにもなる。

3Dグラフィックスと各DirectXの関係


●フィロソフィが変わるDirectX 9世代GPU

 グラフィックスワークステーション上で非リアルタイムに制作されるCGムービーと、PCやゲーム機でリアルタイムに描画される3Dグラフィックスの間には、描画パフォーマンス(ポリゴンやテクスチャの数など)以上の本質的な作り方の違いがあった。

 リアルタイムCGでは、ポリゴンベースのオブジェクトに様々なテクスチャを重ね貼りしエフェクトをかけ絵を作ってゆく。GPUは、それをハードウェアでアクセラレートするために、個々の処理をハードワイヤードで実装する。つまり、リアルタイムで描画するために、いかに速くポリゴンの座標変換を行ない、手早くレンダリングしテクスチャを貼るかに集中していた。リアルタイムCGは、初めからリアルタイム描画という制約があり、その枠内でやれることを増やす方向へ向かっていたわけだ。

 それに対して、ワークステーション上でのCG制作は、時間的制約が少ないため、精度や柔軟性を追求してきた。例えば、モデリング過程で3Dオブジェクトを作成する時にも、三次元座標とそれを結ぶ直線で構成するポリゴンだけでなく、数式で表現する曲線も多用する。これは、ポリゴンでは難しい複雑なモデルを作ることができるからで、レンダリングへ持って行く前にポリゴン化する。

 また、レンダリング過程でも、フォトリアリスティックな画像を作り出すために、レンダリングを何回も繰り返すマルチレンダリングが普通に行なわれる。さらに、グラフィックス専用の記述言語“シェーディング言語”を使って、多彩なシェーディング処理を実現する。そして、ジオメトリの一部以外は、通常、ほとんどの処理がハードウェアアクセラレートされず、プログラマブルなCPUで実行されていた。

 つまり、リアルタイムCGとワークステーションでのCG制作は、全く異なるプロセスで行なわれていたわけだ。

 しかし、半導体技術の進歩が状況を変えつつある。0.13μmプロセスではGPUに搭載できるトランジスタ数は1億を超える。それなのに、DirectX 7相当の機能をインプリメントするのに必要なトランジスタ数は2,500万程度に過ぎない。だったら、増えたトランジスタを使って、これまで手が届かなかったワークステーションCGの世界へ入って行こう --それが、DirectX 9以降のGPUのコンセプトだ。半導体の進歩で、性能を引き上げ、ハードウェアをプログラマブルに作り変えるわけだ。

 その結果、原理的にDirectX 9以降の世代のGPUでは次のようなことが実現できるようになる。

(1)CGムービー品質の3Dグラフィックスが、リアルタイムに生成できるようになり、ゲーム画面などでインタラクティブに操作できるようになる。

(2)これまで多くの部分がハードウェアアクセラレートできなかったワークステーション上でのCG作成の過程がGPU上で高速処理されるようになる。


●最終的にはデスクトップも変える次世代GPUアーキテクチャ

 では、DirectX 9世代の3Dグラフィックスはどんなものになるのか。

 「NV30(NVIDIAのDirectX 9チップ)テクノロジーでは、フォトリアリティに近いレンダリングができる。従来はプリレンダード(CGムービー)でしか得られなかった映像が、リアルタイムにレンダリングできるようになる。新しいレベルの3Dグラフィックスだ」と語るのはNVIDIAのSunder Velamuri氏(GM, Mobile Business)。

 DirectX 9世代GPUでは、これまでと比べるとリアルタイムに描画できる3Dグラフィックスの品質が大幅に向上するとGPU関係者は口を揃える。「グラフィックスは、もっとはるかにエキサイティングなものになる」(ATI、Orton氏)、「同じTVでも、ソニーのTVはぱっと見ただけで他のメーカーより画面が美しい。それと同じように、明確な3Dクオリティの違いが現れる」(SiS、Tsui氏)、「このテクノロジは、ゲームデベロッパのゲームや画像の作り方も変える。来年のE3(5月のゲームカンファレンス)では、きっと驚くようなゲームを見ることができるだろう」(NVIDIA, Velamuri氏)

 実際、DirectX 9世代GPUで描画したとされるグラフィックスのサンプルを見ると、CGムービーレベルに達している(ただし、こうしたサンプルは実際のアプリケーションで実現できるものとは離れている場合が多い)。

 さらに、GPUベンダーは、このグラフィックスクオリティが3D CGの応用形態も変えてゆくと主張する。「このテクノロジ(DirectX 9)はゲームを超えるものだ。例えば、(OSの)デスクトップも変わるしアプリケーションも変わる。オンラインショップですら変わる。全てが変わるだろう」(NVIDIA, Velamuri氏)

 実際、Microsoftは何度もOSのインターフェイスの土台を3Dへ持って行こうとプランしている。これまでは、その試みはとん挫していた。しかし、DirectX 9以降は、Microsoftも3Dハードウェアの上へと移行を徐々に始める。DirectX 9以降のハードウェアの、パフォーマンスと柔軟性で、ようやく3Dインターフェイス化への道が開けつつあるように見える。


●CG制作ではクリエイト&プレイをもたらす

 また、DirectX 9世代GPUは、ワークステーションでのCG制作のスタイルも、変えようとしている。例えば、ATIのOrton氏は次のように説明する。

 「我々がもたらすのは、従来ハイエンドワークステーションで実現されていたグラフィックスではなく、それ以上のものだ。例えば、ワークステーション市場を見ても、どこにも(DirectX 9でサポートする)浮動小数点データタイプのピクセルは使われていない。プログラマブルなPixel Shader(シェーダのハードウェア化)も使われていない。我々は、PC市場だけでなく、ワークステーション市場にもこうした機能をもたらす」

 「その結果、ワークステーションでのCG制作の現場とPCの両方で、同じプラットフォームが使われるようにする。同一のプラットフォームで“クリエイト&プレイ”を実現する……、つまり、ワークステーションで制作しPCでプレイする、そのどちらも同じプラットフォームにできる。さらに、ゲームのようなエンターテイメントの世界だけでなく、例えば自動車設計のような場面でも、同じプラットフォームが使われるようになる」

 これまでソフトウェア処理が多かった、ワークステーション上でのCG作成の過程をGPU上でアクセラレートするわけだ。そして、同じアーキテクチャが、プレイ側にも用意されることで、データ形式のコンバート(例えばカーブサーフェスのポリゴン化)などが不要になる。

 つまり、今後のGPUでは、リアルタイム3Dは飛躍的に表現力が向上し、CGムービー制作も同じハードウェアの上で(リアルタイムとは行かないまでも)高速化されるようになるというわけだ。

 もちろん、DirectX 9世代GPUが、こうした目標のすべてを達成できるとは思えない。しかし、方向性は明確だ。

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【7月9日】【海外】ATI TechnologiesがDirectX 9世代GPUに一番乗り
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(2002年7月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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