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S3 Graphics、DirectX 9 GPU「Columbia」を来年前半に投入


●Alpha Chromeファミリを展開するS3 Graphics

 ついにS3が戻ってきた。2Dグラフィックス時代に一世を風靡したS3は、3D時代になって徐々に地盤沈下。その後、グラフィックス部門はVIA Technologiesとの合弁会社S3 GraphicsとしてS3(現SONICblue)から分離され、グラフィックスコアの開発を続けてきた。しかし、移行にともなう混乱の中で製品は世代遅れとなり、他のGPUベンダーに対して周回遅れのレースを強いられていた。

 だが、S3 Graphicsは復活しつつある。まず、DirectX 7世代グラフィックスコアの「Alpha Chrome」を、単体とグラフィックス統合チップセットの両軸で投入。さらに、次はDirectX 8世代を飛ばして一気にDirectX 9世代へジャンプして戦線に本格復帰する計画だ。

 Alpha Chromeは、コードネーム「Zoetrope(ゾートロープ)」と呼ばれていたコア。もともと、S3はSavage2000の改良版を開発していたが、計画がずれ込んだのとDirectX 7世代GPUが各社出揃ってしまったことで計画を変更。ハードウェアT&Lを強化した別プロジェクトZoetropeを立ち上げた。

 Alpha Chromeコアは、2パイプ2テクスチャで、DirectX 7仕様のハードウェアT&Lを搭載する。ハードウェアT&Lでは、バーテックス(頂点)データのためのキャッシュを比較的大きく取り、バスボトルネックを回避してスループットを上げている。0.15μmの6層メタルレイヤデザインだ。モバイル市場と統合チップセット市場にフォーカスするが、デスクトップ向けも視野に入れる。

 Alpha Chromeファミリには大きく分けると4つの製品がある。

Alpha Chrome

単体GPU

Alpha Chrome M16

16MBメモリ搭載の単体GPU

Alpha Chrome 333

Pentium 4/Banias用統合チップセット

Alpha Chrome 333k

Hammer用統合チップセット

 Alpha ChromeはZoetropeコアをそのまま使う単体GPU製品。内部166MHz、メモリ183MHzで、ターゲット性能は3DMark2001で3,200クラス。Alpha Chrome M16は、パッケージ内にMCM技術で16MBのDRAMを搭載する。

 単体GPUでは、この他、高速版である「Alpha Chrome Prime」も開発されている。Alpha Chrome Primeは、単純に高クロック動作品を選別したものではなく、設計変更が行なわれる。具体的には、最初のAlpha Chromeが6層メタルなのに対して、Alpha Chrome Primeは7層メタルレイヤになり、最上層の7番目のレイヤで電源とグランドの強化をする。これは、CPUでも一般に高速化で用いられる手法だ。

 Alpha Chrome Primeは200MHzをターゲットとするが、設計を考えるともう少し高クロック化の余裕はありそうだ。200MHzは量産歩留まりを意識してのことで、選別すればそれ以上のクロックも採れると思われる。Alpha Chrome Primeは3D Mark2001で4,000クラスが見込まれている。これも今年中盤に登場する見込みだ。

●Hammer向けには2種類の統合チップセットを用意

 Alpha Chromeコアの統合チップセットは、単体GPUとそれほど時間差なく登場する。最初に登場するのはIntelプラットフォーム向けの「Alpha Chrome 333」で、サンプル段階に入りつつある。Alpha Chrome 333は、Pentium 4だけでなくBaniasをターゲットにした統合チップセットで、VIA側の製品ではP4N333になる。完全なSMA(共有メモリ構成)の製品で、グラフィックスコア自体は統合向けに若干モディファイしたものの9割方の設計は単体GPU版から引き継いでいるという。

 統合チップセットのHammer向け製品が「Alpha Chrome 333k」。こちらは、ローカルフレームバッファ版とSMA版の2タイプがある。

 最初に登場するのはローカルフレームバッファ版で7月中にテープアウト(設計完了)、来年前半の量産開始が予定されている。Hammerの場合、メインメモリのインターフェイスはCPU側についているため、統合チップセットの場合、グラフィックスコアからメモリへのアクセスのレイテンシが長い。そのため、場合によってはフレームバッファ読み出しが追いつかなくなり、画面表示がおかしくなってしまう可能性がある。

 そこで、ローカルフレームバッファ版は統合チップセット側にもDDRメモリインターフェイスを備える。これは、64bitインターフェイスで、32bitインターフェイスとしても使うことができる。x32のDRAMチップなら、1個または2個の構成の選択ができるわけだ。128Mbit品のDRAMチップなら16MBと32MBとなる。この量だと、結局ローカルフレームバッファからはみ出すのはテクスチャ程度になる。DRAMは、基本的にはMCMパッケージで提供するつもりだが、まだ決定はされていない。

 次に登場するのは完全なSMA版のAlpha Chrome 333kだ。これは、Hammer側のメモリだけを使う。レイテンシの問題は、チップセット側にFIFOを搭載することでカバーする。現在の予定では、4KB×6個=合計24KBのFIFOを載せることになっている。CPUのL1キャッシュ並みだ。

 AMDは、SMA構成向けにメモリインターフェイスを改良(バッファを入れる)したローエンド向けHammerも計画している。しかし、SMA版Alpha Chrome 333kは、最初の世代のHammerでも動くように設計するという。

 S3 GraphicsではAlpha Chrome 333kのパフォーマンスを推定している。それによると、ローカルフレームバッファ版は3,200クラスと、単体GPUクラスに達するのに対して、完全SMA版は1,800クラスと、60%程度に3Dグラフィックスパフォーマンスが落ちるという。

 2つのバージョンのAlpha Chrome 333kには、この他にも違いがある。ローカルフレームバッファ版はAGPインターフェイスを持たないが、SMA版はAGP 4X/8Xインターフェイスを持つ。その代わり、SMA版ではLDVSインターフェイスがない。これは、ハードマクロのLVDSモジュールの部分をAGP 4X/8Xモジュールと入れ替えたためらしい。

Alpah Chrome 333

Alpah Chrome 333k
(ローカルフレームバッファ版)

Alpah Chrome 333k
(SMA版)

●ColumbiaでDirectX 9世代の戦列にも加わる

 Alpha Chromeの次のGPUコアは「Columbia(コロンビア)」。こちらはDirectX 9コアで、目標としては、今年第4四半期にテープアウト、年内にサンプル、来年前半に量産となっている。ちょうど、Alpha Chromeから1年ずれたスケジュールで進んでおり、時期的にはSiSのDirectX 9世代GPU「Xabre II」と重なる。

 Columbiaは、DirectX 9互換のVertex ShaderとPixel Shaderを備える。ターゲットクロックは、内部300MHz、メモリ300MHz。レンダリングパイプは8本で、固定テクスチャは1テクスチャ。シンプルパイプを高速駆動するタイプのアーキテクチャだ。ただし、パイプ自体は余裕を持たせた設計になっており、将来は、2テクスチャへの拡張アーキテクチャも可能だと言う。

 Columbiaのフォーカスも、依然としてモバイルと統合チップセットだが、デスクトップも視野に入れる。製造プロセステクノロジは0.13μmとなる。HDTVアウトも検討されている。

 また、S3 Graphics&VIAでは、Columbiaの統合チップセットも用意する。ただし、Columbiaをそのまま統合するのではなく、モディファイが行なわれる。具体的には、レンダリングパイプを8本から4本に削る予定だ。これは論理的な選択だ。というのは、レンダリングパイプの本数とメモリ帯域は、ある程度相関関係にあるからだ。統合チップセットになってメモリ帯域が減った場合、パイプ本数が多くても、メモリのボトルネックのためにパイプが遊んでしまう可能性が出る。

 こうしてS3 Graphicsのロードマップを概観すると、パフォーマンスレースにも復帰はするものの、モバイルと統合チップセットにかなり重心を置く戦略が鮮明に浮かび上がる。これは、今後グラフィックスの二極化が進むとしたら正しい戦略となる。現在、GPUのトップランナー達は、ひたすら新アーキテクチャ&高パフォーマンスへ走っている。だが、その一方で、性能はそこそこでいいが、低コストで市場の特性に合った製品が欲しいというニーズも高まっている。

 実際、Alpha Chromeを見ると、モバイルと統合をかなり意識した作りになっている。例えば、Alpha Chromeは出力に、LVDSとTVアウトを備えるだけでなく、内部のディスプレイコントローラも二重化した「DuoView」機能を備える。DuoViewでは、完全に分離した2系統出力ができるため、例えば、液晶ディスプレイと外部CRTに、異なるフレッシュレートで出力ができる。また、液晶でピクセル拡大で表示できるようにするPixel Scalerも備える。GPUのチップサイズを小さく抑えることで、こうした機能も統合チップセットに迅速に提供していく。

S3ロードマップ

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(2002年7月5日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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