第30回 : 次世代メールプロトコルIMAP4のこれから |
しかしIDOの携帯電話向け電子メールサービスの不評(遅配やサーバ接続困難など)を聞くにつけ、そして端末機能の魅力を比較するにつけ、なにもcdmaOneにこだわる必要はないかと思い始めてきた。どちらにしろ、自分だけの使い方を考えれば、パソコンからの通信で携帯電話による通信を行うことはない。PHSの方が快適なことが多いからだ。
そう考えると、少々音が悪くてもいいじゃないかと思うのだ。PHSはこちらから電話をかけたりパソコン通信のために、携帯電話は電話の受信と電子メールの受信に、それぞれ使い分ければいいだけだ。基本料金などを考えれば、誰もが複数の端末を持ち歩くメリットがあるわけではないが、性能や機能よりも便利さの方が重要な場合も少なくはない。将来もPDC方式の携帯電話がいい、とは思わないが、cdmaOneのパケット通信サービスであるPacketOneの評価が確定し、魅力ある端末が選べる時に再考すればいいと思っている。
こう思うようになったのは、やはりNTT DoCoMoのマーケティング展開の速さと、圧倒的なシェアによる市場への影響力の大きさだ。もっとも、IDO/セルラーグループに期待をしていないわけではない。PacketOneサービス開始時には、落ち着いて再評価してみたい。
話の導入が長くなってしまったが、この1週間はニュース的にもモバイル機器やノートPCに関連する話題が比較的多い週だった。特に、日本IBMのウェアラブルPCは、これまで何度か展示されてきたさまざまな同種の製品の中で、もっとも実用性を感じさせるものだ。これについては将来的な応用分野を含めて別途取材をしたいと考えているが、今回は電子メール環境について少し話をしたい。
■ 次世代メールプロトコルIMAP4
IMAP4という言葉そのものは、電子メールの設定を自分でしたことがあるならば、どこかで見かけたことがあるだろう。IMAPはInteractive Messages Access Protocolの略で、IMAP4はその第4版にあたる仕様だ。一般には'94年に策定されたIMAP4を改良したIMAP4 rev1がRFCとして'96年に発行されたものを指す。
インターネットでやりとりされる電子メールは、SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)を用いて配信されるが、SMTPはインターネットで接続されたコンピュータに対してメールを配送する仕組みでしかない。つまり、常時接続されたコンピュータには届けられるが、常時接続されていないコンピュータには配送できないのだ。
そこで常時インターネットに接続されているメールサーバーを立てて、そこにメールを蓄積し、別途規約を設けてメールサーバーから端末にメールを取り込むようにした。これが現在主流になっているSMTPとPOP3(Post Office Protocol 3)によるインターネットメールの仕組みだ。
しかしSMTPとPOP3による電子メールシステムは、単一の端末しか使わず、かつ端末がきちんとした補助記憶装置を持っている場合は、それほど問題なく運用できるものの、クライアント指向が強いためにハードウェアリソースの少ない携帯端末で利用する場合や、複数の端末から同じ情報にアクセスしたい人にはあまり向いていない。
たとえば「パソコンはいらないからハンドヘルドPCのみで電子メールを使いたい」と思っても、本格的に使い始めると削除したくない電子メールが増えてきて、空きメモリがなくなってしまうだろう。また、POP3はサーバに滞留しているメール数が多くなるとメールチェックのコスト(通信量)が増えてくる。使いやすさ的にも、通信料金的にも、あまり有利とは言えない。特に将来、高速な無線パケット通信による通信環境が整った時には通信データ量の多少が価格に直接反映される。
IMAP4を使うと、このあたりの問題を解決できるのだ。IMAP4は企業向けで使われているクライアント/サーバー型のメールシステム(ロータスノーツやMicrosoft Exchange)と同じように、メールをサーバー側で管理させることができる。このため、どんな端末からも同じメールボックスにアクセスすることが可能になり、また大きな補助記憶装置を持たない端末からでも、多数のメールを管理することが可能になる。
IMAP4に対応しているPC用のメールクライアントは少なくない。Internet Explorerの一部でもあるOutlook Expressをはじめ、Netscape Messenger、Eudra Pro、Winbiffが対応。またOutlook 98/2000、ロータスノーツR5などもメールサーバーへのIMAP4接続を行なうことができる。
これらのメールクライアントの多くは、実装方法こそ異なるものの、サーバー上のメールボックスをフォルダ単位、あるいはメール単位でダウンロードしてハードディスク上に保存したり、最近アクセスしたメールをキャッシュする機能を持っているため、メールにアクセスするたび、通信が発生することもなく、オフライン状態でメールを参照することも可能だ。
またメールボックス内のメッセージ数に関わらず、新着メールのチェックやダウンロードもPOP3より高速に行なえるほか、MIMEパートごとのメール取り出しが可能なため巨大な添付ファイルを持つメールを外出先で受信してしまい、受信作業がなかなか終わらないといったこともない。メールサーバーに対して検索の指示を行なうことも可能であり、携帯端末を用いて大量のメールから必要な情報を検索することもできる。
これらの特徴は、IMAP4はモバイル機器とPCを使い分けるユーザーにとって、非常に有効なプロトコルとなるのだが、残念なことにIMAP4のユーザーはまだ非常に少ない。これはIMAP4そのものの認知度が低いこともあるが、インターネットサービスプロバイダにとってIMAP4がサポートしにくいプロトコルであるからだろう。
■ プロバイダにとって厄介なIMAP4
IMAP4はサーバー側にメールボックスのマスターを持つため、ユーザーが管理する電子メールは基本的にすべてメールサーバー上に滞留することになる。携帯電話を含む小型端末でやりとりするメッセージであればまだしも、PCユーザー向けにサービスするとなると、それなりに大きなメールボックスが必要になる。たとえば僕が使っているメールボックスのサイズは(あまり積極的に整理していないとはいえ)500MBを越えている。こうした例は極端としても、使い続けていくと50MB程度のディスクスペースが欲しいと思うようにはなるだろう。また、サーバー側にまかされている処理が多いため、サーバーへの負荷もPOP3よりは大きくなるはずだ。
このため、IMAP4をサポートしているインターネットサービスプロバイダはほとんどない。インターキューがIDO携帯電話向けに行なっている「DA・RE・DE・MO」インターネットというサービスでは、IMAP4による無料電子メールサービスが提供されている。このサービスを利用すれば、携帯電話で受信したメールに対してPCからもアクセスすることが可能になる、IMAP4の特性をうまく利用したサービスだ。しかし、こうしたサービスを行なえるのもメール容量が少ない携帯電話向けのサービスという前提があるからだろう。
僕がバーチャルレンタルサーバとして米Digiwebからサービスを受けているメールサーバーは、POP3でもIMAP4でも利用できるように設定されているが、それも標準では10MBのメールボックスしかサポートしていない。もちろん、お金を払えばメールボックスを拡張することはできるが、通常の個人向けインターネット接続サービスに付属する電子メールサービスでは、IMAP4サポートは望むべくもない。
IMAP4の利用は、企業内のメールサーバーへの採用という形で進んでおり、この分野では色々と発展もある(たとえばWinbiffの開発元であるオレンジソフトはJavaのIMAPクライアントやWAP、iモードへのメッセージゲートウェイソフトをリリースしている)のだが、個人向けのサービスは全くその声を聞かない。
個人向けには無理としても、メールサーバーをアウトソースしたい小規模事業者向けにディスク容量単位での安価なメールサーバーレンタルサービスがあってもいいと思うのだが。ここではモバイルでの優位性を挙げたが、IMAP4には共有メールボックスを用いた情報共有など、グループで使う場合に有効な機能もある。小規模事業者向けのサービスが行なわれれば、何人かでまとまったディスクスペースを借りてIMAP4を利用するという方法で個人でも利用できるはずだ。
[Text by 本田雅一]