10月5日、日本AMDは動作クロック700MHzのAthlonプロセッサの出荷を開始したと発表した。現時点でIntel製プロセッサの最高動作クロックが600MHzであるのに対し、2割近い周波数アドバンテージを持つことになる。
だが、周波数アドバンテージがなく、動作クロックが同一でも、Athlonプロセッサの性能はIntelのPentium IIIの性能を上回る。下の表は筆者の手元で取ったベンチマークテスト結果の抜粋だ。Ziff DavisのCPUmark 99は、その名前の通り整数演算性能を測るテストだが、同じ600MHz同士の比較でもAthlonの性能はPentium IIIを28%近く上回る。Athlon 700MHzの性能となると45%近い。
プロセッサ | Athlon 600MHz | Athlon 700MHz | Pentium III 600MHz | |
マザーボード | MS-6167 | MS-6167 | SE440BX2 | |
ZD WinBench 99 | CPUmark 99 | 56 | 63.5 | 43.9 |
TreeMark | Simple | 11.8765 | 13.6575 | 9.08926 |
TreeMark | Complex | 2.73778 | 3.16907 | 2.13666 |
3DMark 99 Max*1 | 3DMark | 5463 | 5737 | 5628 |
Synthetic CPU 3D Speed | 10205 | 11124 | 9026 | |
Fill Rate | 250.4 | 251.7 | 249.7 | |
Fill Rate w/Multi Texturing | 236.2 | 237 | 237.2 | |
32MB Texturing Rendering | 35.4 | 35.4 | 37.3 |
*1:1,024×768ドット、リフレッシュレート85Hz、16bitカラーモードで測定
【動作環境】
ビデオカード | 3DBlaster RIVA TNT2 Ultra (nVIDIA RIVA TNT2 Ultra) |
---|---|
ディスプレイドライバ | NVIDIA Detonator 2.08 |
メモリ | 128MB PC100 SDRAM |
HDD | IBM DJNA-371800 |
同じことは浮動小数点演算にも言える。ここで用いたTreeMarkは、NVIDIAが提供しているOpenGLベースのベンチマークテストで、元々はジオメトリ計算のTransformとLighting(T&L)をハードウェア(GeForce 256)で処理すると、いかに性能が向上するか、ということを示すものだが、RIVA TNT2のようなハードウェアT&Lを持たないカードで実行すると、事実上浮動小数点演算性能のベンチマークテストとなる。こちらでもAthlon 700MHzの性能はPentium III 600MHzの性能を50%以上上回った。
最もポピュラーなベンチマークテストの1つである3DMark 99 Maxも実行してみたが、ここでもほぼ予想通りの結果となった。このテストに含まれるテストの多く(Fill RateやFill Rate with Multi Texturing、32MB Texturing Rendering)は、レンダリングエンジン(グラフィックスチップ)の性能に大きく影響されるため、こうしたテストではどのプロセッサも大差ない結果になっているのが見て取れる(同じビデオカードを使っているのだから当然だ)。ただし、Synthetic CPU 3D Speedにおいて、Athlonプロセッサの性能が優れていることの片鱗が伺える。
だが、こうしたプロセッサ単体での性能が優れていることは、すでに分かっていたことだ。Athlonが優れたプロセッサであることに異論を挟む余地はほとんどない。問題は、それ以外の部分だ。端的に言えば、なぜAthlonは大手PCベンダに採用されないのか、ということに尽きる。
■AMDはマザーボードを製品化するべき
正確には、大手PCベンダの採用が全くないわけではない。米国ではIBMがAptiva Sシリーズ、CompaqがPresario 5900ZシリーズにAthlonを採用している。だが、日本ではいずれのモデルも販売されていない。つい先頃発表されたCompaqの冬モデルにも、Presario 5900Zの名前は見られなかった。また、NECの冬モデルにも、K6-2は採用されているものの、やはりAthlonの名前はない。こと日本に関する限り、今のところ大手PCベンダでAthlonを採用したモデルは、全く存在しない。これらのベンダがK6-2を搭載した製品を出荷していることを思えば、AMD製品だからということが理由ではないだろう。
今回マザーボードは、日程の関係でPC Watch編集部所有のMSI MS-6167を使用した。実はこのマザーボードMSI MS-6167はAthlon 700MHzには対応していない。というかMicro Starでは700MHz対応を謳っており、BIOSも対応しているのだが、AMDが公開している「AMD Athlon Recommended Motherboards」では700MHz対応とはされていない、というやっかいなことになっている。
実際、そのままではAthlon 700MHzをMS-6167に挿すと、いつまでも画面は真っ黒なままで、全くブートしなかった(ビープ音すらしない)。実は、ここに掲載したテスト結果を得るために、簡単なトリックを用いている。まずAthlon 600MHzを挿してシステムを起動し、しばらく動作させた後、手早くプロセッサをAthlon 700MHzに交換し、直ちに電源を再投入する。この手順で筆者が編集部から借用したMS-6167はAthlon 700MHzで起動した。Athlon 600MHzで動作させることで、電源部のコンデンサにチャージしたことが起動した原因かもしれない。(もちろん、こんな使い方はメーカー保証の範囲外であり、筆者も保証するものではない)。
MS-6167は、発売直後も同様な理由(高い動作クロックのAthlonで動作しない)で1度リコールされたことがある(今回使用した製品は対応済みのもの)。だが筆者は、これが必ずしもMicro Starの責任ではないのではないかと思っている。現在、米国でも同様な問題が、他社のマザーボードで起こっているからだ。市販されている多くのマザーボードで、電源部の設計がリファレンスマザーボードのそれを踏襲したものになっていることから考えて、おそらくAMDによる情報の開示に問題があるか、AMDが高クロック版のAthlonをリリースするたびに電源の仕様を改訂しているかのどちらかだと思われる(AMDには、K6-IIIの時にも土壇場で動作電圧を引き上げたという「前科」がある)。
いずれにしても、こうした手際の悪さこそ、Athlonを採用するOEMが増えない最大の原因なのではないか。新しい動作クロックのAthlonが登場するたびにマザーボードを変更しなくてはならないというのでは、BTOのメーカーは怖くてマザーボードの在庫を持てない。同じことは小売店にも当てはまるハズだ。
個人ユーザーにしても、500MHzのAthlon用に購入したマシンがマザーボードを交換しないと700MHzにアップグレードできないというのは、こうしたアップグレードが容易なIntelのプロセッサに馴れた身には辛い。せめて、電源を昔のIntelのような独立したモジュール(VRM)にして、リスクを軽減できないものかと思う。VRMはコスト高のため廃れてしまったが、マザーボードを丸ごと捨てるよりは、よっぽどマシである。
結局、こうした問題がいつまでも解決しないのは、やはりAMDがマザーボードの外販をしていないからだという気がする。自らがマザーボードを製造・販売することで市場リスクを負わないと、こうした部分の改善は難しいのではなかろうか。考えてみれば、Intelのマザーボードの品質も、最初は決して良いとは言えなかったし、IBM製ハードディスクの品質が良くなったのは外販を始めてからのことではないか。 また、Athlonのベンチマークは、筆者も含めてAMD製のリファレンスマザーボードで取られることが多いが、そのマザーボードが市販されない限り、それは実験室の数字に過ぎず、リアルな数字としては受け取れない、という問題への回答にもなるだろう。
Athlonというプロセッサの優秀性を認める反面、Athlon対応マザーボードの購入は、少なくとも次の世代になるまで見送りたい、というのが筆者の正直な気持ちだ。
□関連記事
【9月29日】米AMD、Athlon 700MHz発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991005/amd.htm
Athlon関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990817/athlon_i.htm
('99年10月20日)
[Text by 元麻布春男]