第29回 : アプリケーションからネットワークサービスへ。 |
■ アプライアンス機器がモバイル環境を変える
COMDEXに限らず、最近の海外ニュースでは頻繁にアプライアンスという言葉が登場する。本来のアプライアンスとは、それを組み込むことですぐに機能するアセンブリパーツのことを指すそうだが、現在の情報機器業界でアプライアンスと言えば、何らかのインストールや設定を行なわなくても、箱を開けてプラグインすればすぐに使える製品のことをアプライアンスという。転じてプラグインですぐ使えるように改良されることを“アプライアンス化する”などと言うこともある。インフォメーションアプライアンスを情報家電と訳すこともあるようだ。
今年のCOMDEXでビル・ゲイツ氏が披露したWindows CEベースのWebアクセス端末「MSN Web Companion」もアプライアンス製品の一種だ。MSN Web Companionは、MSNへの接続に特化する形でWebへのアクセスをすぐに行なえるようにしてあり、ユーザーインターフェイスも複雑なものはなくWebブラウザベースの画面が登場するだけ。接続後はWebブラウザを通して提供されるMSNのアプリケーションサービス、たとえばWebメールサービスのHotmailや、買い物関連の情報を集めたMSN Shopping、コミュニケーションをサポートするMSN Chatなど、Webを中心にしたMSNのサービスに簡単にアクセスできる。モバイル機器ではないが、将来的には小型端末の登場もあるだろう。
Microsoftは会場で「今回はあくまでもテクノロジーデモ」と言っていたが、MSNは急速にWeb上のアプリケーションサービスを拡充しつつある。日本語のMSNトップページだけを見ているとそれほど感じないかもしれないが、英語版のホームページを見ると機能が大幅に増えていることがわかるだろう。
Microsoftも、現在のMSNが持っているサービスだけでエンドユーザーのサービスが満たされると考えている訳ではないと思うが、将来的にはMSN Web Companionのようなアプライアンス端末から、インターネット上のサービスのほとんどにアクセスできるようになるだろう。
こうしたシンプルな端末とネットワーク上のサービスを組み合わせる手法は、なにもMSN Web Companionから始まった流れではない。多かれ少なかれ、アプリケーションソフトウェアの多くはネットワーク上のサービスに移行するだろうというのが、大方の見方だ。
アプリケーションがネットワーク上のサービスになってくると、モバイル環境にも変化が出てくるだろう。自分の好みの道具を窓口に、いつでもどこでも同じサービスにアクセスできるようになるからだ。
たとえばすでにWebサービスとしても定着しつつある電子メールに加え、スケジュールなどのカレンダリングサービス、アドレス帳などのサービスがネットワーク上で提供され、さらに端末ごとに最適な表示へとパーソナライズを行なうことができるようになれば、携帯電話からもPalmからも、もちろんPCからも、同じ情報と機能を利用できるようになる。
今まではPC上のアプリケーションにアクセスしなければならないがために、重いノートPCを持ち歩いていた人も、携帯電話から同じアプリケーションをネットワークサービスとして利用できるようになるだろう。自分に合った、自分が使いたい道具を利用できるようになるわけだ。もちろん、道具には画面の広さや操作性などの機能差があるはずだが、それらを考慮した上で、自分にもっともフィットした道具を選択すれば良くなる。
■ 将来は業務システムからエンターテイメントまでがネットワークサービスに
アプリケーションのネットワークサービス化は、なにも個人向けの情報サービスにはとどまらない。たとえば日本でも導入が進んでいる営業支援などの業務システムも、企業内のネットワークサービスとしてWebをインターフェイスにしたものへと変化してくるのではないだろうか。
COMDEX/Fallで聞いた話によれば、Webサーバー上で動作するJavaサーブレット(サーバー上で動作するJavaアプレット)を用いて、各種端末に最適化した営業支援のシステムを開発しているベンダーもあるようだ。こうしたシステムを利用すれば、PCはもちろんマイクロブラウザを持つネットワーク機器ならば、何でもサービスを受けることができるはずだ。
業務情報などを引き出すのに、携帯電話でちょっとパラメータを入力して送信すると情報が配信されてきたり、営業日報を携帯電話を使って送信するなんてことも珍しいことではなくなるかもしれない。もちろん、パケット通信対応の携帯情報端末がいい人は、それを使えばいい。
さらにXMLを用いた各種業務向けのタグ付き文書フォーマットの標準化が進めば、ネットワークでやりとりされる情報をすべて標準化できる可能性がある。そうなってくると、インターネットを通じて部分的な業務だけをアウトソーシングしたり、ユーザーにサービスとして提供することができるようになる。そうした中から、モバイルに適した業務サービスも登場してくるだろう。
ずっと先の話になるだろうが、回線のバンド幅がもっともっと拡大してくれば、エンターテイメントもネットワークサービスとして提供されるようになるかもしれない。たとえば音楽。MP3フォーマットはCDに近い品質を得るために128Kbpsの速度が必要だが、他のフォーマットを用いればおおよそ100Kbps程度で似たような品質の音声配信を実現できる。
つまり100Kbpsの帯域を保証できれば、音楽データをダウンロードして保存しなくてもネットワークを通じて音楽を聴くことができるわけだ。CD1枚から1曲いくらの時代へ変わったあとには1回いくら、1日いくらの時代になる可能性がある。もちろん、ラジオ放送のようなサービスであれば、もう少し低いビットレートでも実用になるかもしれない。
無線では64Kbpsの速度がやっとという通信環境の時代に、あまり夢を膨らますのも早計かもしれないが、帯域の広がりと通信インフラの整備、コストダウンが進んだ先には、さらにリッチなネットワークサービスがある。
ここで言っていることが必ずしも便利で受け入れられるというわけではない。しかし、あらゆるアプリケーションがネットワークサービスに化けてくれば、ストレージや機能に対するコストが高い(価格だけではなくサイズや消費電力などのコスト)小型の情報機器には少なからぬ恩恵があるはずだ。そしてそうした時代に入る準備は、着々と進んでいるように思う。
[Text by 本田雅一]