第151回:「選べる」ようになった小型ノートPC



 世間はゴールデンウィークの最中だが、夏のボーナス商戦に向けた新製品が揃いつつある。Intelの超低電圧版モバイルPentium IIIの充実や、TransmetaのCrusoe TM5800の供給が安定したためか、新製品の中でも小型ノートPCはかつてのTillamook(0.25μmプロセスで製造された低消費電力のモバイルMMX Pentium)時代を彷彿とさせる。

 低消費電力プロセッサと言うと、真っ先にバッテリ持続時間の話が出てくるが、各製品のバッテリ持続時間はバッテリ容量や重さ、スクリーンサイズなど様々な要素が複雑に絡み合い、プロセッサだけで実稼働時間が大きく変化するものではない(もちろん、バッテリ駆動時間も重要な要素だが、いくつかの要素のうちの1つでしかない)。低消費電力プロセッサの一番のメリットは、作り手側の自由度が上がり、より多様な製品が登場する可能性が出てくることだと、以前このコラムで述べたことがあった。

 TransmetaがCrusoeをリリースし、Intelの超低電圧版プロセッサもすっかり定番となった今年、その多様性の部分にやっと広がりが出てきた。手元にある夏モデルをベースに、各社の製品について簡単に触れていきたい。


●自分に適した製品を“選べる”時代に

 とにかく小さくて軽いものが欲しい。それがかつてのモバイルPCユーザーの願いだった。3kgクラスの大型ノートPCや、ラップトップ時代のPCを持ち歩いていた人はともかくとして、2kgもありながら2時間半しかバッテリが持たないノートPCを取材で毎日持ち歩いていた時代は、とにかく軽量なノートPCが欲しかった。

 職業柄、極端に小さいノートPCは欲しいとは思わなかったが、とにかく軽いもの、そして多少軽量化が進んだら、今度はバッテリが少なくとも3時間以上使えるもの、とだんだん要求が厳しくなっていった。

 昔話も長くなるとつまらないものだが、'97~'98年ごろは1.9kg/A4薄型、1.6kg/B5サイズ、1.2kg/A5ファイル、そして1kg未満のLibretto。ユーザーが自分の用途に合わせて選択したくとも、選択する上で考慮すべきポイントは非常に限られていた(しかもその後、消費電力の上昇カーブに従って、個性はさらに無くなり、サブノートPC市場から手を引く企業も数多く出た)。それが2002年の夏、多様な製品の中から気に入った製品を選べる時代になったのだから喜ぶべきだろう。

 今、手元にあるのはソニーのバイオU、バイオC1-MSX、日本ビクターのInterLink、東芝のLibretto L5。加えて新モデルではないが松下Let's NOTE R1も評価のため到着している。現行モデルのいくつかは、未発表ながら夏商戦向けにプロセッサなどのバージョンアップが図られると予想される。

 いずれもサイズやプロセッサなどで分類すると、似たような機種に見えてしまうが、それぞれが個性を持っている。


●ショートインプレッション

 各機種、特にバイオUに関しては、すでに多くの試用レポートが出ている。そのため、基本的なスペックなどの情報を廃して、使用感などに絞って各機種のインプレッションを列記しよう。


・バイオU

バイオU
( Photo by Hideo Ishii )

 バイオUに関しては、すでにこの連載でも一度取り上げているので、そのコンセプトに関してはここでは触れない。通常のノートPCとして考えると、使いやすい機種とは言えない。特に今までノートPCを携帯し、仕事に活用してきた人に向いた機種とは言えないだろう。

 逆にこれまでPCを持ち歩くことなど考えていなかった人や、持ち歩いていたがコミュニケーションツールやデジタルカメラ/PDAなどの母艦としてのみ利用していた人など、ある程度用途が固定化されているユーザーには歓迎できる機種だと思う。

 速度に関しても、867MHzのTM5800は(決して高速とは言わないが)必要十分なパフォーマンスと感じた。メモリ容量も標準256MB、最大で384MBと十分。標準バッテリでは3時間程度しか使えないのが難点だが、高速なスタンバイ/レジュームとともにこまめに電源を入れて活用する程度ならば、あまり問題にはならないだろう。バイオUを前に、じっくりと何かの作業に取り組むというならば話は別なのだが。

 欠点は両手で支えて立ち姿勢で利用することを前提に各種設計が行なわれているため、机の上に置いて使う時には、少々使いにくく感じることだろうか。

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・バイオC1「PCG-C1MSX」

PCG-C1MSX

 お馴染みのバイオC1にTVチューナーを追加したモデルだ。といっても、TVチューナーが内蔵されたわけではない。ポートリプリケータ側にTVチューナーを搭載している。カタログにGigaPocket LEと書かれているので、バイオWと同じようなソフトウェアエンコーダだと思う人もいるかもしれないが、れっきとしたハードウェアエンコーダである。

 最初は「へぇ~」としか思っていなかったが、録画したビデオを持ち歩けるというのは、なかなか楽しいものだ。もちろん、デスクトップPCで録画したビデオをコピーしてからノートPCで見てもいいだろうし、あらかじめビデオ保存フォルダを定期的に同期させておけば似たような操作感は得られるかも知れない。

 しかし1台であらゆるビジュアルコンテンツを楽しめるワンアンドオンリーな存在であることは認めなければならないだろうし、それを必要とするユーザーも少なくはないと思う。

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・InterLink(MP-XP7210/3210)

MP-XP7210

 今年のCebitで発表されて話題になった、モバイルPentium III搭載機としては最も小型/軽量のノートPC。従来、ハンドヘルドPCを販売してきた同社だが、ハンドヘルドPCの機能やパフォーマンスに限界を感じて、同様の使い勝手を実現するノートPCを開発したという。ただし内蔵バッテリの容量は小さく、2時間以下しか持続しない。標準添付のセカンドバッテリは必須と考えた方がいいだろう。セカンドバッテリを装着すれば、4時間以上は使えそうだ(手元にあるのは試作機のため、最終的な性能はわからない)。

 この製品は手頃なサイズに、サイズ枠の範囲内で可能な限り大きなスクリーンとキーボードを詰め込んだ実用性重視の小型ノートPCだと思う。

 1,024×600ピクセルのスクリーンは使いやすく、また明るさ調整の範囲が広い(オフにすることも可能)のだが、キーボードの方はちょっと平板な印象だ。サイズや配列の問題と言うよりも、キートップが薄くスラントがほとんどないことが原因で、隣のキーに干渉しやすいのが使いにくさの原因だと思う。カシオのFIVAと似た傾向のタッチなので、FIVAでも大丈夫という人なら問題はないだろう。

 CCコンバータという、特殊な関数でデジタルサウンドの高音域を補う機能がソフトウェアで搭載されているが、アコースティック系の音の場合は不自然さがあり、あまり合わないという印象を持った。ただ、最近のJ-POPなどならば広いレンジ感や音の広がりを感じると思う。また、モバイルPentium IIIモデルは実売で20万円を大きく超えるとのことなので、少々割高感を感じるのも確か。

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・Libretto L5

Libretto L5

 Libretto Lシリーズは、このクラスの製品に興味を持っているユーザーにはすでにお馴染みの製品。プロセッサがCrusoe TM5800 800MHzになり、メモリもオンボードで256MB搭載。無線LAN内蔵モデルも用意された。無線LAN内蔵モデルでは内部スペースを作るため、ハードディスクがDynabook SSにも使われている1.8インチドライブに変更されている。また、無線LANは筐体右手前にあるスイッチで明示的にオン/オフできるようになっている。

 内蔵する通信インターフェイスの種類が徐々に増加している同機種だが、無線LANが内蔵されたことでいよいよ完成の域に入ってきた。クロック周波数はCrusoe最速のものではないが、オンボードのメモリ容量が増えたこともあり、前モデルよりずっと快適に使用できる。もし、仕事のためにPCを携帯したいと考えているなら、最右翼に挙げられる製品だ。Libretto L5より軽量なPCは他にもあるが、このクラスでこれだけ快適なキーボードを搭載する製品はない。仕事でモバイル専用に使う小型ノートPCを1台自由に選択するなら、僕はおそらくこの機種を選択するだろう。

 ただし、価格的には無線LAN内蔵モデルが17~18万円程度(Libretto L3の発売時価格は約15万円)と聞いている。従来のLibretto Lシリーズが市場に受け入れられた原因の1つとして、価格の低さがあっただけに、この価格アップはどのように受け入れられるだろうか? なお、個人的には価格に見合うバリューはあると思う。

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 ここで紹介した以外にも、まだ僕が触れていない機種が数多く出てくるだろう。LOOXやLet's NOTE R1の後継機種は気になるところだ。個人的にはAirH"128を内蔵した機種が登場してくれないものかと思っている。

 小さいと言われる小型軽量のノートPC市場に、これだけ多くの製品が登場しているのは興味深い。自分の利用スタイルに合った製品を、これらの新製品発売を機会に考えなおしてみてはいかがだろう。


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(2002年5月1日)

[Text by 本田雅一]


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