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元麻布春男の週刊PCホットライン

NECと三菱の合弁に、画期的だったMultiSyncを思う



■NECと三菱がディスプレイ事業を統合

 9月24日、NECと三菱電機は、両社のPC用ディスプレイモニター事業を統合することで合意したと発表した。折半出資の新会社を設立し、両社が持つ開発から販売までの機能を新会社に集約する。2002年に世界シェアでトップ3入りすることが目標だという。

 三菱電機のディスプレイというと、まず思い浮かぶのがダイヤモンドトロン管だ。多くのディスプレイ専業メーカーをはじめ、NECにもOEMしているダイヤモンドトロン管は、今や三菱電機のディスプレイの「顔」的な存在だが、逆に歴史はそれほど古くない。もちろん、同社はいわゆるオフコンを含め、コンピュータ事業については比較的長い歴史を持ち、その専用ディスプレイとしての事業の歴史は古いのだが、汎用あるいは単体で販売されるディスプレイというイメージが強くなったのは、ダイヤモンドトロン管の登場以降のことだ。

 それに比べれば、NECのPC用ディスプレイモニター事業の歴史は古い。今ではPCディスプレイに関し同社の世界シェアをはるかに上回るであろう三星電子に、CRT技術を提供したのはNECだった('70年に現在の三星電管の前身を設立)。米国で同社製ディスプレイのブランドであるMultiSyncは、一種ディスプレイの代名詞になっているほどポピュラーだ。それに対し、わが国ではNECのディスプレイといえばPC-9801シリーズ用のディスプレイというイメージが強く、MultiSyncブランドの提供が遅れるなど、グローバルなブランド戦略に失敗した感は否めない。

■画期的だったマルチスキャンディスプレイ

 MultiSyncの語源ともなった、1台のディスプレイで複数のディスプレイ信号(広範な水平同期周波数)に対応したディスプレイ(マルチスキャンディスプレイ)を提供したのは、NECが最初ではなかったかと思う。今では、一定範囲内の水平同期周波数に自動追随するマルチスキャンディスプレイが当り前になっているが、昔はそうではなかった。特定のビデオカードには、それに対応した専用のディスプレイを組み合わせるのが普通だったのだ。

 MultiSyncが生まれたのは、おそらくEGAの登場と無関係ではない。CGAの後継であるEGAは、CGAの低解像度グラフィックスを継承した上で、640×350ドットの「高解像度」グラフィックス機能を提供するものだった。EGAはCGAと同じデジタルRGBインターフェイスを採用し、CGAとの高い互換性を持っていた。しかし、その互換性のゆえか、EGAでCGAの低解像度モードを利用するには、CGA用のディスプレイを接続する必要があった。EGA高解像度モードの水平同期周波数が21.85kHzであり、EGAディスプレイがこの周波数にのみ対応したのに対し、CGAモードの水平同期周波数は15.75kHzであり、EGAディスプレイはこれに対応できなかったのである。最初のMultiSyncは、1台のディスプレイでCGAの15.75kHzとEGAの21.85kHzの両方に対応可能なものだったと記憶している(ちなみにVGAは、EGAやCGAとのハードウェアレベルの完全な互換性を持たない代わり、31.5kHzの固定した水平同期周波数を維持したまま、EGAやCGA相当の低解像度表示をサポートする)。

 このディスプレイがいかに画期的なものであったかは、Super VGAが当たり前になった最近のユーザーにはピンとこないかもしれない。だがMultiSyncは、他社が同様な機能を備えたディスプレイをリリースした後も、PC向けディスプレイのトップブランドとして、米国で広く認知されるに至ったのである。筆者がPC/AT互換機の世界に入ったのは、ちょうどPCのグラフィックスがEGAからVGAに移り変わる頃のことだ。当時は、EGA/CGAのデジタルRGBだけでなく、次の主流と目されていたVGAのアナログRGBにも対応したマルチスキャンタイプが主流であった。すでにNECのMultiSyncはブランドとして高い評価を得ていたものの、予算の限られた筆者には手の出ない高嶺の花であった。

 その後、マルチスキャンタイプのディスプレイからデジタルRGBインターフェイスがなくなり、Windowsの普及とともにディスプレイといえばマルチスキャンであることが当り前になってしまった。逆に、マルチスキャンタイプのディスプレイが存在しなければ、スーパーVGAの登場はなかったかもしれない。NECは、国内向けにも汎用ディスプレイとしてMultiSyncブランドを投入したものの、率直に言ってブランドイメージを確立できたとは言い難い。そして今回の三菱電機との事業統合を発表するに至ったわけだ。

 おりしもIDFではディスプレイ用のデジタルインターフェイスであるDVIを採用したデジタルディスプレイのプロトタイプが出展された。DVIを採用したデジタルディスプレイの利点の1つが、ディスプレイをマルチスキャンにしなくて済むことと、それによるディスプレイの高画質化と低価格化であることを考えると、時代の移り変わりを感じずにはいられない。

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('99年9月29日)

[Text by 元麻布春男]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp