Intelの新チップセット「Intel 820」の登場が迫っている。Intelは、先月開催した技術者向けカンファレンス「Fall '99 Intel Developer Forum(IDF)」でも、Intel 820プラットフォームを大きくフィーチャした。133MHz FSB(フロントサイドバス)、AGP 4Xモード、Ultra ATA/66、そしてDirect Rambus DRAM(RDRAM)が、次世代のパフォーマンスをもたらすというのがIntelの主張だ。
しかし、華々しいIntelの売り文句とは裏腹に、Intel 820の離陸は、かなりもたつきそうだ。これまでのIntelのメインストリームチップセットとは違い、PCメーカーも、当初は飛びつかないところがかなり出てくるだろう。少なくとも、これまでの440BXチップセットのようにメジャーな地位をすぐに確保はできないようだ。それどころか、出だしは『肩すかし』と感じるくらい、Intel 820システムが見あたらないという結果になってしまうかもしれない。10月の0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)の登場で、ハイエンドPCではやや勢いはつくかもしれないが、それにしても440BXの時の勢いには到底おいつかないだろう。
どうしてIntel 820の行方はそんなに険しい道のりなのか。それは、いうまでもなくIntel 820のサポートするメモリがRDRAMだからだ。RDRAMインターフェイスのインプリメンテーションが難しく、メモリ自体の価格も最初は高く、当初は供給量にも問題がある。そのため、Intel 820自体がRDRAMに引きずられるかたちで離陸にもたついている。
●PC600の帯域はPC133と同じ?
では、そもそもIntel 820とRDRAMの関係がどうなっているのかを、IDFの情報などをベースに説明しよう。
まず、RDRAMには3つのスペックがある。最大400MHzでのクロックに同期できるPC800、356MHzのPC700、300MHzのPC600だ。しかし、高クロック品はタイミングマージンが厳しく、現状では歩留まりがまだかなり悪い。製品ミックス(各クロックごとの比率)はメモリメーカーによりけりだが、少なくとも当面は、良品の100%をPC700以上のスペックの製品にできるメーカーはないという。では、当面はPC600を大量に出してしのげばいいかというと、そうもいかない。PC600では、RDRAMの利点が十分に活かせないため、PCメーカーの反応は鈍いからだ。
RDRAMの利点はSDRAMよりも広いメモリ帯域で、フルスペックではPC100 SDRAMの2倍の1.6GB/秒のピーク帯域に達する。だが、Intel 820とPC600のシステムでは、その利点もフルには活かせない。下の表は、Intel 820のメモリ駆動クロックとFSBのクロックの関係を、IDFでの説明をベースに作成したものだ。その下のSDRAMの表は、SDRAMのスペックだ。
メモリクロック | FSB | メモリ帯域 | メモリモジュール |
---|---|---|---|
RDRAM | |||
400MHz | 100/133MHz | 1.6 GB/sec | PC800 |
356MHz | 133MHz | 1.4 GB/sec | PC700 |
300MHz | 100MHz | 1.2 GB/sec | PC600 |
266MHz | 133MHz | 1.06GB/sec | PC600 |
SDRAM | |||
133MHz | 100/133MHz | 1.06GB/sec | PC133 |
100MHz | 100MHz | 0.8 GB/sec | PC100 |
表のいちばん左はメモリインターフェイスのクロック。RDRAMではこのクロックの両エッジを使ってデータ転送を行なうので、実質的にはこの2倍のビット数が毎秒転送される。
次はFSBのクロック。これは、特定のFSBの時には特定のメモリクロックしか設定できないことを示している。その次はピークのメモリ帯域。これは、理論上の最大帯域で、実際にはこの数字は達成できない。その次は、このメモリクロックで駆動する場合に、最低限必要なメモリモジュール側のスペックだ。
ここで注目すべきなのは、133MHz FSBではメモリのクロック300MHzの設定ができないことだ。つまり、わかりやすく言うと、PC600を133MHz FSBで使った場合は、300MHzではなく、266MHzへと10%性能を落として駆動する仕様となっていることだ。その場合の帯域は、1.06GB/secと、PC800を400MHzで駆動した場合の33%減になる。そして、この1.06GB/secという帯域は、じつはPC133 SDRAMのピーク帯域と同じなのだ!
もっとも、ここで「RDRAMの帯域はPC133と同じ」と単純には言えない。それは、RDRAMとSDRAMではピーク帯域は同じでも、RDRAMの方が実効帯域がずっと広いからだ。これは、RDRAMの内部バンク数が非常に多いことが影響している。そのため、システムの必要とするメモリ帯域が、PC133の実効帯域を超える場合でも、理論上はRDRAMはそれほど性能が落ちないことになる。
とはいえ、PC600では本来のRDRAMのメリットである広帯域を十分に得られないことも明らかだ。そのため、PCメーカーはたとえ安くてもPC600は使いたがらない。だが、そうすると、PC600は売れないチップになってしまい、結果としてRDRAMのコストをさらに押し上げてしまう。そこで、IntelではIntel 820-PC600と呼ばれる、PC600しかサポートしないがディスカウント価格のIntel 820を出す予定だと言われている。もっとも、この820バージョンの情報はかなり入り乱れているので、最終的にどうなるかはまだわからない。PCメーカーのPC600に対するニーズがあまりに少なければ、こうしたプランも意味をなさなくなってしまう。
●MTHでのSDRAMサポート
こうしたRDRAMの苦境から、Intel 820は、SDRAMも使えるようにされる。IDFでは、そのために「MTH(Memory Translator Hub)」と呼ばれるチップ(型番は「82805AA」)を提供することが明らかにされた。これは、RDRAMインターフェイスをPC100 SDRAMインターフェイスに変換するチップで、Intel 820側からはSDRAMがRDRAMに、SDRAMが側からはIntel 820が440BXのようなSDRAMインターフェイスのチップセットに見えるようにする。
Intelは、当初このMTHを使ったソリューションとしてメモリモジュールに搭載する「S-RIMM」と、ライザーカードに搭載する「DIMMライザー」の方法を考えていた。しかし、IDFの説明ではこの2つの方法は捨て、結局マザーボードにMTHを載せるソリューションを提供することにしたという。
Intelは、Intel 820マザーボードでのSDRAMサポートとして『2+2』と呼ぶソリューションを提供する。これは、マザーボードにMTHを搭載し、RDRAM用のRIMMスロット2基とSDRAM用のDIMMスロット2基の両方を載せるというものだ。マザーボードには、RDRAMかSDRAMのどちらか片方を載せることができる。混在はできない。
Intelは、当初この2+2では6層マザーボードが必要になるため、4層マザーボードが一般的なPCには適していないと語っていた。4層での実現が難しいのは、インピーダンスのマッチングが難しいためだという。これは、RDRAMが高クロックにするためにシビアなインピーダンスコントロールを要求しており、28オームのプラスマイナス10%という従来の数分の1の厳しいスペックになっているからだ。
しかし、先月のIDFでは、Intelは4層のソリューションも用意できると発言を変えてきた。また、マザーボードメーカーもそれに呼応して、数種類のIntel 820+DIMMスロットマザーボードを用意する見込みだ。例えば、MSIのヘンリー・リュー副社長(sales/Marketing Div.)によると「Intel 820マザーボードのソリューションは3階層になる。ハイエンドはピュアRDRAMソリューションで、RIMMスロットだけを搭載する。その下には、2RIMMと2DIMMを搭載した2+2を用意する。OEMメーカー側は、高級モデルにはRIMMにRDRAMを挿し、低価格モデルではDIMMにSDRAMを挿すというアレンジができる。今後12ヶ月はこれがニーズが強いだろう。それから、近い将来にDIMMスロットだけのピュアSDRAMソリューションも出す」という。
この状況が意味するのは、MTHがIntelから順調に出てくれば、Intel 820システムは当初はSDRAMが主流になってしまう可能性があるということだ。そうすると、「Intel 820はRDRAM採用でメモリの広帯域が利点」といううたい文句がゆらいでしまう。もっとも、現状ではMTHがどれくらい順調に出てくるのかわからない(IntelとしてはできればRDRAMベースへ持って行きたい)ので、このあたりの正確な予想は困難だ。
それに、Intel 820とRDRAMの問題は、そもそもメモリにここまでの広帯域が必要かどうかという根本的な部分にある。以前のコラムで指摘したが、IntelがRDRAMをプッシュする理由はPentium IIIのためというより、次の世代のCPUのためという動機が強いと疑われる。このあたりは、またIntel 820が登場してから突っ込んでみたい。
●その他のIntel 820情報
このほかのIntel 820の情報を、IDFでの情報をベースにアップデートしておこう。Intel 820は、Intel 810と同様に3チップ構成を取る。CPUとメインメモリ、グラフィックスチップを結ぶのは「MCH(Memory Controller Hub)」で型番は「i82820」となっている。FSBは100MHzと133MHzをサポートする。
IDEやUSB、AC '97やPCIといったI/O関係をまとめたチップが「I/O Controller Hub (ICH)」だ。型番はIntel 810と同様に「i82801」で、PCIバス6、Ultra ATA/66、Alert On LANをサポートする。ISAバスは持たず、ISAをサポートする場合にはPCI-ISAブリッジチップを使う。MCHとICHの間は、266MB/秒の専用ポートで結ばれている。
3つ目のチップFWHは4Mbitまたは8Mbitのフラッシュメモリチップだ。システムBIOSやビデオBIOSを格納し、ハードウェアの乱数生成器「Random Number Generator (RNG)」も搭載する。
('99年9月21日)
[Reported by 後藤 弘茂]