8月は夏休みということもあり、例年はあまり多くのニュースがないのだが、今年はNTTの分割・再編に始まるインターネット接続インフラストラクチャに関するニュースが相次いで報じられた。特に、NTTの定額IPサービスと真っ向から対決する姿勢の2つのサービスが登場したことは意義深い。
先月のTelecom WatchではNTTが7月1日の分割・再編を機に発表した定額制サービス、キャップ制料金サービスについてお伝えした。8月はこれを根底から覆してしまうような衝撃的な新サービスが発表された。
ソフトバンク、東京電力、米Microsoftの3社が発表した常時接続が可能なインターネット定額サービスだ。東京電力の光ファイバー網をバックボーンに、東京電力が持つ電柱などに無線基地局を数百メートル間隔で設置し、無線通信によってユーザー宅との間を結ぼうという計画だ。月額料金はNTTの1万円よりも「はるかに安くなる」(孫正義ソフトバンク社長)としており、通信速度も個人向けでMbpsクラスを実現するという。しかも、学校向けには向こう10年間、無償でインターネット接続を提供する「スクールネット」の構想も明らかにしている。サービス開始時期は2000年夏としており、中部電力などの他の電力会社とも話し合いをはじめ、全国展開を狙っている。もし、額面どおりのサービスが提供でき、本当にスクールネットなども実現すれば、歴史に名前を刻むくらいの偉業になるだろう。
この発表に対し、「本当に可能なのか?」、「現実感に乏しい」、「無線LANで実現するのではないか」といった厳しい意見も飛び出しているが、正直なところ、筆者自身もまだ雲をつかむような状態だ。仮に、無線LANで実現するにしてもIPアドレスはどうするのか、常時接続で情報発信はできるのか、セキュリティは十分確保できるのかなど、疑問点は尽きない。ただ、実際に合弁会社の設立準備は始まっており、人員も少しずつ集められているので、年内にはもう少し実像が明らかになるのではないだろうか。
一方、NTTは定額制サービスで利用する地域IP網との接続方法をプロバイダ向けに説明し、11月に試験サービスを開始することを発表した。基本的な構成はプロバイダがNTTビル内にアクセスサーバを設置し、NTTビルとプロバイダ間を1.5Mbpsのデジタル専用線か、0.5Mbps~135MbpsのATM専用線で接続するという構成だ。IPアドレスはプロバイダ側がユーザー数だけ用意しなければならない。ユーザー側から見ると、NTTビル内に設置された地域IP網専用アクセスポイントに接続すれば、IPアドレスが割り振られ、インターネットを利用できるようになる。現在のダイヤルアップ接続とほとんど変わりないが、プロバイダ側が同じユーザーに固定のIPアドレスを割り振ることもできるため、サーバを設置して、情報発信をすることも可能だ。ただ、現実的に考えた場合、情報発信はホスティングやレンタルサーバがインターネットのトレンドであり、下り方向のトラフィックで自分の帯域を食いつぶしてしまう可能性もあるので、純粋なアクセスラインとして利用する方が賢明だろう。
□ソフトバンクら3社、定額制ネット接続の合弁会社
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0811/softbank.htm
□NTT、定額通信サービスの接続方法をISPに説明、11月にサービス開始
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0825/ntt.htm
8月に発表されたPCの内、実は筆者が最も興味を持ったのが松下電器の「Let's note CF-A1R」だ。この製品は別稿でもふれているが、改めて解説しておきたい。CF-A1Rは、本体に自営標準第3版準拠のワイヤレス通信モジュールを内蔵し、パッケージに同梱されているワイヤレスアダプターとPIAFS 64kbpsによるワイヤレス通信を実現する。親機となるワイヤレスアダプターは56kbpsモデムを内蔵しており、アナログ回線と接続すれば、CF-A1Rからはワイヤレス環境で、インターネットに接続できるというわけだ。唯一、残念な点はCF-A1Rとワイヤレスアダプターの間の通信速度が64kbpsまでになるため、56kbpsモデムのV.42bis圧縮がフルに活用できず、通常のシリアルポート接続よりもパフォーマンスが落ちることだ。また、ワイヤレスアダプターにはシリアルポートも備えられており、ストレート接続とクロス接続が切り替えられるようになっている。ストレート接続ならISDN TAなどと、クロス接続ならPCと接続できるというわけだ。
さて、このCF-A1Rで最も注目すべき点は、何と言ってもワイヤレス通信モジュールだ。従来、家庭内でワイヤレス環境を実現するには、ワイヤレス対応ISDN TAに登録(収容)されたPHSをノートPCなどに接続するなどの方法があったが、CF-A1Rは56kbpsモデムを内蔵したワイヤレスアダプタをパッケージに同梱することにより、本体を購入するだけで容易にワイヤレス環境を実現している。CF-A1Rのデモプログラムでも、電話機の横にワイヤレスアダプタを設置し、離れた部屋からワイヤレス環境で、インターネット接続をするシーンを強調している。
現在、市場で最も好調な売れ行きを示しているのは、言うまでもなく、ノートPCだ。しかし、これらのノートPCは屋外に持ち出すためのモバイルPCとして売れているわけではない。ひとつはデスクトップよりも省スペースであること、もうひとつは家庭内の好きな場所でパソコンを利用できるという『家庭内モバイル』が実現できることが評価されている。ただ、インターネット接続に関しては、基本的に屋内配線の引き込み口付近でしか利用できないという制限があるため、家庭内モバイルが実現しにくいという現実もあった。CF-A1Rはこうした問題点をクリアすることを考慮して開発されている。
また、CF-A1Rがもうひとつ優れているのは、独自規格のワイヤレス通信ではなく、自営標準第3版という国内規格に準拠したワイヤレス通信モジュールを採用したという点だ。つまり、AtermIW50をはじめとする自営標準第3版準拠の親機にCF-A1Rを収容できる可能性があり、親機であるワイヤレスアダプタにも自営標準第3版準拠のPHSなどを収容できる可能性があるからだ。ちなみに、こうしたPHSをはじめとする無線端末の子機収容は、ユーザー自身が行なうことができず、販売店レベルで対応しなければならないことになっている。残念ながら、筆者が試した範囲ではCF-A1をAtermIW50に登録できるものの、ワイヤレス通信をすることはできなかった。しかし、NECによれば、CF-A1Rも含め、自営標準第3版に準拠した機器を相互接続できるように各社と調整中とのことだ。これが実現すれば、さらに家庭内モバイル環境もさらに快適になるはずだ。
長期的に見れば、無線LANやBluetoothといった手段もあるのだろうが、コスト面や国内での汎用性、ほかの機器との接続のしやすさという点を考慮すれば、CF-A1Rの自営標準第3版準拠という選択は賢明だったと言える。ただ、ワイヤレス通信モジュールを搭載したノートPCの本命は、現在、市場で最もよく売れているA4フルサイズのノートPCであることは間違いない。おそらく年内には、CF-A1R以外にもワイヤレス通信モジュールを搭載したノートPCが登場してくるのではないだろうか。
□松下、ワイヤレスネットワークに対応し、i.Link端子搭載のB5ノート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990826/pana.htm
モバイルコンピューティングに利用する通信インフラストラクチャと言えば、都市圏では高速なデータ通信が可能なPHSが注目を集めているが、郊外や地方ユーザー、一般ユーザーにはまだまだデジタル携帯電話の人気が高い。都市圏のユーザーにしてみれば、意外かもしれないが、プラスαとしてPHSを持つことに抵抗を感じるユーザーも多いのだ。
PCでデジタル携帯電話を利用する場合、従来はPCカードスロットに装着するデジタル携帯電話カードが一般的な選択だった。しかし、ここわずか半年ほどの間で、その様相は大きく変わってきている。そう、USB接続によるデジタル携帯電話接続ケーブルが順調に売れ行きを伸ばしてきているのだ。筆者の知る範囲ではオムロン、サン電子などがUSBデジタル携帯電話接続ケーブルを販売しているが、8月9日にはアイ・オー・データ機器からも同様の製品が発表され、9月7日から開催されているWORLD PC EXPO 99ではPCカード最大手のTDKも製品を参考出品していた。また、USBデジタル携帯電話ケーブルは、こうしたサードパーティ各社の製品だけでなく、携帯電話事業者にOEM供給されたものが純正オプションとしても採用され始めている。USBデジタル携帯電話ケーブルは筆者も何度となくテストをしたが、非常に使い勝手が良く、携帯電話ユーザーには安心しておすすめできるものだ。最近ではFAX送信もサポートされるようになり、さらに活用しやすくなっている。価格的にもPCカードとほとんど変わらなくなってきているので、携帯電話を利用するモバイルユーザーは買い換えも含めて、購入を検討してみるといいだろう。
□アイ・オー、USB接続の携帯電話通信ケーブル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990809/iodata.htm
[Text by 法林岳之]