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IntelとAMDが、それぞれバリューPC向け戦略を軌道修正している。IntelはCeleronの100MHz FSB化を取りやめた。その代わり0.18ミクロンへの移行を来年第2四半期に繰り上げるようだ。一方、AMDは、低価格版Athlonである「Athlon Select」の計画を延期したか取りやめたらしい。当面はK6-2後継の「K6-2+」を主軸に据えると見られている。
●AMDはK6-2+で巻き返しを図る
AMDは2000年もK6ファミリをさらに強化、Celeronに対抗し続けると言われている。AMDがそのためのコマとして新しいK6ファミリMPU「K6-2+」を用意していると、多くの情報筋が伝えている。情報によると、K6-2+は、K6-2の後継版と言うより、K6-2とK6-IIIの中間バージョンになるようだ。それは、128KBの2次キャッシュSRAMを内蔵するからだ。
K6-2+は、2次キャッシュSRAMチップをシステムバス上に外付けにするK6-2よりも、キャッシュ性能は原理的に高くなる。キャッシュアクセスはレイテンシと帯域の両方とも大幅に改善されるからだ。しかし、256KBの2次キャッシュを内蔵するK6-IIIよりも性能は若干低くなるだろう。
AMDは、このK6-2+を来年の第1四半期までに投入するつもりでいると言われている。クロックは、現在のK6-2よりも高い550MHz程度も投入し、来年前半には600MHzにするつもりのようだ。プロセスもシュリンクすると言われているので、製造ラインがきちんと立ち上がっていれば、高クロック品の歩留まりもかなり高くなる可能性がある。
2次キャッシュを内蔵したのは、MPUの内部クロックが高くなるにつれて、システムバス上の2次キャッシュが、ますます性能のボトルネックとなり始めたからだろう。128KBと、K6-IIIよりも2次キャッシュサイズを小さくしたのは、高クロック化を容易にするためと、対抗するCeleronが128KBしか2次キャッシュを搭載していないためと見られる。
●Athlon Selectは当面は立ち消えに?
K6-2+のソケットだが、引きつづきSuper7プラットフォームで100MHz FSB(フロントサイドバス)ベースになると、マザーボード関係者などは伝えている。Rise TechnologyやVIA Technologies傘下に入るCyrixが、Socket370プラットフォームへ移行するのとは対照的だが、これは法的な問題のためだ。100MHz FSBなのは、Socket7では133MHzにするのが技術的に難しいからだ。そのため、Socket7がどんどんSocket370に浸食されている現状を覆すことができるかどうかがポイントとなりそうだ。
AMDは、どうやら2000年のバリューPC市場は、このK6-2+と、より高クロック化するK6-IIIの2本立てで攻めるらしい。つまり、AMDがAthlonの発表時に計画を発表した、バリューPC市場向けのAthlon Selectは、どうやらロードマップから消えたか延期になったようだ。現在、複数の業界関係者から、当面Athlon Selectが出る様子はないという情報が入っている。
Athlon Selectは、PGAパッケージで提供され、2次キャッシュSRAMチップを何らかの方法でパッケージ内に内蔵すると言われていた。登場時期は、来年前半が予定されているとウワサされていた。もっとも、マザーボードベンダーからはAthlon Selectというソリューションに否定的な発言も出ていたので、この延期(またはキャンセル)は不思議はないかもしれない。コスト的に見合わないと判断された可能性もある。
●Celeronは66MHz FSB据え置きのまま600MHzへ
一方、IntelのCeleronは、来年前半に0.18ミクロンシフトを始める。現在の0.25ミクロン版Celeron(Mendocino:メンドシノ)は、来年初めの533MHz版で打ち止めになり、それ以降の566MHz版からは0.18ミクロン版Celeron(Coppermine-128K)を使うことになったらしい。つまり、0.18ミクロン化はやや予定が早まったことになる。
Coppermine-128Kは、0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine)のオンダイ2次キャッシュ256KBのうち、半分の128KBを使えないようにしたバージョンと見られている。Pentium III同様にストリーミングSIMD拡張命令(SSE)を搭載する。パッケージは、Coppermine同様にFC-PGA(フリップチップ-PGA)に変わり、クロックは来年中盤で600MHzとされている。
Intelは当初、Coppermine-128Kでは100MHz FSBへの移行を予定していた。しかし、現在はこれは取りやめになり、Celeronは66MHz FSBで通すことになったらしい。これについて、Intelのデスクトップ製品部門を統括パトリック・P・ゲルシンガー副社長兼ジェネラルマネージャ(Desktop Products Group)は、「重要な問題は、コンシューマ市場のバリューバイヤーは、MHzでマシンを買うということだ」、「Celeronの購入者は、MHzと価格だけが懸案事項なので、FSBのバリューに対する要求がない。そのため、われわれはFSBをすぐに速くしなければならないとは感じていない」、「100MHzにすれば、それだけテストのコストもかかるので、今は考えていない」と説明している。
しかし、この戦略の裏の意味は、Pentium IIIとCeleronの差別化をもっと明確にしようということだと思われる。つまり、同じCoppermineコアになってしまう0.18ミクロン世代からは、CeleronもSSEを搭載するようになり、Pentium IIIとの差は2次キャッシュ容量とFSBのクロック差だけになってしまう。そのため、FSBの差を大きくして、差別化を明確にしようとしているとも想像できる。Intelは、現在のCeleron対Pentium IIIの販売比率は適正と見なしているようだが、Celeronの比率がこれ以上高まることは望んでいないだろう。そのため、これ以上Pentium II/III系からCeleronへ顧客が流出することを防ぐために、両者の間の壁を高くしようとしているのかもしれない。
●Timnaは新ソケット「Socket370S」で登場
Intelは、ローエンド向けには来年もうひとつ「Timna(ティムナ)」を発表する。これはMPUコアにグラフィックスとチップセットを統合した製品だ。Timnaは、Socket370Sと呼ばれる、現在のSocket370とはピン互換性のない新ソケットで提供されると言われている。OEMなどの情報によると、登場時期は来年後半、おそらく秋頃で、533MHz程度から始まると見られている。TimnaからはFSBなどはチップ内部のバスになり、MPUが内部クロックでメモリコントローラブロックにアクセスできるようになる。メモリインターフェイスはRDRAMだが、登場時点でRDRAMがバリューPCで採用できる価格になっていない可能性が高いために、「MTH(Memory Translator Hub)」チップを使ったSDRAMベースの製品が主流になるだろうと、OEMなどは予想している。
ここで出てくる疑問は、IntelはローコストソリューションはCoppermine-128Kのような単体チップではなく、Timnaの統合チップ路線に向かうのかどうかだ。Intelは、現在のところ顧客には、Timnaは長期的な提供を保証する製品ではないと説明しているようだ。つまり、単発の試験的なソリューションという意味合いがまだ強いようだ。市場の様子を見てということなのだろう。
●強力なIntelにはたして対抗できるか
というわけで、バリューPC市場の状況を整理すると、来年前半は、Intelが66MHz FSBのままCoppermine-128Kへと移行、600MHzを目指す。対抗するAMDは、K6-2+とK6-IIIで600MHzを目指して、差の開いた高クロック品で巻き返しを狙う。さらに、そこにCyrixの「Joshua(ジョシュア)」がローエンドで絡むという構図になる。
AMDは、K6-2+でパフォーマンスを向上させ、高クロック品の歩留まりを改善できることが、ポイントとなる。しかし、競争が再び激しくなれば、Intelはまたアグレッシブな高クロックシフトや低価格化を行なうことができるので、AMDがどこまで戦い抜けるかはわからない。AMDの不安材料は、サプライとSocket7プラットフォームの退潮だ。
そして、来年後半になると、ローエンドではTimnaが立ち上がる。Intelは、Timnaでシステムコストを更に引き下げ、バリューPCセグメントを制覇しようとするだろう。Intelがアグレッシブな価格設定をしてきた場合、AMDがこれに対抗するのは難しいかもしれない。これに対して、VIA TechnologiesはMPUコア統合チップセットを対抗で出すつもりだ。こちらは、Cyrix統合後に設計に入るとして、間に合うのかどうかが問題になりそうだ。
('99年9月28日)
[Reported by 後藤 弘茂]