|
基調講演を行なうビル・ゲイツ会長兼CSA |
会期:1月7日~11日(現地時間)
会場:Las Vegas Convention Center
Las Vegas Hilton
Riviera Hotel
Alexis Park Hotel
2002 International CESのキックオフイベントとなる、Microsoftの会長兼CSA(最高ソフトウェア開発責任者)のビル・ゲイツ氏による基調講演が、1月7日夕方(現地時間)にLas Vegas HiltonのHilton Theaterにおいて開催された。
この中でビル・ゲイツ会長は、Microsoftが推進する家庭の中をデジタル化する構想“eHome”を実現するためのビルディングブロックとなる3つの要素“Windows CE .NET”、“Freestyle”、“Mira”を発表した。
Windows CE .NETはコンシューマ機器をデジタル化するときのプラットフォームであり、Freestyle、MiraはPCの使い勝手の良さ(EOU:Ease Of Use)を改善するための重要な技術となる。本レポートでは、ゲイツ氏の基調講演やMicrosoftの発表資料などから“Windows CE .NET”、“Freestyle”、“Mira”について紹介していく。
●「デジタルの時代はすでに始まっている」とゲイツ氏
昨年はIntelのクレイグ・バレット社長兼CEOが担当していた“前夜祭”的存在のキックオフ基調講演だが、今年は例年と同じようにゲイツ氏に戻った。最初に2002 International CESの主催者であるCEAの社長兼CEOのゲイリー・シャピロー氏が登場し、同氏に紹介されてゲイツ氏が登場した。
デジタルの時代をMicrosoftの業績で説明したスライド |
ゲイツ氏は、COMDEX Fallの基調講演でも利用した“Digital Decade”(デジタルの時代)というキーワードを再び持ち出し、「すでにデジタルの時代は始まっている。Windows XPは2カ月で1,700万コピーを出荷し、これはWindows 98と比べて300%アップ、Windows Meとの比較でも200%もアップしている。また、Xboxは1,500万ユニットのコンソールをすでに出荷し、平均すると1コンソールあたり3本のゲームが売れている。また、昨年末のクリスマス商戦ではMSN Shoppingによる電子商取引は56%も増加した」と述べ、デジタルの時代への本格的な離陸はすでに始まっているという点を再び強調した(ここで、ゲイツ氏の講演ではもはや恒例となっている“ビデオ”が流された。今回のビデオは、「The Digital Decade」と題されたもので、昨年秋のCOMDEX Fallの基調講演で公開されたものと全く同一だった)。
さらに、ゲイツ氏は「今は業界にとっても消費者にとってもエキサイティングな時期を迎えている。技術の進歩は音楽、写真、ビデオ、コミュニケーション、ゲームなどにおけるユーザーの体験をより豊かにしてくれる。家電業界、ソフトウェア業界、メディア産業などにしてみればかつて無いチャンスの到来であり、このように急速な技術革新のサイクルは現在の苦しい経済状況を立て直す武器となるだろう」と述べ、消費者に対してデジタル化されたソリューションを提供し、より豊かなユーザー体験を提供することができれば、大きなビジネスチャンスになることは間違いないと指摘し、Microsoftがそうしたソリューションを提供するためのビルディングブロックを提供していくと述べた。
●コンシューマ機器に適したOSとなるWindows CE .NET
ゲイツ氏はそうしたデジタル時代を加速するビルディングブロックの1つ目として、同社のWindows CEの最新版“Windows CE .NET”を紹介した。Windows CE .NETは次世代の携帯情報端末、スマートフォン、TVセットトップボックスなどに適したOSで、IEEE 802.11b、Bluetoothなどの無線技術に対応し、Internet Explorer 5.5、Windows Media 8、DirectX 8などの最新アプリケーションが搭載されている。
今回の基調講演では日立製作所、ソニー、SamsungのWindows CE .NET搭載携帯情報端末などがデモされた。具体的にどのメーカーのものかはわからなかったのだが、Stingerのコードネームで知られるWindows CE .NET搭載携帯電話もデモに利用されており、Windows Mediaフォーマットの動画ファイルを再生する様子や、アドレス帳を検索するなどのデモを行なって見せた。
Windows CE .NETを説明したスライド。サポートするベンダにこれまでWindows CEの採用例のないソニーが入っているのが目に付く | Windows CE .NETをサポートするデバイスをデモする様子 |
StingerのデバイスでWindows Mediaの動画ファイルを再生する様子 | Stingerの携帯電話の画面 |
●オーディオ、ビデオ、写真などを簡単に操作できるようになる“Freestyle”
引き続き、ゲイツ氏は家庭内のデジタル化(同社ではeHomeと呼んでいる)のイニチアシブについてふれ、「今後家庭はEthernetやワイヤレスLANなどによりネットワーク化される。そうしたeHomeでは、PCの用途を拡張し、デジタルメディアファイルを共有し、さらには家庭内の機器の操作ができるようになる必要がある」と述べ、eHomeの推進にはいくつかの課題があると説明した。
その1つの例として、PC上にあるオーディオ、ビデオ、写真などを閲覧する時のインターフェイスについてふれ「こうした形式のデータを扱う場合には、どのようなタイプのスクリーンでも使え、著作権保護機能を持ち、簡単に扱えて編集でき、簡単に共有できるという条件を満たす必要がある」と強調。その上で、ゲイツ氏は“Freestyle”、“Mira”という新構想を明らかにし、「FreestyleとMiraにより、ユーザーは家庭内で簡単にPC上のメディアファイルにアクセスできるようになる」と説明した。
FreestyleはWindows XPや後述の“Mira”デバイス上などで動作する新しいユーザーインターフェイスの仕様。ビデオやオーディオ、写真などのデータへのアクセスが、例えばゲームコンソールのパッドやテレビのリモコンについている十字キーなどで可能になるもので、キーボードやマウスがない環境でも簡単に操作できるようにしたものだ。
また、これまではPCにテレビチューナーカードが入っていても、Windows標準でそうしたチューナーをコントロールする仕組みがなかったため、ベンダーによってインターフェイスがまちまちであった。例えばソニーのバイオシリーズに入っているキャプチャーカードとNECのVALUESTARシリーズに入っているキャプチャーカードでは、ファイルを保存しておく場所も異なり、使い勝手は各ベンダーのカードの作りに依存していた。そこで、FreestyleではTVチューナーも直接扱えることができるようになるので、ユーザーインターフェイスも統一されて使い勝手がよくなる。ちょうど、Windows MeやXPで導入されたWIA(Windows ImagingAcquisition)が、ビデオやテレビチューナーにも拡張されたと考えればいいだろう。
Freestyleは現在NEC、Samsung、HewlettPackardと協力して開発を進めているとのことで、詳細や登場時期などは今年の終わり頃にアナウンスできるとしている。
これがFreestyleのインターフェイス。カーソルキーとエンターキーだけですべての操作が行なえるようになっている。ゲームコンソールのパッドやリモコンなどを使用し、キーボードやマウスがない環境でも簡単に操作できる |
このようにリモコンでも楽々と操作できる | これまでのPCで見慣れてきたWindowsのユーザーインターフェイス |
●Windows CE .NETとワイヤレスLANにより武装したインテリジェントディスプレイとなる“Mira”
これに対して、“Mira”は、新しい概念を採用したディスプレイデバイスだ。これまでディスプレイと言えば、CRTや液晶ディスプレイに代表されるような、PCやなんらかのデバイスに接続して出力された画面を表示するだけのものだった。
これに対してMiraは内部にCPUを持ち、OSとしてWindows CE .NET、IEEE 802.11bのワイヤレスLANなどのネットワークインターフェイスを内蔵した、PCライクなインテリジェントディスプレイだ。要するに、キーボードがなくローカルストレージを持たないWindows CEデバイスとなるのだが、Miraはネットワークを経由してPC上のデータにアクセスし、ビデオやオーディオファイルの再生を行なう用途を前提にされるなど、従来のWindows CEデバイスとは目的が異なっている(もちろんインターフェイスにはFreestyleが利用される)。基本的に、ディスプレイはなんでもよいので、タブレットPCのようなLCDのみのMira、テレビの形をしたMiraなどの発展形が考えられそうだ。
これは、有り体に言ってしまえばリモコンの拡張版ということになる。リモコン自体がCPUやディスプレイ、OSを備えることにより、様々な情報をコントロールできるし、例えば音楽を再生しながらWindows Messenngerでビデオ会議をしたりということも可能になる。単なるリモコンと違うのは、その点にある。ゲイツ氏が流したビデオではトイレにまでMiraを持ち込もうとしているシーンがあり、会場の笑いを誘っていたが、実際に実現されればそうしたシーンもジョークではなくなっている可能性がある。それこそ、お風呂にMiraを埋め込むとか、冷蔵庫にMiraを埋め込むとか、いろいろな応用が考えられるだけに、今後の家庭におけるデジタルネットワーク環境を大きく変える可能性を秘めた構想だといっていいだろう。
MiraはすでにBeta1が配布されており、Intelなど、Miraの開発パートナーの手により開発が進められている。2002年の後半には出荷が予定されており、年末のクリスマス商戦にはMiraに対応したスマートディスプレイが登場する予定となっている。
MiraはPCにとってみればリモコンのようなものだ、いまは大きいディスプレイに接続されているPCを操作中 | PCを操作しながらWindows Messenngerでこうしたやりとりも可能 | Miraにより家庭の至る所でデジタルデータへアクセスするのが容易になる |
●米国PanasonicがWindows Mediaフォーマットをサポートとアナウンス
最後にゲイツ氏は、エンターテイメント分野についてふれ、Microsoftが推進しているWindows Mediaフォーマットを、松下電器産業の米国法人である米国松下電器がサポートすることを明らかにした。
この件は、ゲイツ氏の基調講演に先立って行なわれた米国松下のプレスカンファレンスでも明らかにされており、実際にWindows Mediaフォーマットの動画やオーディオファイルを再生可能なDVDプレイヤーなどが同社ブースに展示されていたほか、ゲイツ氏の基調講演でも松下のDVDプレイヤーを利用してWindows Mediaフォーマットのオーディオファイルを再生する様子がデモされた。
このほか、パイオニアもWindows Mediaフォーマットが再生可能なカーオーディオを出展しており、ゲイツ氏は「Windows Mediaフォーマットはこうした圧縮されたファイルフォーマットの主流となり、今後多くの家電に採用されるだろう」と強気の姿勢を見せた。
さらに、Xboxのデモでは現在開発が進んでいるXboxのオンライン版である“Xbox Online”の構想が明らかにされ、実際に開発中のゲームなどがビデオで流された。
最後にゲイツ氏は「より簡単で信頼性のある技術をユーザーに提供し、ソフトウェアとハードウェアのブレークスルーを実現するために、家電業界とソフトウェア業界の協力が不可欠だ」と述べ、家電業界に対してソフトウェア業界と協力して作業をすすめていこうと呼びかけた。
家電業界には「Wintel」としてPC業界を牛耳っているMicrosoftとIntelに対する警戒感は強いとされており、そうした状況をなんとか打破して、家電業界との協力を進めていきたいというゲイツ氏の“本音”で基調講演はまとめられ、幕を閉じた
□2002 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
(2002年1月9日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]