AMDはAthlonプロセッサ戦略を第2ステップに進める。700MHzに続き、750MHzをおそらく年末から来年初め、800MHzを来年第1四半期の終わりから第2四半期の頭ごろまでに発表し、高クロック化を進める。その一方で、AMDがクロックで追いつけなくなっているCeleronプロセッサに対抗するために、Athlonのソケット版とK6-2+を投入する。今回は、AMDの戦略のうち、バリューPC(低価格PC)市場へ向けた展開を整理してみたい。
もともと、AMDは、CeleronにはK6-2プロセッサ系を、Pentium IIIにはK6-IIIプロセッサを、そして高クロック版の0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine)やXeonにはAthlonプロセッサを対抗させるビジネスモデルを組み立てていた。しかし、IntelがCeleronの高クロック化と低価格化を進めた結果、K6-2はローエンドに押しやられ、その一方でK6-IIIが浸透しなかった。そのため予定が狂い、K6-2が存在するローエンド市場とAthlonが狙うパフォーマンスPC市場の間が、ぽっかり空いてしまったのだ。
そこで、AMDは、この空白にAthlonを流し込むことにした。まず、Athlonの価格をスライドさせAthlon 500MHzを209ドルと、パフォーマンスPCのローエンド価格へと持ってきた。しかし、推定製造コストが高い(0.25ミクロン版でパッケージ込みで推定105ドル)と言われる現在のAthlonで、200ドル以下の価格をつけるのは難しい。そこで、AMDは、次のステップではAthlonのPGAパッケージ版を、Celeronの高クロック版に対抗して投入する。
だが、このPGA版Athlonは、当初AMDがアナウンスしていた「Athlon Select」ブランドにはならない。先週、サンノゼで開催された「Microprocessor Forum 1999」でのインタビューで、AMDは顧客とのコミュニケーションの結果、バリュー市場向けにK6とAthlonの2ブランドを投入するのは混乱を招くことがわかったため、「Athlon Select」という“ブランドネーム”は取りやめになったと説明した。つまり、Selectのブランドはなくなったわけだ。しかし、PGAパッケージ製品の計画自体がなくなったわけではない。AMDはPGA版Athlonを、異なるブランドで計画しているらしい。
●PGA版Athlonは2次キャッシュ統合?
AMDは、もともと来年のかなり早い時期にPGA版Athlonを出すつもりでいた。また、PGA版Athlonはパッケージ内に2次キャッシュを入れるが、その時のプランでは、Athlonと2次キャッシュSRAMを統合する(on die)つもりではなかった。おそらく、MCM(マルチチップモジュール)などの方法でSRAMチップをパッケージに収めるつもりだったと思われる。だが、AMDの今の計画では、PGA版Athlonの投入時期と仕様の両方が変わったようだ。
まず、現地の複数の情報筋によると、投入時期は1四半期分ほど後ろへずれ込み第2四半期かそれ以降になったらしい。クロックは600MHz以上で、価格は現在のAthlonのローエンドより安く、100ドルから180ドルのレンジで登場すると言われている。そして、2次キャッシュはどうやらon dieで検討されているようだという。Microprocessor Forumでも、主催のCahers MicroDesign Resourcesのセミナーでも、来年にはAthlonも2次キャッシュが統合される可能性が高い、という予測が示された。
もし、AMDが来年第2四半期ごろ投入でon dieキャッシュ版Athlonを計画しているとなると、Athlonの設計変更はすでに数ヶ月前から取りかかっていたことになる。また、2次キャッシュの量も変わる可能性が高い。今のAthlonの2次キャッシュは512KBだが、0.18ミクロンプロセスでも102平方mm程度と予想されるAthlonのダイ(半導体本体)に256KB以上のSRAMを統合することは、経済的なチップサイズに収めることを考えると難しい。256KB程度の2次キャッシュになるのではないだろうか。
●まだ見えないPGA版Athlonのブランド戦略
まだ現時点では、AMDがPGA版Athlonを、どんなブランドで投入するのかわからない。『Athlon』ブランドで投入するという話と、『K6-xx』ブランドになる(!)という話の2つが伝わってきているからだ。
もしAMDがPGA版Athlonを、Athlonのブランドネームで投入してくると、Intelはやっかいな問題を抱え込むことになる。それは、“Pentium III対抗ブランドでCeleron対抗価格”のMPUが登場してしまうからだ。現在の予想では、PGA版の登場で、来年中盤には800~1,000ドル程度で、600MHzの“Athlon” PCを買えるようになる。それに対抗するのは、600MHzの“Celeron” PCだ。もし、その時までに、Athlonの大手PCメーカーでの本格採用が進み、AMDがAthlonのブランドイメージを確立できれば、Intelは、Pentium IIIクラスのMPUにCeleronで対抗するという苦しい立場に立たされることになる。
Intelは、これまでパフォーマンスPCはPentium II/III、バリュー(低価格)PCはCeleronというブランド分けを積極的に行なってきた。それは、Pentium IIIの価格を守りつつCeleronでは価格攻勢をかけ、x86互換MPUメーカーに対抗するためだった。つまり、x86互換メーカーの製品のクロックがCeleronで対抗できる範囲に収まるという前提の戦略だったわけだ。その前提が崩れると、この2重ブランド戦略は、逆にIntelの首を絞めることになる。Intelは、自分でわざわざ下級品イメージを作ったブランド名で、Athlonに対抗する羽目になる。
もっとも、Intelもここへ来て妙な動きを見せている。じつは、少し前からIntelが「Coppermine-128k」の100MHz FSB版を、Pentium IIIブランドで投入する準備を進めているというウワサが出ていた。Coppermine-128kは、2次キャッシュを半分殺したCoppermineで、Coppermine-128kコアの66MHz FSB版はCeleronブランドで投入される予定になっている。しかし、Intel情報に詳しい筋からは、IntelがCoppermine-128kの100MHz FSB版を検討していて、しかも、それがPentium IIIになるという情報が出てきたのだ。
この情報は、ルートが一部に限られるため、当初はかなり疑問があった。だが、AMDがPGA版AthlonをAthlonブランドで計画しているとすれば、Intelがそれに対抗するためにPentium IIIブランドを下へ延ばそうとする可能性はあるだろう。
●K6ブランドのAthlonはあり?
しかし、AMDにとってもこの戦略は危険をはらんでいる。それは、Athlonのブランドイメージ確立がうまくいかないと、AthlonにCeleronの安物ブランドイメージがついてしまうからだ。
だが、もし、AMDがPGA版Athlonを、K6-xxブランドで投入すれば、この問題は回避できる。AthlonアーキテクチャでK6-xxというのは妙な話に聞こえるが、これは、AthlonとK6の名前が、どちらもコアアーキテクチャを示すものではなくブランド名という位置づけということなのだろう。つまり、Intelのセグメント分けにAMDも合わせるわけだ。
この方法なら、AMDはAthlonをあくまでもPentium III対抗ブランド名として維持できる。PGA版Athlonは、AthlonアーキテクチャだがK6ブランドとして区別できるからだ。しかし、この場合は、K6ファミリとPGA版Athlonの非互換性が問題になる。K6ファミリはSocket7インフラの上にのっているが、PGA版Athlonは新たにピン互換性のないソケット(462ピンとウワサされている)が必要になる。この場合、チップセット、マザーボードで全く異なるプラットフォームになるため、混乱を招く可能性もある。
●バリューPC市場ではPGA版AthlonとK6-2+の2系列が併存
PGA版Athlonのブランド名については、どちらが正確な情報なのかまだわからない。しかし、確かなことがひとつある。それは、PGA版Athlonが出ても、K6アーキテクチャのMPUはなくならないということだ。PGA版Athlonは0.18ミクロンで製造しても、K6ファミリよりかなり高コスト(キャッシュ量によって異なるがおそらく50ドル以上)になる。そのため、現在K6-2がまだ勢力を保っている50ドル台から100ドルまでのローエンドの価格帯まで持ってくることができないだろう。そのため、AMDは引きつづき、この市場へはK6ファミリを投入することになる。
すでにこのコラムで伝えた通り、AMDはここに来年K6-2+を出す。これは、0.18ミクロンプロセスで製造され128KBの2次キャッシュを統合した製品になる。K6-2+は来年頭に登場すると言われていたが、少し後ろへずれ込んだという情報も入っている。クロックは、500/533/550MHzが予定されているという。533は、FSB(フロントサイドバス)が133MHzになるわけではなく、もっと半端なクロックになるようだ。価格としては、おそらくCeleronの下のローエンドの3つの価格帯(通常60ドル台/70ドル台/90ドル台に設定されている)をカバーするだろう。製造コストはプロセスがこなれてくれば楽に50ドルを切るはずなので、この価格設定で戦えるはずだ。
一方、すでに市場に存在感のないK6-IIIは、少なくとも来年第1四半期までにデスクトップでは姿を消すらしい。AMDは、K6-IIIの0.18ミクロン版も投入するが、これはモバイル向けに絞られるようだ。このK6-IIIのポジションにはPGA版Athlonが入ることになるだろう。
('99年10月14日)
[Reported by 後藤 弘茂]