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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intel、渋々ながらPC133 SDRAMサポートを発表。対応チップセットはSolanoか?


●2000年前半のチップセットでPC133をサポート

 それは本当に渋々ながらの選択だった。Intelの発表を意訳すると、「DRAMベンダーがあまりにうるさいので、しょうがないからPC133 SDRAMをサポートすることにした。でも、PC-100と性能差はほぼないからあまり意味がないんだけどねぇ……。それから、RDRAMへ移行するIntel戦略には変更は一切ないからね」というところだろうか。決して、望んだ選択ではないことを、Intelはしきりに強調した。

 PC133 SDRAMは、133MHzに同期するSDRAMで、100MHzのPC-100 SDRAMの延長線上にあるSDRAM製品だ。Intelは、8月31日から米国パームスプリングスで開催されているIntelのハードウェア技術者向けカンファレンス「Fall '99 Intel Developer Forum(IDF)」で、このPC133サポートを正式に発表した。その内容は、PC133を来年前半の“SDRAMに最適化された”チップセットで、メインメモリとしてサポートするというもの。どのチップセットでサポートするかはアナウンスしなかったが、時期的なこととSDRAM系チップセットであることを考えると、Intel 810系の後継となる「Solano(ソラノ)」になる可能性が高いだろう。Solanoの出荷予定は、来年第2四半期の早いうちだと言われているからだ。一時ウワサになっていた、440BXでのPC133サポートはないと見られる。

 発表を行なったIntelのPeter MacWilliams氏(Intel Architecture Labs、Intel Fellow)によると、PC133をサポートした最大の理由は「OEMメーカーとDRAMベンダーが要求したから」だという。じつは、以前からDRAM業界関係者は「IntelはPC133をサポートしなければならなくなるだろう」と言っており、Intelに圧力をかけていることをほのめかしていた。だから、この発言にウソはなさそうだ。Intelは、DRAMベンダーに押し切られたことになる。


●性能面の利点があまりないPC133

 Intelは、PC133にあまり積極的ではない理由として、PC133とPC-100の実際の性能差が小さいことを指摘する。「PC133では、イニシャルのレイテンシが長いので、性能差があってもごく小さいものにとどまる」(MacWilliams氏)という。

 これをもう少し説明すると、次のようになる。PC133 SDRAMのピークのメモリ帯域は1,064MB/secで、800MB/secのPC-100の33%増しだ。しかし、現状のPC133のレイテンシは3-3-3(CAS Latency、RAS to CAS Delay、RAS Prechage Time)で、PC-100で主流の2-2-2と較べると遅い。これは、PC133の2-2-2は、今の製造プロセスでは、高いイールド(歩留まり)で供給ができないからだ。そのため、帯域の広さの利点は、レイテンシの遅さで相殺されてしまい、性能はそれほどアップしない。

 これはDRAMベンダーも承知していることで、4月23日に東京で開催されたセミナー「VIA PC133/266 APAC Technology Forum」で、日立製作所はPC133 3-3-3とPC-100 2-2-2の性能差は3DWinBenchで3.4%、Winstone99/Businessで0.5%程度と発表している。また、OEMメーカーもこのことは承知している。IDFでIntelの発表に同席した米Dell ComputerのJay Bell氏(Senior Dell Fellow)も「実際に試験してみたが、クロックの33%アップ分に見合うパフォーマンスアップは見られなかった。性能が少し上がる部分もあれば、悪い部分もあり、結局、大きな差はなかった」と説明した。

 では、PC133のアドバンテージは何なのか。MacWilliams氏は「それはPC133だからだ。人々はこのナンバーに関心がある」と答える。つまり、PC133は、実効的な意味はないけれど、PC-100より数字が多い分だけ速そうなイメージがあるので、マーケティング的に重要だとDRAMベンダーやOEMメーカーが考えているから、サポートすると言っているわけだ。


●PC133の正体はじつはPC-100

 それでは、PC133はどうしてそこまでDRAMベンダーやOEMメーカーにとって魅力があるのだろう。それは、“PC133の正体はPC-100”だからだ。

 あるDRAMベンダーによると、現在生産しているPC-100のうち9割が、すでにPC133 3-3-3のパフォーマンスを達成しているという。つまり、極端な話、DRAMベンダーにとってPC133はPC-100の名前を付け替えるだけですむわけだ。VIA PC133/266セミナーで講演したHyundaiも「PC-100とPC133は同じダイ(半導体本体)なので、同じ製造設備を使える。またDIMMも含めてPC-100のインフラをそのまま継承できる」と言っていた。つまり、PC133は、DRAMベンダー、マザーボードメーカー、モジュールメーカーの誰にとっても、PC-100の延長で簡単にコストをかけずに対応できるというわけだ。そして、DRAMベンダーが期待しているのは、PC133へとラベルを貼り替えることで、価格が上昇することだろう。

 もちろん、性能差がほとんどない以上、PC133になったからと言って、価格はそれほど大幅に上乗せできるとは思えない。それでもDRAMベンダーがPC133にこだわる最大の理由は、PC-100の価格がガタガタに崩れてしまっているからだ。

 現在市場の主力となっている64Mビット品のPC-100 SDRAMチップの価格は、今年の春からまた下落を始めて、今年前半には、メーカーによっては採算がとれないところにまで下がってしまった。今年はじめのスポット価格が1個9ドル台だったのが、一時は1個4ドル程度にまで下がり、今も少しは持ち直したとは言っても低空飛行を続けている。だから、4ドルよりはましな価格で売れる可能性があるPC133を、カンフル剤として期待しているというわけだ。


●RDRAM路線のためには煙たいPC133

 それなら、IntelだってPC133を積極的にサポートして、DRAMベンダーを助けてやればいいのに、と思うかもしれないが、そこにはそういかない事情がある。それは、IntelがRDRAMへの移行を促進したいからだ。Intelが、PC133サポートの発表で、RDRAM移行の路線に変更やインパクトがないと強調するのは、そのためだ。だが、それはPC133がRDRAMに対して、技術的に脅威になると考えているからではない。

 現在、RDRAM促進の最大のネックになっているのは価格だ。SDRAMの価格がここまで下がったために、RDRAMはかなり割高になってしまった。これを下げるには、DRAMベンダーにRDRAM移行の確信を持たせ、積極的に生産を促進させる必要がある。DRAMは、結局、主流になってボリュームが出る技術だけが安くなるからだ。例えば、今では主流になったSDRAMの方がEDO DRAMよりはるかに安い。だから、DRAMベンダーがSDRAMをまだまだ主力と考え、次世代の0.18ミクロン以降の製造プロセスでもSDRAMを主力で生産、RDRAMにあまりラインをまわさないと、RDRAMの価格はいくら待っても下がらないことになってしまう。

 そのため、Intelとしては、DRAMベンダーがSDRAMではもうビジネスにならないと判断して、RDRAMへと移行してくれるのが望ましいことになる。その節目を、Intelとしては、64MビットDRAMから128MビットDRAMへの移行期に持っていきたいと考えているフシがある。128Mビット品なら64Mビット品の2倍以上の価格で売れるから、RDRAMの高コストを、ある程度はカバーできる。だから、Intelとしては、この時期にSDRAM延命が進んで、128MビットDRAM以降の世代でもSDRAMが主力になるのはできれば避けたいところだろう。

 それと、もうひとつ、IntelにとってPC133が煙たい理由には、対抗するチップセットベンダーのVIA Technologiesが、PC133をDDR SDRAM導入のためのステップにしようと考えていることもあるだろう。VIAが4月のセミナーで描いたメモリ推移では、出荷量が伸びている1200ドル以下のパソコンでは、PC133が来年以降増え続け、2001年にはほとんどがPC133になるという。また、その上のメインストリームデスクトップでは、PC266がDirect RDRAMに取って代わり主流になるとする。

 VIAの動きは実際にはそれほど大きな脅威ではないし、DRAMベンダーもDDR SDRAMを本気でデスクトップへと推進しているところは少ないと言われる。しかし、こうした流れは、ポストDDR SDRAMをポストRDRAMとして持ってこようというDRAMベンダーの動きにつながる可能性があるため、Intelとしても無視できないだろう。


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('99年9月2日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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