Intelのデスクトップ製品部門を統括するパトリック・P・ゲルシンガー副社長兼ジェ
ネラルマネージャ(Desktop Products Group)が来日、報道関係者数名を集めてのグル
ープインタビューが行なわれた。その内容を、PC Watchからの質問を中心にまとめてみ
た。
●PGA版Pentium IIIとCeleronの共通マザーボードも可能に
Q IDFではPentium IIIのPGAパッケージ版がフィーチャされていた。来年にはPGAが主流になるのか
ゲルシンガー PGA版は、10月にCoppermine(カッパーマイン:0.18ミクロン版のPentium III)で
登場する。来年前半には全部の周波数をカバーするようにランプアップ。そして、来
年後半には、PGA版がPentium IIIのなかの多数派になっているだろう。
PGAパッケージは、高速CPUをスモールフォームファクタに入れるにはいいソリュー
ションだ。とくに日本ではこれが重要だと認識している。過去2回の訪日で、日本法
人の営業担当者から、スモールフォームファクタの重要性をガンガン説かれたからだ
(笑)。
しかし、スモールフォームファクタを求める傾向は、日本だけでなく、世界にも広
がりつつある。Intelは、フリップチップPGA版のPentium IIIだけでなく、FlexATXや
新しいチップセットを提供し、そうした傾向に対応する。また、PGA版Pentium IIIは
スモールフォームファクタだけでなくもっと広がるだろう。
Q FC-PGA版Pentium IIIと今のPGA版Celeronに、ピン互換性はあるのか?
ゲルシンガー 適切にデザインされたマザーボードなら、両方(CeleronとFC-PGA版Pentium III)を載せることができるだろう。
Q CeleronのFSB(フロントサイドバス)を100MHzにする計画は?
ゲルシンガー 重要な問題は、コンシューマ市場のバリューバイヤーは、MHzでマシンを買うと
いうことだ。彼らはFSBのスピードはあまり気にしない、どころか意味さえ分からな
いこともある。
Pentium IIIブランド製品を買うビジネスバイヤは、FSBの違いなどに非常に注意を
払っている。また、コンシューマ市場のハイエンドバイヤも、FSBの価値を理解して
いる。それに対して、Celeronのバイヤは、MHzと価格だけが懸案事項なので、FSBの
バリューに対する要求がない。そのため、われわれはFSBをすぐに速くしなければな
らないとは感じていない。競争があればそれに応えるが、100MHzにすれば、それだけ
テストのコストもかかるので、今は考えていない。
Q Celeronが急成長してPentium IIIの市場を食っているようだ。CeleronとPentium II/IIIの販売比率は正しいと考えているか?
ゲルシンガー 今日、世界レベルで見るとこれは正しい状況だと思う。われわれは、それぞれのブランドを購入者に合わせて最適化する。技術に価値を認めるコマーシャルバイヤにはそれに合わせたプレミアムブランドを、価格だけで買うコンシューマバイヤにはそれに合わせた別な最適化を提供している。つまり、マーケットに合わせているのだ。
そして、マーケットを見た場合、Pentium II/IIIとCeleronの製品ミックスは、今
は正しい状態にあると考えている。ただし、日本だけは世界の他の地域と違うが……
Q なぜ日本だけが違うと指摘するのか
ゲルシンガー じつは、私の抱えているセールス上の最大の問題は、日本でのPentium IIIの普及だ。日本はPentium IIIの比率が低く、これはPentium IIIシステムの価格が他の国よりも高いことなどが原因となっている。しかし、一部のメーカーはPentium IIIシステムにアグレッシブな価格をつけ始めたし、日本の経済も復活の兆しが見えている。おそらく、今後半年で、日本市場でもPentium IIIシステムが世界と同じ割合で売 れるようになるだろう。
●次世代CPU(Willamette)ではバスのアーキテクチャとクロックも変わる
Q Intelは2000年には1GHzのCPUを出すと聞いている。その場合のチャレンジは?
ゲルシンガー 1GHzの達成で問題は3つある。システムレベルの問題、マザーボードの問題、CPU自体の問題の3つだ。
システムレベルでは、EMI放射などが問題になる。高い周波数ではこれはクリティ
カルだ。
マザーボードではクロック供給の問題がある。正確なクロックを、すべてのコンポ
ーネントに高い周波数で与えなければならないからだ。CPUが1GHzになると、FSBは
133MHz以上になってくる、メモリはRDRAMの800Mtpsになり、I/OもATA-66以上になる。
高周波でのクロック供給は難しい。マザーボードのインピーダンスとのマッチングが
重要な課題になる。
チップレベルでは、まずパッケージングでインダクタンス(誘導係数)問題(削減し
なければならない)が生じる。それと、チップ内部では、チップを横断する(配線
の)クロックスキューを制御する必要が出てくる。これは、SOL問題(光速問題:Speed
of Light Problem)と呼んでいるものだ。単純な話で、ダイ(半導体本体)の表面を横
断する場合に、どれだけ速く(光速に近く)電子を動かすことができるかが問題になる。
来年、Intelは新しいマイクロアーキテクチャのCPUとチップセットを発表、1GHzを
達成する。
Q 新CPUでは、バスのアーキテクチャは変わるのか
ゲルシンガー バスアーキテクチャは変える。
Q そのバスアーキテクチャではソースシンクロナスクロッキング技術を採用するのか
ゲルシンガー ノーコメントだ。
Q グラフィックスコアを統合したCPUを出すとしたら、その場合のチャレンジは
ゲルシンガー Intelはそうした製品のアナウンスはしていない。しかし、一般論として言うなら、そうした統合戦略を取る場合には3つの黄金律がある。まず、パフォーマンスが上げなければならない。次に、コストを下げなければならない。そして、標準インターフェイスが確立されていなければならない。これが揃わないと製品としては成功はしないだろう。
Q ビデオチップの開発を止めたのはなぜか
ゲルシンガー Intelは、グラフィックスシリコンの開発を止めてはいない。フォーカスを統合チップに移しただけだ。これは、低価格市場や高性能なグラフィックスが不要なビジネス市場に、もっともコストエフェクティブなソリューションを提供するものだ。しかし、これで市場のすべてをカバーできるとは考えていない。特にコンシューマ市場では、ハイパフォーマンスとフレキシビリティが求められるため、単体のグラフィックスアクセラレータチップが必要だ。そこでは、NVIDIAやS3などが製品を提供する。Intelは、彼らといい関係を続けて行くつもりだ。
Q そうしたビデオチップメーカーの製品をチップセットに統合する計画は
ゲルシンガー ノーコメントだ。
●RDRAMのメモリバンク数の削減も検討内容に
Q IDFではPC133 SDRAMのサポートを発表したが、その背景は
ゲルシンガー PC133サポートでは、発表の前に3つのことを確認した。まず、DRAMメーカーの広範なサポートが得られるかどうか。次に、チップセットでサポートできるかどうか。
そして、PC OEMメーカーにいいソリューションを提供できるかどうかだ。
これらが確認できて、パフォーマンスも大きな改善ではないが、ある程度向上する
ので、サポートを決定した。コストに悪影響を与えないでサポートできるところが
PC133の利点だ。
Q PC133サポートで、RDRAMへのシフト戦略がゆらいだのではないのか
ゲルシンガー PC133のサポートがRDRAMの採用へ与える影響はゼロだ。PC100の進化版がPC133で、これは小さな性能向上をもたらす。一方、RDRAMはシステムメモリパフォーマンスを大きく向上するが、採用の速度は価格に影響される。価格が下がれば普及するだろう。
Q IntelとRambusとDRAMベンダーは「Direct RDRAM Implementers Forum」の結成を発表した。この団体では、RDRAMのコスト削減策を話し合うと言うが、その中にメモリバンク数の削減は含まれているのか。
ゲルシンガー RDRAM Implementers Forumの目的は、RDRAMのスペックのエンハンスメントする ことで、RDRAMの普及とコスト低減を促進することを議論する場となる。異なるバン クアーキテクチャを適用して、ダイオーバーヘッドを減らすことは、もっとも有望な エリアのひとつだろう。
Q RDRAMを採用しても、アプリケーションの性能は向上しないのでは
ゲルシンガー システム帯域は、CPUのFSB帯域とグラフィックス帯域とIO帯域を足した帯域を考
える必要がある。ほとんどのアプリケーションは、現在のPCの持つシステム帯域のエ
ンベロープに収まるように作られている。しかし、このエンベロープが広がると、そ
の広がった帯域を、アプリケーションが使えるようになる。実際に、AGPと100MHz
FSBを導入したあとに、そうしたアプリケーションの向上があった。
Intel 820では、トータルのシステムバンド幅はこれまでの2.5倍になる。これは、
今後のアプリケーションのためのヘッドルームが増えることを意味している。ただし
、アプリケーションによって性能の向上は異なる。あるアプリケーションでは20%く
らいの性能アップが実現できるかもしれないし、システム帯域をあまり使わないアプ
リケーションでは2~5%くらいに留まるかもしれない。
('99年9月22日)
[Reported by 後藤 弘茂]