初代PowerVRの汚名を返上できるか!?
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PowerVRシリーズといえば、先進的な技術を採用した高性能3Dチップということよりも、Direct3Dへの対応の悪さや、マシンやビデオカードとの相性の悪さなど、悪い面ばかりがクローズアップされ、製品としては全く成功することなく消え去っていった、文字通り悲運の3Dカードであった。しかし、PowerVRの後継チップ「PowerVR2」がセガの家庭用ゲーム機「Dreamcast」で採用されると発表されたことで、PowerVR2搭載ビデオカードへの期待がごく一部のマニアの間で高まっていたことも事実。そして、PowerVR2発表から1年半を経て、ようやく搭載ビデオカードが市場に登場した。PowerVRの復権なるか、それともまたもや見向きもされずに消え去っていく運命なのか、検証してみることにしよう。
●相性問題で主導権を握れなかったPowerVRシリーズ
今から3年ほど前、パソコンにも徐々に3D描画パフォーマンスを求める声が高くなりつつあった頃に産声を上げた、NECと英Video Logic共同開発の3DアクセラレータPowerVRシリーズ。2D機能を持たず3D機能に特化することで、当時としてはトップクラスの3D描画パフォーマンスを誇っていただけでなく、Zバッファを使用することなく陰面処理ができるという技術を採用することで、少ないメモリで3D描画が行なえるユニークな仕様で注目を集めた。また、当時のゲームセンターで大人気だったセガのロボットアクションゲーム「電脳戦機バーチャロン」がPowerVRシリーズ専用として移植されたり、人気鉄道シミュレーションゲーム「A列車で行こう5」がPowerVR専用で先行発売されたことなどで話題となったことを記憶している読者も少なくないだろう。
PowerVRシリーズは、初代のPCX1/PX1と、1.5倍の3D描画能力を誇る後継のPCX2/PX2と2種類のチップが発表され、搭載カードも複数のメーカーから発売された(MillenniumシリーズでおなじみのMatroxからも、「m3D」という製品名でPowerVR搭載カードが発売されていた)。ただ、マシンとの相性(特にビデオカードとの相性)がかなりシビアだったり、Direct3Dへの対応が不十分で、ソフトによっては正常な描画ができないなどといった問題が多数あったため、同時期に登場したVoodoo Graphicsとの覇権争いに完敗し、大きな成功を収められなかった。
実は筆者も、某大手ゲームメーカーの超有名レースゲームがPowerVR用としてパソコンに移植されるという話を聞きつけ、初代PowerVR搭載カード「PC 3DEngine」を発売日に誤って購入してしまったという過去を持っている。一時はVoodoo Graphics搭載カード「Monster 3D」と2枚差しで使用していたこともあったが、PC 3DEngineを搭載することによるマシンの安定性の低下に悩まされるだけでなく、PowerVR専用API「SGL」用ゲームがほとんど登場しないことなどもあり、あっという間にお払い箱にしたという記憶がある。もちろん、前述のレースゲームなど登場するはずもなかった。
●発表から1年半を経てPowerVR2搭載ビデオカードが登場
しかし、'98年5月にPowerVRシリーズで革命とも言える出来事が起こる。PowerVRシリーズの第2世代モデル「PowerVR2」が、セガの次世代ゲームマシンに採用されると発表されたのだ。その次世代ゲームマシンとは言うまでもなく「Dreamcast」のことである。
PowerVR2は、レンダリングの並列処理化やテクスチャ圧縮技術などを採用することで、300万ポリゴン/秒、2億ピクセル/秒という、PowerVR PCX2と比較して7倍のポリゴン描画能力、2倍のピクセル描画能力を実現した。
この描画パフォーマンスは、比較的新しいビデオチップと比べるとどうしても見劣りしてしまう。例えば、NVIDIAのRIVA TNT2の描画パフォーマンスは900万ポリゴン/秒、3億ピクセル/秒と、PowerVR2を大きく凌駕している。とはいっても、PowerVR2とほぼ同時期のチップであるRIVA128ZXでは500万ポリゴン/秒、1億ピクセル/秒と、PowerVR2とそれほど大差のないパフォーマンスだ。同世代のチップと比較すれば、PowerVR2のパフォーマンスが大きく劣っているとは言えないのである。
しかも、テクスチャ圧縮やバンプマッピングのサポートなど、かなり先進的な技術も取り込まれていたことを考えると、当時としてはかなり魅力的な仕様のチップであったことがわかると思う。
もちろん、開発元のNECとVideoLogicは、PowerVR2をDreamcast専用チップとしてではなく、パソコンのビデオカード用チップとしても製品展開させることになっていた。実際、PowerVR2チップの発表の際には、'98年夏頃にPowerVR2を搭載するパソコン用ビデオカードを製品化すると発表され、マニアの間ではかなり話題となった。
ただ、Dreamcastが発売されるに至っても、パソコン用ビデオカードの発売はなく、そのまま忘れ去られるかと思われていたのだが、今になっていきなり秋葉原に登場することになった。それがVideoLogicの「Neon 250」である。
Neon 250は、PowerVR2を搭載するAGPバス用のビデオカードだ。従来のPowerVRシリーズとは異なり2D機能も搭載されており、3D専用カードだった従来のPowerVRシリーズとは全く性格の異なるカードとなっている。
搭載されるPowerVR2チップ(PowerVR 250)は125MHzで動作し、250MHzのRAMDACを内蔵する。AGP 2Xをサポートし、ビデオメモリは32MB搭載している。また、3D描画性能は400万ポリゴン/秒と、前述のPowerVR2発表時の数値を大きく上回っている。もちろん、テクスチャ圧縮技術やバンプマッピングなどもサポートされている。
3D APIは、Direct3DとOpenGLに加え、PowerVRシリーズ独自APIである「SGL」ももちろんサポート。従来と比べ、Direct3Dへの対応度は大幅に向上し、表示されるグラフィックの質も格段に良くなっている点は大いに評価していいだろう。
販売価格は2万円をやや越えており、結構な金額となっている。RIVA128と同時期のチップということを考えると、適正価格は5,000円ほどのような気がするが、新製品だけに高値も仕方がないだろう。
●相変わらずのシビアな相性問題
PowerVRシリーズといえば相性問題を避けて通れなかったが、PowerVR2を搭載するNeon 250も同様に相性問題を避けて通れないようである。
秋葉原のパーツショップ「ソフトアイランド秋葉原店」で発売されているパッケージには、「VideoLogic Neon 250について」という説明書が付属しており、ビデオドライバインストール時の問題点や、アプリケーション使用時の制限や問題点など、ソフトアイランドが調べた様々な問題点が羅列されている。
とりあえず、その説明書通りにドライバ類のインストールを行なうと、Windows 98自体は問題なく起動できたが、通常の手順でドライバをインストールしても正常に利用できないとは、早くもPowerVRシリーズの片鱗が見え隠れしている。
アプリケーションの使用では、ベンチマークテストで利用したソフトのうち、いくつかがテスト中にエラーを起こして正常に測定できなかったものの、TOMB RAIDERシリーズの最新作「TOMBRAIDER THE LAST REVELATION」のデモや、同じくアイドス・インタラクティブのアクションゲーム「ソウルリーバー」、MEDIA QUESTのフライトシミュレータ「FALCON 4.0」は、どれも問題なくプレイ可能だった。とはいっても、先ほどの説明書にはアプリケーションの動作不具合も記されており、今後登場するソフトが正常に動作するとは言い難い。
ドライバには、Direct3Dに関する細かな設定項目が用意されている。アプリケーションによっては、この設定を変更することで正常動作するようになるものもあるようだ |
こういった問題の多くは、そのほとんどがドライバの完成度が低いことに起因していると思われる。ということは、将来のドライバのバージョンアップでそれぞれ解消される可能性も考えられるだろう。しかし、それでは従来のPowerVRシリーズと全く変わっていない。メーカーの体質なのか、本当にチップの動作がシビアなのかはわからないが、ユーザーとしてはもう少し完成度を高めてから発売してもらいたいという気がしてならない。
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今回試したソフトの画面キャプチャ。もちろん全てNeon 250上で動作させてキャプチャしたものである
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●価格に見合わないパフォーマンスの低さ
それでは、いつものように2Dおよび3Dの描画パフォーマンスを、各種ベンチマークテストを行なうことで検証してみることにしよう。今回も、OpenGL用ゲームとしてQUAKE III TEST Ver1.08を利用した点も含め、3D Blaster GeForceを取り上げたときと同様の条件で測定を行なった。
・2D描画パフォーマンス
2D描画パフォーマンスの測定は、Ziff-Davis,IncのWinBench 99 Version 1.1に含まれるBusiness Graphics WinMark99とHigh-End Graphics WinMark99を利用した。1,024×768ドット、リフレッシュレート85Hz、16bitカラーモードと32bitカラーモードで測定してある。
【WinBench 99 Version 1.1 Graphics WinMark】
Business Graphics WinMark 99/16 |
High-End Graphics WinMark 99/16 |
Business Graphics WinMark 99/32 |
High-End Graphics WinMark 99/32 |
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Neon 250 | 150 | 265 | 93 | error |
Millennium G400 MAX |
194 | 550 | 190 | 541 |
VooDoo3 3500TV |
180 | 520 | 177 | 511 |
Voodoo3 3000 |
182 | 528 | 179 | 517 |
Millennium G400 |
192 | 556 | 189 | 548 |
Viper V770 Ultra |
186 | 522 | 182 | 518 |
結果を見ると、最新のビデオカードとは思えないほど悪い数値となっている。これでは、3世代ほど前のビデオカードと比較しても悪いかもしれない。近年希に見る2Dパフォーマンスの低いビデオカードといわざるを得ないだろう。
・Direct3D描画パフォーマンス
次に、Direct3D環境での総合的な3D描画パフォーマンスを、FutureMarkの3DMark99 Maxを利用して計測した。800×600ドット、1,024×768ドット、1,280×1,024ドットのそれぞれの解像度について、16bitカラーモードと32bitカラーモードで計測を行なった。
【表1:3DMark99 Max】
800×600 16bpp | 800×600 32bpp | 1,024×768 16bpp | 1,024×768 32bpp | |
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Neon 250 | 4,344 | 3,197 | 3,070 | 2,014 |
3D Blaster GeForce | 4,670 | 4,675 | 4,655 | 4,628 |
RAGE MAGNUM | 4,517 | 3,358 | 2,771 | 2,186 |
SPECTRA 5400PE | 4,954 | 4,831 | 4,499 | 4,061 |
Millennium G400 MAX | 5,002 | 4,975 | 4,873 | 4,487 |
Voodoo3 3500TV | 4,940 | d/s | 4,789 | d/s |
1,280×1,024 16bpp | 1,280×1,024 32bpp | |
---|---|---|
Neon 250 | 1,965 | d/s |
3D Blaster GeForce | 4,659 | 3,349 |
RAGE MAGNUM | 1,800 | 1,312 |
SPECTRA 5400PE | 3,113 | 2,306 |
Millennium G400 MAX | 4,063 | 3,063 |
Voodoo3 3500TV | 4,762 | d/s |
この結果も、2D描画パフォーマンス同様、かなり悪い数値となっている。低解像度ではそこそこ健闘していると言ってもいいかもしれないが、解像度が上がるにつれ、パフォーマンスの落ち込みが激しくなっている。ドライバの完成度が低く、チップの持つパフォーマンスを最大限に引き出せていない可能性も考えられるが、チップの性能を考えるとこの程度に落ち着くのも仕方がないのかもしれない。
・Direct3Dベース3Dゲームの描画パフォーマンス
Direct3Dベースのゲームソフトでの描画パフォーマンスを、いつものとおりDirect3Dベースのゲームソフト「Turok2:Seeds of Evil」を利用して測定した。
【Turok2:Seeds of Evil】
800×600 16bpp | 800×600 32bpp | 1,024×768 16bpp | 1,024×768 32bpp | |
---|---|---|---|---|
Neon 250 | 57.2 | 57.1 | 52.9 | 47.5 |
3D Blaster GeForce | 55.3 | 55.4 | 55.7 | 54.4 |
RAGE MAGNUM | 58.4 | 56.5 | 50.5 | 41.3 |
SPECTRA 5400PE | 60.1 | 58.3 | 58.7 | 54.3 |
G400 MAX | 56.9 | 59.2 | 58.6 | 57.0 |
Voodoo3 3500TV | 58.8 | 75.3 | 53.4 | 72.0 |
1,280×1,024 16bpp | 1,280×1,024 32bpp | |
---|---|---|
Neon 250 | 41.4 | 33.4 |
3D Blaster GeForce | 53.8 | 41.8 |
RAGE MAGNUM | 32.8 | 22.4 |
SPECTRA 5400PE | 53.3 | 36.3 |
Millennium G400 MAX | 54.2 | 47.8 |
Voodoo3 3500TV | 39.4 | 53.2 |
この結果は、3DMark99 Maxの結果と異なり、かなり良い数値が計測されている。Millennium G400 MAXやSPECTRA 5400PEと比較してもほとんど遜色がないほどで、最新ビデオカードとも十分に張り合うことができている。
ただし、実際の画面描画を見てみると、800×600ドットモードではほぼ数値通りの速度が出ていると感じられるものの、それ以上の解像度の場合では、得られた結果に近いフレームレートが出ているとは到底思えないほどに画面描画のもたつきが感じられた。
実際に全フレームが表示されていなくても、内部では表示されたものとして処理してしまう、ベンチマーク対策でよくある手法が取られているかどうかは不明だが、1,024×768ドット以上の解像度では、実際のパフォーマンスはこの結果の半分以下と考えるのが妥当だろう。
・OpenGLベース3Dゲームの描画パフォーマンス
最後に、OpenGLベースのゲームソフトを利用してパフォーマンスを測定してみよう。今回も3D Blaster GeForce256の時と同様、QUAKEシリーズの最新作、QUAKE III ARENAのデモ版、QUAKE III TEST Ver1.08を利用してテストを行なった。
【QUAKE III TEST Ver1.08】
800×600 16bpp | 800×600 32bpp | 1,024×768 16bpp | 1,024×768 32bpp | |
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Neon 250 | 62.0 | 58.2 | 40.3 | 34.9 |
3D Blaster GeForce | 89.3 | 74.9 | 74.8 | 48.5 |
RAGE MAGNUM | 35.7 | 30.2 | 23.0 | 18.6 |
SPECTRA 5400PE | 66.9 | 57.5 | 50.0 | 40.7 |
Millennium G400 MAX | 46.3 | 45.9 | 43.2 | 39.3 |
Voodoo3 3500TV | 69.2 | d/s | 51.1 | d/s |
この結果も、TUROK2同様にかなり良い数値が得られている。ただし、こちらに関してはTUROK2の場合のように、結果として得られたフレームレートと、実際の画面描画の速度を比べてもほとんど違いがあるようには感じられなかった。
もともとQUAKEシリーズではPowerVRシリーズに対応していたことを考えると、QUAKE IIIがPowerVR2に適応できているということも考えられなくはない。とはいっても、QUAKE IIIがPowerVRシリーズを念頭に入れて開発されているとは考えづらく、この結果が良かったのは、あくまでもNeon 250に用意されているGLQuakeドライバの完成度が、Direct3Dドライバと違い、かなり高いことによる結果と考えるべきであろう。
●ビデオカード収集家または強い意志を持つ人ならある意味楽しめるだろう
さすがに1年以上前に開発されたチップだけあって、現在の他のビデオチップのパフォーマンスと比較すると、あらゆる面で劣ってしまうのはしかたがないだろう。ただ、相変わらずのシビアな相性や、ソフトを利用した場合の問題が多数存在していることを考えると、良くも悪くも「ああ、PowerVRだなあ」という印象を受けてしまう。この点さえ何とかなれば、そこそこの成功を収めるだけのポテンシャルを秘めていると思われるだけに非常に残念だ。
やはり、前シリーズ同様に、一部のマニアや人柱志向の人、パフォーマンスの悪さを許せる人、トラブルを楽しめる心の広い人、トラブルを自力で解決する意欲溢れる人以外の、ごく一般的なユーザーにはお勧めできる製品とは言えないだろう。
ただ、PowerVR2カードがブレイクする可能性が全くないわけではない。そう、PowerVR2を搭載するDreamcastエミュレータが登場すれば、メジャーに復権するかもしれない。権利問題、GD-ROMのパソコン上でのアクセスなど、クリアしなければならない問題は非常に多いが、もし実現すれば、復権は難しくても話題にはなる。個人的にはこの線で突っ走ってもらいたいのだが、現実はかなり厳しそうだ。
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[Text by 平澤 寿康@ユービック・コンピューティング]