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第33回 : '99年最後のモバイル通信、今年、そして来年の展望は?



 今回が今年最後の掲載、ということで、「何か年の境目にふさわしいものとして、今年を振り返っては……」と、担当編集者のF氏からメールをいただいたのだが、4月からの連載を振り返ってみると、何度も同じようなことを繰り返していて少しばかり恥ずかしい気もする。特にアプリケーションのネットワークサービスへの移行に関しては、6月8日の「モバイル向けのポータルを」にはじまって、4回も取り上げている。


■ 時代が変わる予兆が見えた1999年

 今年の中頃からは、米国を中心にASP(Aplication Service Provider:アプリケーションをソフトウェアパッケージではなくネットワークで提供する事業のこと)が大きな話題となり、Sun Microsystemsのスコット・マクニーリ氏は「ソフトウェア会社は死に、サービス会社として生まれ変わる」との予測をCOMDEX/Fallの基調講演で披露した。かのビル・ゲイツ氏も「ネットワークを中心にした共通基盤の構築」を最重要課題として取り上げ、XML技術が大きな役割を果たすことなどをCOMDEX/Fallで話していた。
 もっとも、エンドユーザーの立場から見れば、あまり関係のないことに見えるかも知れない。ソフトウェア会社の経営者が、舵取りの参考までに知っておけばいいこと、と言われればそれまでだ。

 しかし、アプリケーションがネットワークサービスに移行すると、モバイルのユーザーは大きな恩恵を受ける。繰り返し主張してきたことだが、もう端末となるハードウェアの機能を意識しなくても済むようになるからだ。携帯電話がiモード仕様だろうが、WAP仕様だろうが、サービスを提供する側がその仕様に準拠していれば、自分で利用機種を選ぶだけで最適なサービスを受けられる。もちろん、携帯電話ではなくパケット通信対応のPDAやハンドヘルドPC、そして従来のノートPCでもいいわけだ。

 これまでは、自分の使っているPC上の情報管理ソフトとの連携を考えるとあっちの機種がいいけれど、単体の道具としてはこっちの方が快適だけど……どっちにしようか? などと考えなければならなかった。12月15日にはレーザーファイブ、でんさテクノ東京、アクシスソフトウェアの3社が、中小企業向けのWebグループウェアをネットワーク上のサービスとして提供することを発表しているが、Webブラウザを対象としたサービスだけではなく、携帯電話からのアクセスにも対応するという。
 おそらくこうしたサービスは、来年以降、続々と提供され始めることだろう。中には使いやすさを優先し、特定ネットワークサービスの利用を前提とした端末というのも出てくるかも知れない。


■ ノートPCは持ち歩かないものの座を獲得?

 仕事のためにノートPCを持ち歩く人は別として、これまで個人的な道具、もしくは趣味として小型のノートPCを持ち歩く人が、僕の周りからどんどんいなくなった。ご存じのように、サブノートPCはどんどん高機能化した反面、重量は確実に減ってきたにも関わらず、である。
 局所的に見れば、プロセッサの世代変わりが急速に進んだことで、バッテリー寿命が伸びていないといった理由も挙げられるかも知れない。しかし、ノートPCじゃなくてもいいと考える人が増えてきていることは間違いないと思う。

 これまでノートPCを持ち歩いてきた人は、電子メールや個人データ管理などのアプリケーションを利用するためにノートPCでなければならなかったからだと思う。しかし、外出先で原稿を書かなければならない人とは異なり、ほとんどの人は持ち歩き用に小型のPCを買わなくても、別の何か(携帯電話やPDA)で充分だと思い始めているのではないだろうか。いくら軽くなったとは言え、B5クラスのサブノートPCは1.2キロぐらいの重量がある。これを積極的に持ち歩きたいと思う人は少ないだろう。

 もっとも、自分の好きな道具を使えばいいわけで、サブノートPCが役立たずというわけではない。しかしこれまでサブノートPCを購入してきたユーザー層が、次もまたサブノートPCを買うとは限らないし、使い方の実態として据え置きで使う人の比率が高まってきているのであれば、果たしてそれをモバイルと呼ぶのか疑問が出てくる。
 もちろん、僕自身がサブノートPCを捨てるつもりは毛頭ないのだが。


■ 新勢力の登場で新しい世界が見えてくる?

 来年の話をすると笑われるかも知れないが、2000年早々、1月19日に新製品を発表するというTransmetaという会社は注目に値する。同社のCEOであるデビッド・ディッツエル氏は、Sun MicrosystemsでRISCプロセッサ“SPARC”のアーキテクトとして知られた人物だ。同社にはLinuxの開発者でもあるライナス・トーバルス氏も所属しており、さらにMicrosoftの共同設立者ポール・アレン氏が出資を行なっている。

 そのTransmetaは、COMDEX/Fallでモバイルに関連するある製品を開発していることを発表していたのだが、その製品はx86互換の低消費電力マイクロプロセッサである。今さらx86互換? と思う人も多いだろう。しかもモバイル用ときた。x86プロセッサを高性能化するためには、とても複雑な高速に動かすための補助機能を組み込まなければならない。そのため、消費電力は大きくなりがち。ハッキリ言ってモバイル用には向いていない。
 しかし、そんなx86プロセッサだからこそ、明らかに性能と消費電力の比率において独自のアドバンテージを築き上げれば、高い競争力を持てると考えたのかも知れない。

 Transmetaが開発するCrusoeというプロセッサは、どうやらVLIWアーキテクチャを採用したハードウェアと、ダイナミックコンパイル機能を備えたx86互換を実現するソフトウェアレイヤの組み合わせで出来ているようだ。つまり、x86命令をVLIWの命令にコンパイル(エミュレートではない)し、それを2Mバイトのキャッシュに入れることでx86互換プロセッサとして動作する。
 VLIWというアーキテクチャは、高速化のために中身を変更すると、それに合わせて命令セットにも変更を加えなくてはならず、互換性を維持していくことができないのだが、この方法ならばx86命令をインターフェイスにして互換性を維持できるだろう。IntelとHPが開発したEPICアーキテクチャ(Itaniumで採用される)もまた、VLIWの一種であり、EPICでは別の方法で将来の互換性を保つことを考え出したが、実装が大きいために小型デバイス向きではない。

 そのほか、噂に上っている話や、そこから推測されることなどを順に考えていくと、Crusoeは台風の目となりそうな面白みを持っているのだが、とりあえずは来年1月末のネタとして取っておきたい。

[Text by 本田雅一]


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