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元麻布春男の週刊PCホットライン

ユーザーの欲求は国境を越える



■e-businessの自己矛盾?

 「このところ」と言うか、「しばらく前から」と言うか、e-businessという言葉を良く耳にする。インターネットを活用した電子商取引によりビジネスを効率化するとか、e-businessにより「金」と「モノ」が国境を越えて動き出す、みたいな題目が、筆者のような門外漢(筆者のカバー範囲はPCのハードウェア全般であって、e-businessのようなマクロな話とはあまり関わりがない)の耳にも入ってくる。

 ひょっとすると、これは真実なのかもしれない。だが、どうもこうしたお題目には、胡散臭さがつきまとうような気がしてならない。どうして素直に信じられないのか。それはe-businessを唱えるIT産業自体が、本音と建前を使い分けているように感じられてならないからだ。

 たとえばe-businessにより、モノが国境を越えて動き出すとか、e-businessにより立地条件を選ばず世界中を相手にビジネスが可能になるとかIT産業は言うのだが、そのIT産業自体が国境を越えてモノを動かすことを拒んでいるのではないか。
 例えば、米国の大手PC関連メールオーダーハウスであるMicroWAREHOUSEの、製品入手性に関する注意書きのページには、同社に対し、製品を米国外、あるいは米国およびカナダ以外に輸出しないよう要請しているメーカーがリストアップされている。見れば分かる通り、「大手」と呼ばれるほとんどのメーカーが並んでいる。何のことはない、IT産業は国境を越えてモノが流通することを望んでいないのである。

 もちろん、これに対する反論は分かっている。e-businessの主役は企業と企業の取引きであって、企業と一般消費者の取引きはサポート等の問題があり、同じにはできない、といったものだ。だが、これもずいぶんと身勝手な、あるいは自分たちに都合の良い話なのではないか。大手を中心に、ユーザーサポートを時差の少ない海外に移すという動きが広がりつつある。サポートさえ国境を越えるのに、消費行動だけは国内に押しとどめたいというのは、無理があるように思う。e-businessを推進した帰結は、すべての商取引のボーダーレス化であり、そこに企業間とかそうでないとかいう違いが残るハズがない。第一、e-businessである以上、e-supportが当然の帰結なのではないか。

 確かに実際の返品作業等は少々面倒ではある。しかし、面倒なことと不可能なことでは話が違う。修理や交換といったモノを送って、さらに送り返して、といった作業についても、送料が余分にかかるものの、要する時間は国内とほとんど変わりはない。むしろ、国内の方が、物流コストが高いせいか、理不尽に時間がかかることが多いと思う。

 結局、国境を越えてモノが流通して欲しくない本音は、並行輸入品によって国内流通を乱されたくない、代理店を保護したい、ということに尽きるのではないか。だが、これは独占禁止法により禁じられている(不当に並行輸入を阻害してはならないということは、公正取引委員会のサイトにも明記されている)。だからこそ、堂々とは主張しにくいわけだ。

 たとえば並行輸入対策として、日本語化されたドライバ(といってもほとんどの場合、ユーティリティが日本語化されているだけだが)を、代理店扱いの日本語パッケージを購入したユーザーしか入手できないような仕組みを作っている、というのはよくある話だ。筆者は、日本語パッケージを購入したとしても、あえて英語版のドライバを使うことが多いが、それは英語版ドライバの方が最新であるということに加え、こうした仕組みが嫌いだということも大きく影響している。今も昔も、並行輸入品を排除する唯一の公正な手段は、正規品が価格で並行輸入品に打ち勝つことしかない(それができないような代理店契約なら結ぶべきではない)、というのが筆者の考えだ。

 ただし、誤解のないよう言っておくと、PC関連製品の価格は、世界中でバラつきが非常に少なく、この点でIT産業はかなりの優等生である。ただ、e-businessの推進役であるIT産業だからこそ、モノの動きに規制を設けようとすることはすべきではない、と思うのだ。逆に自らが模範となって、自由化に貢献すべきだろう。そうした上で、代理店経由の正規品が価格とサポートの両面において、それぞれのローカルの消費者の支持を得る、というのが望ましい姿なのではなかろうか。

 もう1つ、最近筆者が矛盾を感じた事例を挙げておこう。それは、ビジネスユーザー向けに、携帯情報機器のデータセンターを作る、という動きである。Webアクセスやメールアクセスの機能を持つ携帯電話やPHSといった端末をビジネスに活用するということのようだ。このような機能を持つ端末が必要になるのは、インターネットの発達や普及と無関係であるハズがない。しかし、インターネットが普及すればするほど、携帯端末を持つ必要性は減るのではないか。

 そもそも、e-businessで立地条件が問われなくなるのは、売り手と買い手が直接コンタクトする必要がなくなるからである(e-businessにより東京一極集中が緩和される、というのが一番望ましいシナリオだと思う)。そうであれば、外回りの営業という職種は、だんだん減少していくハズだ。e-businessでは、売り手と買い手がどこにいても良く、そうであればわざわざ外に出る必要はない。携帯端末を持ち歩く必然性は薄れるのである。逆に、携帯端末がもてはやされる日本の状況は、いかに固定電話の価格(加入料、通話料を含む)が割高で魅力のないものであるかの証ではないのか。

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('99年11月4日)

[Text by 元麻布春男]


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