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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Microsoftが反トラスト法裁判で大敗


●司法省が事実上の勝利

 米司法省は、今、勝利に沸き返っているに違いない。Microsoftに対する反トラスト法裁判で、予想の範囲で最大限の勝利を手にしたのだから。

 もっとも、まだ裁判の最終的な判決が言い渡されたわけではない。米連邦地方裁判所(ワシントンDC)のトーマス・ジャクソン判事が発表したのは事実認定「FINDINGSOF FACT」だけだ。また、その事実認定の中で、明確に反トラスト法違反だと断じたわけではない。また、肝心のMicrosoftへの是正措置も、どういう内容になるかまだわからない。

 にも関わらず司法省の勝利だと言い切れるのは、ジャクソン判事の事実認定が、ほぼ司法省の言い分をその通り認めた内容になっており、Microsoftがモノポリストでありその利点を享受したと認めているからだ。つまり、判決の前提となる事実認定では、ほぼ司法省側に立っているのだ。そのため、来年早々に下されると言われる判決が、Microsoftに極めて不利な内容になるのは、決定的だと見られる。

 もっとも、米国の反トラスト法は、市場を独占してモノポリーパワーを持つこと自体は禁じていない。違法としているのは、非合法的商習慣によってモノポリーを達成したり維持することだ。この点については、「FINDINGS OF FACT」にざっと目を通した限りは、違反だと言い切っている部分は見あたらない。だが、「FINDINGS OF FACT」は政府側の膨大な証拠を認める形で事実認定をしており、それらの証拠を積み上げると反トラスト法違反へと導かれることから、“かぎりなくクロに近い”と認めた格好だ。


●裁判所は最後の和解のチャンスを提供

 では、なぜ裁判所は、今回、Microsoftにとどめの判決を下さずに、クロに近いと認めた、事実認定だけを発表するという中途半端な状態に止めたのだろう。それは、和解のチャンスのためだ。これまでも、ジャクソン判事は何度となく和解のチャンスを両者に与えてきた。報道では、今回もジャクソン判事は早期の和解交渉を求めていると言われる。つまり、Microsoftに対して、「これが最後のチャンスだ。ここで和解をしないと、厳しい判決を下すゾ」という最後通牒を突きつけたというわけだ。

 しかし、Microsoftのこれまでの裁判戦略を見る限り和解の可能性は低いだろう。Microsoftは、この裁判では一貫して強気な強行突破路線を進んでおり、その態度が変わるような兆候は今のところ見えない。また、今回の事実認定で大勝利をおさめたことで、司法省側がMicrosoftに求める妥協の度合いも高くなるはずで、Microsoftにとっては和解条件はますます受け入れがたいものになる可能性が高い。


●是正措置ではMicrosoft分割も

 では、Microsoftが和解を積極的に進めず、和解交渉が流れた場合はどうなるのか。その場合は判決が出て、その結果を受けた是正措置が決められることになる。是正措置では、いくつかの案がウワサに登っている。

 ウワサの中で、いちばんラディカルなのは、Microsoftの分割だ。これはOSやインターネット、アプリケーションなど複数の会社に分割するという案で、かつて独占的通信会社AT&Tを分割した時のパターンの焼き直しだ。次に強力なのは、Windowsのソースコードをオークションにかけて、Microsoft以外のソフトメーカーがそれを取得して異なるWindowsをリリースできるようにしようという案だ。つまり、Windowsを提供するメーカーを複数にすることで、競合させようということだ。また、やや大人しい案としては、WindowsとInternet Explorerを完全に分離したバージョンのリリースを義務づける案などがある。

 しかし、米国経済の好況が情報産業の興隆でもたらされているという背景もあり、情報産業の象徴であるMicrosoftに対して、ラディカルな是正措置が取られるかどうかはまだわからない。ジャクソン判事が和解をしきりにもちかけるのも、できれば是正措置を取らないで済ませたいからなのかもしれない。


●Microsoftは控訴へ持ち込むだろう

 では、Microsoftは和解するか是正措置を受け入れるか、どちらかの道しか残されていないのか?
 そうではない。Microsoftには3つ目の道、控訴審へ持ち込むという手段が残されている。そして、Microsoftにとってはこれがいちばん有利かもしれない。

 それは、控訴裁判所が、政府による経済活動への介入に否定的な、保守派の判事が多いと言われているからだ。実際、控訴裁判所は、Windows 95を巡る'95年の裁判でも、連邦地方裁判所の決定をくつがえし、Microsoftにとって受け入れ易い同意審決を決着させたことがある。また、今回の裁判でも、ジャクソン判事の仮命令を覆している。

 また、Microsoftは控訴を行なうことで時間を稼ぐこともできる。控訴により、是正措置の審理や発効を停止させることができるからだ。Microsoftが徹底して最高裁まで争うつもりなら、決着が着くまで長くて数年かかる可能性がある。少なくとも、その間は、Microsoftに法的に轡をかけることはできない。

 こうした事情から、Microsoftは控訴という道へ進むものと思われている。


●Microsoftにとって控訴審もラフロードか?

 しかし、今回の「FINDINGS OF FACT」を見たり、裁判の経緯を振り返ったりすると、控訴裁判所で、Microsoftがすんなり勝利を握ることができるかどうかは疑わしいと思えてくる。それは、Microsoftがあまりに大きな敗北をしたからだ。

 まず、ジャクソン判事の事実認定を、Microsoftが控訴審で突き崩すことができるかどうか。裁判には素人なので、今回の事実認定がどれだけスキがない(控訴審での反撃に耐えられる)ものかどうかはわからない。しかし、ジャクソン判事は、Microsoftが控訴する可能性が高いことはわかっているはずで、そうすると、今回取り上げた証拠と事実認定は、控訴でひっくり返される可能性が低いように努めているはずだ。実際、FINDINGS OF FACTの言い回しはかなり慎重なものになっている。

 それから、裁判の審理で、Microsoft側は失策を積み重ねすぎたようだ。証人として出廷した幹部の発言が食い違ったり、証拠に提出したビデオは自社に有利になるようにした設定を追求されたり、外部から呼んだ経済学者は墓穴を掘るような失言をしたりといったニュースがあふれた。とくに裁判の後半では、Microsoftがミスを重ねて押しまくられたという報道が多かった。このあたりの経緯は、残念ながら裁判を傍聴したわけではないので報道でしかわからないのだが、報道されたミスの中には、Microsoftにとって不利な証拠も含まれている。

 こうした状況を考えると、Microsoftが控訴審で勝利を得ることができるかどうか、わからない。つまり、控訴はMicrosoftにとってもカケになるということだ。


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('99年11月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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